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Only Life of Arcadia  作者: kaisen
第3章 竜と姫とを求める旅路
79/103

78.OVER STAGE

遅くなりました。

よろしくお願いします。

 司令塔であるイェルカさんがやられ、海竜帝が回復能力を持った。


 このことに対する俺たちの動揺は今までとは比べ物にならないものだった。


 全員が最終決戦に向けて心構えができていたから海竜帝の攻撃を寸前で回避することができているが攻撃に統率と勢いがなくなっていた。


 すべての対応が後手に回っているのだ。


 それもそのはず。

 海竜を作為的に動かすには必ず俺が手を加えなければいけないが、俺の視界は一つの場面しか捉えられない。

 イェルカさんのように複数の地点の情報を収集して処理する力はないのだ。


 それでもみんなの声掛けでどうにか回避をしている。


 俺の頭は常にフル回転していて、馬鹿みたいに長い時を戦わされているような錯覚に陥った。


 だが、奴の体力は一割五分くらいのところでずっと推移していた。


 自動回復が強力に働くのは、一割を切って以降で、一割よりも体力が多い場合は緩やかに回復していくらしい。


 だから、現状は体力ゲージを残り少ない状態で維持できている。


 ただ、それもいつまで持つかわからない。

 もう一人やられてしまえば絶望的。


 やられなくても、倒しきれずにジリ貧。


 今、俺たちが求めていたのは、圧倒的な攻撃力だった。


「火力ブーストするぞ! タテハさん! ユーカにありったけの攻撃バフ、いけますか!!」


 コータが叫んだ。


 タテハさんはさっきからずっと、海竜にバフをかけ続けてくれている。

 だから、この海竜たちは本来以上の力を出し続けていた。


「大丈夫よ! コストはまだ十分!」

「それなら、ユーカにお願いします! ユーカ! 最大値だ! 叩き出せ!」

「了解!」


 ユーカのオーブは、おそらくこのメンバーの中で一番攻撃力がある。

 最大火力に最大のバフをかければ、かなりのダメージ見込めるだろう。


 しかし、それをするということは……。


「どうせ攻撃直後に攻撃に触れて、ゲームオーバーね。なら、ホントの全力を出してみようかしら」


 そう。

 海竜帝に最接近するということはすなわちダメージを食らうということ。


 海竜帝自体の移動でも結構なダメージを食らうことは、海竜たちが証明している。

 どうも海水など、他の物質が間に入っていれば大丈夫なようだが、直接触れるとダメージという仕様らしい。


 しかし、ホントの全力とは、一体何なのだろうか。


「作戦は分かったよ! あんたたち、ちょっと待ってな! やりやすいとこに誘導してやる! カゲツ! 岩礁の近くに誘導するよ!」

「えっ、はい!」


 シャウラさんに移動先を指定されるとは思わなかった。


 でも、岩礁があれば、海竜帝を追い詰めるだとか、ユーカが陸地から攻撃を放つだとか、攻撃の幅が広がる。

 まだヘイトはシャウラさんがトップだから、大丈夫、できる。


 俺はできる限り速く、安全に岩礁に近づけるようにシャウラさんの海竜を操作した。

 同時に、攻撃の準備をしているユーカたちを、少し離して追従させる。


 誰も乗っていない海竜たちは、シャウラさんのヘイト稼ぎの邪魔をせず、俺たちの攻撃の前に少しでも体力を削れるように、積極的に攻撃させる状態にしてコントロールをほとんど手放した。


 こいつらは俺たちと一緒に動いても、シャウラさんの方にいても最早的を増やすだけだ。

 俺のコストも結構消費することを考えれば、有効に使って数を減らすのは割と生産的な判断だろう。


「急げ! もうそろそろ囮もきつい!」


 シャウラさんの声がこだまする。


 準備は着々と整っていた。


「〈揺蕩う波間の夢蝶々ファレノプシスオーキッド〉!! 〈上連(マトリカリア)〉!! 限界までバフをかけたわ。あと二回も使えないからこれで決めて!」

「ありがとうございます! コータ! どこを攻撃すればいいの?」

「右腕だ! 損傷が一番激しい! 裂傷ダメージが狙えるかもしれない!」

「わかったわ!」


 淡く光る蝶がユーカの戦闘斧(バトルアックス)全体を覆っていた。

 タテハさんのバフの力だろう。


 このゲームのバフには時間制限がある。

 つまりは、もう、今すぐに決めるつもりだ。


 コータが同時に攻撃を打つらしい。

 サーベルを構えて力をためているのが見て取れる。


 タテハさんは一度下げる。


 支援特化が前にいるのはあまり褒められた状況ではないからだ。

 さすがに見ていただけでゲームオーバーになったとかは笑えない。


「次の攻撃モーションのあとだ! 一気に決めるぞ!」

「わかったわ!」

「カゲツ! 最高速度で海竜を突っ込ませろ! 俺たちはかなりのダメージを

食らうが、そんなことに構うな!」

「任せろ!」


 返事をした俺は、さっそく海竜の動きを調整し始めた。


 コータとユーカが突っ込むときに一緒に突っ込めるように何体かの海竜を配置。

 シャウラさんの乗っている海竜を岩礁の近くの攻撃ポイントまで一気に進ませる。


 これで準備は整った。

 あとは、コータとユーカの乗っている海竜を思い切り海竜帝に突っ込ませるだけ……!


