93.ゲーム
脇道にそれている感覚があると思いますが、お許しください。
よろしくお願いします。
土曜日の朝、なんとなく幸せな気持ちになるのはすべての公立高校の生徒の共通項だろう。
今日、みんなでログインすると決めている時間は18時。
ゲーム内時間で一日たっても、そこまで深い時間にならないようにするために考えた結果、この時間になった。
朝方は暇であるため、どこかに遊びに行こうかとも思ったが、携帯をふと確認すると、蓑田からメールが入っていた。
「昼間に作戦会議?」
そう。
内容は昼間に作戦会議を行うから、駅の近くのカフェに来いということであった。
何の会議なのかは、想像に難くない。
今日の“幻界の入り口”攻略のことだろう。
事前情報は仕入れようと努力しているが、どうしても難易度の高さゆえに確かな情報が全く見当たらない。
そこで情報を持ち寄って対策を考えようということだ。
確かにそれは大切なことだと思うが、土曜の午前にわざわざ駅前まで行こうなんていうアクティブな考えに俺は至らない。
「ネット上でやろう……っと、送信」
ふぅ、と一息をついて、携帯をベッドの上に放り出す。
「さて、とりあえず、ゴロゴロしようか」
布団から起き上がらず、漫画を手に取る。
最近、ネットに浸ってばかりで紙の漫画を読んだのなんて久しぶりな気がする。
たまには三次元にも触れないとな。
「なんて、思ってみるけど、VRなんて三次元とそう変わらないし。まず、脳の感覚に直接つながってる状態でゲームをプレイしているなら、目に影響とかも特にないのかな……っと」
ピンポンと家のチャイムが鳴った。
姉さんはいないし、両親も今日は家に帰ってこない。
俺一人なわけだが、正直、二階から降りてかけていくのは面倒だ。
うちのマンションには宅配ボックスがあるから、外のインターフォンで返事をしなくても迷惑にはならないだろう。
とりあえず、ここでは無視を決め込むことにしよう。
ピンポン。
ピンポン。
なぜか、チャイムが鳴りやまない。
いやな予感を感じて携帯を見ると、メッセージが大量にバナーに表示されていた。
それらを一つずつ開いて見ようとした瞬間、電話がかかってきた。
案の定である。
「蓑田か……」
ということは今チャイムを鳴らしているのもあいつだということだ。
あいつは俺が家にいることも知っている。
出ていかないと面倒なことが待っているのははっきりしている。
「しょうがないか……」
俺はインターフォンのところまで降りていった。
通話ボタンを押し、解錠する。
「早く開けなさいよ! このバカ!」
「うるっさ」
インターフォンのマイクから聞こえてくるバカでかい声に耳をふさぐ。
「そもそも、どっかのカフェとか言ってなかったか?」
外の方がにわかに騒がしくなったと思うと、玄関のインターフォンを鳴らす音がした。
ドアもひたすらにドンドンとたたかれている。
うるさい。
なんでこんなに作戦会議に熱をあげているんだ。
確かに強敵と戦うことになるんだろうが、わざわざリアルで集まるなんてしたこともない。
今回はどういう風の吹き回しでそんなことをしようだなんて考えたのだろう。
「おそい!」
俺が玄関に行くと蓑田に大声で叱られた。
面食らって一瞬動きが固まってしまった。
落ち着いてみると、うちに来ていたのは蓑田だけではない。
紅葉ちゃんや渉の姿もある。
「本当は詩乃さんも来るって言ってたんだけど、なんか用事があって難しいらしいんですよね」
紅葉ちゃんが、蓑田に続いてさらりと入ってくる。
「いや、お前ら、そんな簡単に入ってくるなよ」
「いいじゃないの。元はといえばあんたが無視したからでしょ?」
我が物顔で俺の家のリビングに入り、ソファーに腰掛ける蓑田は慣れた様子である。
「無視って、お前、急に作戦会議だのなんだの……どうしてそんなことに。さすがに俺が面倒だと思うのもわかるだろ」
「知らないわよ。あんたがどんな生活してるのかなんて。今回は本気でやりたいのよ」
「なんでそんなにも……」
「もう! センパイもグダグダ言ってないで、協力してあげてくださいよ! 理由なんてなんだっていいじゃないですかー」
紅葉ちゃんがなぜだかやけに蓑田の肩を持つ。
俺はわめく二人の言葉を流しながら、リビングの椅子に座った。
渉は蓑田よりも素知らぬ顔をして冷蔵庫の中を漁っている。
とんだ幼馴染だ。
「なんも食べられそうなものないな」
「人の家に来てそんなこと言うんじゃないよ」
「いいじゃねえか。俺とお前の仲だろ?」
「便利な言葉みたいに使うなよ。姉さんのものがあったらどうするんだよ。あの人が怒ると怖いのはお前も知ってるだろ」
すると、蓑田の方から反応があった。
「その、あなたのお姉さんから連絡があったのよ。今回は情報まではあげるから頑張ってねって」
「なんでそんなこと蓑田に……」
「知らないわよ。私が“天限武装”を手に入れたいのは本当だし、ちゃんとみんなで集まらないと情報をくれないっていうから、今日は集まったんだし」
「姉さんも迷惑なことを……」
突然蓑田が変なことを言い出した理由はわかった。
でもなぜ姉さんがこれに絡んでくるのかがわからない。
確かに姉さんがOLAの開発に関わっているって話は、渉から聞いたんだよな。
そのあと直接聞いても、素直に認めてたし。
