97.CAUTION
よろしくお願いします。
隙をみて渉たちの方の腕を調べに行ったときには、渉と蓑田がすでに通算三本目となる腕を切り落としていた。
「これでようやっと半分ね」
「腕を切った後の暴れる動作が大きくなりすぎて、両側の攻撃を中断しなきゃならないのが難点だな」
フィールドの中央で猛烈に腕を振り回している阿修羅を見ながら、俺たちは作戦を立てていた。
「この際、もう左側からやってしまうのが正解だと思うんですよ。そうすれば、戦力の分散も少ない分、短期間で決着をつけられるはずじゃないですか」
「確かに。それは一つの手だな。華月は腕のアイテム収集以外ではほとんど使い物にならないし」
「余計なお世話だ」
ARなんて慣れないものに初めて触れる人間なんてこんなものだと思うんだけどな。
こいつらの感性が良すぎる。
「ねえ、そろそろあいつの暴走が収まりそうよ」
「よし、左側集中でやってみるか」
俺たちは阿修羅の動きが収まると同時に、蓑田を筆頭に前に出た。
カウンター攻撃はやはり、動作主と被動作モンスターの間に発生する特殊アクションのようで、かなり一撃が強化されるようである。
だが、一回のカウンターで攻撃できるのは一人だけ。
だから、純粋な攻撃力が武器的にも一番高い蓑田をカウンター要員。
それ以外の人間は、カウンター後のモンスターの硬直に合わせて追撃を叩き込む作戦で挑んでみる。
「悠花センパイ! 来ます!」
「まかせなさい!」
蓑田は大きく振りかぶられた大剣に臆することなく、阿修羅の懐に入り込む。
そして、先ほどの紅葉ちゃんよりもきわどいタイミングで、大剣をこすり上げ、奴の腕をはじいた。
腕は、紅葉ちゃんがカウンターを入れたときよりも大きくのけぞった。
大型の武器だから大きな反動ができるのだろうか。
スローの特殊モーションが長くて隙も大きいように感じた。
「今だ! 攻勢をかけろ!!」
渉の掛け声に合わせて、まだスロー状態の二人の方に俺たちは駆けだした。
左側の腕はこの腕以外落とされているから、追撃も来ない。
右半身がこちらに傾いたと思ったくらいで、蓑田のカウンター攻撃が入った。
GWOOOONN!
叫び声をあげて奴がのけぞる。
この隙にとばかりに、俺たちは一斉に腕の関節に思い切り攻撃を叩き込んだ。
さすがに四人の同時攻撃はこたえたのか、奴の腕は簡単に引きちぎれて地面にたたき落とされた。
GRUWOOOOOOO!!!
今までとは比べ物にならないボリュームの咆哮があたりに響き渡った。
「いったん退避だ!」
渉の声が完全にかかる前に、俺たちもすでに動き出していた。
それほどに奴の威圧は強かった。
俺は後退しつつ、奴の腕の位置を確かめておく。
「これはまた、近づけもしないような暴れ方をしてるな」
「そうね。これはさすがにどうしようもないわ」
「すごい暴れ方ですねー。あいつ右半身腕無いのに……」
確かに右腕はすべてない。
しかし、残っている左の腕を振り回し、奴の前方すべてに斬撃を繰りだしている。
どう考えてもすり抜けられそうにない。
ここは動かないことしかできない。
だが、ずっとそうしているのも全く生産性がなくてつまらない。
そこで俺は、地面に刺さっている大剣を調べにいった。
左腕側の大剣はしっかり回収されてしまっているが、腕の本数以上に余っている四本が奴の暴れる位置からも遠く、地面に残っていたのだ。
もしかしたら、腕の時のように何か見つかるかもしれない。
そう思って近づいた大剣はなんとなく戦っているときよりも小さく見えた。
振るわれる剣に恐れを抱いて、なんとなく大きく見えていたのだろうと一人納得した俺は、その諸刃の大剣の腹の部分を調べ始めた。
「何か採れるものは……」
何の意匠もこらされていない無骨な大剣だと思っていたが、その隅々にはOLAでもたまに見るようなよくわからない文字のようなものが描かれているのがわかった。
しかし、読めないものはデザインとしてあってもどうしようもない。
それをなぞるようにしながら、何かがありそうな場所を探す。
すると、柄の手前に不自然に赤く光る部分があった。
よく見て調べようと思い、ステータス画面を開くと、マップに驚くべき表示がなされていた。
「この大剣……なんでモンスター扱いなんだ?」
一旦驚きで止まった思考が警戒の音を告げ始めた。
待てよ?
こいつがモンスター表示であるということは、倒すことが可能であるということ。
つまり、大剣は何かしらの意思をもって行動できるオブジェクト。
そして、今までこいつらは地面に刺さったまま動かなかった。
RPGのボスは基本的に奥の手を持っているということを踏まえると……。
!!!
