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Only Life of Arcadia  作者: kaisen
第3章 竜と姫とを求める旅路
76/103

75.暗雲

遅くなってしまい申し訳ありません。

OLA、よろしくお願いします。

 海竜帝との戦闘はまさに死闘の様相を呈していた。


 はじめは気力と勢いによって、優勢で攻めていたように思えた俺たちだったが、今や攻撃が通らず、即死級の攻撃を避けまくるだけになってしまっている。


 やはり、戦闘が終盤に差し掛かるにつれ、強化されていくというボスモンスターを侮ってはいけない。

 俺たちの人数も通常、レイドで必要とされる人数には少し足りていない。


 全員がかなり高レベルのプレイヤーであるということを踏まえてもギリギリの戦いになることは、誰もが予想できた事態だった。


「船の損傷が激しい! これ以上食らうと足場をなくして全滅するしかなくなる!」

「とにかく攻撃を打ち消す! もしくは攻撃の方向を逸らすように位置取りを考えろ! 特にカゲツ君! 海上の攻撃を頼む!」

「海竜の数が多すぎて攻撃に対応できてない! 取り合えず幻惑は効いてるみたいだけど、あと少しで効果も切れるわ! どうにか数を減らさないと!」


 甲板のあわただしさも尋常ではない。


 俺は基本的に海中で海竜を狩ったり、海竜帝の攻撃を逸らしたりしているが何度も死にかけている。


 海竜の数は二十前後で安定しているが、それにしても一匹ずつ処理していくには時間がかかる。

 現状、その対応に追われるせいで、海竜帝に対してアプローチが全くかけられていない。

 そのせいで攻撃が甲板の方に集中しているのも確かだ。


「イェルカさん! コータ! 海竜が多すぎて海竜帝の攻撃を誘導できない! どうにかする方法を考えないと!」

「ちっ……! 確かにそれは必要なことだが……くそ!」


 海竜帝の方から水の刃が甲板に飛んできた。

 ボルトガさんがオーブを使って受け止めたのがみえる。

 

