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Only Life of Arcadia  作者: kaisen
第3章 竜と姫とを求める旅路
73/103

72.海竜帝襲来

よろしくお願いします。

 この世界のモンスターには明確な格付けがない。

 しかし、明らかに他のモンスターと一線を画す存在がいる。

 それが、竜帝と呼ばれるモンスターたちだ。


 俺たちが今戦っていた海竜は正確には竜種のモンスターではない。

 亜竜種と呼ばれるモンスターである。


 竜種と亜竜種の違いは明確で、四肢と翼が揃っているかどうかだ。


 この前の荒野竜にも、飛べない程度であるが翼が存在していた。

 キャロンにももちろん翼は存在している。

 ただし、こちらも飛べるわけではない。

 要は、飾りでも翼がついていれば、竜種。

 なければ亜竜なのである。


 海竜には退化した四肢のようなものはあるが、翼はない。

 だから、亜竜と呼ばれているわけだ。

 地上にいるドレイク種も大抵は亜竜である。


 そんな中で、竜種の中でもひと際強いとされるものがある。

 それが、竜帝と呼ばれるモンスターだ。

 彼らは全世界に五種類しかいない。


 海の海竜帝。

 陸の地竜帝。

 空の天竜帝。

 光の白竜帝。

 闇の黒竜帝。


 結局彼らもモンスターである。

 倒されても世界のどこかで復活することが確認されており、討伐不可能なモンスターではない。

だが……。


「ここにいるほとんどが高レベルプレイヤーだからと言って油断してはいけない! こいつは一体で僕らを全滅しうる力を持っている! 基本的に倒そうなんて思わないでくれ! 船を高速で前進させてこの海域を突破する!!」


 イェルカさんが必死な声で連絡をくれる。


 単純に考えても、荒野竜よりも強いだろう相手。

 勝てない道理もわかる。


「カゲツ君! 聞いたわね? 正面に回るわよ!」

「はい! 海竜帝は海から来るんですよね? 海上は危険では?」

「それもそうね、船に戻りましょう!」


 俺たちは海竜の背から甲板に戻り、正面の方へ駆けつけた。


 黒雲はだんだんとこちらに迫っている。


 甲板正面は、ユーカとスピニーさん、ボルトガさんが応戦しており、視界に入る敵はほとんど殲滅した後らしかった。

 俺たちとあまり変わらないタイミングで、左の方を担当していたであろう、シャウラさんとワーカーさんも姿を見せた。

 甲板にコータとイェルカさんを除く全員が揃ったのだ。


 ここで、イェルカさんから連絡が入る。


「みんな、よく集まってくれた! 僕は今操舵室にNPCの船長と一緒に来ている。船の進路を、どうにか変えようと思ってね。ギリギリ何とかはなりそうな感じなんだよ。でもちょっと時間はかかるし、この海域を抜けるのにも時間が必要だ。つまり、みんなには時間稼ぎをしてもらいたい!」


 全員が頷く。

 余程の戦闘狂でなければ、この提案に反対しないだろう。


 それくらい、現在の戦力では力が足りない。


「ありがとう! 作戦は特にない。何せ、海竜帝とは戦ったことがないし、僕はこっちで操舵をすることに全力を注ぐよ。代わりに、戦況を見つつ、指示がだせるコータ君をそっちに送ったから、みんな、彼に従ってね!」


 はい! 喜んで!

 と声をあげているのはスピニーさん。

 

 他のメンバーも特に不満はないようだったが、その姿にあきれていた。


「待たせた! こっちを見てくれ!」


 声が聞こえたと思いその方向を見上げると、マストの見張り台に立っているコータを見つけた。


「俺はそこまで探知に優れた能力がない! だからしばらくはここから声を出す! 聞こえづらいかもしれないから、チャット機能をオンにしておいてくれ!」


 コータの指示に全員が首肯する。

 攻城戦では使えなかったうえ、全員がフレンドになっている必要があるので、身内以外ではまず使われない方法であった。


 しかし、今回は条件もいい。

 チャットで問題ないはずだ。


 それより問題なのは、逃げ切れるかどうかだ。


「チャットはオンにしたな? 聞こえるか?」


 全員の肯定の声が重なる。


「さすがに音がすごいな。まあいい。イェルカによれば、舵はもう海竜帝から逃れる方向に切ったらしい。逃げ切るためには、エリアが遷移する地点までいかなければならない。およそ、十五分だ。それだけの時間耐えてくれればいい」


 十五分。

 この時間が長いのか短いのかは、俺の知識ではわからない。

 しかし、メンバーの面持ちから察するに、なかなか大変なことではあるようだ。


「まずは基本方針を確認しておく。奴に攻撃を食らったら船が沈む。だから、攻撃を食らってはいけない。誰かが受け止めるか弾き返すか、あるいは海上で囮になって攻撃の方向をそらしてくれ」


 ……いや待って。

 基本方針のその一から高難度過ぎでは?


