8.衝突
よろしくお願いします。
コータを置いて駆け出した俺たちは、岩場がさらに多くなり狭まっていく道を走っていた。マップの情報的にはまっすぐ行けば敵の本拠地に着くはず。
「もうほとんど一本道ね。ここで左右からやられたらどうしようもないわ」
「確かにまずいね、大量の何かが降ってくるとか俺は嫌だな。でも、だからって地形を変えられるわけじゃないし…。ユーカのオーブで何とかならないの?」
「私のオーブの特徴話したでしょう?数が多いとさすがに無理よ」
不安はあるが前に進むしかない。俺たちは速度を緩めずに走り続けた。
岩場がだんだんと迫ってくるかのように狭まってきている。
道は完全に一本になり、地面と左右の崖との高低差が7,8メートルほどになった。
「ここで襲われたらやばそうね」
しかし、こちらの予想を裏切るように崖からは何も出てこない。
代わりに、俺たちの眼前には巨大な影が現れ始めた。
「うわ、なにこれ…」
「城壁…かしら?」
それは、石造りの巨大な壁であった。崖を上回る高さでそびえたつ迫力は、何とも言えないものがある。
俺とユーカがそれに少し驚き、動きを止めた時だった。
「“破壊と再生を繰り返す大地よ、我が声に応え、具現せよ”<瓦礫錬成>!」
「詠唱!?」
その言葉が耳に入ると同時に、地面が不自然に揺れ始めた。
かと思うと、今まで通ってきた道を封鎖するように、石の柵のようなものが地面からせり上がってきた。
「なんだ!?これは“魔術型”!?」
「やられたわね。待ち伏せされていたみたい…」
ユーカが苦虫を噛み潰したような表情になる。
眼前の壁の上あたりから、それを嘲笑うように声が聞こえた。
「はははは!よく来たお前ら!俺のステージへようこそだ!」
壁の上に、迷彩服を飾り立てたような格好の男がいた。
心底楽しんでいるような声で、男は続ける。
「この依頼のカウンターが出始めたから、もうそろそろかと思っていたが、案の定だ!楽しく殺し合おうじゃないか!プレイヤー同士の戦いで決着がつく!わかりやすくていい!」
「何を言ってるの。あなた、頭大丈夫?」
ユーカのセリフがいつにも増して辛辣だ。しかし、この男の人を馬鹿にしたような振る舞いには俺も腹がたつ。なにより、肝心なことがわからない。
「なあ、あんた!“アルカディアドラゴン”の子竜はどうなった!」
男は少し驚き、考えるようなそぶりをしてから言った。
「依頼主の密輸組織にとって、成竜は生け捕りにしたい素材だが、子竜はどうでもいいらしい。これで、答えになってるか?」
「まさか…!」
俺にとって1番良くない結果になっているかもしれないという考えがチラつく。
しかし、そんな事すら思考させてはくれないらしい。
「どうでもいいんだそんなことは。俺たちはさっさとやり合いたいんだよ。なぁ!ブルトン!」
「俺は戦闘に参加しなくていいんじゃなかったのか、キャップさんよ」
2人目の男が現れたのは崖の上だった。黒いツナギのような装備をしている男は、気だるそうにしていた。
先程聞いた声と同じだから、あいつが恐らく俺たちを閉じ込めたやつだ。
「そうもいかなくなったんだわ。恐らくこの嬢ちゃんは、闘技場イベント上位30に食い込んだ子だ。『怪力女王』の方がわかり易いか?」
「ちょっと!そんな2つ名は認めてないんだけど!」
ユーカに2つ名なんてあったのかよ。しかも物騒だな。
いや、そんなことを気にしてる余裕はない。
「あー、あの子か。確かにこんな格好だった気がする。『不敗天使』に負けた試合までは面白かった記憶がある」
「うるっさいわね、あんたら絶対倒してやる!」
「おお!その意気だぞ!『怪力女王』!しかし、俺はちょっと相性が悪い。ブルトン、よろしく頼んだ」
「俺は戦闘向きじゃないんだが。遅滞戦術ができればいいか?」
「十分だ。片付けて応援に行く」
ユーカが挑発に乗ってしまったのはまずい…。タイマンだと俺は恐らく勝てない。要はピンチだ。
「ユーカ、とりあえずここは戦術を練り直そう。行き当たりバッタリはまずいって!」
「それでもやるしかないのよ。現状いい戦術でも思いつくの?」
