74.楽しむ
よろしくお願いします。
OLAでは、基本的に人殺しはしてはいけないことになっている。
プレイヤー同士は制限されたルールの中では可能であるが、NPCを傷つけることは許されていない。
だから、盗賊の討伐なんていうRPGにありがちな依頼でさえも、敵NPCを倒した場合は気絶という形になり、近くの町に運ぶのがルールだ。
加えて、敵性NPC 以外は攻撃できない。
だが、あちらから攻撃してきた場合は話が違う。
今のように相手から攻撃されると、自動的に敵性NPCとして判定される。
つまり、この状態なら堂々と攻撃できる。
「かかれぇい!!」
老人の掛け声のもと、三人の兵士が俺に攻撃を仕掛けてきた。
槍の攻撃は海中にはほとんど届かない。
その分海竜がいるが、こいつらは俺よりも船の方に注意が向いているため、特に問題ではない。
気にするのは弓矢だけだ。
こちらもあまり当たらない。
「コータ! イェルカさん! この船の生贄! どうにかするために、この兵士たちやっちゃっていいですか!?」
通信を入れつつも、海竜を一匹屠る。
兵士たちに怒る老人が見えるが、彼らは海竜も牽制しているわけで、俺を仕留めるのは難しいだろう。
あのジジイへの苛立ちは募るばかりだが、今大切なのは、迅速に無力化して、生贄を助けることだ。
「なるほど。どっちにしろ祈りは止めないといけないからね。それは必要だと思うよ」
「でも、そこにいるなら確実に海竜帝との戦いは避けられなくなる。イェルカ、やるのか?」
コータの問いかけに、チャットに参加している全員が息をのんだ。
イェルカさんが答える。
「……やろう。もう、それしかない。これは、ゲームなんだから。ゲームだからこそ、大番狂わせを起こさないと楽しくないでしょ?」
チャットだから、イェルカさんの顔は見えない。
でも、あのイケメンはきっと爽やかに笑いながらこんなことを言っているんだろう。
俺は水を蹴って屋形船の方へ向かった。
先ほどよりも屋形船に海竜が群がっている。
乱入されても面倒だ。
早めに全部倒す。
「何をしておる! 奴がウロチョロしとるじゃないか! 早く仕留めろ!」
「御老座! お言葉ですが、海竜を倒さねばどうしようもありません!」
「なんだと、この無能どもが! こうなれば、儂が直々に……」
屋形船の上で言い争う声が聞こえる。
そろそろ攻め時、そう思った時だった。
GRUAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!
「何事か!」
「海竜帝様が……!」
俺も海竜帝の方を見る。
すると、乗っていた船がこちらに近づいてきているのも見えた。
「カゲツ君! こっちに海竜帝を誘導してきた! 屋形船を後ろの崖の前に着けるんだ! 囲まれないように陣を敷いて、ここで迎え撃つ!」
イェルカさんのチャットが入った。
そういうことなら……。
俺は海竜をなぎ倒しながら、船上に躍り出た。
「なっ……!」
慌てている老人をさっさと捕らえる。
「何をする!」
「この船を、あの崖の方に動かしてもらおう」
「そんなことをしてやる義理はない! お前たち、何をしている! 早くこいつを仕留めろ!」
「いいのか? あんたが人質なんだぞ、爺さん」
「くっ、しょうがない、言う通りにしてやれ」
悪役の真似事も結構うまくいくもので、屋形船は崖の方へと動き出した。
俺は、捕らえている老人を船の中にあったロープで縛り付け、兵士たちが帰ってくるのに備えた。
ここで一気に、屋形船を制圧する。
「おい、船の進路は変更してきた。御老座を開放しろ」
「これから海竜帝を倒さないといけないんでね。それはできない。邪魔されちゃうからさ」
俺は、ハルバードを大きく振るい、長槍を持っている兵士二人をなぎ倒した。
三人目の弓持ちの兵士がこちらにあわてて照準を合わせようとするも、近接なら、俺の方が速い。
ハルバードと突き出し、武器を持つ腕を傷つける。
「これで、俺の勝ちってことで、上の女の子を解放してほしい。あの子がいると、俺たちは困ってしまう」
「わ、わかった……」
「それと、岸壁についたら、あなたたちは多分元の場所に戻すことになると思う。それまででいいから、船の舵取りを頼む。できるか?」
「い、一応。でも、本当にやる気なのか!? 海竜帝は討伐例をほとんど聞かないぞ? だから俺たちは町を守ろうと、こんなことをしてきたってのに……!」
そんなの、俺が知りたい。
今のところはかなり厳しい気がしているし、俺はこの戦闘を終えた後確かめたいことがたくさんある。
それでも、なにかやりたいと思うのは本当だ。
