95.リアル?バトル
よろしくお願いします。
〈GAME START!!!〉
俺たちの視界にそのメッセージが表示された瞬間、一面真っ白だった部屋に、様々な光があふれて、あたかも森の中のような景色を作り出した。
「すごいな。結構本物感ある……」
「“決闘”みたいにフィールドが制限されている感じがあるのね」
「さて、どう来る……?」
四方を森に囲まれているため、どこから仕掛けてくるのかわからない。
そこまで広くないフィールドであるがゆえに、警戒心も強くなる。
GYUEEEEE!
「右だ! 来るぞ!」
鳴き声が聞こえた方向に全員で向く。
紅葉ちゃんが一歩前に出た。
ん?
待てよ?
クーレの姿にはなっていない。
ということは……。
「〈無限くっしょん〉!!」
「紅葉ちゃん! オーブは使えないかもしれない!」
「えっ、嘘!?」
しかし、俺の予想とは裏腹に、しっかりとクッションが現れていた。
ただ、そのサイズはいつもの巨大なものではなく、とても小さなものであった。
「使えた! けど、これじゃあみんなを守れない!」
「落ち着け! 自分たちの動作確認をする必要がある! 一回下がるんだ!」
コータの掛け声に紅葉ちゃんが一歩下がる。
“陸ペンギン”は群れているらしく、鳴き声は大きいものの、戦闘はまだフィールドの外に見えているだけである。
「いいか、あいつらが来る前にとりあえず、オーブだけ使ってみるんだ」
「了解。〈女王の乱獅子〉!」
「あれ、ちょっと待って、俺のオーブ、選択できない!」
ユーカが普通にオーブを発動させたのに対して、俺はオーブの選択すらできなかった。
よく見れば、召喚できるモンスターのストックがゼロになっている。
「俺のオーブも無反応だ」
「もしかして、モンスターとかを呼び出すことはできないってこと?」
「可能性は十分にあるな。呼び出したモンスターや悪魔を動作させるリソースがないんだろう」
「あたしのだって、いつもの五分の一程度にしか強化されてないわ。全体的にプレイヤーが弱体化させられてるみたいね」
「センパイ! 来ます!」
考察を満足にすることもできず、ついに襲い掛かってきた“陸ペンギン”の攻撃をハルバードで受ける。
「うぉっと、武器の扱いも、かなり難しくなってるな!」
「物理法則が現実世界だもの、しょうがないわよ!」
「これは、あんまり会話してる余裕がないかもしれないな」
俺たちは、いつもとは比べ物にならないほどお粗末な動きで、敵を倒していった。
やはり、運動神経のいい渉はコツをつかんでからいい動きを見せ始め、蓑田もオーブがある程度使えているからか、大量に敵をなぎ倒していた。
俺はそこまで運動ができるわけではないので、何とかリアルの身体を動かし、みんなについていっているといったところであろう。
しかし、誰よりもOLA本編とのギャップが感じられたのは、紅葉ちゃんであった。
自分のオーブが使えないと見るや、【《アイドル》】の技能を使って敵全体のヘイトを稼ぎ、苛烈な攻撃に対してはクッションを盾代わりにしながら、短剣を華麗にさばいてヒット&アウェイを繰り返していた。
敵をうまく誘導してくれたおかげで、俺たちの攻撃も通りやすかったし、慣れない戦闘にしては余裕をもって戦うことができた。
〈CONGRATULATION!!〉
戦闘に勝利し、このメッセージが表示されたときには俺たちはかなり疲れ、汗もかいていた。
だが、何よりも俺たちの話題になったのは、紅葉ちゃんの動きについてだった。
「紅葉あんたなんでこんなに動けるのよ。普通の女子高生でしょ?」
「いやぁ、それほどでも……」
「いや、目を見張るような動きだった。この類のゲームに実は慣れているんじゃないか?」
「えへへ、わかります?」
紅葉ちゃんが言うには、アイドルの激しいレッスンに耐えるだけの体力をつけるために、楽しみながらできるエクササイズを探していたんだとか。
そこで、お姉さんに相談したところ、こういうARゲームを勧められたのだという。
「いやぁ、うちの姉、華月センパイのお姉さんとおんなじで、ゲームをつくってる人なんですよねぇ。でも、方向性は全く違って、こういったARゲームをいかに面白く普及させるかをやってるんですよ。ARスポーツブームを生み出した会社に勤めてるので、まんまと顧客ゲット。みたいにされまして」
「へぇ、ARスポーツか。確かにブームだけど、そんなに浸透してるものだとは知らなかったな」
「最近のはスポーツって言うより、ゲームって感じが強いですからね。お堅いテレビ局なんかは配信してくれないですよ。私が好きでやってる無双系ゲームとかすっごく面白いのに」
頬を膨らませて文句を垂れる紅葉ちゃんの姿を見ていると、ゲームを楽しんでプレイしているらしいのが伝わってくる。
「でも、なんでOLAではあの戦い方をしなかったんだ? かなりすごかったのに」
「いやいや、あれはソロプレイヤー向きの動きなんですよ。しかも、ここくらい狭い空間に閉じ込められないと意味がない。特に、私は盾役ですからね。メイン火力の人が戦場を引っ掻き回すときに使うのはいいと思うんですけど」