「俺のコストもそこまで持たない! あと少しでさすがに限界だ!」

「ボルトガが崩れると全員が崩れる! どうにか形勢を逆転しないと……!」


 ボルトガさんとシャウラさんの声がした。


 近くの海上に海竜帝の攻撃がバンバン飛んできている。


 ふと、コータからチャットにメッセージが入った。


「イェルカさん! イェルカさんのオーブでは音声の共有もできるか?」

「できるよ! 基本的には一方通行だけど、問題はないかい?」

「問題ない! ちょっと甲板の方に来てくれ!」


 コータは一体何を始めようというのだろうか。


 後ろで指揮を執っていたイェルカさんが甲板の方に降りてきた。

 何をするかと思えば、コータが何やらイェルカさんに話をしている。


「なるほど。それならできそうだね。やろうか」

「助かる! それじゃ……」


 話がまとまったらしい。


「いくよ、〈潜み群れる(ラ・テント)喧騒蟲(ミセオド)〉!」


 微小なはずの虫たちが目に見える程大量に集まってきた。

 どうやらちりぢりになっていた虫たちがすべて集まってきたらしい。


 虫たちはみんな一斉に海竜の群れの方へ向かっていく。


 戦闘能力は皆無なはずの虫たちがどうして……。


 そんな疑問に応えるかのように、コータの声が聞こえた。


「ナイスだ! やるぞ! “召喚型(サモン)”! 〈囁き拾い(ウィスパー)(オブ)大悪魔(ナイトメア)〉!!」


 嵐の中でも黒い炎はゆらゆらと燃え、その内側からカインが姿を見せる。


「お呼びでしょうか?」


 いつも通りの態度で彼はたたずんでいた。

 コータはそんな彼に告げる。


「海竜を、全部コントロールする」

「代償もかさみますが、よろしいですか? そもそも、効果範囲が足りませんが?」

「それは大丈夫だ。代償も、俺の所持金の八割でいい。とにかく、今は海竜を!」

「承知いたしました」


 二人の話し合いは終わったようだ。

 詠唱がはじまる。


「“悪魔の囁きを聞きなさい。すべてを私に委ねなさい。地獄の侯爵の名の下に、貴様の心を私が貰う”」


 カイムのまわりを黒い炎が回る。


 コータが叫ぶ。


「今だ! 言霊を拾って、伝達しろ!!」

「了解! 虫たちよ、頼んだ!」


 イェルカさんの掛け声の後、虫たちが黒い炎に誘われるように集まっていく。

 炎に触れて燃え尽きてしまうかと思ったその時だった。


 虫たちに黒い炎が飲み込まれ、パッと消えた。


 次の瞬間には、海竜のまわりにいた虫たちから黒い炎が発生し、海竜の頭を燃やし尽くさんとしていた。


「ほぅ、考えましたな。ご主人」

「初めてだったが上手くいってよかった」

「まさか、言霊も僕の虫たちで伝えられるなんてね。その発想はなかったよ」

「私は囁きの悪魔ですから、全ての呪詛は言霊によって発生しているのですよ。こんな使い方をされたことは今までありませんが」


 コータは裏技のようなことをしたんだろう。


 苦しげに黒い炎に呻く海竜。

 これはゴーレムを操った時にも見た。


 しばらくそうして苦しんでいた海竜が、ふと大人しくなった。


「おっと、掌握が完了したようですね」

「よし! こいつらを海竜帝にぶつける!!」

「待ってたよ! みんな、反攻作戦の始まりだ!」


 コータの声を合図に、海竜たちが一斉に反転し、海竜帝の方へ攻撃をはじめた。

 

 無駄に手間を取られていた俺たちは、今度こそ思い切り攻撃を打ち出す。


 ここが攻め時だと、誰もがわかっていた。


 二十ほどの海竜の群れは、海竜帝に対して突進などの物理攻撃を繰り返している。

 シャウラさんの酸弾は今までよりも弾数が増した。

 俺やユーカの攻撃も直接入るようになってきた。

 

 今までとは比べ物にならない勢いで奴の体力が削られていく。


「五割いったぞ! このまま押し切れ!」

「みんな、コスト気にして、継戦能力を維持! ガス欠にならないように!」


 コータとイェルカさんが声をかける。


 海竜帝の攻撃は上手く海竜の方に分散している。

 やはり、数の力は偉大だ。

 ダメージヘイトが俺たちに全然向かない。


 海竜は数が減ると自動的にポップするらしく、新しい個体が何体が出てきているが、コータが片端から支配下に置いているらしく、途切れずに攻撃を続けることができている。


 このまま行けば、大きな損害も出さずに倒しきれる。

 そう思った時だった。


 海竜帝の体力が四割を下回った。


 突然、海竜帝が青いオーラを放ち、咆哮した。


 今までよりも遥かに激しい叫びに、俺たち全員の攻撃が止まった。


 その一瞬に、海竜帝は口を大きく開け、手近な海竜を噛み砕いて捕食してしまった。


「なっ……!?」


 絶句だった。

 時が止まった中で、海竜帝だけが、悠然と食事をしているように見えた。


「見ろ! 体力が……!」


 誰かの声に、ハッとした。


 言われたように体力ゲージを見てみると、みるみる回復している最中だった。

 感覚的には、一割の六分の一もいかないレベルの回復量だ。

 しかし……。


「これ、全部食べられて、回復されたらヤバくないか?」


 俺は冷静にそう思った。


 現在、俺たちの主戦力は海竜のようなものだ。

 しかし、その海竜たちが全てあいつの栄養として、吸収され、体力を回復されては面倒極まりない。


「大丈夫だ! 追加の海竜を今まで通り突っ込ませれば、今のダメージ効率は維持できるはず!」

「いや、待ってくれ、追加の海竜が来てない……?」

「そんな!?」


 確かにイェルカさんの言う通りだった。

 今まで新しい個体がスポーンしていた位置には何もなく、海竜全体の数は減っている。


「これじゃ、火力が足りない! 削りきれないよ!」


 恐らく、普通に海竜帝と対峙し、戦闘していたら鬱陶しい海竜が減って、体力を回復されるというイベントだったのだろう。

 それにしたって回復は酷すぎると思うが、海竜の数は減らせる訳で、それ以上増えることもないというのは、ゲームバランスを上手くとり、なおかつ面白くする仕組みなのだろう。


 ただし、今回はこれが大きな痛手である。


 普通のレイドよりも少ない人数。 

 火力が足りない中、海竜の数が頼りだった。

 

 たが、それが無くなってしまう。


「戦線を引き直す! 守備を中心に考えた位置取りをして、ブレス攻撃を要警戒! また動きが変わってくるかもしれない!」


 イェルカさんがそう指示を出した時には、また一体、海竜が捕食されていた。


「ここの海竜はとにかく最後まで攻撃させる! 収支はマイナスだが、何もしないよりかマシだ! こいつらを捕食し終わったら恐らく次の攻撃が来る! それまでには、対策を考えるぞ!」


 コータが大声を上げた。


 猶予はある。

 ただ、その、『次の攻撃』が恐ろしいのだ。


 ブレスなら防げるのはボルトガさんのみ。

 他の人が食らったらゲームオーバー。


 まだスピニーさんは帰還していない。

 もし、攻撃のタイミングで帰ってきたら、巻き込まれてゲームオーバーだ。


 優秀な囮がいなくなるということはこのリスクが常につきまとうということだ。


 体力は削った。

 まだ誰もリタイアしていない。


 ただ、そんな悪くない状況でも、暗雲が立ち込めているように思えてしょうがなかった。


 いつのまにか、楽しむなんて気持ちはとうに消えていた。


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