98.腕とオーラ
遅れました。
よろしくお願いします。
紅葉ちゃんの不穏な言葉を無視して、俺たちの作戦は開始していた。
何なら、俺に耳打ちしていたはずの紅葉ちゃんすら、素早く前線に向かい、戦端を開いていた。
俺たちの考えた作戦は、大剣の破壊を行うことで、猛攻撃を無力化。
懐に入り込んで、まだ健在の腕を切断するというものだった。
正直、飛び交う大剣の破壊など、簡単にできそうもないのだが、先ほどの経験を踏まえると話は変わってくる。
俺の一撃で破壊できるオブジェクトの強度はそこまで高くないと考えていい。
だが、剣として使われているときは全く壊れなかった。
理由として思いつくのは、俺が大剣を破壊したとき、もともと見えていなかった柄の部分まで見えていたことだ。
そこにちょうど、核のようなものがあった。
俺はさっき、これをたたくことによって大剣の破壊に成功した。
ならば、飛び交う大剣にも同じ弱点があり、そこを攻撃することによって破壊することができるはずである。
「紅葉! 右から来るわよ!」
「わかってます!」
作戦の第一段階は、紅葉ちゃんが囮になることである。
OLAのように完全防御とはいかないが、紅葉ちゃんのオーブによるクッションは、相手の攻撃によるダメージをそれなりにカットできることがわかった。
そのため、所持者であり、PSも高い紅葉ちゃんを先に行かせて攻撃を引き付ける。
「かかってこいやぁ!」
「紅葉そんなキャラだったっけ!?」
「いいから! センパイたち! 破壊してください!」
「任せろ!」
紅葉ちゃんの方に攻撃が寄せられたおかげで、俺たちはさっきよりも動きやすくなった。
大剣は未だ飛ぶが、ほとんどはメインターゲットである紅葉ちゃんの方へ。
そして、紅葉ちゃんに攻撃を繰り出そうとしている大剣を、後ろから渉と蓑田がたたく。
「壊れろぉぉ!!」
蓑田の戦闘斧が核のある部分に思い切り突き刺さった。
途端、空中で刃を振り下ろさんとしていた大剣は光を放って砕け散った。
「よし!」
「ナイスです!」
「大剣の破壊が可能なことが証明されたな。このまま全部破壊するぞ!」
勢いづく三人を尻目に俺は何をしているのかというと、本体への囮である。
飛び交う大剣は、ほとんどAIによる自動攻撃。
ターゲティングしているプレイヤーから狙うというありふれたシステムである。
ただ、これは本体も同じこと。
飛び交う大剣と本体の相手を一気にすることはいくらPSが高くとも至難の業だろう。
そこで誰かが囮にならないといけないわけだが、大剣を一撃で破壊できるだけのPSに自信がなかった俺は、この囮を買って出た。
迷惑をかけるわけにはいかなかったからである。
正直、身体の右半分の攻撃はほとんど心配しなくていい。
最適な間合いを保ちつつ、右側からできるだけ反撃すればいい。
倒さなくていいのだから楽なものだ。
そう考えていた俺が甘かったようだ。
左の攻撃のレンジは思ったよりも広く、油断していると攻撃に当たることになってしまう。
かといって下がりすぎると、大剣と交戦している三人とかち合う。
おまけに凶悪なのが、どこからかいきなり生えてくる腕の幻である。
腕がすべてきり落とされたはずの右側には、紫に揺らめく半透明の腕がたまに現れるのだ。
先ほど攻撃してみたが、当たり判定はなし。
だが、その右腕による攻撃には判定が存在している。
恐ろしいことこの上ない。
今までの戦闘経験や、限られたスペースをうまく生かすことによって、どうにかかすり傷程度にとどめているが、このままだと体力が尽きてゲームオーバーである。
「おらぁ!! あと一本!」
渉の声に何とか希望をもって、耐え続ける。
左腕には、二本の大剣。
破壊した大剣は全部で三本。
残る大剣は飛んでいる一本。
元々あった全六本の大剣の処理が終わるのも、時間の問題である。
「最後くらい、カウンターで決めてやります! はぁぁ!!」
飛んでいた最後の一本に紅葉ちゃんがとどめをさしたようだ。
咆哮とともに、本体の動きが一瞬止まる。
「今だ! 左の腕を落とせ!!」
俺もここは活躍しなくてはと、左の一番上にある腕、その肘部分に思い切り攻撃を叩き込んだ。
同様に、下の腕も蓑田と紅葉ちゃんが切り落としている。
そして、手から離れた大剣を渉がきっちりと破壊。
見事な連携が決まった。
「華月! 腕! アイテム回収よろしく!」
「了解!」
今まで苦しかった分、テンションが上がり、意気揚々と俺は腕のアイテムを回収しに行った。
転がっている腕を調べては、【技能】を使って、アイテムを回収するだけの簡単なお仕事である。
未だ硬直状態の本体にはみんなが攻撃している。
安心して最後の腕を調べようとした時だった。
GGGGGGGGGGGGGGRRRRRRRRRRRRRRRRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!