「それはないけど、俺の装備的にタイマンはヤバイかなあってことくらいはわかる」
「カゲツ、あなたさっきやるって断言したんだからやりなさい。それに、私はあいつらをさっさと倒したくてしょうがないのよ!」
今突撃したい理由のほとんどが、個人的な怒りなんだろうなあと、思いつつも、俺は槍を構え直した。
もう、やるしかないみたいだ。
「いいじゃないか!『怪力女王』!俺は2つ名なんて持っちゃいないが、地の利と積み重ねて来た準備がある。試そうぜ、どちらが生き残れるか」
「望むところよ!」
「よっしゃ、ブルトン!バトルステージ展開だ!」
「了解」
キャップという男の一声で、ブルトンと呼ばれた男が詠唱を始めた。
俺たちは、先程見たことを思い出し、地面を警戒した。
「<瓦礫錬成>!!」
俺たちの予想は完全に外れた。
地面ではなく、左右の崖から石壁がせり出してきたのだ。
とっさに回避行動をとる。
俺とユーカの間を、石壁がしっかりと分断した。
「ナイスだ、ブルトン!いい感じに、分けられたじゃないか!」
「そりゃあ、どーも。でもやっぱ、1人では厳しいんで援軍お願いしますわ」
「任せろ!」
2人のやり取りの間、俺は目の前のキャップという男を推し量ろうとしていた。
コータやユーカが、対プレイヤー戦では、相手のオーブがどんな能力を持っているのかを把握することが1番大事だと言っていたからだ。
最後には俺が負けてしまうという結果が待っていたとしても、どうにか時間を稼ぎたい。
ただ、この場合にはあんまりよくなかったかもしれない。なぜなら、奴のオーブが仲間の支援をするものだったからだ。
「“召喚型”!<異次元怪物園>!!」
オーブが発動すると同時に、ユーカのほうに黒い渦がいくつも発生した。
「いでよ!“密林狼”!群れでこいつらを食らい尽くせ!」
見れば、黒い渦のそれぞれから、この密林特有のモンスターである“密林狼”が出てきていた。
“密林狼”は2足歩行が可能な狼で、木を登ることだってできるらしい。爪は木に食い込ませられるように長く太く発達しているとか。
「また、面倒な能力ね。任意の場所にモンスターを召喚できるってところかしら?細かい条件まではわからないわね」
俺の役目が1つ減ったようなものだった。
しかし、結構面倒な能力だ。リソースが無限なら、いくらでもモンスターが召喚できるということだし…。いや、そんなことあるのか?
「さぁ、嬢ちゃんはそいつらとブルトンで何とかしな!俺の相手は…、初心者、お前だ」
ゴクリ。
捕食される運命にある生物はこんな心境なのだろうか。
いや、しかし、簡単に負けるわけにはいかない。
コータに約束したし、何よりあの竜の親子のことを、ゲームだからと割り切れるほど、俺は人間が腐っちゃいない。
「来いよ!初心者だからって、簡単にやられたりはしない!」
「ほう、いいじゃないの!じゃあ俺も出し惜しみしないぜ!」
今回は、テンパってない。
大丈夫。狼の群れくらい、俺だって倒しきれる。
「“召喚型”!<異次元怪物園>!!」
先ほどと同じように、黒い渦が発生する。
でも、ちょっと、いや、だいぶでかくないか?
「いでよ!“森の王者”!!パーティータイムだ!」
その言葉が響いた瞬間、黒い渦の中から、地響きが聞こえてきた。
最初に見えたのは、黒々とした太い腕。長い毛に覆われたそれは、人の胴体くらいはありそうなサイズ感で、“密林狼”よりも鋭い爪を備えていた。
やがて見えてきた全体像は熊。かなり凶悪な顔つきに、とんでもない腕と威圧感のある体躯を誇る。熊なのに長い尾を持つそのモンスターは、正しく王者という風貌をしている。
これは…、勝てないね…。
「ユーカ!早く倒してこっち来て!やばい!これはやばい!」
「わかってるわ!それでも!ちょっとは耐えて見せなさい!簡単にやられたりしないんでしょう!!」
そうはいってもこれは無理だし、オーブ所有者を直接叩こうにも、壁の上だし。
万事休す!
「おいおい、始まる前から弱腰なのはよくないぞ。戦いを楽しもうじゃねぇか!!」
奴の言葉で、2つの戦場が一気に動き出した。




