第206話 ビジネス
ガタン……。
黒煙の中から、破壊された2番機の左腕が地表に落ちた。御堂の背中で、まるで自分の腕が失われたような悪寒を感じた。
「8時の方向、距離1500メートル。建設中のビル最上階からロケット弾による狙撃です!」
GV3Xの機械眼球が、鉄骨の骨組みを保護シートで包んだ建築物にいるB級ジークフリードを捉えた。重甲機兵用のロケット砲を、西門広場のラインゴルド傭兵機団に向かって構えている。
「ちぃ!」
撃ち返してやりたいが、今のGV3Xは近接武器の打刀しか持っていない。
「ネロさん、軍用輸送車両にロケット砲ありましたよね?」
「GV3Xは近接戦闘に備えていて下さい」
「あれ、敵の最後の機体ですよ!」
「脱出に失敗したトーチス傭兵団が、戻って来るはずです」
そうなれば……左腕を失った2番機の穴を埋めるのは自分の役目だ。しかし、目の前にいるのは別の敵である。
左腕を失った2番機だが、パイロットである竜崎中尉と有本大尉は至って冷静だった。狙撃より一瞬早く、1500メートル先の敵機を有本大尉は発見していた。
刹那のタイミングで知らせを受けた竜崎中尉は、左腕を犠牲にして、損傷を最小に留めていたのである。
「12階建ビルの屋上ですか。どうやって登ったのでしょう?」
「建設中のビルだからな。大型機械を搬入するためのクレーンが設置されている。まだ床が施工されてないから、重甲機兵の機体を屋上まで持ち上げるのは可能だ」
クレーンを操作する者がいるはずで、支援する工兵部隊と一緒だろう。
「あのジークフリードはどうしましょうか。空中移送機で近づいても狙撃されてしまいます」
「放って置くしかない。近づこうとすれば狙撃されるが、逆にそれ以外の攻撃はできないし、身動きも取れないはずだ。1500メートル先に固定砲台を設置されたと思っておけ」
不意打ちでなければ1500メートルの距離からの射撃は躱せる自信もあった。
「どうせB級だ。バッテリーが切れれば戦闘モードが強制解除されて射撃もできなくなる」
工兵部隊が弾丸を補給できても、バッテリー交換はできない。せいぜい数時間しか機能しない固定砲台である。
ネロも、有本大尉と同様に「ビル屋上のB級ジークフリードは捨て置く」ように指示を出した。
GV3Xも、標的にされないよう遮蔽物に機体を隠す。
「いっそ、こちらからロケット砲で撃っちゃいませんか?」
「建設中のビルを壊してしまいます。やる時は、第2戦団の機体にやって貰います」
あくまでネロは、ラインゴルトの機体では都市に被害を出したくなかった。