「確かに、OLAで盾役があんなに動き回ったらリーダーが怒りそうね」
「当り前だろう。作戦が組みにくい。それに個人の能力に頼りすぎるのもよくない」
「自分の能力に自信がある人が良く言うよ」
「あはは……ま、私はアイドルのキャラづくりもあるんで、あんまり派手には動かないですよ。静かにみんなを守る方が可愛いでしょ? ね、華月セーンパイ?」
「なんで俺に振るんだよ」
「渉センパイじゃ、彼女もいるし面白い反応もらえないですから」
「ふっ……」
「蓑田今、鼻で笑ったな?」
俺が蓑田に怒りをぶつけようとしたタイミングで、視界に再びメッセージが表示された。
〈CAUTION! ボスモンスター“六腕鬼神阿修羅”が出現します。プレイヤーのみなさんは準備してください〉
「マジか」
「もう休憩終わりですか?」
「飲み物くらいは買っておくべきだったわね」
「時間もないみたいだ。しょうがない、やるぞ」
元々複数回身体を動かさせる前提だったのか、システムは無慈悲に俺たちの休憩時間を削り取った。
思い返してみれば、確かにチュートリアルと言っていたような気も、ボスバトルと言っていたような気もするが、今は気にしないでおこう。
ヘッドセットをもう一度装着しなおして、深呼吸をする。
今度のモンスターはボスだという。
俺たちはいつもオーブの力を最大限発揮して、危ない場面がないようにボスと対峙してきた。
今回は環境も状態も異なり、危ない場面に遭遇することになるかもしれないと考えると、緊張感が増してきた。
ふと、紅葉ちゃんが俺のそばに来て他の二人には聞こえないような声で言った。
「センパイ、ビビってるんですか?」
「そんなことはないよ。俺だってある程度は戦えたしな」
「素直じゃないですね。でも、大丈夫です。今回は私がセンパイを守ってあげますよ。じゃないと、結愛さんに頼まれた仕事も果たせそうにないですから」
「ん? どういう意味だ?」
「なんでもないでーす」
紅葉ちゃんの言葉に疑問を抱き、重ねて質問をしようとしたが、コータの声に阻まれてしまった。
「おい! 始まるぞ! 構えとけ!」
一度頭を振るって、ゲームに集中するように頭を切り替えた。
先ほどと同じようにカウントダウンが始まる。
部屋の景色は、カウントダウンと同時に遷移していくようだ。
先ほどの森の景観とは打って変わって、暗い怪しげな紫の空間が地面から段々と広がっていった。
地面はひび割れた石畳のようになり、壁は神殿のような石造りでオレンジの壁掛けたいまつが炎を揺らめかせている。
奥の方は暗闇で何も見えない。
俺たちの視界がそのような舞台を認知したと同時にカウントがゼロになった。
〈GAME START!!!〉
GUOOOOOO!!
システムのメッセージが表示されるとともに、暗闇の奥から地響きのような唸り声が聞こえてきた。
「来る!」
俺たち全員はその方向に身がまえ、一歩下がった。
不意に、暗闇の奥から諸刃の大剣が飛んできた。
今の俺たちにそれを防ぐ術はない。
一同にその場を飛びのき、何とかその攻撃を躱す。
「でかいな。これを放れるなら相当な大きさの敵だぞ」
「この部屋の天井ギリギリまであるかもね」
「次だ!」
話している暇などないということだろうか。
今度は二本一気に大剣が飛んできた。
地面にそれが刺さるところまで、ARのくせに臨場感たっぷりである。
そして、ズシンという衝撃とともにソレは姿をあらわした。
「名前のまんまだな」
「六腕で、阿修羅ねぇ……」
「このスペースのなさで腕多いのはずるくない?」
「来ますよ、センパイ!」
右の三本の腕の最上段が俺と紅葉ちゃんがいるあたりに向かって大剣を振り下ろしてきた。
それを避けて少し後ろに下がり、ボスの全体像を見る。
先に三本の大剣を放ったからか、右腕三本のうち最上段以外の二本は素手である。
同じく、左腕は最上段のみが素手であり、なんともアンバランスな感じを受けた。
鬼と名前に入っていた通り、阿修羅のように三面ある顔のすべてに角が生えており、今正面の顔が一本。
左の顔が二本。
そして右が三本と、なんとも“らしい”つくりになっていた。
このビルのワンフロアは高さが大体三メートル程度だった気がするが、このボスはその限界ギリギリまで大きな体躯を持っていた。
当然、攻撃範囲も広い。
これをどのように攻略していくのかを考えなくてはならないだろう。
「華月! お前は紅葉と一緒に右側を攻めろ!」
「了解!」
紅葉ちゃんは先ほどの攻撃を躱して、すぐに右半身の一番下の腕に攻撃を加えている最中だった。
俺もハルバードを一振りして、応援に向かう。
「気を付けてください! こいつ、基本的に片側ずつ独立して動きます!」
「了解! それなら、右と左をどっちもつぶす! 変化があったら退避してもう一度だ!」
「わかったわ! 多分、部位欠損ダメージは通用するはず! すべての腕をちぎりとってやりましょう」
蓑田の発想がこえーよ。
GYUOOOOOAAAA!
叫んで意思疎通をしながら、俺たちは戦闘を開始した。
そこにある充実感は、ほとんどOLAの本体と変わらないもののように思えた。




