83.デート……sideB
最近一週間に一度の投稿になってしまい申し訳ありません。
もう少し、この状態が続きます……。
よろしくお願いします。
スピニーから連絡がきたのは、海竜帝討伐の翌日のことだった。
メッセージの内容からすると、かなり重要そうな話だったから会うことは了承したが、考えてみればわざわざリアルで会う必要はなかったんじゃないかと思う。
「あいつ、どこまでが本気なんだかさっぱりわからん」
放課後になると同時に華月と別れる。
あいつはあいつで何かやらかしているらしいがそんなところまで構ってはいられない。
待ち合わせに指定されたカフェは最寄り駅の二つ先だった。
俺たちの住んでいる場所がそれなりの都会ということもあるが、意外と近くに住んでいたものだなと驚く。
「この辺りはおしゃれなもんだな」
目的の駅に着き、外に出て一番に思ったことだ。
距離的にはそこまで離れていなくとも、街並みはずいぶんと異なる。
俺たちの街が少し前の日本の雰囲気を残しているのに比べ、ここは随分と未来型都市に生まれ変わっているのだ。
立地の違いだろうか。
「さて、行くか」
放課後に来ている関係上、どうしても俺の到着が少し遅れてしまうので、カフェにはスピニーが最初からいることになっている。
……考えてみれば、ネットの友人とリアルで会うのは初めてかもしれない。
なぜだか、急に緊張してきた。
だからと言ってどうということもないが、俺は少しだけ制服の襟を直した。
「いらっしゃいませ」
カフェの内装はどこにでもありそうなもので、特に気になるところはなかった。
ただ、土地柄か年齢層も高く、大人なイメージがある。
顔がわからないと思うからと、はじめから席の場所は知らせてもらっている。
「一番奥の、右側。仕切りが壁っぽくなっているところの、二人掛け……」
主観的な説明に、不安を覚えながらも、目当ての席を見つけることができた。
そこには、ゆるりと巻いた黒髪を肩のあたりで整えた清純そうな女子高生が座っていた。
俺が彼女に目を向け、スピニーなのかと見定めようとしているとき、うつむいてオレンジジュースを飲んでいたその女子高生が顔をあげた。
ばっちりと目が合う。
視線が絡む。
体感十秒。
「あっ、と、コー君、だよね?」
先に口を開いたのは彼女の方だった。
「あ、ああ。えっと、スピニーで合ってるのか?」
俺が念のため確認すると、彼女はキラキラとした笑顔で頷いた。
「そうだよ! 本名は、今村詩乃っていうの。よろしくね」
その話し方は、俺の知っているスピニーのものだった。
「なんか、変な感じだね。こうして会うの」
「確かにな。アバター姿とは少し違うんだな」
「あはは、そうね。髪色がもう違うもの。いつもの和装もしてないし。でも、ゲームって違う自分になれることも一つの魅力だと思わない?」
他愛無い話をつらつらと重ねて、三十分ほどたったころだった。
不意に彼女が時計を見た。
「そろそろね」
「何がだ?」
「今日の本題よ。そりゃ、コー君とこうしてずっとデートしていたいけど、伝えないといけないこともあるの。二人きりのデートはまた今度ね」
「なっ……」
リアルではどうしてもスピニー……詩乃さんの方が余裕のあるように思える。
らしくないくらい動揺するのをどうにかしたい。
本当の関係にはなれないから。
一つ、足音がこちらに近づいてきた。
「お、きたきた。兄さん、こっち」
「お、よかった。きょろきょろして探すのは嫌だったんだよね」
現れたのは、詩乃さんに雰囲気の似た長身の男だった。
見たところ大学生だろうか。
気を遣っていない服装をしているにも関わらず、あふれ出す清潔感はもとより備わっているイケメンオーラのせいであろう。
「コー君を待たせたくはないから、すぐに来てくれてうれしいわ。コー君、紹介するね。私の兄、OLAではイェルカとしてプレイしている今村俊よ」
「初めまして、よろしく。コータ君改め、光田渉君、だね。こっちでも会えてうれしいよ」
「よ、よろしく……」
差し出された手をぎこちなく握る。
突然の握手に戸惑い、敬語も忘れてしまったが、そういえばゲーム内では敬語を使ってないからOKだと思いなおす。
もちろんただの正当化だが。
「今日、詩乃を通して君を呼んだのは、昨日の海竜帝戦の事後処理の段階でいくつか共有しておきたいことが出てきたからなんだ。もちろん、全員に共有するべきなんだけど、まずはコータ君……じゃなくて渉くんに共有しようと思ってね」
「はぁ、まずは俺ってことは、俺に深いかかわりがあることでもあったのか?」
「それはもちろん。でもね、ここじゃあ話しづらいから、場所を変えよう。会計は僕が持つよ」
「さすが兄さん」
「もうほとんど大人だからね」
長財布を取り出しながら、俺たちの頼んだものの会計をする俊さんはやっぱりかっこよく見えて、タメ口をやめようかと思ったのは口には出さなかった。
カフェを出て、しばらく俊さんの案内に従って歩いた。
だんだんと駅の方からは離れ、オフィス街のはずれまで来て、俊さんが止まる。
「着いたよ。ここが僕の大学の研究拠点であり、OLAの開発陣の一人を輩出した橋本研究室の分室だ」