 いや、理屈はわかるけどさ。

 完全に誰をどこに配置するのか言い方でわかるし、あいつはほんとに性格が悪い。


 コータはこの後も、誰がどう動くのかわかりやすい対策方法をつらつらと並べた。

 そして完成したのが、次のようなグループ分けだ。

 

 迎撃、防御、囮グループにユーカ、ボルトガさん、俺。

 足止め、サポートグループにスピニーさん、シャウラさん、ワーカーさん&タテハさん。


「進路を変えたとはいえ、奴が迫ってくるまで、あまり時間がない。手早く準備を進めてくれ」


 嵐はすぐそこまで迫っていた。

 俺は一度降りた海竜の背にもう一度乗った。

 

「これはさすがに貧乏くじでしょ。やられるってこんな状態じゃ」


 悲しみを覚えつつも、さっきユーカに言われたことを思い出す。


『告げ口しといたから。うまくやって帰ってきなさい。ゲームオーバーで逃げるなんて、そんなバカみたいなことしたらキレるわよ?』


 正直何を脅されているんだかさっぱりだったけど、生きなければならないとは思った。


 といっても、方法が全く思い浮かばない。

 海竜帝が近づいてきたときにはおそらく、周りに海竜もいるはずだ。


 倒せなくはないけれど、やはり多数を相手にするとなると不安が大きい。

 俺は海に入られたら攻撃できないしな……。


 この問題が解決すればそれなりに戦えると思うんだが、その方策が今の俺には思いつかなかった。

 しかし、長考している時間はない。


「見えた! そろそろ射程だ! 警戒しろ!!」


 コータの通信が入る。

 その言葉を聞いて、嵐の方を見やると、巨大な影がこちらに向かってくるのがわかった。


 海竜の五倍はあるだろうか。

 頭のつくりは海竜に似ているが、海竜よりも太い首と胴体を持ち、翼が小さいながらもついているのがわかる。

 発達した腕や足は、竜帝といって差し支えない逞しさだ。

 あれに攻撃されたら、本当にひとたまりもないだろう。


「遠距離攻撃が使える人は頼む! 奴が魔法攻撃をしてきたら、迎撃を!!」


 GURUAOOOOOON!!!


 ものすごい音量の咆哮が俺たちの耳を震わせた。

 この時点で、今までの敵との格の違いを思い知らされる。

 

 それでも、やるしかない。


 こちらの先制攻撃は、シャウラさんのオーブだった。


「〈雄を侵食したる(ディソルティブ)兇腐鋏(クロウラー)〉!!!」


 あの大会で見た強力な酸が射出された。

 シャウラさんの方を見るとやはりあの鋏のような武器が腕に装備されていた。


 射程は結構あるらしい。

 船尾のギリギリから放った酸弾が防ごうとした海竜帝の腕に命中する。

 

 海竜帝の右腕の鱗が、煙をあげて溶けている。

 効果あり。

 シャウラさんの攻撃は奴に通ることがわかったのはでかい。

 

 GRYUUUUNN!!!

 

 海竜帝の荒い咆哮が聞こえる。

 奴は怒ったのか、その巨体からは想像もできない速さで上半身をひねった。

 そして、勢いをつけた状態から、水属性のブレスを吐き出した。


「ブレスに対しての防御はできない! 迎撃頼んだ!」


 コータからの声に、ユーカが動く。


「〈女王の乱獅子(ストレングス)!!!〈裂破(クラスト)〉!!!〉」


 最大規模に強化、拡張したであろう戦闘斧が、回転しながら飛んでいく。

 リキャストできる“兵器型”の武器ならではの攻撃方法だ。

 ブレスに真正面から飛んで行った戦闘斧は、それをかき回し、こちらにまで届かない程度に拡散した。


「よし! ユーカナイスだ!! ブレス攻撃は海竜帝といえど、リキャストタイムが長くかかる! 今のうちに距離を離すから、追撃に対応してくれ!」


 コータの声が合図になったかのように、船の航行速度が上がった。

 海上から船を見れば、何やら船の側面に水しぶきをあげる機械が取り付けられている。

 

「みんな! 加速装置を〈創造召喚(オーダーメイド)〉で作ったよ! これで船にブーストがかけられる!」


 スピニーさんの声がチャットに入った。

 あの水しぶきはそういうことだったのだ。


 海竜に乗った俺は、船に寄り添うように進んだ。

 後ろから追いかけてくる海竜帝のプレッシャーがすごい。

 

「予想外に海竜帝は速い! 遠距離攻撃はこっちに十分届く! 防御と迎撃、全力で当たってくれ!」


 全力も何も、俺はすでに全力で逃げている。

 やはり海上にいる敵にはヘイトが向きやすいのか、海竜帝の周りにいる海竜どもが俺の方にわらわらと寄ってくるのだ。


 幸い、少し距離があったから、まだ攻撃を食らってはいないが、何度も水弾が近くに着水している。

 もはや時間の問題だといっても過言ではないだろう。


「海での戦闘なんて想定してないんだよ、こっちは!」


 いらだちを言葉に乗せてみても、状況は全く変わらない。

 何か、策を考えなければ。


 数を減らさなければ、俺は追い込まれてやられてしまうだろう。

 しかし、攻撃を当てるにはキャロンを“魂装”して、あの攻撃を放つしかない。

 投擲銛でかすり傷くらいは狙えるかもしれないが、確実ではない。


 海という環境は、近接攻撃メインで戦っている俺には厳しいというのが本音だ。


 ふいに、乗っている海竜がぐわんと揺れる。

 尾の方に噛みつかれたらしい。


 俺は何を思う間もなく、戦闘を余儀なくされた。

 切り抜けなければ、待つのはゲームオーバー。


「どうするか……」


 ハルバードを構え、襲い来る海竜を切り伏せる。


 呼びだしていた海竜の体力がガンガン減っていくのがわかる。

 残された時間はもうわずかであった。


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