第223話 血の色のスープ
更衣室の床には、御堂のパイロットスーツが乱雑に脱ぎ捨てられていた。エリカは、パイロットスーツを拾い上げてハンガーに掛ける。
取り敢えず、ロッカーから病衣を取り出してそれを御堂に着せる。
「大丈夫?」
エリカは、もう一度声をかけた。
「うん」
エリカの声に、御堂はようやく頷いた。仲の良いエリカが傍に来てくれたことは嬉しかったが、逆に何を話していいのかわからない。
黙って俯くだけの御堂の傍に、エリカは椅子を持ってきて座らせた。
「GV3X、興田主任が修理できるってさ」
「……そっか、良かった」
御堂の声に力はなかった。
本当に気がかりなことは別にある。しかし、それに関しては誰も答えてくれない。エリカも、まだ答えられない。
(多分……ネロさんは……)
ネロは、GV3Xの機体から脱出していない。戦斧でコクピットごと潰されたのか、それとも潰れたコクピットに閉じ込められているのかのどちらかである。どちらの可能性が高いのかは、御堂にもわかっている。
対重甲機兵戦での敗北……そして、身近な者が失われた喪失感。
喉元から胃袋までを裏返しにされたような冷たい不快感が収まらない。一方で「実はこれは夢かも知れない」と思う現実感の無さもあった。次の瞬間に、ネロが扉の向こうに現れ得るかも知れない、と。
(いや、まだネロさんの生死は決まったわけじゃない)
以前にも同じようなことがあった気がする。あの時も、入鹿は平然と目の前に現れた。
(命令違反を謝らなくっちゃ……)
そう言えば、入鹿にも命令違反の謝罪をしたことがなかったはずだ。青柳にも、命令違反の出撃に巻き込んだことは謝っていない。
(生きていて下さい……謝らせ下さい)
ネロにも、入鹿にも、青柳にもちゃんと謝罪する……だから、生きていて欲しい。おそらく御堂が祈ったのは生まれて初めてだったろう。
押し黙ってしまった御堂に、エリカはマグカップを握らせた。
「何も食べてないんでしょう。今、スープ作るから」
作ると行ってもフリーズドライにお湯を入れるだけだ。御堂に握らせたマグカップに、固形スープを入れるとポットからお湯を差す。
御堂が食事を取ったのは日の出前、今の時刻は間もなく正午になる。そろそろ空腹を覚えてもいい頃ではあるが、御堂は食欲を感じていなかった。
御堂は、一口だけ口をつけた。赤いトマトスープは、血の色を連想させて、口中に広がるトマトの酸味も血の味のように感じられてしまう。
御堂が、マグカップの中身を視界に入れないよう両手で覆ったのは無意識だった。




