89.鬼の灯台
ギリギリ間に合いました!
よろしくお願いします!
今日は後書きありますので、見てくださいませ。
雪の舞う上空は真っ白でほとんど何も見えない。
その上、ゲーム内にも関わらず、目の覚めるような寒さを感じた。
「すごいだろう? 竜という生き物はこの状況でも、すべてのものが見えている。俺たちに見えるのは、せいぜい灯台の灯りだけだよ」
トロンさんの言う通り、俺たちの目にはっきりと映っていたのは、目指している灯台の灯りくらいで、下の集落の橙色のあたたかな光はもはやぼんやりとしてよく見えない。
前を行くトロンさんの竜がわずかに高度を上げた。
俺たちが乗ったり掴まったりしているガモウさんも、それに合わせて高度を上げる。
「灯台の上に竜が着陸できる場所がある! とりあえずはそこで落ち合おう! 俺は先に行って少し準備をしてくる」
トロンさんはそう言い残して、竜の手綱を引いた。
途端、驚くほどの速さでトロンさんを乗せた竜は加速し、雲を突き抜けていった。
「すげーだろ。あの竜はな、討伐難易度が竜帝よりも上かもしれないっていう“銀翼竜”って竜なんだ。馬みたいに乗り物で済むようなモンスターじゃねえんだよ、本当は」
「竜帝よりも討伐難易度が高いってどういうこと?」
「簡単だ。珍しいんだよ、しかも、あの速さだ。捉え切れるプレイヤーは少ない」
「討伐難易度は強さだけじゃないからな。確かにそう言われると、逃げられそうだ」
コータたちが“銀翼竜”の姿を前にこんな会話をしていると、遠いと思っていた灯台の輪郭が見えてきた。
山に灯台があるとはなんとも奇妙な感じがするが、ここはゲームの世界。
なんらかの理由があるのだろうと、灯台を観察する目に力を入れる。
遠目からはシルエットしかわからなかったが、近づいてみると、若干角ばったデザインの灯台がはっきりと見えた。
雪に覆われた世界で少しでも目立つためか、はたまた一応和の世界に合わせるためか、灯台はあたたかな印象の茶色の樹木でできている。
遠方から見た穏やかな光の目印は、近くで見ると煌々としていて、まるで燃え盛る炎のようだった。
よく見ると、この光は東の方向に強く発せられているようだ。
こうしてみると、山中の灯台というのも普通にありそうなものに思えてくるから不思議だ。
「見て、灯台の屋上。誰かが手を振ってるね
「トロンさんだな、多分。背中の大剣が見える」
「よし、そろそろ高度を上げるか。今までとは大勢が変わるから振り落とされないように気をつけろよ?」
そういって、ガモウさんが変身した竜はほとんど水平線に垂直になって、高度を上昇させた。
雲の上に飛び出るのではないかという感覚。
遊園地の絶叫アトラクションに乗っているとき並みの重力が俺たちにもかかる。
「ねえ! これ、落ちない!?」
「大丈夫だ! ここの着陸には慣れてるんでな!」
「ならいいんだけどぉぉぉぉっ!?」
キャーという悲鳴が女の子たちから上がったのは無理もないことだろう。
ガモウさんの身体は重力にほとんど逆らうことなく、ただ、角度だけを整えてものすごいスピードで落ちていく。
「なんでこんな方法で行かなきゃいけないのよ!!」
「いろいろ事情ってもんがあるんだ、しっかりと掴まってやがれ!!」
スピニーさんの悲鳴はびっくりするほど大きく響いていた。
しかし、俺はちゃっかりとコータの腕を掴んでいたことを目撃した。
侮りがたし。
俺の周りも怖がってはいた。
だが、俺の方には来ず、鉄壁の女ユーカにタテハさんもクーレもしがみつき、イェルカさんはいつもの通りニコニコしながら前を見据えていた。
俺は地蔵の心持ちで前を向く。
上空から見えていた灯台が結構近づいてきたときに、きらりと何かが光った気がした。
しかし、それを確認する前に、ガモウさんの体勢がまた変わってしまったために確認することはできなかった。
「ちょっと! 今度は何よ!」
またスピニーさんが声を上げた。
しかし、その声には先ほどまでの元気はない。
ガモウさんがどことなく楽しげに答えた。
「ついたんだよ。“鬼の灯台”に」
タイミングを見計らってか、灯台の先端部が開いて、平らなヘリポートのようになった。
「おーい、こっちだ! 外は冷える! 中で話をしよう!」
その平たい屋上に立ち、こちらに手を振っているのはトロンさんだろう。
俺たちは無事に着陸したガモウさんから降り、トロンさんに導かれるままに灯台の内部へと進んだ。
灯台の内装はあるのかないのかわからないようなもので、ほとんどががらんどうであった。
骨組みが半ばむき出しになっている塔は、らせん階段が下から三分の一程度の高さまで続いていた。
階段は最後、小屋のような部屋の中で終わる。
「ここが俺の暮らしている部屋だよ。天井が高いから俺の大剣もしまわなくて済む」
部屋の中にはベッドのようなオブジェクトと作業机のようなものが無造作に置かれているだけだった。
壁にはたくさんの道具がかかっているがほとんどは使わないものだそうで、ここにもとからあるんだとか。
木製の折り畳み椅子に座った俺たちは、トロンさんの言葉を待った。
「とりあえず、みんなにはここに来てもらったんだけど、実は裏から課せられてた使命があるんだよ」
トロンさんはそう言いながら、古びた地図を取り出した。
「これはこのあたりの昔の地図として、俺に託されたアイテムなんだ」
トロンさんの手にはよれよれの紙に、にじんだインクで三ヶ所の土地が殴り書きのようにされ、うち一ヶ所については周りに細かく注意書きがなされていた。
正直、字が潰れていたため、全くと言っていいほど読むことができなかったが、土地の名前だけはかろうじて読むことができた。
「“キョウゴク”……“鬼の灯台”……これって今と同じ名前なのね」
「そりゃそうだ。ゲームにそこまでのリアリティは求めないよ」
「問題なのは、この三番目。“幻界の入り口”……か? これだけ異常に注意書きがなされていると近寄りたくなくなるよな」
トロンさんが苦笑いした。
「ここがなあ、厄介なんだよ」
“幻界の入り口”と書かれた部分を指して言う。
すると、スピニーさんから反応があった。
「私、これ知ってる……。この、“幻界の入り口”ってダンジョンでしょ? しかも、かなり難易度の高い」
「お、その通りだよ。ここには、ある理由から封印されているモンスターがいたり、ある試練を行う場所となっていたり、色んな理由で難易度を上げざるを得ないダンジョンなんだよね」
コータの顔が急に真剣なものに変わる。
「それって……」
「王なる悪魔“バアル”だよ。あそこには奴がいる」
「“バアル”……!」
コータの様子が少し変わった。
トロンさんはそれを横目で見ながら明るく話題を変える。
「まあ、今回、そっちはあんまり関係無くて、君たちに教えるように頼まれたのは試練の話なんだよね」
頼まれた?
