第225話 悪夢
御堂は、赤塵の丘に立っていた。
赤い砂の上を走って来る女がいる。小柄なパイロットスーツ姿、とても幼い印象のショートヘアの女。
「青柳少尉!」
名前を呼ばれた女は、足を止めて御堂を見る。
「えっとぉ、どちら様でしたっけ?」
青柳は、御堂の顔を見ながら小首を傾げている。御堂のことを知らないふうだった。
「すみません、急いでるんですぅ」
青柳はペコリと頭を下げると、また走り出した。何故か、御堂の胸に寂しさが込み上げる。青柳の背中を見ていられなくなり、視線を逸らした。
(あれ?)
御堂の目に飛び込んできたのは、第2戦団の赤い軍服の後ろ姿だった。
風に流される、長い髪を右手で梳き、左手に軍刀を持つ姿には見覚えがある。
「玲!」
赤い軍服の男は、その声に振り返る。真っ直ぐに伸びた背筋が、身体の芯をずらさずに回転した。
「どこ行ってたのよ、もう……」
久しぶりに見た入鹿の顔。懐かしさと安堵で御堂の目に涙が滲む。
「貴男がいなくなってから、あたしは大変だったのよ。大体ね、ヤラせてあげるって言う女を放っとかないでしょ、普通!」
御堂の右手が、入鹿の胸座に伸びる。入鹿は、その腕を躱さなかった。
「ホントに、何処にいたのよ。あたしは、ずっと貴男のこと気に掛けてたんだからね!」
入鹿の首元を掴んだ右手に、思わず顔を埋めてしまう。
「そう言うあなたが今夜、鶏が鳴く前に3度私を知らないと言うだろう」
「……なによ?」
3軍合同演習のフラッグ戦前夜に、入鹿が口にした旧時代の宗教文献の1節だ。
「僕は3度、貴女の命令違反を許しました。一度目は『合同演習で信号弾を上げなかった』こと。二度目は『ルージュピーク演習場で同調不良を起こしている敵機を攻撃しなかった』こと。そして三度目は『工廠施設で第3戦団南部方面軍のパイロットを助けた』ことです」
入鹿の胸元から、御堂は顔を上げる。入鹿は、感情のない眸で御堂を見ていた。
「だから、四度目はありません」
入鹿の首元を掴む右手に力がこもった。
「何よ! 3回許したんなら、4回でも5回でも付き合いなさいよ。それがパートナーってもんでしょうが!」
くすり……と女の笑う声が聞こえた。
「無理ですよ」
振り返ると、そこにはネロがいた。
「貴女にずっとお付き合いするのは無理なんですよ。だって……」
ネロは、両手を頬に当てた。その腕は少しだけ上に動いて、胸の前に降ろされる。
「……こうなってしまいますから」
ネロの、首から上には何もなかった。あるはずの頭は、両手で抱えられて胸の前に差し出されていた。
「いやぁぁーーー!!」