「いくぞ!」

「おう!」

「頼んだわ!」

「海竜! 全速でつっこめ!!」


 俺は海竜を操作できる範囲で最速に設定し、海竜帝に向かって一直線に動かすコマンドを入力する。


 飛び出す海竜に乗った二人は、それぞれの力を起動した。


「〈女王の乱獅子(ストレングス)〉!!!」

「“戦火の剣(アテノ)!!!”」


 ユーカの戦闘斧が最大まで巨大化する。

 コータの“技能(スキル)”も発動し、サーベルが黒い光を纏った。


 海竜帝のヘイトは相変わらずシャウラさんだが、こちらに全く気付いていないわけではない。

 視界の中にこちらを収めながらも、シャウラさんを攻撃している。


 シャウラさんの方はもはやあまり動くことのできない岩礁地帯でうまく攻撃を躱していた。 

 というか、そうしなければ、突撃が意味をなさないのだ。


 俺はこちらの海竜の操作に注力し、コータたちの攻撃成功を祈るだけになってしまった。


「ユーカ! オーブなら〈制動解除(リミット・オーバー)〉が使えるだろう。使ってどれくらいのダメージが出せる?」

「使わないとダメージなんてほとんど出ないわよ! 多分、一回一割を切った時に特殊な障壁が張られてる。おそらく、ダメージを割合減衰するものね。攻撃して一応通るから、それくらいしか思いつかないわ」

「削りきれるか?」

「削りきるの! 私がゲームオーバーになったって、誰かが残っていればこいつを倒したことにはなるんだから!」


 聞き捨てならない会話が聞こえた気がした。

 危うく、シャウラさんの乗っている海竜の操作をミスるところだった。


「カゲツ! そろそろ限界だ! コストが尽きる!」


 シャウラさんの声が聞こえた。

 俺は不穏な考えを頭の隅に追いやって、シャウラさんをこちらに下がらせるように海竜を動かす。


「接敵する! 行くぞ!」

「〈制動解除(リミット・オーバー)〉!! 〈女王の乱獅子(ストレングス)巨星(アトラス)〉!!!!!」

「“大戦場縦横炎(デカ・ストラテゴイ)”!!!!」


 海竜たちは背に大技を繰り出した二人を乗せて海竜帝に突進した。


 衝突の瞬間、二人は空中に躍り出た。


 そして、深い青に染まった戦闘斧と黒い炎を宿したサーベルを海竜帝に向けて振り下ろした。


 海竜帝の体表が淡く光る。


 先ほどユーカが言っていた障壁が働いたのだろう。


 しかし、二人の攻撃はその光をもろともせず、海竜帝の身体に深い傷をつけた。


 コータの放った黒い炎は海竜帝の体表を焼き、その鱗に覆われた柔らかな肉を焼き焦がした。

 それは、コータの放てる“技能(スキル)”の最高火力であり、相手の防御力を無視して一定以上のダメージを確実に与えられる攻撃だった。


 ユーカの戦闘斧に宿っていた深い青の光は、傷からエネルギーを注ぐようにあふれ出していった。 

 そして、海竜帝の体内から鱗の隙間に噴出する。


 明らかに大ダメージを与えられたとわかるほどに、海竜帝の身体はボロボロだった。


 しかし、世界最高クラスのモンスターはその胆力にも恐ろしいものがあった。


 俺たちの目に映ったのは絶望だ。


 体力ゲージが、ゼロになる寸前で止まっている。


 視界にはシステムメッセージで、『OVER STAGE』と表示されていた。


「オーバー……ステージ?」

「バカ! 来るぞ!!」


 シャウラさんの声で我に返った。


 海竜帝はブレスの準備態勢に入っていた。

 この状況で放たれるブレスは、さっきボルトガさんが体を張って止めたものだ。


 躱さなければ。

 そう思う心とは裏腹に、体はひどく緩慢に動いている気がした。


 目の端に、光になって消えていくユーカの姿が映っている。


 人数がまた一人減った。

 

「来るぞ!!」


 幸い、俺のいた場所は一番後ろ。

 ブレスの範囲からは外れていた。


 他のメンバーも範囲からは離れるように海竜を動かした。

 そのせいでとどめに遠のいてしまった。

 なんて、のんきに考えていたのがよくなかったのかもしれない。


 閃光。


 青の光が視界を埋め尽くした。


「なっ……!」


 シャウラさんがその光にのまれていったのが見える。


 体だけでなく、思考もスローになったようだった。


「止まるな!! 次が来る!!」

「カゲツ君!!」


 コータとタテハさんの声しか聞こえない。


 他は全員いなくなってしまった。


 背景は、この何十分か変わらない。

 あの、大きな海竜帝。


 また、ブレスの準備をしているのがむしろ非現実のように見えてくる。


「『OVER STAGE』とか、ただの鬼畜モードじゃねぇか!!!」


 俺には、コータのように叫ぶ余裕もなかった。

 ただ、前を見ることしかできなかった。


 頭では、いろんなことが渦巻いていた。


 次のブレスを確実に躱す。

 勝つためには、遠距離攻撃でなければ不可能。

 コータとタテハさんにはできないから俺がやらなきゃいけない。

 俺の手札に強力な遠距離攻撃を使える何かはあったか?


 頭は、いつも以上に冷静で、正確で、的確な分析ができていた。


 でも、心はどこにもついていかなかった。


 ふわりと浮いた身体。

 海竜から足が離れた。


 目の前には青の閃光が迫ってくる世界が映る。


 聞こえたのは、コータの声。


「バカ! お前が生きないと意味がないだろう!!!」


 投げ出された身体。

 頭は壊れそうなほどに速く回転し、心は時を忘れたように止まっていた。


「コータ……!」


 かろうじて漏れた声は、波にのまれて消えた。


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