そこはくたびれた公共施設のような外観をした建物だった。
表札にはしっかりと俊さんの言った通りの名称が書かれている。
「中に入ってくれ。僕の先輩が待ってるんだ」
恐ろしい気持ち半分、導かれて研究室の内部に入る。
室内は外観に比べてきれいな状態を保っており、ぶぅんという大型電子機器特有の唸り声が常時響いていた。
蛍光灯の照らす廊下を少し歩き、階段を上る。
一階とは異なり、今度はオフィスのような会議室もちらほらとあった。
そのうちの一つ、扉に防音室というプレートの掲げてある部屋の前で俊さんは立ち止まった。
「さて、ここだ。中には三人のOLA開発陣がいる。僕たちは仮にも、OLA内でバイトをしているようなものだからね。別に怖がる必要はないよ。でも、ちょっとびっくりするかもしれないな」
「どういうことだ……?」
「ま、入ってからのお楽しみだよ」
壁に設置されていた機器をいじって、俊さんは扉を開けた。
中は本当にシンプルな会議室のようだった。
こちらから向かって正面に、三人の人間が座っている。
右横に座っていた女性は、聞きなれた声でフレンドリーに話かけてきた。
「久しぶりね、渉君。華月と仲良くしてくれてありがと」
「ゆ、結愛さん!?」
ウインク付きで俺に声をかけたのは、華月の姉の結愛さんであった。
正直、予想外のことで、頭がうまく働いていない。
「そこまで驚くことかなあ。私、もうちゃんとした社会人なんだけどなあ」
「いや、そら、ここに知り合いがいるとは思わないでしょう」
この人は小さいころから知られている分、いろんなことを見透かされていそうで怖い。
詩乃さんと一緒にいる今、更なる弱みをさらしてしまったような気がする。
「水上さん、光田様をいじるのはあとにしてやってください。今日は短時間でややこしい話をしなければなりませんから」
「わかってますよー。もう、そんなにかしこまり続けてたら絶対疲れると思うんですけど」
「瀬田さんはずっとこんな感じだからしょうがないよ。結愛君の軽い雰囲気も珍しいタイプだと思うけどね」
結愛さんを水上さんと呼んだ、白髪混じりの壮年のすらりとした男性。
あの人の話し方には覚えがある。
瀬田さんといっただろうか。
三人の中では瀬田さんが一番年上であろうが、雰囲気としては真ん中に座る金髪の青年の方が力を持っていそうだ。
確実に海外の血が入っているとわかる美男。
明るくて聞き取りやすい声で、その青年は言う。
「いや、こちらで話してしまってすまないね。自己紹介が遅れた。僕はOLAの開発チームで現在チーフを務めている、ウィリアム・エドウィン・キングだ。こっちの男性は瀬田孝廣と言って、君たちはラトというプレイヤー名でOLA内の彼にすでに会っている」
「お久しぶりです」
キレイにお辞儀をした姿は、OLAの中で見たラトさんそのものだった。
そこに驚きと安心を感じると同時に、淀みなく説明したウィリアムという青年が気になって仕方がなかた。
「さて、僕が今日、俊くんや妹さんに頼んでここまで来た理由を説明しようか」
ウィリアムさんがそう言うと、ラトさん改め瀬田さんがリモコンを取り出し、プロジェクターを起動した。
部屋はサッと暗くなり、ウィリアムさんは俺たちに見えるところに座ってくれと言って立ち上がる。
そしてポインターを手に持ったウィリアムさんは、スクリーンの前に進み出た。
プロジェクターから資料が投影される。
見たところ、OLAの世界地図のようだ。
「今回、僕が話をしたいのはこのOLAというゲームにおける“竜”と“姫”という存在についてだ」
なんだ?
何の話なんだ?
唐突に始まったそれは俺の頭を混乱させるのに十分だった。
「まあ、何が何だかわからないと思うから、順番に説明していくよ」
スクリーンは世界地図から、各種の竜のイラストに切り替わった。
「ここに表示したのは、このOLA世界に生息している竜種のモンスターたちだ。竜種は知っての通り、モンスターの中では格段に強い。そして、その上位互換である竜帝はさらに強力なモンスターになっている。ゲーム内の扱いとしては、各エリアの守護者であり、プレイヤーに立ちはだかる大きな壁の一つだ。そして、“召喚型”に“大悪魔シリーズ”が存在するように“兵器型”のオリジナルシリーズとして存在している“竜帝シリーズ”のきっかけとなるモンスターでもある」
この話が出てきた瞬間に、俺は悟った。
カゲツたちにはこの話ができない理由があるのだと。
そして、ウィリアムの話はこう続いた。
「実は、このシステムを作り上げたのは、僕じゃない。僕の前にチーフをしていた天才技術者なんだ。今日は、少しだけ昔話に付き合ってもらうよ。そうじゃないと、今、あの世界に何が起ころうとしているのかがつかめなくなってしまうからね」
そう言って苦笑したウィリアムの顔はプロジェクターの光に淡く照らされた。
画面が少し暗い色に切り替わる。
出てきたのは男の肖像。
ウィリアムは言う。
「彼は御木本真一郎。OLAの構想段階からすべてをデザインしてきた天才であり、今はもうこの世にいない技術者だ」
そうして、静かに、過去が紡がれ始めた。




