94.いざ
よろしくお願いします。
「まずは駅前の施設に行かなきゃいけないらしい」
「駅前にAR娯楽施設なんてあったかしら?」
「知らん。駅なんて高校行くためにちょっと使うくらいだから、周りのことは何にも覚えてない」
ま、高校生の日常なんてそんなものだ。
周りに気を配らず、いつもと変わらぬ日々を過ごしていく。
俺たちはその中で、VR世界への没入という、リア充のやらないようなことをしているわけだが。
そんなこんなで雑談をしながら駅前に向かったところ、西口の十字交差点の一角。
少し大きめのビルにその施設が入っているのを見つけた。
「次世代型総合遊戯施設?」
「なんか胡散臭い名前ね」
それにしてはきれいでおしゃれなデザインの施設である。
ビル自体が大きめなのもあるが、テナントとして2フロアにわたって配置されていることからそこそこ大がかりな施設であることもうかがえる。
「ネットの評判もいいみたいね。やっぱり何か、ARを使って運動するみたい」
「運動不足の若者に……嫌味なキャッチコピーね」
「そうですよ。運動不足でも、地道な筋トレでいいボディは保てます!」
「お前みたいに意識の高い人間に対して響くように作られたものじゃないだろ」
グダグダと話をしながら、ビルに入り受付に行ってみると、割と大勢の若者が施設に入っていくのが見えた。
「人気なんだな」
「AR技術はいろいろ有用らしいから、お金のかかるスポーツを体験した気になるのにいいんだって」
「どこからの情報だ?」
「さっきの評価。ゲーマーがこぞって来ているというわけではなさそうね」
「リア充は死すべし、です。そう思いませんか?」
「紅葉ちゃん、そんな過激派だったっけ?」
「ごちゃごちゃ言ってないで早くいくぞ。最速クリアしなくては、結愛さんに負けたことになる」
「うちの姉さんと何かあったのかよ」
受付に行く前に、俺たちは先ほど手に入れたアプリを起動してみた。
そこには、ゲームのログインと同じ項目を入力する画面が表れ、その入力を終えると、特定の施設にアクセスしてくださいというメッセージが表れた。
「なんでこんなに不親切なんだ? メッセージ少なすぎるだろ」
ぶつくさ文句を言ってる割に、素直に従っているところがなんとも渉らしい。
「いらっしゃいませ、こんにちは。こちらは、次世代型総合遊戯施設ANOTHERの受付となっております。会員利用のお客様でしたら、奥の自動利用予約機をご利用ください。それ以外のお客様は、このまま有人受付にお進み下さい」
音声案内付きのゲートを越え、有人受付に進む。
最近の施設は有人受付なんて減ったものだが、ここは割と多くの有人窓口があった。
「いらっしゃいませ。御用件をお教えください」
映画館の券売所のように、ガラス越しに担当のお姉さんに話しかける。
俺はこういうとき、グループで来て青春を楽しんでいる高校生のように見られるのが、何か恥ずかしくて嫌いだ。
先頭を歩いていた渉が、先ほどの画面になったスマートフォンを差し出して尋ねる。
「すみません。これについて何か知っていますか?」
お姉さんは画面を軽く確認すると、にこやかに言った。
「なるほど。テストプレイの協力者の皆さんですね! このプロジェクト、なかなか面白いと思うので、ぜひ楽しんでください!」
そういうとお姉さんは全員の端末を回収して、何かのコードを読み込ませて、俺たちに返した。
返された端末の画面には、QRコードが浮かんでいた。
「これでこの施設の登録が完了しました。実際にプレイする場所は、一つ上のフロアの第一競技室です。入り口で、全員の端末の画面のコードを読み込ませればゲームをプレイすることができます。今回はテスターということで、料金はかかりませんので、思う存分、満喫していってください。それでは、いってらっしゃいませ!」
明るくて人当たりのいいお姉さんのおかげで、少し、これから始まるゲームとやらが楽しみになってきた。
エレベーターが遠かったので、エスカレーターで上の階に移動することにした。
すると、移動の途中に、それなりに激しい掛け声や音楽、熱気のようなものが伝わってきた。
「なんか、白熱してるみたいですね」
「やっぱり人気なんでしょうね」
「絶対、チームスポーツやってるところあるぞ。そんなに広い空間があるのか?」
「フロアぶち抜きとかならできそうだけどな。このビル、それなりに広い商業施設だし」
期待が俺たちの会話も後押ししているように思う。
一つ上のフロアは本当にほとんどの空間をぶち抜きで使っているようだった。
競技室と書かれた個室の入り口がずらっと並んでいる。
中には、壁が網目のようになっていて、中の様子がわかるものも見受けられたが、そうでないものは、本当にカラオケボックスの入り口のようである。
俺たちは目当ての個室を探してうろつき、フロアの奥の方にその部屋を見つけた。
奥行きが割とありそうなので、おそらく大きな部屋なのだろう。
個室の扉の前に、コードリーダーのようなものがある。
利用客はみんなカードキーのようなものを持っていたから、それをかざして通常は入るのだろう。