ステージが揺れる程の衝撃が俺たちを襲った。
というか、本当に地面が若干揺れた。
これは施設のギミックなのだろうか。
一度バランスを崩したものの、体勢を立て直しながら、三人が下がってくる。
「どうなるんだ?」
「わからん。倒したのか、最終形態か……」
「最終形態って、もう結構いろいろやったじゃない」
「それでもやってみようってことじゃないですか? ほら、あの紫のオーラ。そうとしか思えませんよ」
般若の顔は、口から霧のような息を吐きだしながら、肩を上下させ、全身に紫のオーラを纏っていた。
そのオーラは次第に、今はもうない腕のような形に変化していく。
「うわ、腕の復活? でも、ちょっと数が多くない?」
「にー、しー、ろー、はー、とー……十以上あるってどういうことですかね?」
「千手観音みたいだな、ここまでくると」
「開発陣、敬虔な仏教徒に怒られないといいけど」
俺たちの前に立ちはだかったのは、初期の六本よりも腕を増やし、それぞれに大剣を装備したおそらく最終形態となる般若の異形であった。
先ほどまでの感覚が正しければ、あの紫のオーラに実態はない。
大剣もオーラで作られているから当然破壊不可能。
もはや無敵の要塞なのではないかと思う姿であるが、そこはゲーム。
しっかりと弱点が現れるような仕様になっていたらしい。
「あの、胸の真ん中。赤くてキラキラしたやつを壊せばいいのかしら?」
「まあ、多分そうだろうな。問題はどうやってあそこに行くのか、だ」
みんなの言うように、不自然に大きな、赤く禍々しい宝玉のようなものが、奴の胸に輝いていた。
近づけさせまいとしている腕がどう考えても邪魔で、あそこに攻撃を叩き込もうと突っ込んだら最期、確実に体力を削り取られてしまうだろう。
「あーもう! こういうとき、このゲームの仕様っていやなんですよね! 武器がほとんど近接しかないっていう!」
「確かに、誰かしらのオーブが遠距離攻撃可能であれば、あれを破壊するのは簡単だろうな」
「俺が今、アリスとかモンスターを召喚できればなぁ」
「ないものをねだったってしょうがないのよ。今はとにかく方法を考えないと」
そういって黙る一同の顔には疲れの色が浮かんでいた。
さすがにここまで動きっぱなしで、考えながら戦闘していては疲れるのが当たり前だ。
短期でどうにか終わらせないとミスによってゲームオーバーになるのは目に見えている。
GRRRURURURURURURURURUR!!
作戦会議の時間は終わりだとばかりに、奴がうなりを上げた。
そして、胸の宝玉を一層暗い赤にきらめかせた。
と、次の瞬間には、こちらにレーザーのような攻撃が飛んできた。
「マジかよ!!!」
幸い、そこまで速い攻撃ではなかったために全員が回避に成功。
しかし、本格的に動き出し、遠距離攻撃を打ってくる相手に対して止まって会議をしている時間などない。
俺たちはすぐさま走りながらアイデアを言いあうように動き始めた。
「そうだ! 蓑田! お前のオーブは出し入れ自由だろ? その特性を使って投擲したらいい! 前に一回やってただろう!」
「確かに! センパイにしてはいい考えですね!」
「うーん、そこまで精度高くないし、結構タイムラグがあるからやりたくはないけれど……」
「とりあえずやってみろ。疲れてきた。早く終わらせるには試行錯誤あるのみだ」
「そうね。じゃあ、行くわよ」
そこまで気が進む様子ではなかったものの、蓑田はオーブを使って新しく戦闘斧を作りだした。
そして、それを思い切り振りかぶって投擲する。
投擲された戦闘斧は防御姿勢をとっている腕のオーラを潜り抜け、見事宝形に命中した。
「よっし!!」
砕け散る宝玉の欠片を前に、俺たちはガッツポーズを作り、案外とあっさり終わるものだという感想まで持った。
しかし、そんなに簡単に終わるはずもない。
「見てください! 光ってます!」
紅葉ちゃんの指さす先をよく見れば、宝玉が光り輝き、何やらぼやけているように見える。
周りの腕の動きは完全に停止し、防御姿勢をとったまま動かない。
「これは、再生してるのか?」
「それじゃあ、この方法じゃ倒せないってことじゃないの」
元々そこまで乗り気ではなかった蓑田は拗ねた風にしている。
「そこまで落ち込むことじゃない。これを試したことは大事な情報を俺たちにくれた」
「大事な情報?」
「どれだけ落ち込んでるんだよ。俺ですら分かったぞ?」
「うるさいわね。……それで、何がわかったの?」
顔をしかめた蓑田が切れ気味に聞いてくる。
そこで渉がすかさず言う。
「今、俺たちに余裕ができていること。そして、再生をしていることが大事な情報だ」
そう。
今の奴は完全に動きが停止している。
これだけの攻撃手段を持ち、鉄壁の構えをしておきながら、動きが止まる瞬間などあり得ないだろう。
要は、これが、こいつの攻略法の一つであるということだ。
最悪の場合、宝玉が壊れもせずにあの弱点が存在しているということがありえた。
だから、攻略方法が見いだせたのは上出来だ。
「そこまでわかったとして、これからどうやって攻略するつもり?」
「簡単だ。お前が戦闘斧を投げる。俺たちは回復している隙に宝玉に迫る。三人で思い切り宝玉を殴る。これで終わりだろ」
「華月の案は短絡的だといいたいところだが、俺の考えもほとんど同じだ。というか、もうこれ以外にヒントがない」
「できれば、遠距離で仕留めたいですけど、悠花センパイのオーブは多数の戦闘斧を連続生成するのはできないですもんね」
「そうね……私ができるのはせいぜい、みんなが宝玉に近づくまでの間、もう一度くらい戦闘斧を投げることね。それしかできないのであれば、私も近づいて攻撃に加わった方がいいと思うのだけど」
「いや、もしも俺たちの突撃が失敗したら、速攻で倒れるだろう。でも、一人残っていればなんとかできるかもしれない」
そう。
どうしても全滅は避けなければいけない。
少し考えるそぶりを見せてから、蓑田は頷いた。
「わかったわ。それで行きましょう。死なないでね」




