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赤塵のサンダーバード -機兵戦記-  作者: 星羽昴
第八章

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204/232

第204話 安永少佐の誤算

『私は第3戦団南部方面軍・嵯峨さが州駐屯部隊のジーン・安永やすなが少佐である。駐屯部隊司令官のライル・バイル中佐は本施設の指揮官室より逃亡した。これ以上の戦闘は無意味である。施設内の第3戦団兵員は、直ちに武装を解除し、投降するよう命じる』


 西門・防衛施設内および周辺に、スピーカーからの安永少尉の声が響いた。安永少佐が流した放送は、ドライエリアで待機していたGV3X(サンダーバード)にも聞こえた。


『繰り返す。施設内の第3戦団兵員は、直ちに武装を解除し投降せよ』


 その声に応じるように、施設の中から手を頭の後ろに回した緑の軍服の兵士がパラパラと出てくる。緑は第3戦団の軍色である。


「やりましたね、ネロさん」


 戦闘の終了、そして勝利を確信した御堂は安堵する。


「まだです。白兵戦部隊が、施設内の要所を完全に制圧するまで終わりません。それに、バッテリー交換に地下工廠へ入ったはずの重甲機兵1機をまだ確保していません」


 安永少佐と名乗った者の施設内放送は『投降を呼びかけている』が、降伏の意思表示をしていない。西門の防衛施設そのものは、戦闘を継続した状態なのだ。

 不可解な施設内放送……ネロは「投降した兵士を囮に使う罠」を疑い、警戒を強めていた。



 安永少佐には悪意はなかった。わざわざ「司令官の逃亡」と言ったのも、残る兵士の士気を挫くためだ。「司令官が秘密裏に逃亡を謀るような馬鹿げた戦闘で、命を落とす必要はない」と兵員に伝えたかった。

 しかし、現実はそうはならなかった。

 安永少佐は致命的な不手際を犯していた。白旗を揚げる……降伏の信号弾を放つ……等の、星間協定に定められた意思表示をしていない。指揮官としての経験のない安永少佐は、降伏する際の正規の手続きを知らなかった。

 安永少佐の施設内放送に従い、投降の意思を示した兵員は極一部。ほとんどの兵員は、不自然な放送を「ラインゴルドの卑劣な謀略」と考え、その義憤から玉砕覚悟の徹底抗戦の意思を固めさせてしまう。

 結果的に、敵味方双方をより緊迫させてしまった。



 西門・防衛施設の指揮官室に設置されたモニターに、施設内で繰り広げられている戦闘の様子が映し出されている。


「おいおい。ウチの部隊は、こんなに勇敢だったのかよ」


 地下工廠では、ドライエリアから侵入したラインゴルドの重甲機兵に携帯式ロケット砲を撃っている整備兵がいる。同じく地下の発電装置室に繋がる廊下では、生身の兵士同士の白兵戦が繰り広げられている。

 意に反した自軍の奮闘に、安永少佐は困惑してしまう。

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