俺たちはそのようなものはもらっていないため、先ほど説明されたように、スマートフォンに表示されたQRコードをかざした。
「“3Dボスバトルアクション”のテストモードを認証しました。対象者にメッセージを送信いたします。入室してお待ちください」
「うぉ、いきなりしゃべった」
「音声案内よ。こんなことで驚かないでよね」
いや、予想してないところで案内が鳴ったらびっくりするだろうよ。
心の中で蓑田に文句を言いながら、俺は扉を開けて中に入った。
どうやらこの扉、一人ずつしか通れないようで、続けて入ろうとした蓑田はブザーを鳴らされ赤面していた。
ざまあみろ。
入ってすぐのところに下駄箱のようなものがあり、段差の先のマットレスには『お履き物を脱いでお入りください』という注意書きがなされていた。
外の施設で靴を脱ぐという経験はなかなかしない。
驚きつつも、靴を脱いで中に入ると、踏みしめた地面の感触でその理由がわかった。
「不思議な感触だ。転んでも痛くはなさそうだが、それなりに硬い……」
おそらく、デリケートな素材なのだろう。
傷つけないために俺たちは靴を脱がなければならなかったというわけだ。
「へぇ、中は割と広いのね」
遅れて入ってきた蓑田が感想をこぼす。
蓑田の言う通り、小さな体育館くらいの床面積があるようだ。
高さはビルの中であるためにそこまで無いようだが、高校生の俺たちが動き回るにも十分なスペースがあるといえるだろう。
「私で最後ですよーっと。おー、すごいですねぇ」
渉はいつの間に入ってきたのだろう。
紅葉ちゃんの声に振り向くと、スマートフォンとにらめっこをしている渉の姿があった。
「渉、どうした?」
「いや、メッセージを読んでるだけだ。次の指示が出ているだろうからな」
「あ、そういえばそうだった」
「なんて書いてあるのよ」
「備え付けのARヘッドセットを着用して、本メッセージに表示されているコードを入力してください、だとよ」
「ARヘッドセットなんてどこに?」
「あ、センパイ、これじゃないですか?」
紅葉ちゃんが指さしていたのは、下駄箱の上にあるロッカーのようなものだった。
その一つを開けた中に、確かに黒のヘッドセットらしきものが見えた。
「で、見つけたはいいけど、これの操作ってどうするんだろうな」
「大体のものは付けたらわかるようになってるだろう。これは専用のグローブもあるみたいだし、それと連動するんじゃないか?」
手探り状態の俺たちだったが、何とか、コードの入力画面にたどり着くことができた。
ちなみに、コードを入力しない場合は、メニュー画面にあるいくつかの選択肢の中から好きなAR機能を使って遊ぶことができるらしい。
コードを入力し終わると、ARの視界内に、OLAで見たのとほとんど同じシステムメッセージが表示された。
「全員が同期するまでお待ちください、か」
「センパイたち早いです! ちょっと待ってください!」
「紅葉、変なとこでアピールしなくていいのよ」
「何をどうアピールしてるように思うんですか! アイドルがみんなモテようと理想の女の子を演じていると思わないでください! できました!」
「そういう反応がかわいいから好きよ」
「私は悠花センパイの意地悪なところは直した方がいいと思います!」
この二人、何かで一緒だとかで仲がいいんだったな。
何だったかは忘れたが。
紅葉ちゃんの動機が終わったからか、しばらくロード画面だった視界に変化が訪れた。
――――――――――
“3Dボスバトルアクション”にようこそ。
本ステージはチュートリアルとなっております。
基本動作はOLA製品版とほとんど変わりませんので、チュートリアルの中で試してみてください。
ただし、お客様のアバターデータをすべて反映することはできません。
なお、今回はテストプレイヤーとして実験に協力していただくため、データの収集を行います。
テストプレイ後のアンケートにもお答えください。
それでは、注意事項に同意していただける方は、同意ボタンを押してください。
全員の同期が完了次第、ゲームをスタートします。
――――――――――
よくわからないが、基本はOLAをやっているのと変わらないらしい。
注意事項にも大したことは書いてなかった。
自分のデータをとられるのも別に問題ない。
さっさと同意を押し、全員の同期を待つ。
「ねえ、これってやっぱり、この状態で、モンスターとかと戦ったりするのかしら」
「十中八九そうだろう。ただ、ゲーム本体のアバターの能力を反映できるかは怪しいところだな」
「そうですよね。私、ゲーム内では早く動けますけど、現実でそんなことできないです」
「ま、やってみればわかるんじゃないか? ほら、同期がそろそろ終わるみたいだぞ」
視界に新たなメッセージが表示された。
「『ミッション1、“陸ペンギン”を掃討せよ』?」
「初期の敵……」
苦い思い出がよみがえる。
「さて、どうなることやら……」
カウントダウンが始まり、俺たちの声はいつの間にか静かになっていった。