その言い方が気になったが、トロンさんの話は止まらない。
「君たちは、“海竜帝”を通常レイドよりも少ない人数で倒した。これは、ある条件を満たしたことになるんだ」
「条件?」
「そう。俺は、その条件を満たしたプレイヤーにこの先のことを教える役割をさせられてるんだよね」
そういってトロンさんが取り出したのは、俺たちが討伐の証にもらったアイテムたちだった。
「こういうアイテムは名前にもあるように、次のステージへの鍵なんだ。当然、次のステージっていうのは“天限武装”」
「“天限武装”……」
なぜか、この話になってから、コータとスピニーさんは黙り始めた。
イェルカさんは変わらずに終始ニコニコしている。
「“天限武装”っていうのは、オーブの一番上位の状態。まあ、それは多分みんな知ってると思うけど、大事なのはその獲得の仕方なんだ」
「トロンさんは竜を殺して手に入れたってことを聞いたんですけど……」
ユーカが遠慮がちに聞いた。
「そうだね。俺の場合は、単独での“光竜帝”撃破だったから、試練もなくオーブがアップグレードされたんだけど……君たちは“海竜帝”を複数人で討伐した。まあ、ほとんどの場合は複数人撃破なんだけどね」
トロンさんはユーカに向き直った。
「でも、オーブをアップグレードできるのは一人なんだ。このメンバーだと、君だけ」
「え……」
「あらかじめ、タテハさんとスピニーさんには話しておいたんだけどね。でも、まだオーブは今まで通りでしょう?」
「それは、そうですけど……」
「その力を、開放する時が来たんだよ」
なおも困惑した様子のユーカから目を外し、トロンさんは今度、俺たち全員に言う。
「もちろん、これは強制じゃない。だから、アップグレードなんて、そもそもやらなくていいと思うなら、やらなくてもいい。でも、もし、アップグレードを望むのであれば、絶対に君たち全員の力が必要だ」
トロンさんが問いかけるように俺たちの顔を覗き込む。
「あ、わ、私は、この前の時にもいなかったから、全然力になれないかもしれないけど、ユーカさんのためなら頑張ります!」
クーレが声を上げた。
このよくわからない状況にいきなり連れ込まれて大変だろうにすごい胆力だ。
俺も、ユーカのために協力してやるか。
「俺もやるよ。いつも世話になってるから。ユーカが強くなるなら、火力が上がって、チームも強くなりそうだし」
「クーレ、カゲツ……」
「さあ、こういう意見があるけど、どうしようか?」
イェルカさんがいつも通りの顔でみんなに呼びかけた。
きっと前もって話を通していたのだろう。
ユーカ本人以外はみんな頷いていた。
「ほら、こういうわけだ。シャウラとボルトガにはもう協力を取り付けてある。後は本人の意思だけだよ?」
ユーカは少し落ち着いたのか、黙って考え始めた。
そして、数秒ののち、口を開く。
「もし、この機会を逃したとして、次も同じメンバーなら、“海竜帝”は狩れるかもしれない。でも、多分その時に、私が強力な力を持っていれば、もっと簡単に倒せる。今、巻き込まれてる状況からすると、この先現れるであろう敵は今まで以上の力を持っているはず。カゲツも、コータも、クーレも、みんな優秀な能力を持ってる。私なんて脳筋のバカみたいな単純能力。だったら、今ここで有能な私に変わってみたい」
「つまりは?」
「やるわ。みんなには悪いけど、手伝ってくれる?」
全員が思い思いの返答をした。
イェルカさんが代表するように言う。
「もちろん、チームだからね」
ここまでを聞き届けてから、トロンさんが話し始めた。
「よし、腹は決まったみたいだな。今から、詳しい試練の内容を言う。端的に言えば、一日かけたレイドバトルだ」
天井の高い室内に、全員が息を飲む音が響いた。
今年一年ありがとうございます!
来年もどうぞよろしくお願いします!
来年は色々チャレンジしたいと思います!




