90.仮面
OLAの更新、滞ってしまい申し訳ありませんでした……!
この先は早めに行けるはずなので、よろしくお願いします!
説明を聞いた俺たちは、“鬼の灯台”の東、“幻界の入り口”に向けて歩を進めていた。
説明を終えたトロンさんは当然おらず、ガモウさんも送るほどは時間がないなどと言ったために、メンバーは元の6人に戻っていた。
「しかし、本当に脱出不可で一日使う試練って何なんだろうな」
「リアル時間でも、6時間くらいは拘束されるってことでしょ? 土日でなきゃ無理ね」
「明日が幸い土曜日だけどな」
「高校生組は大変だなあ」
イェルカさんが飄々と言った。
「兄さんはもうほとんど単位とったから暇なだけでしょ? タテハさんとかも忙しいわよ、きっと」
「あ、私もほとんどとらなきゃいけないのは終わってるから、土日くらい平気よ」
「大学の仕組みはよくわからないけど、タテハさんもイェルカさんもすごいんですね……」
クーレが二人の話に素直に感心している。
多分学部とか、学年とかによるとは思うけど、普通に暇を作れる人はいるって聞くしなあ。
これ以上はプライベートに突っ込めないかと思ったので閑話休題。
「そういえば、“幻界の入り口”のすぐ近くにリスポーン地点としてのミニ時計塔があるって言ってたけど、見つけられるんだろうか?」
「確かに、そのリスポーン地点がなかったらさすがにあんまりチャレンジする勇気がわかないわね」
「今日はまず、リスポーン地点を見つけて、そこでログアウトって形になるな」
「そうだね。ひとまず、灯台の光の方向に進まないと」
イェルカさんの見上げた先には、“鬼の灯台”から放たれているオレンジの光があった。
「あの先が“幻界の入り口”……。結構遠そうだよな、やっぱり」
「トロンさんは大体1時間くらいで着くって言ってたけど……」
タイガのように背の高い針葉樹林が生い茂っているこの一帯は、先ほどまでいた“鬼の灯台”の周りの山岳部とは植生が異なっていた。
山岳部と同じく、あまり敵性のモンスターが出てこなかったが、視界が悪いために移動しているときの警戒に気を遣う。
その分、少しだけ道中が長く感じた。
「結構歩いてきた気がするけど、あとどれくらいなのかしら。景色が全然変わらないから進んでるのかも怪しいし」
「でも、正しい方角に向かって歩いてるわけだからいつかは着くんじゃないの?」
プレイ時間もなかなか長くなってきて少し全員に疲れが出始めているようだ。
幸い雪は降っていないが、空は曇っている。
樹木の影が曇り空に加えて、少しどんよりとした空気を醸し出していた。
雪を踏みしめるザクとした音が、時折途切れる。
イェルカさんの指示で敵の気配を探るタイミングだ。
「少し、おかしいですね」
「確かに。少しずつ敵性反応が増えてるな。それなのに、襲ってこない」
「群れ系のモンスターならあり得るが……」
「群れ系特有のボスの反応がないな。ということは、この、プレイヤーの反応が怪しいか」
俺たちがマップの反応を確認し終えると、杉の木のオブジェクトの影から小柄な一人の男が出てきた。
「やーっぱり、さすがにばれちゃうよねぇ」
「何の用かな? 僕たちは、この先に行きたいだけなんだけど」
イェルカさんがいつものニコニコ顔で話しかけた。
なんか、黒いオーラが見えるけど。
相手の男は、美少年といって差し支えないような容姿のアバターだった。
白い髪に赤い目の美少年は、なんとなく怪しい雰囲気を醸し出している。
何を考えているのかわからない薄ら笑いを浮かべながら、彼は言った。
「僕たちとしてはそれが困るから止めに来たんだよね、インセルリーダーのイェルカさん?」
「へぇ……」
俺たちはそこに満ちる異様な雰囲気にのまれていた。
イェルカさんがにわかに笑みを消して、彼と対峙する。
「そう怖い顔をしないでくれよ、ちょっとだけ、我慢してくれればいいんだからさ」
「なんで僕たちがこの先に進んじゃいけないのかな?」
「んー、邪魔なんだよねぇ、僕たちにとって」
「僕たちってのはさっきからなんなんだ? ふざけてるならもう俺たちは行くぞ」
コータが噛みつく。
フフフと彼は笑った。
「もう少し面白いやり取りができると思ったんだけどなー、残念。ロールプレイみたいなのができるのが、この【職業】の一番の楽しみだっていうのに」
「へぇ? お前は【俳優】かなにかか?」
「そんなクソザコと同じくくりにしないでくれるかな? 僕は【幻影道化】。【八獄】の一人なんだから」
「なっ……!!」
こんなところに【八獄】がいるなんて考えもしなかった。
驚きが俺たちの中に駆け巡る。
「ってことは、プレイヤーキルが普通にできるってこと?」
「いや、そんなはずはない。彼らは公式のヴィランプレイヤーだが、運営の許可かイベントに関わる何かがない限り、プレイヤーキルもできないはずだ」