ただ、その時は今回の敵については何にも言ってなかった。
だからこそ、なぜリアルで集まる必要があったのかわからない。
何かあるなら先に言ってくれればいいのに。
「んで、ここに集まったらなんだっていうんだ。今日集まれるのは全員集まったんだろう?」
「そうね。結愛さんに連絡をしてみるわ」
そう言って蓑田が携帯をいじり始めると、紅葉ちゃんが俺の座っているテーブルの方に来た。
向かいの席に腰掛けながら、こう言う。
「センパイ。センパイは自分のオーブについてどう思ってますか?」
「なんだいきなり」
「どうしても気になってるんですよね。センパイのオーブは“天限武装”でないオーブの中では私のオーブレベルに規格外。私のは少し補正がかかっていてもしょうがないのだけれど、センパイのは何なんですか?」
「そんなこと言われてもな」
俺のに限らず、オーブというものは自動的に生成されるものだ。
何なんだと俺に聞かれても全く分からない。
しかし、自分のオーブの特異性はいろんなプレイヤーに指摘されてきた。
何か理由があってもおかしくはない。
だけど、やっぱり思いつく理由はないんだよな。
不意に、俺の携帯が鳴り始めた。
宛先を確認する。
「姉さんからだ」
「そっちに連絡来るのね。早く出なさいよ」
「言われなくてもそうするよ」
俺は応答ボタンを押して、スピーカーモードをオンにした。
「もしもーし! 聞こえてるー?」
「聞こえてるよ。それで、姉さんの要件は何?」
「つれないなぁ、弟のくせにー。もう少し楽しんだらいいじゃない、青春を」
「何言ってるんだ?」
「だってー、普通に冷たいんだもん」
なんでこんなだるい絡み方してくるんだ。
姉さんの考えてることはよくわからん。
「結愛お姉さん、初めまして。中元紅葉って言います。ゲームの中では何度かお会いしたことありますよね。今日は、ありがとうございます」
「おー。紅葉ちゃん! こちらこそありがとうねー。私の計画を手伝ってくれて!」
「いいんですよー。結構楽しみにしてたんで!」
なぜ、この二人が盛り上がっているのだろうか。
「結愛さん、私の知らないところで何をしてるんですか! 作戦会議は!?」
「ごめんねー、悠花ちゃん。あなたは真面目だから、今日の話をしたら来てくれないとおもってさ、ちょっと嘘ついちゃった」
「そんな! ひどいです!」
「ごめんねって、そう怒らないでよ。悪いようにはしないからさ」
フフフと笑う姉さんの声がいつになく楽しそうにしている。
あわせて紅葉ちゃんまでいたずらを成功させたような顔をしているのが気になる。
「どういうことだよ、姉さん。何を企んでる?」
「企むななんてそんな悪役みたいなことしないよー。今日はちょっと、OLA開発部からリアルに波及する新しいゲームの実験台になってほしいと思ってね」
「実験台?」
「結愛さん、俺は面白いゲームじゃなかったら許さないですよ?」
渉がいつになく強気である。
姉さんと直に会ってるときは結構ビビってるのに。
「あははー、ゲーマーの渉君にはリアルでのゲームなんて物足りないかなあ? 一応、それなりの難易度に設定してあるし、初めての挑戦者は君たちになるから、結構レアな経験だと思うんだけど」
ピクリと反応した渉は、少し硬い顔をして短く息を吐いた。
「はいはい、参加しますよ」
「わかってくれればよろしい」
「姉さん、どういうこと。とりあえず、何のためにここに集まったのか、ちゃんと教えてほしいんだけど」
「そうですよ、結愛さん。私たちに一体何をさせようって言うんですか?」
騙されて、というか、真実を知らずにここに来た人間である俺と蓑田をそろそろこの疎外感から解放してほしい。
「しょうがないわね。もうちょっと楽しみたかったのだけど、これ以上こんなことしてても時間の無駄よね」
急に、俺の携帯が震えた。
電話を切らずに確認するとメッセージが一件入っている。
「今みんなにメッセージが送られたわ。それはね、OLAとリンクする新しいアプリよ」
「なんだそれ」
「今はやっぱりスマートフォンアプリの再燃が来てるからそれに乗っからない手はないってことで、開発してみたの」
「で、これがリアルでゲームするのにどんな影響があるって言うんだ?」
渉の問いにますます機嫌を良くした姉さんが答える。
「ふふーん、一昔前に流行ったAR娯楽施設あるでしょ? あれとコラボレーションしてみたのよ。最近はコンパクトな施設も出てきて、いろんなコラボで地味にブームになって数も増えてる。で、OLAと組み合わせてみました!」
「つまり、どういうこと?」
「今から、みんなには、このマップに示された施設に行ってもらいます。そこで、このアプリを見せたら、特別なAR空間で遊ばせてくれる。一か所目に行ったら、私たちがやってほしいことがわかると思うな」
つまり、どこかの施設にみんなで行って、ARのゲームをやればいいってことだ。
とりあえずは、そういう理解であっているだろう。
「でも、私たちは、夜にはボス戦を……」
「大丈夫、間に合うから! ね、とりあえずやってみてよ。悪いようにはしないから!」
姉さんの圧はとても強く、せっかく集まって何もしないというわけにもいかない。
姉とはすさまじい存在である。
俺たちはどうしてもこの謎のゲームから逃れることはできないみたいだ。




