96.カウンター
少し遅くなりました。
よろしくお願いします。
「センパイ! 上!」
「うぉお!?」
紅葉ちゃんのおかげで、振り下ろされる大剣に気付いた。
一足遅ければ、真っ二つになっていたかもしれない。
「こいつ、隙が全然ない。近づくのが難しすぎるだろ」
「しょうがないですよ。腕三本もあるんですよ? 右だけなのに。でかいし、わかりきってることじゃないですか」
「それはそうなんだけどな? 結構ゴリ押しの攻略しかできないのにこの性能はずるくないか?」
「確かに。どうしたって攻撃を避けながら戦うしかないですよね。誰かさんがさっきミスったせいで大剣一本取られちゃいましたし」
「そんなに責めることないだろ」
最初に投げられた三本の大剣は奴の能力では生成することができないらしく、拾いに来る動作があった。
俺はそれを見逃し、先ほど一本取られてしまったわけだ。
「大剣拾いに来るモーションは攻撃チャンスなのに、あんなに簡単に見逃して……」
「仕方ないだろ。初見なんだから」
「ま、そのあとからはちゃんとやってるのでこれ以上咎めはしませんが。問題は、すでに大剣を所持している二本の腕にどうやってダメージを与えていくかなんですよね……」
そうなのだ。
俺たちはミスがあったとはいえ、腕へのダメージの与え方は確立したのである。
部位欠損を狙っているために、狙うのは関節。
大剣を拾いに来た腕については、大剣の前に立って攻撃を逸らす役と側面から攻撃をたたきつける役に分かれることで確実に関節を攻撃できた。
しかし、これは一直線に大剣の方へ手が伸びてくるために可能なことである。
他の腕は大剣を思い切り振るい、薙ぎ払うだの振り下ろすだの見るからに威力の高い攻撃を放ってきて、カウンターをするどころではない。
「あー、もう! 隙をつくのもつかれた! 早く欠損しないかな! この二番目の腕!」
「そのセリフちょっと物騒すぎるよ?」
紅葉ちゃんがいら立つほどに、大剣を持っていない腕のみを相手に戦うことしばらく。
ようやっと、奴の腕の肘から先がちぎれ、フィールド上に投げ出された。
「よっしゃー! 腕一本もらった!」
「紅葉ちゃん、次の攻撃が来る!」
「わかってますよ!」
俺たちが落としたのは真ん中の腕、まだ上と下の腕が大剣をもって暴れまわっている。
しかし、今回の暴れ方は激しい。
部位欠損による特殊モーションだろう。
奴の近くは、荒れ狂うように振り回される大剣で近づくことすらできない。
「あのモーションが終わるまで、攻撃は多分不可能ですよね」
「だろうな。あれは一つ躱せても次が必ず当たるパターンの攻撃だろう」
「むー、待ってるのもなかなか暇ですね。あの大剣攻撃、何とかしてカウンターできたら良いんですけど。今は盾も持ってないし、OLAって肉弾戦の要素が少ないから、そもそもカウンター系のシステムが弱いんですよね」
「強いカウンターシステムってどんなのだ?」
「アレですよ、一部のアクションゲームでタイミングよく相手の攻撃をはじいたりいなしたりして不可避の攻撃を打ち込むやつ。たまにeスポーツの特番とかで話題になるじゃないですか」
「あー、確かに。言われてみれば、OLAにその手のシステムがあると聞いたことはないな」
「プレイ時間が私よりもないセンパイがそのセリフ言ってても違和感ですけど、私も同意ですよ。そもそも、私のオーブは盾より強く、カウンターよりもすさまじいカウンターが放てますから」
「はいはい、わかったよ」
暴れるモーションはまだ続いている。
俺たちがこれだけ話していて無事なのは、あいつの立ち位置が変わらないからだ。
そんな折、反対側の担当をしている渉の声が聞こえてきた。
「おい! そっちは大丈夫か!」
「何とか! 一本腕を落としたところだ!」
「なるほど。どおりでモーションが長いと思った。こっちも一本切り落としたところだ」
「処理が重なったのね。華月! 切り落とした腕にしっかりと【技能】使っておきなさい! 私たちじゃ、何も得られなかったけれど、ボーナスドロップが期待できそうよ」
「マジか! わかった!」
確かに最近自分の【技能】を活用してなかったような気がする。
大抵のオブジェクトに対して使える結構便利な【技能】だったのに。
……戦闘ばかりに気をとられてもゲームは楽しめないのかもしれないな。
「悠花センパイ! あのでかい剣もってる腕、どうやって落としますか?」
「あれねー、私たちもさっきまで苦戦してたんだけど、多分、カウンター、できるよ」
蓑田が紅葉ちゃんの方を見て不敵に笑った。
渉がその言葉に続いて言う。
「蓑田から聞いたが、紅葉のやってるゲームで言えばシステムはBBに近い。精度もそこまで高くなくていい。相手の攻撃をジャストで流せれば、あとはどうすればいいかわかる」
「なるほど。BBですか……情報感謝です!」
GRUOOOOOOOO!!!
