第201話 尊い犠牲
西門の防衛施設の本体部分は地下に建造されている。重甲機兵の整備工廠、武器・弾薬の倉庫、非常用発電装置は全て地下にあり、地上部分では都市側に面する方を居住区にしている。東に向かって開口部を設けられるので、兵士や作業員の生活空間としても比較的快適な方である。
都市外の荒野に面する西側は、対戦艦・対重甲機兵の砲門が設置され、その能力をフルに運用すれば高い攻撃能力があるが、平穏であった嵯峨州は全砲門の3割程度しか稼働させていない。
地下整備工廠の東側には、採光と大型機械の搬出入に用いる幅20メートルの空堀が設置されている。
施設の地下へ降りるための重甲機兵用昇降機は、敵の手により既に止められている。ラインゴルドの3機は、防壁の手前に設置されたドライエリアから地下に設置された整備工廠に突入した。
GV3Xと残る2機は、ドライエリアへ突入する3機の支援を行うことにした。
「さすがに月夜見様が、旗艦を託された八須賀大佐ですね。ラインゴルドが直面している問題を把握しておられました」
A級機体のZCF機構は、戦闘に必要なエネルギーを出力できる。バッテリー交換が必要なB級機体と違い、戦闘継続時間の制限はない。
2番機の奇襲が成功すれば、一気に決着をつけられる。失敗しても、2番機が前線にあれば、B級機体を陸上戦艦まで後退させる余裕ができる。
「本当に、貴女は上官には恵まれていますね」
ネロが「には」の部分を強調したせいで、御堂には皮肉にしか聞こえなかった。
「皮肉ですか?」
「はい」
敢えて肯定したネロに、無性に腹が立つ御堂だった。
2番機と共に空中移送機で到着した2機には、2番機の支援を任せる。
「地上のジークフリードは、2番機が撃破するでしょう。私たちの仕事は、地下でバッテリー交換をしている機体を押さえることです」
「この施設も、あたし達ごと自爆させられたりしませんか?」
さすがの御堂も、気になるようだ。トーチス傭兵団はここにはいないはずだから、その可能性は低い……と思いながら、ネロも警戒はしている。
「敵に不穏な動きがあれば、地上の機体は即座に退避します」
「え……地下に突入した3機は?」
「尊い犠牲……です」
可能な限り生きて還るつもりでの用兵だが、割り切らなければならないこともある。この防衛施設が自爆させられた場合、地下に突入した重甲機兵が脱出できる可能性は極めて低い。
「辛い現実ですが……それが、私たちの仕事です」
「……」
ネロの、切実ではあるが醒めた言葉に、御堂は返事ができなくなる。