コータが動揺を隠すようにそう言うが、【幻影道化】の薄ら笑いは変わらない。
「君は物知りだね。過去に何か
あったのかな?」
「てめえ……」
「でも、残念。僕はイベントの関連でここにいるから、みーんな殺せちゃうんだよねえ」
「ちっ……」
コータの顔がゆがむ。
同時に、彼の発するオーラも変わった。
俺たちも、武器を構えて、心を決めた。
「最後に、一つ聞いてもいいかな?」
イェルカさんが話しかける。
「何かな?」
彼の雰囲気はもはや今までの彼ではなかった。
森の中から、カチャカチャと無機質な音が聞こえてくる。
「君の名前を教えてくれないか?」
「名前? 僕はピレ。もう会わないだろうけど、どうぞお見知りおきを」
そう言い終えて、彼はぺこりとお辞儀をする。
そして、顔を上げて、にやりと笑うと、ペンダントに手をかざした。
「来るぞ!」
「【仮面舞踏会の月夜】!」
ピレがそう言うと同時に、一体に紫の光が満ち溢れた。
突然のことに俺たちは驚く。
視界がほとんど奪われたものの、敵の接近には気づけた。
俺のハルバードと、何かの攻撃が交錯する。
「おら!」
紫の残照で視界が悪いが、押し戻した敵と対峙する。
だが、戻りつつある視界に俺は驚かずにいられなかった。
「なんだこの敵の量!? とてもじゃないが、普通にやってたら追い付かないぞ」
「何あの仮面……みんな同じ仮面をかぶってるなんて、気味が悪くてしょうがないわ」
「とにかく、数を減らすしかないだろ! 密集して、対面する敵を減らすぞ」
「わかった! でも、こいつら全員ヒト型なのに、気持ち悪い動きとかしすぎなんですけど!」
俺たちの前にいたのは、仮面をつけた人の群れ。
正確にはそのように見えるモンスターの大群であった。
本当にそれがモンスターなのかは正直わからない。
しかし、マップにはそのように表示されているし、俺たちが倒せるということはモンスターという認識で間違っていないのだろう。
人というには、あまりにも動きが尋常ではない。
それに、一体ずつがかなり強靭である。
これが、奴のオーブの力だというなら、相当に強い能力だ。
「クソっ! オーブなら、元凶であるあいつをたたくのが一番早いんだが……」
「本当にね。彼はどこに行ってしまったんだろう。つれないプレイヤーだ」
コータとイェルカさんが話しているように、【召喚型】のオーブの使い手と対峙したときは、本人をたたくのが定石とされている。
でも、その本人は先ほどの光に紛れて姿を暗ましてしまった。
「このまま戦い続けたらジリ貧よ。イェルカ君、なにか指示を」
タテハさんが、仮面の敵を殴り倒しながら、イェルカさんに言う。
俺たちは今のところ、誰もオーブを使わずに戦っている。
これは、前もって決めていたことだ。
黒硝を扱う奴らに通じる敵、もしくはそう疑われる敵が出てきたときには、こちらの手の内を極力明かさないように戦うようにしようという話である。
チームのリーダーであるイェルカさんが決断すると、オーブが解禁になるという約束だった。
「そうだね。ちょっと、これは厳しいな。適任は、多分、コータ君かカゲツ君なんだけど、カゲツ君は、ストックのモンスターがたまってないと厳しいよね」
その通り。
俺のオーブはあくまで倒したモンスターのネクロマンス的な能力しかない。
最近、強力なモンスターは何度か召喚することができることを知ったが、それにしたってコストがバカみたいにかかる。
今回はそこまで強力ではないモンスターを何体も召喚する方が、有効だろうが、俺のストックにはそんなモンスターはいない。
「そうですね。今は全然ストックが足りません」
「じゃあ、コータ君」
「いいっすよ。俺はいつでもいける。それに、このモンスターの大群を生み出す能力……アの光からして、同種のにおいがするので、俺がやる」
「わかった。頼んだよ」
コータは少し眼光を鋭くして、自分の指輪をもてあそんだ。
そして、大きな声で平原に叫ぶ。
「おい! どこにいるんだか知らねえが、勝負をしようじゃねえか! 俺のオーブと、お前のオーブは、どうやら戦う運命にありそうだからな」
コータが、指輪に手をかざす。
仮面の群れから、声がした。
「運命なんて、バカみたいなこと言ってるおこちゃまには、負けないと思うよー」
クスクスという笑い声が、あたり一帯に響いた。
コータの顔がゆがんだのが見える。
あれは、きっと……。
「ぶっとばす!」
「あーおこちゃまだからなあ、コータ、何気に」
ユーカがこぼす。
そう、久しぶりに見る、コータの恥ずかしがっている顔がそこにあった。
「恥ずかしがるコー君もいいなあ」
小声で盲目の恋をしている人が何かつぶやいたが、俺は気にしないことにした。
恐ろしや、恋愛パワー。




