91.踊り踊らせ
早めにできましたね
よろしくお願いします
「“召喚型”! 〈囁き拾いの大悪魔〉!」
コータが恥ずかしさを振り払うように、オーブを使った。
いつものように黒炎が舞い、イケオジ悪魔のカイムが姿を現す。
彼はいつものように、クールな表情で凛と立っていた。
「お呼びでしょうか?」
「見ればわかるだろ」
コータとカイムのやり取りはいつも通りだ。
淡白なコータに対して、カイムは恭しく返事をする。
「敵の大群でございますね。これをどういたしましょうか?」
「決まってんだろ。殲滅だ」
「見たところ片手間では倒せそうにありませんが?」
「それでもやるんだよ、うるせえな。感じるだろ。悪魔の気配」
「そうですね……」
カイムはあごに手を当てて、薄目で見るように雪原を見渡した。
仮面のヒト型モンスターの群れは、ひっきりなしにこちらに向かってくる。
倒しても、倒しても、数は減りそうにない。
やはり、原因であるあいつをどうにかしないといけないのは確かなようだ。
カイムが何かを見定めている間に、雪原のどこかから奴の声がこだました。
「おーい、さっきまでの勢いはどうしたのかなぁ? 僕は結構わくわくして待ってるんだけどなぁ。同じ“大悪魔シリーズ”の使い手として、どうやって殺そうかなって、楽しみにしてるのにー。どうしたのー? あきらめちゃった?」
煽るなよ。
コータのムカつき度合いが上がってるから。
「おい。カイム。何かわかったんだろうな?」
コータの声のトーンが低い。
しかし、カイムはいつも通りの冷静な口調で返す。
「はい。もちろん。彼も言っていましたが、確実にこのオーブは“大悪魔シリーズ”ですよ。それも、同じく二段階強化までされていますね」
「やっぱりそうか。このいやらしい感じはそうだと思ったんだよ」
「我らがいやらしいとは心外ですね」
「どう考えてもいやらしい攻撃しかしないだろ」
「他の悪魔はそうとも限りませんよ? まあ、私や、この仮面の悪魔はそうなのでしょうが」
そこまで言って、カイムは近づいてきたヒト型仮面モンスターの仮面を一つ剥いだ。
「これは、彼らのオーブの能力を発揮するための媒介。いわば、アンテナのようなものです。この仮面がついていれば、どんなものでも、みな一様のモンスターに変化する」
カイムの言う通り、仮面を剝がれた後に残っていたのは、絶命した低ランクモンスターの死体であった。
「なるほど。道具を介して死者をモンスターに変えているって感じか。カゲツのオーブと少し似ているな」
正直、こんな得体のしれない能力と一緒にしないでほしい。
「そうかもしれません。この能力のメリットは、一様の能力を持った兵士を際限なく生み出すことができるという所でしょう」
「一人で戦争できるってことだな。凄まじい」
二人の分析を聞きながら、俺たちの動きは仮面ねらいに洗練されていった。
量が多くて二人にお礼を言う余裕もないが。
というか、この状況で悠長に話している二人もどうかと思うが。
「あはは! 素晴らしい! 随分と分析能力が高いようだね! それに、チームワークもいい。これだけの大群でつぶそうとしても簡単にはいかないなんて。さすが、あの地に向かおうとする人たちだ!」
またも奴の声がする。
いい加減、イラついてくるから、早くなんとかしてもらいたい。
「黙ってろ。お前の単純な能力じゃ、どうせ俺たちには勝てないからな」
「ふん、戯言だね。キマリスの能力で本体を見つけられた人はいないよ」
「バカだな。世界には、相性ってものがあるんだよ。カイム、第一でいい。やれ」
「承知しました」
カイムがいつものように、黒い炎を漂わせ始めた。
「悪魔のささやきを聞きなさい」
一瞬で、黒い炎は霧のようになり、敵全体に広がっていく。
カイムに近いところのモンスターから順々に、異常行動をとりはじめ、混乱状態になったのがシステム画面上でも確認できた。
「広範囲の全体混乱技か。ふーん、なかなか優秀そうな技だね。でも……」
しかし、相手のピレは極めて落ち着いた声で言う。
「僕のオーブの支配力には、勝てるわけがないんだよ」
その声が聞こえてきた次の瞬間、システム画面から混乱のステータス異常が無くなっていった。
「さすが。かなり強力なオーブだね。コータ君、大丈夫かい?」
イェルカさんがサッと口を挟む。
コータがニヤリと笑って答えた。
「問題ない。知りたい情報は知れた」
「何がわかったって言うのかなぁ? 何にもできてないと思うんだけどなあ」
ピレが煽ってくる。
しかし、今度のコータは全く動じていなかった。
むしろ、先ほどの笑いを崩さずに言う。
「気づかないのか? 俺のオーブはモンスターにしか効果がないんだよ」
「そんなのは、お前のオーブが弱いだけだろ?」
コータの身体の向きが変わる。
ちょうど、ユーカが相手をしている大群の方向を正面にして、コータは言った。
「お前、実はそんなに頭良くないだろ。強い力持ってても、周りに適応できないから、こういう役回りになってるんだって、ホントは理解してるんだろ?」
「なっ、そんなことはない! 僕は強くて、頭もいいから【八獄】にいるんだ!」
「そうか。じゃあ、その頭の残念さを自覚させてやろう。ユーカ! そのまま前方に全力の一撃を放て!」
「えっ、いいの?」
「いいから!」
「命令口調なんとかならないのかしら! 〈女王の乱獅子:剛毅万衝〉!!!!」
