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Only Life of Arcadia  作者: kaisen
第3章 竜と姫とを求める旅路
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77.影差す海原

よろしくお願いします。

 そこからの戦況は一気にこちらの優位に進んだ。


 イェルカさんの指示で、こちらのプレイヤーが乗る海竜以外は三、四体でグループを作った。

 これを主に、海竜帝の前後左右に配置する。


 この四つの集団は、こちらの指示に連動して動く。

 わざわざ四方向に分かれているのは、組織的に相手の攻撃をかく乱するためだ。


 どこかの方向に攻撃が来たら、反対側の海竜がヘイトの管理をする。 

 一度攻撃をやり過ごしたら、次の攻撃は別のグループに攻撃が向くようにする。


 といった地味な作業を、イェルカさんの管制のもと俺はやっていた。

 これはかなり効果があった。


 海竜帝の弱点として、範囲攻撃の少なさと範囲の狭さが挙げられている。

 これを、組織的な囮の配置をすることで際立たせることに成功したのだ。


「右グループにヘイト! 左側から攻撃!」

「了解!」

「攻撃前のモーションに入った!」

「右グループ散会! 射程範囲外へ逃れろ!」

「薙ぎ払いだ! 近寄るな!」


 こんな感じで、終始緊張は絶えなかったが、先ほどまでに比べたら格段に楽だった。

 一種の作業と化していたといっても過言ではないだろう。


 それでも、油断はしていなかったし、確実に奴の体力を削ることができていた。


 ただ、一筋縄ではいかないのがこの手のモンスターということだろう。


「体力を気にして! あと少しで攻撃パターンが変わる!」

「残り二割に突入するぞ!」

「全員一度後退! 遠距離攻撃で二割まで削って様子を見よう!」


 イェルカさんの掛け声で俺たちは戦線を後ろに下げ、遠距離攻撃に切り替えた。


 海竜の水属性攻撃や、シャウラさんの酸弾など、単体ではそこまで攻撃力のないものだったが、数はやはり強さである。

 近接総攻撃よりは時間がかかったが、二割を切るところまで体力を削りきることができた。


「来るぞ!!」


 GRROOOOOOON!!!


 何度目かの合図。

 その咆哮は当然、今までで一番大きく、強い衝撃を周囲に与えた。


 同時に、海竜帝の周囲に青いヴェールのような光が広がっていった。


 水流と衝撃波を纏ったそのうねりは、防ぐ間もなく俺たちに襲い掛かり、体力をがっつりと持って行った。


「くっ、これは痛いな……」

「ガード不可攻撃とか反則でしょ!」

「まだ来る!!」

     

 海竜帝は今までにない動作をした。


 しかし、それは確実にブレスの予備動作だった。

 海竜帝の口元には一目でわかるほど強大なエネルギーが集まっていた。


「全員! 俺の後ろに集まれ!! 命に代えても守りきる!!」


 ボルトガさんの声に俺はぎょっとした。


「命に代えてなんてそんな!!」

「いや、そういう役回りだからな、わかるんだよ。というか、ここまで一人もゲームオーバーになってない方がおかしいんだ。うまくいきすぎてる」

「……うん、それは同感だ。きっと、ここまで耐えられたプレイヤーを一気に地獄に叩き落すような仕掛けがしてあるとみて間違いないだろうね」

「そんな……!」


 イェルカさんとボルトガさんの会話を聞いて、俺は絶句してしまった。


 うまくいきすぎてるだって?

 それじゃあまるで、この後に大変なことが待ち受けているみたいじゃないか。


 思えば、それを察知できただけ、よかったのかもしれない。


 全員が、ボルトガさんの後ろに回ることができたその瞬間だった。

 解き放たれた紺青の光が、俺たちの視界を染め上げた。


 同時にボルトガさんの〈甲殻剛力守堅盾グランテックリギュリティア〉の紫の波動が目の前に展開された。


「こいつはっ……!!」


 先ほどまでよりも強い輝きを放った守りの光が、ブレスの輝きを前にして揺らいでいる。


「ボルトガ!」


 イェルカさんの叫びに、ボルトガさんが静かに答えた。


「なに、こんな一撃でお前らを倒させやしない」


 その後ろ姿には鬼気迫るものがあった。


 彼の上半身がさらに力を籠めるように膨らんだように見えた。


 地面を押しつぶさんばかりの踏ん張りがこちらにも伝わってきた。


「〈制動解除(リミット・オーバー)〉!!!」

「バカ! あんた!!」


 シャウラさんだった。

 しかし、その声も衝撃にかき消される。


「〈甲殻剛力守堅盾グランテックリギュリティア〉!! 〈克命(クライマックス)〉!!」


 すさまじいエネルギーが俺たちの眼前でぶつかり合った。


 不思議と俺たちには全くダメージがない。


 周囲の海水は何メートルか吹き飛ばされ、近くの岩肌が露呈する。


 船への衝撃も激しい。

 軋む船体はいくつもの部分を吹き飛ばされ、ギリギリの状態で海に漂っていた。


 俺たちは腕で自身の顔や体を守るようにしなければならなかった。

 それは必要だったからではなく、そうしなければいけないと本能が思ったからであった。


 二つの光が交錯し、真っ白になって飛び散る。


 視界を埋め尽くしていた光が次第に収束していく。


 GRAOOONNNNN!!!!