俺はハルバードを握り、思い切り赤く光る部分を攻撃した。
手ごたえは十分だった。
ガキィンという大きな金属音が響いた後、ひびが入ったような姿になった大剣は、ガラスが砕けるような演出とともに光となって消えた。
そして直後、みんなの方を振り返って叫んでいた。
「気をつけろ!! 大剣はオブジェクトじゃない! モンスターだ!」
大きな音に反応してこちらを見ていた三人の上には、疑問符が浮かんでいるようだった。
幸か不幸か、彼らがこちらを向いたのとほとんど同じタイミングで、奴の動きが一度止まった。
だが、それはやはり自己強化の前触れだった。
GYAAAAAAAAANNNN!!!!
と今までと違う叫びをあげた阿修羅は、全身から赤い光を放ち、首をぐるぐると回し始めた。
そして、百八十度首が回転したかと思うと、今まであらわになっていた三面とは全く異なる般若のような面が俺たちを睨んでいた。
「こいつ、三面じゃなくて四面だったのかよ……」
「というか、阿修羅をなんだと思ってるんですかね。あの三つの面だって、こんなおもちゃみたいなことするためにはないはずなんですけど」
「紅葉、そこは気にしたら負けだわ。今はこいつの討伐を考えなきゃ」
「そういえば、華月センパイが何か言ってたような……」
ちょうど、俺も三人の方へ近づいて情報共有をしようとしていた時だった。
GYAAAAAANNNN!!!!
般若の面が叫びをあげた。
それに呼応するように、地面に刺さったり転がったりしていた大剣が不気味な音を立て始める。
俺はとっさに「伏せろ!」と叫んでいた。
「えっ!?」
「いいから、伏せろ!!!」
珍しく阿保のようなリアクションをした蓑田を叱り飛ばすように声を上げ、三人のもとに覆いかぶさるようにダイブしながら俺は地面に伏せた。
瞬間、真っ赤に部屋が染まったかと思うと、俺たちの胸あたりの高さを、大剣が舞い始めた。
大剣はまるで見えない長い手で振るわれているかのように縦横無尽に空間を切り裂いている。
見れば、般若の方も腕を振るいながら空間を切り裂いていた。
こちらを確実に狙ってくる感じではないということから、こういった状況をどうやって打破するのか、試しているようにも思える。
「どうやって、あの攻撃をかいくぐればいいんだ……」
独り言をつぶやくと、俺の下の方から、小さな声が聞こえた。
よく聞き取れなくて、俺は下を向く。
そこには、真っ赤になって顔を隠している蓑田と照れてそっぽを向いている紅葉ちゃんがいた。
ダイブしたときに、軽いラリアットのような形で巻き込んでしまったらしい。
接触が一瞬だったうえ、大剣の方に気をとられていたから気が付かなかった。
……と、現実逃避している場合ではない。
あの蓑田がか細い声で「どきなさいよぅ……」と言い、紅葉ちゃんが「助けてくれたのはありがたいんですけど、こういうのはまだ早いっていうか、ちょっと場違いというかまたの機会にというか……」と訳の分からないことを言っている。
そしてそれを一言一句聞き洩らさず、まだ状況を変えられていない俺。
ヤバい。
とりあえず、穏便にことを収める必要がある。
なにか。
なにかそれっぽいことを言って、普通にしていれば、多分、何もなかったことにできる。
そうだ。
何か。
何か一言を。
しかし、そんな俺の幻想は、渉の一言によって消し飛ばされた。
「お前ら、いちゃついてないで、どうにか打開策考えろ。いつこっちに攻撃が来てもおかしくないんだぞ」
いつも通りの低いテンションでそういうこと言われるのが一番こたえる……。
俺は飛び交っている大剣の範囲内には入らないように注意しながら、できる限り素早い動きでその場を飛び退き、すぐさま土下座の体勢をとった。
「申し訳ございませんでした。わざとじゃないんです。許してください。もう二度としません。というか近づかないようにするので本当に許してください。訴えないでください」
天罰を待つ構えである。
この二人はこういう少しのことにも敏感なタイプだろう。
俺のような人間がこういうことをしてしまっては本当に縁を切られるかもしれない。
地獄のような罵詈雑言が来ることを予見しながら、俺は運命の時を待った。
しかし、聞こえてきたのは意外な言葉だった。
「まあ、今回のは、私たちを守ろうとしてくれてたっていうのはわかってるし、私たちに不埒に触れたわけでもないし、故意じゃないのは知ってるから許してあげるわ」
想像の三十倍は優しい言葉だった。
「と、とにかく! まずはあのデカブツを倒すべきなのよ! 動揺したくらいでここまでの努力が消えてなるもんですか。体力は無事だったんだから、攻略的には完璧よ! クライマックス、あいつの胴体を真っ二つにしてやるわ!」
蓑田のテンションは壊れているようだったが。
ここはもうお咎めがないだけで良しとしなければならないだろう。
「それじゃあ、作戦立てるぞ。大剣の嵐に立って突っ込むのは無謀。ダメージ判定の大きさからしても確実に体力を持ってかれることは明らかだ。そこで別の作戦を考えなければいけないわけだが……」
作戦会議は滞りなく進んでいった。
渉が驚くほどいつも通り進めていくので、途中からはほとんど気にならなくなったくらいだ。
ただ、作戦が組みあがって、いざ実行するというときになって、それまでとてもおとなしくしていた紅葉ちゃんが耳打ちしてきた。
「センパイ、私は結構気にしてますからね。後で責任、とってくださいよ?」