「できないかもしれないけど、やるしかないんだよ。俺たちはもともとこんなことする予定じゃなかった。お前らのせいでここで戦う羽目になった。でも、可能性が少しでもあるなら、少しでも多くの人のためになるように頑張りたいじゃない?」
おっと。
悪役風の口調が崩れてしまった。
「とにかく! あんたは早く女の子を解放して船を動かしてくれ!」
半ば強引に、NPCの兵士を追い払って、チャットを再開する。
「屋形船の方は抑えました! これからの作戦の共有をお願いします!」
「よくやった。女性NPCの回収はしたか?」
「今、NPCにやらせてます!」
「直接様子は見ておけよ?」
「そうよ、人質にされたらどうするの?」
「えぇ、そんなに責められるの……」
俺の回答にコータとユーカからツッコミが入った。
二人は俺に厳しすぎるのではないだろうか。
「ははは、厳しいな。とはいえ、カゲツ君、ありがとう。僕たちの方ももう合流する。敵性NPCは拘束してひとまとめにしておいてくれ。生贄にされていた子は、保護。屋形船は僕たちがつき次第、こっちの船のNPCの脱出船にも使う」
イェルカさんの言葉に、チャットが少し騒がしくなる。
「じゃあ、いよいよ……」
「奴と本気でやりあうってわけだな」
「甲板に〈創造召喚〉で迫撃砲を創っている途中! これを完成させたら、加速装置は消えちゃうから、覚悟してね!」
「準備はこの通り進んでる。カゲツ君は、その屋形船の中を整理して、戦闘に備えてほしい。ほかのみんなも頼んだよ。ここが、決戦の場所だ」
全員の声が呼応した。
イェルカさんたちの船はもうすぐそこまで来ている。
その後ろには海竜帝。
そろそろこちらにも奴の攻撃がかすめるようになってきた。
祈りの歌はいつの間にか止んでいた。
俺が兵士NPCのいる方へ向かうと、彼はしっかりと俺の言った通り、舵取りをしているらしかった。
白装束の女性NPCはその傍らに座り込んで、疲れた表情をしていた。
「言われたとおりにした。だが、本当に大丈夫なのか?」
「そうよ!」
兵士NPCが俺に話しかけてきたかと思うと、隣の女性NPCが悲痛な声をあげた。
「私たちは、あの怪物を起こさないように、起こしてしまったときは被害が最小限で済むように働きかけてきたのよ!? 町には家族がいるのに、あなたたちのせいでもし町に被害が出たら……! 本当なら、私の、私一人の犠牲で済んだのに……」
俺たちに海竜帝を確実に倒せる自信はなし、この人の言っていることもわかる。
けれど、一つだけ。
「本当なら、犠牲は一人もいらないんだよ。俺たちだって、戦いたくもないし。でも、やるしかないから、やるんだよ。俺たちが考える最小限の犠牲にするために」
うまく、言葉にはできない。
多分、もともと倒すつもりはなかったのに、倒さなきゃいけなくなったこの現状にも満足してない。
だからと言って、彼女は責められない。
行き場のない感情だけがたまって、ぐるぐるしていく。
「とにかく、ここからあなたたちを逃がす。信じてもらえなくても、俺たちはやり遂げるつもりで行く」
あっけにとられる二人をよそに、俺は船の外を見るために、操舵室を後にした。
イェルカさんたちの船がこちらに近づいてきているのが見える。
すぐ後ろには当然海竜帝。
船から、シャウラさんの酸弾が放たれているのが見える。
「……あなたたちはなんでそこまでできるの」
女性の声が後ろから聞こえた。
「それは、多分、俺たちがプレイヤーだからだな」
NPCとの会話には不適切だったかもしれない。
でも、俺たちがこうして強がっていられる理由も、戦っている理由も、結局それがすべてなんじゃないかと思う。
「カゲツ君! お待たせ!」
スピニーさんがこちらに飛び移ってきた。
俺は頷いて、ハルバードを構えなおす。
これは、ゲームだから、楽しむしかないんだ。
イェルカさんの言葉や、NPCとの会話をそうやって消化しながら、船上へと向かう。
「迫撃砲、完成!! 屋形船との連絡が完了したから、加速装置はもう消えても大丈夫ね?」
「ああ、ありがとう! スピニー、頼んだよ」
「了解!」
「後方、もう海竜帝のブレスの射程だ! 仕掛けないと負けるぞ!」
「わかってるよ、コータ君! 手すきの者で全迫撃砲を発射! シャウラ、コータ君、カゲツ君、ユーカちゃんは全力で攻撃を叩き込んでくれ!! 海竜帝を叩きのめす! 全力で楽しもうじゃないか!!」
イェルカさんの発破に合わせて全員が返事をする。
心には薄靄がかかっているようだが、そんなものは今は関係ない。
楽しまないと、ゲームをしている意味がないんだから。




