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赤塵のサンダーバード -機兵戦記-  作者: 星羽昴
第八章

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225/232

第225話 悪夢

 御堂は、赤塵の丘に立っていた。



 赤い砂の上を走って来る女がいる。小柄なパイロットスーツ姿、とても幼い印象のショートヘアの女。


「青柳少尉!」


 名前を呼ばれた女は、足を止めて御堂を見る。


「えっとぉ、どちら様でしたっけ?」


 青柳は、御堂の顔を見ながら小首を傾げている。御堂のことを知らないふうだった。


「すみません、急いでるんですぅ」


 青柳はペコリと頭を下げると、また走り出した。何故か、御堂の胸に寂しさが込み上げる。青柳の背中を見ていられなくなり、視線を逸らした。

(あれ?)

 御堂の目に飛び込んできたのは、第2戦団の赤い軍服の後ろ姿だった。

 風に流される、長い髪を右手で梳き、左手に軍刀を持つ姿には見覚えがある。


「玲!」


 赤い軍服の男は、その声に振り返る。真っ直ぐに伸びた背筋が、身体の芯をずらさずに回転した。


「どこ行ってたのよ、もう……」


 久しぶりに見た入鹿の顔。懐かしさと安堵で御堂の目に涙が滲む。


「貴男がいなくなってから、あたしは大変だったのよ。大体ね、ヤラせてあげるって言う女を放っとかないでしょ、普通!」


 御堂の右手が、入鹿の胸座むなぐらに伸びる。入鹿は、その腕を躱さなかった。


「ホントに、何処にいたのよ。あたしは、ずっと貴男のこと気に掛けてたんだからね!」


 入鹿の首元を掴んだ右手に、思わず顔を埋めてしまう。


「そう言うあなた(・・・)が今夜、鶏が鳴く前に3度私を知らない(・・・・・・)と言うだろう」


「……なによ?」


 3軍合同演習のフラッグ戦前夜に、入鹿が口にした旧時代の宗教文献の1節だ。


「僕は3度、貴女の命令違反を許しました。一度目は『合同演習で信号弾を上げなかった』こと。二度目は『ルージュピーク演習場で同調不良を起こしている敵機を攻撃しなかった』こと。そして三度目は『工廠施設で第3戦団南部方面軍のパイロットを助けた』ことです」


 入鹿の胸元から、御堂は顔を上げる。入鹿は、感情のない眸で御堂を見ていた。


「だから、四度目はありません」


 入鹿の首元を掴む右手に力がこもった。


「何よ! 3回許したんなら、4回でも5回でも付き合いなさいよ。それがパートナーってもんでしょうが!」


 くすり……と女の笑う声が聞こえた。


「無理ですよ」


 振り返ると、そこにはネロがいた。


「貴女にずっとお付き合いするのは無理なんですよ。だって……」


 ネロは、両手を頬に当てた。その腕は少しだけ上に動いて、胸の前に降ろされる。


「……こうなってしまいますから」


 ネロの、首から上には何もなかった。あるはずの頭は、両手で抱えられて胸の前に差し出されていた。


「いやぁぁーーー!!」

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