 海竜帝の咆哮が聞こえる。


 俺たちがゲームからドロップアウトしたということはなさそうだ。

 少しずつ慣れてきた目を開いていく。


 俺の視界に最初に映ったのは、光の粒子になる直前のボルトガさんの姿だった。


 思わず息を飲んだ。

 その瞬間、輪郭は消え失せ、静かに光は天に昇っていった。


「全力で散会しろ!!」


 コータの声が響いた。


 俺はもうほとんど反射的に横に跳んだ。

 俺たちのいたところに奴のかぎ爪が振り下ろされてきた。


 ぐしゃ、と想像よりも地味な音を立てて船が崩れ落ちた。


 崩落する足場に、パニックの俺。

 一気にいろんなことが起きすぎていて、何が何だかわからなかった。


「海竜を全員のもとへ!!」


 イェルカさんの声にかろうじて反応した俺は、下がらせて待機させていた海竜をチーム全員のもとへ呼び戻した。


「慌てるな!! 油断するな!! 一撃でゲームオーバーだと思うんだ!」

  

 海竜が全員を拾って、一撃目を躱した。


 海竜たちに出している指示は基本的に前回と変わらない。

 四方向への配置だ。


「海竜に乗っているプレイヤーが増えた! カゲツ君! あと四体追加で海竜を呼び出してくれ!」

「わかりました!」

 

 返事をしたはいいが、ここからさらに四体呼び出すとなると、コストが保てたとしてもコントロールが厳しくなる。


 俺の頭で動かせる海竜には限界がある。

 今だって、配置だけは整えたが、基本的には海竜たちの自由に動くようにしている。


 RPGで作戦だけを伝えてキャラクターを動かすアレみたいな感じだ。


 だけど、それでも人の乗っている海竜は手動で動かさないといけない。

 でなければ海竜帝の攻撃を躱せないからだ。


 それがつらい。

 でも、俺がこれを動かさないと、全員の足場がなくなってしまう。


「右側! 物理攻撃! 退避を!」


 わかってる。

 見えている。


 視野は広くなってきた。


 イェルカさんの言葉を聞く前に動かすことができるようになってきた。


 ただ、ダメージ効率が良くない。

 ボルトガさんがいないとやはり思い切った攻撃には踏み切れない。

 その上、攻撃の頻度が増している。


 ほとんどヒット&アウェイの状況だ。

 ダメージが出せない。


 残りが一割と少しになっているのに。


 もどかしさが俺たちの心を支配していた。


「〈雄を侵食したる(ディソルティブ)兇腐鋏(クロウラー)〉!!!」


 シャウラさんの気合が今までよりも一段階高い気がする。


 ボルトガさんがゲームオーバーになる寸前にも何か言っていた。

 俺には何もわからなかったが、きっと〈制動解除(リミット・オーバー)〉というのが何か意味があったのだろう。


「シャウラ! 出すぎるな! ヘイトがお前に向くぞ!」


 ハッとした。


 俺は海竜を基本的にイェルカさんの指示に従って動かしている。

 その中には、ヘイト管理も含まれていたのかもしれないが、俺にはそこまではわからなかった。

 ただ何となく、感覚でそれがわかるようになってきただけだったのだ。


 だから、シャウラさんの考えに気付くのが遅れてしまった。


「効率出てないんだろ! 引き付けてやるから、短期で決めろ! このままじゃジリ貧だ!」

「だけど、それをするなら君よりも適任がいる!」

「……いいじゃんか、たまには気持ちを優先したって。そういうことだから頼んだぞ!」

「シャウラ! ……しょうがない。カゲツ君! シャウラの海竜を優先的に動かしてほしい! 彼女がヘイトをとる!」

 

 海竜帝の動き方はわかりやすかった。


 基本的な攻撃が体の前面から放たれるものだから、体の向きを変えることが攻撃方向の変化の合図だ。

 海竜帝の前に飛び出て、海竜の視線を一心に受けたシャウラさんが一気にヘイトトップになっていた。


 俺は全力でシャウラさんの海竜を後方に動かした。

 海竜帝のかぎ爪がすぐ前の海面をたたく。


「ナイスタイミングだ! そのまま頼む!」


 まるでサーフィンでもしているような感覚で素早く動く海竜を乗りこなすシャウラさんはさすがだった。


 物理攻撃がシャウラさんに向けて放たれ続けるが、もう大体のパターンは把握した。

 回数が多いからうまく躱すのに神経を使うが、回避には成功している。

 代わりに俺の海竜は動かせないし、他の海竜はほとんどオートになってしまっているけれど。


「今だ! 全力で攻撃! できれば部位裂傷ダメージを与えたい! 右腕を積極的に狙ってくれ!」


 しばらく続いた攻防戦のおかげで、ダメージを先ほどよりも与えられている。


 このままいくか。

 そういうときに予想外の行動で崩れてしまう。


 そんなことが続いていた。

 だから、俺は気を張り続けていた。


「ダメージ残り一割! 行動変わるぞ!」


 コータだった。

 その声が聞こえた瞬間だった。


 咆哮もなく、海竜帝の尾が横薙ぎに振るわれた。


 餌食になったのはイェルカさんだった。


「……っ!!」

  

 瞬間で光の粒子になってしまったため、なにもすることができなかった。


 誰もが声をあげるのをこらえたように息を詰まらせた。


 GRRRRAAAANNN!!!!


 一拍遅れて咆哮が轟いた。


 そして、海竜帝は透き通った青の光にその身を包んだ。


 行動の変化だ。

 誰もが『次の攻撃』を恐れた。


「体力が、回復している……?」


 俺たちは『次の攻撃』よりも恐ろしい地獄に直面してしまった。



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