俺にはさっぱりわからない会話が繰り広げられたところで、あいつの咆哮が聞こえた。
「どうやら、二段階目が始まるみたいだな」
「紅葉、どっちが早く落とせるか、勝負しましょう?」
「余裕ですよ。なめないでください。BBの私がどれだけ強いか知ってますよね?」
「行くぞ!」
またも俺が取り残される会話をして、俺たちは攻撃を再開した。
俺は何をしたら良いのかさっぱりわからない。
仕方なく紅葉ちゃんに聞く。
すると、バカにしたようなニヤニヤとした顔で、俺に向かってこういった。
「センパイは弱いので私が守ってあげますよ」
「いや、そうじゃなくてな」
「わかってますって。ちょっと見ててくださいよ。その方がわかりやすいですから」
いつになく頼もしい笑顔で紅葉ちゃんは駆けていった。
敵は先ほどと同じ攻撃モーションに戻り、大きく大剣を振りかぶった。
確実に攻撃の着地点となる場所をひるまずに紅葉ちゃんは走る。
当然、振りかぶられた大剣は紅葉ちゃんの頭上におちてきた。
俺は思わず「危ない!」と声を上げたが、どうやらその心配はいらなかったようだった。
「せえりゃあぁぁぁあ!!!」
独特の叫び声をあげながら、紅葉ちゃんの短剣が鮮やかに大剣の刃を滑った。
紅葉ちゃん自身の身体も軽やかに、攻撃の衝撃を受けにくい方向に抜けていく。
その瞬間、紅葉ちゃんと大剣を振るう腕との間の空間だけ、時間の流れがゆっくりになったように感じた。
しかし、AR世界でそんなことは起こりえない。
プレイヤー側が加速するなんてこともない。
おそらく、カウンター攻撃用にプログラムされた相手のスローモーション状態なのだろう。
スローに入った瞬間、紅葉ちゃんの持っている短剣が青白い光を放った。
そして、紅葉ちゃんは逆手に持っていた短剣を持ち直し、手首の関節部分に斬撃を繰り出した。
カウンター攻撃だと反動がでかいのか、奴の腕は痛がるように震える動作をして、腕をひっこめた。
同時に、大剣が手から零れ落ち、ガランという音を立てて地面に転がる。
紅葉ちゃんは腕を引いたタイミングに合わせてこちらに一度後退してきた。
「どうでしたか? かっこよかったでしょ?」
「確かにな。あれはタイミングと力の加え方が随分と難しそうな技だ」
「ふっふーん、鍛え方が違うんですよ。もっと尊敬してください」
「やけにテンションが高いな、今日は」
身体を動かすのが好きなのか、今日の紅葉ちゃんはよくしゃべる。
「それより、何か見つかったんですか? まさかぼーっとしてたわけじゃないでしょう?」
「当り前だ。ちゃんと【技能】を使ってこの腕からアイテムを収集しておいたぞ」
そう。
俺は何も紅葉ちゃんを棒立ちで見ていたわけではない。
しっかりと仕事をこなしていたのだ。
「見ろ。これがあの切り落とされた腕から手に入れられたアイテムだ」
「……“修羅のカケラその壱”? 見たこともないアイテムですね」
「まあ、このAR自体が初めてだろうからな」
「多分、その壱があるってことは、その弐、その参と続くんでしょうね」
「だろう。そして、そのカケラは……」
「腕の破壊で手に入る」
俺たちの中に明確な目的ができた。
渉たちの方にも、今の情報を共有する。
「なるほど。じゃあ、私たちの方に転がってる腕にもそのカケラがあるってことね」
「二本目の腕をどちらかが切り落とした時点で、左右を交代するか。それを繰り返せば多分、全部のカケラを回収することができるんじゃないか?」
「OK。そうしよう」
三人で動きを確認していると、一人奴をかく乱していた紅葉ちゃんから叫び声が上がる。
「ちょっとー! センパイたち早くしてください! さすがに私一人では限界がありますよー! 投げた大剣も落ちた大剣も消えないから、考えること多すぎていやになってくるんですけど!」
「確かに転がってる大剣は消えないな。面倒だ」
「あんた、あれも調べて見なさいよ。腕はアイテム収集したら消えたんでしょう?」
「半笑いで言うなよ。結構隙だらけになるから慎重にやってるんだぞ」
「センパイたちいいから来てください! 華月センパイいじるのなんて後でいくらでもできるから!」
なんてことを言う後輩だろうか。
渉や蓑田もそれに同調するな!
人をなんだと思っているんだ。
「センパイ早く! 動いて!」
「いや、俺には一応【技能】を使うっていう仕事がだな……」
「いいから! まずはこの腕斬りたいの! 囮がいないとできないでしょ!」
「えぇ……」
こいつ自由すぎるだろ。
と思いつつも、要望通りの動きをしてしまうあたり、姉の存在によって鍛えられた女性への畏怖を自分の中に感じざるを得ない。
先ほど、カウンターを入れたことによって大剣を取り落とした腕は、一番初めに切り落とした腕のように、大剣を求めて突進を繰り返してくるようになった。
しかし、今度は地面に大剣が二つも転がっている。
選択肢がある分、敵の動きを読みにくくなったのは紅葉ちゃんの言う通りだった。
「もしこれでまた大剣をとられたらどうなるんだろうな」
「そりゃ、さっきのカウンターからやり直しですよ。持っちゃいますもん」
「だよなあ。ヤマ張って、どっちかの前で待ち伏せするとかはなしか?」
「なしですよ。普通にもう一方に行かれて終わりです。カウンターはそれなりに怖いし、体力も持っていかれるので、強いですが連発はしたくないです」
そういえば、このAR上での体力はどうなっているのだろうか。
今の発言で気になって調べてみた。
自分の視界にシステムを表示させる。
「マジか。体力が気づかぬ間に三割削られてる……結構判定あるんだな、あいつの攻撃」
「そうですね。ARの悪いところは、ダメージが直接伝わってこない分、自分でちゃんと把握しなければいけないということですかね」
この先の攻略に少し不安な気持ちになりながらも、俺は改めて残りの腕に対峙した。




