第224話 白い布花
更衣室で電話が鳴る。
反射的に顔を上げる御堂……電話を取ったのはエリカだった。電話を置いたエリカに促されて、御堂は更衣室の外へ出る。扉の外には新藤中尉が待っていた。
来るべき時が来た……御堂はそう思った。
「ネロ副機団長の……遺体が回収された」
整備班によりGV3Xの胸部が解体されて、損壊したコクピットがようやく取り出された。
「ネロ副機団長の遺体は、Sユニットにあった」
ラインゴルド傭兵機団には機団長を補佐する副機団長が数名いる。ネロが、その1人であったことを御堂は初めて知った。
(13番機のSVだったっけ)
13番機は、ラインゴルド傭兵機団の機団長フレイの専用機である。そのSVならば、ラインゴルド傭兵機団の司令塔だから当然と言えば当然だ。
御堂は、新藤中尉に案内されてネロの遺体を安置する場所へ向かう。付き添うエリカが、御堂の肩を抱いていた。
縁起を担ぐ意味かも知れないが、陸上戦艦には霊安室のような部屋はない。戦死者が出れば、遺体は空いている倉庫などに一時的に安置される。
ビジネスホテルならシングルルーム程度の広さだろうか。倉庫の奥に、白い布貼りの箱が置かれていた。ラインゴルド傭兵機団の要人と言うことで、棺を急遽作成したのだろう。
白の柔らかい布で作られた、菊の花を模った布花に埋もれるようにネロの身体は、棺の中に納められていた。
「戦闘記録によると、Cユニットを強制脱出させた後で機体を立ち上がらせようとしている。ネロ副騎団長は、脱出する気はなかったようだ」
上空に射出されたCユニットが、眼前の敵機から狙撃されないように牽制しようとしたのだろう。ネロは、御堂を生かすために全力を尽くしてくれていた。
棺の前に跪いていた御堂の目から涙が溢れ出た。嗚咽に喉が詰まって、肩が震えている。
エリカも、新藤中尉の後ろで声を殺して啜り泣いていた。
棺の中のネロの顔には白いスカーフが被せられていた。
ネロとの最後の別れ……ネロの顔を覗き込むつもりで、御堂はスカーフを両手で摘まみあげた。しかし、その下にあったのは、菊の花を模った布花だけである。
ネロの、首から上には何もなかった。
御堂の足元で、グラリと振れた気がした。倉庫の天井が目に入り、グルグルと回転しながら遠ざかっていく。
そして、目の前が真っ暗になる。御堂の記憶は、そこで途切れている。
「サクヤ!!」
意識を失って、仰向けに倒れ込んでしまった御堂に、エリカと新藤中尉が駆け寄った。
御堂の手には、白いスカーフが握り締められていた。




