第203話 西門・指揮官室
西門・防衛施設の指揮官室。
その扉が激しく叩かれていた。指揮官室の扉を叩いているのは、嵯峨州駐屯部隊のジーン・安永少佐だった。しかし、返事はない。
「申し訳ありません、失礼します!」
指揮官室の扉の電子ロックに、非常用暗証番号を入力して強制的に扉を開けようとした。
ビー! ビー!
ワーニング音が鳴りエラーメッセージが表示される。もう一度、非常用暗証番号を入力してみたが同じだった。
「非常事態です。処分は覚悟の上です!」
腰の銃を手に取り、施錠箇所を撃ち抜いた。そして扉を開ける。
指揮官室には、駐屯部隊司令官のライル・バイル中佐とトーチス傭兵団のガガリウス傭兵団長がいるはずだった。しかし、今の指揮官室には誰もいない……無人の部屋に、電源の入った情報端末がデスクの上に置かれていた。
情報端末には、未読メッセージがあることを示すワーニングが点滅している。情報端末のメッセージは、この防衛施設に拠点を移してからの、敵ラインゴルドの動きと状況変化を報告したものだ。
「このメッセージが未読と言うことは、バイル中佐とガガリウス団長は既にこの施設を脱出していると言うことか」
安永少佐はため息をつく。西門の外で識別不能の信号弾が上がった際に、ガガリウスは「援軍が間もなく到着する。もう少しの辛抱だ」と第3戦団の兵員を鼓舞した。
もう少しの辛抱……とは「バイル中佐とガガリウス団長の脱出の時間を稼げ」と言う意味だったわけである。
安永少佐には、特に驚きも失望もなかった。バイル中佐の気質を考えれば、予測できた行動だからだ。非常用暗証番号まで変更しておく念の入れようには、思わず失笑してしまったが。
識別不能の信号弾は、あの後にもう一度上がった。それから第2戦団の2番機が現れる。
「援軍が到着したのは本当の話かも知れない。しかし、それも西門外の荒野で第2戦団と遭遇して撃退されたと言うことか」
2番機がこの戦場に合流した時点で「予測すべき事態だった」と安永少佐は後悔する。
「誰だよ。『第2戦団が機能不全に陥ってる』なんて言った奴は!」
バイル中佐の情報端末に新しいメッセージが続々と届く。
『地下工廠へラインゴルドの重甲機兵が侵入』
『西門前の味方ジークフリード、大破』
『もう1機は投降』
安永少佐はもう一度ため息をつく。残る兵員の中で階級が最も高位なのは自分である。司令官が逃亡した以上、ここでの指揮権は自分に移管されたと解釈していいはずだ。
なすべきことは一つ……この、馬鹿げた戦いで余計な死者を出さないことだ。