ユーカの戦闘斧が最大限に巨大化する。
その影が地面に落ちて衝撃が予想された瞬間、ピレの声が聞こえてきた。
「なんだ!? どうして!?」
直後、あたりに強い衝撃がやってくる。
さすが、このチームで一番の火力の持ち主である。
しかし、なぜピレの声がしたのだろう。
確かにかなりの敵を一掃することに成功したが、能力的にはそう焦ることでもないだろうに。
「どうした? そこまで慌てる必要もないだろ? 強い能力なんだからな」
「くっ、なんでわかった?」
「何の話だよ? 自慢の頭で考えな」
コータが悪い顔をしている。
イェルカさんは何かわかったような顔をして、人が悪いなあとつぶやく。
俺たちにはよく状況がわからない。
だが、二人がわかっているというなら、俺たちの優勢になることは確かだろう。
「カイム! 今のうちにもう一度やっとけ」
「承知しております」
カイムがまたも能力を発現する。
「悪魔のささやきを聞きなさい」
敵のモンスターの間に混乱の状態が広がっていく。
「今のうちになるべく多くたたいておこう! ユーカちゃんはコスト温存してね」
「了解!」
全員の声が揃う。
「うざいなぁもう! 効かないって言ってんだろ!」
ピレが俺たちの動いた直後に、またも能力を使ったらしい。
混乱がシステム画面から消えていく。
このとき、俺たちもわかった。
ピレは確かに、そこまで頭のよくないプレイヤーなのだろう。
ただ、これができるのはコータのオーブがあるからこそだ。
「これでまた振り出しだ! お前ら、絶対に許さないからな!」
「子どもか、お前は。もっと頭を使えよ」
コータがあきれたような声を出す。
「バカにしやがって! 後悔させてやる!」
ふと、そこへ、別の声が割り込んできた。
「ピレ、そこまでだ。君の作戦は失敗するだろう」
カイムがそれに反応する。
「おや、ようやっと出てきたようですね。キマリス、でしたっけ? なかなかに愉快なご主人を得たようじゃないですか」
「なんだと!」
「まあまあ、落ち着け。カイムという悪魔は口がうまいので有名だから」
「おやおや、これはありがたい評価ですね。私のささやきをそこまで評価してくださるなんて」
カイムの大業なもの言いに若干仮面のモンスターの攻撃が苛烈になったように感じる。
「全く、平然とそんなことを言うなんて。よくもまあ、そこまで無表情でいられるな」
「おや、ついに動く気になりましたか。そりゃあ、な!」
ガキン、とコータのサーベルが仮面のモンスターの攻撃とかち合った。
「おお、来たか。本体」
「そのようです」
「しょうがないだろう。場所割れてんだから」
「なに!?」
ピレの声だけが驚きを含んでいたことに、苦笑いがこみ上げる。
本当にあんまり頭を使えないんだな。
「どうして行くのかと思ったら、そんな理由が」
「最初の時点で気づけるだろう。混乱、モンスターにしか効かないんなら、俺たちみたいなAIやプレイヤーは状態異常にならない。なら、混乱しなかった個体が本体だろうが」
「そ、それもそうだな……」
一体の仮面付きモンスターから二つの声がするのは何とも言えない違和感だった。
だが、先ほどの動きを見る限り、この個体だけやはり地力が違うのだろう。
本体だという確信が得られた。
「キマリス。残念だったな、主人が無能で」
「いやいや、俺の能力は強力だからな。無能でも使えるんだ。誰でもいい。それに、お前たちみたいなやつらと当たらなければ、まず勝てただろうよ」
「お前たち、僕のことをバカにしすぎじゃないか!?」
ピレが怒っていることが、声や動きから伝わってくる。
しかし、向き合うコータは一歩も退かず、むしろ余裕の表情だ。
「くそっ! こいつ! すばしっこい!」
「お前の剣がお粗末なんだよ。物量戦は得意なのかもしれねえが、タイマンは苦手らしいな」
「いや、普通にお前のレベルが高いな。【職業】もいいのを持ってそうだ」
「キマリス。お前本当に使えそうだな。俺が拾ってやったらもっとうまく使ってやれるのにな」
「そいつは残念だ。だが、俺はそこの悪魔みたいに楽してるよりは、逆境にいる方が好きなんでな」
「おや、さぼりがバレましたかね」
カイムが楽しそうに笑う。
コータが笑みを返した。
「お前に戦う力なんてないだろ。すっこんでろ」
「おっしゃる通り。私は低ランクモンスターにも勝てませんので」
カイムが黒い炎に包まれてスッと消える。
コータが、サーベルを振りかぶった。
「“戦火の剣”!」
「ぐっ……!」
オーラを纏ったサーベルを真正面から受けた本体の二人は、オーラで伸びた切っ先を胴体に食らい、大きく後ろに吹き飛んだ。
「終わらせてやるよ」
コータが追撃に走る。
「さすがにそれは許せないな」
キマリスの声がしたと思うと、コータの前には大量の仮面のモンスターが進み出てきた。
「ちっ、逃げんのか!」
「逃げるさ。俺は悪魔なんでね」
「覚えてろ!」
ピレの残念なセリフが聞こえた。
その次の瞬間、俺たちの周囲は紫の光に包まれ、あちこちで爆発音がし始めた。
「早く、みんな私の後ろに!」
クーレの声と、マップの感覚を頼りに言う通りにする。
「“ふわふわ!やわらか!低反発!”〈無限くっしょん〉!!!」
俺たちの周りで大きな爆発音がしたのがわかる。
クーレの防御オーブはやはり伊達ではない。
雪原から粉塵が消えたころには、俺たち以外の人影は一切なかった。




