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Only Life of Arcadia  作者: kaisen
第3章 竜と姫とを求める旅路
72/103

71.新たな一歩

よろしくお願いします。

「状況は!?」


 イェルカさんの声が聞こえた。


「海竜が少なくとも二十頭!! それ以上いるかもしれない!」


 甲板は大変なことになっているようだ。

 俺たちも、戦線に出るしかない。


 クーレさんの歌声に後ろ髪を引かれる思いでスクリーンのある部屋を出る。

 早く終わらせて、クーレさんにメッセージを送らなければという思いが心を占めていた。


 甲板にはいつの間にか嵐が吹き荒れていた。

 バタバタと走り回るNPCの乗組員をよそに、インセル改めジーカーのメンバーが揃っていた。

 

「来たか。前を見てくれ。これほどの大軍はなかなかお目にかかれないぞ」


 険しい顔で海を望むイェルカさんは存外軽い口調で言った。

 シャウラさんが彼に対して文句を言う。


「そんなかっこつけてねーでさっさと指示を出せよ。でないと沈むぞ、この船が」

「まあまあ。早く動かないといけないのはイェルカだってわかってるわよ」


 いさめるタテハさんにこたえるように、イェルカさんが指示を出し始める。


「とりあえず、相手の状況がわからない。僕のオーブで偵察に行かせるから、襲ってくるの対処を頼んだよ。そうだな……ボルトガはNPCを船室に避難させて、そこを死守。この依頼はNPCに被害出したらいけないからね」


 このような調子でイェルカさんは素早く配置を割り振っていった。

 その指示にインセルのメンバーは全く戸惑っておらず、信頼を置いていることがわかる。


 初めてチームを組むはずの俺たちに対してもかなり的確に配置してくれた。

 コータは中衛。

 全体を見える位置ではあるが、近接戦闘で遭遇戦に参加することも可能な位置である。


 ユーカはバリバリの前衛。

 誰よりも長いリーチを持つ変幻自在の戦闘力はイェルカさんたちの中にはあまりいないタイプらしく、歓迎されていた。


 俺もなぜか前衛である。

 理由は、人のバランスが悪かったのと、俺のオーブの特性を見たいかららしい。


「やっぱり気になるからね、噂の竜使いさん。相手も竜だし、見せてもらえるかなって。それに、君のオーブはどんな場所でも活躍できる力を秘めている。ここらで海中戦力をストックしておくのもいいんじゃないかな?」


 つまりはオーブの能力を使って敵を倒し、その上で海竜を呼べと、そういうことですか。


 考える間もなく、遭遇戦の火ぶたは切って落とされた。

 海竜が水の魔法のような攻撃をしてきたのだ。


「みんな! 頼んだよ!!」


 イェルカさんの指示により、全員が配置につく。

 俺も、前線に駆け出した。


 目まぐるしすぎる展開で気持ちが全然落ち着いてないけど、今は頑張らないといけない。


「カゲツ!! 右は任せたわ!! 私は正面を突破するわ!」

「スタッフの二人がそう出るんなら、あたしは左に向かうぜ!!」


 ユーカとシャウラさんが俺に声をかけてくる。

 俺は返事をしながら、新調したばかりの武器を取り出した。


 ハルバード。

 前に使っていた槍とは違い、薙ぎ払ったりして戦うことが想定されている武器だ。


 コータにPvPを教えてもらったゲームでは槍を使うことも多かったけど、自分の中では、長物で「斬る」という想定がされていることが多かった。

 だから、今まで通りに「突く」こともできるが、「斬る」ことがよりしやすい武器に変えたのだ。


 持ってみた感じは悪くなかった。

 取り回しもあまり変わらない。

 若干、武器そのものの重みは増しているけど、問題はないレベルだ。


「前方! 右方向! 海竜一!! 正面三!! 左一!!」


 ふいに耳元でイェルカさんの声が聞こえる。

 あたりを見ても何もいない。


 これがイェルカさんのオーブの能力。

 〈潜み群れる(ラ・テント)喧騒蟲(ミセオド)〉。

 視認できないほどの微小なムシを召喚し、使役することができる。


 攻撃力は皆無であるが、彼らの見たものなどをイェルカさんは知ることができ、時には今のように彼らをスピーカーのように使うこともできる。

 偵察や連携の専用オーブなのではないかと思ってしまうほどの性能である。


 イェルカさんが教えてくれたように、沖の方から船の右側に接近してくる影を捉えた。

 雨が吹き荒れているせいで、視界が悪く、そいつの姿はぼんやりとしかとらえることができない。


「くそ……海上じゃキャロンは呼べないし、あいつを倒すならとりあえずは生身でやるしかないか」


 俺はハルバードを構え、甲板の右端ギリギリまで歩を進める。

 敵の位置を正確に把握するためだ。


 奴はやはり海中から半身を出した状態でこちらを睨んでいた。

 イェルカさんが報告してくれた通り、だんだんとこちらに接近していることがわかる。

 しかし、どう考えてもこのままハルバードで攻撃できるようなリーチではない。


「しょうがない。本当は、使わないつもりだったけど……“魂装”!」


 俺はとりあえず、キャロンを“魂装”でまとって、遠距離攻撃を仕掛けることにした。

 炎属性だからどれだけダメージが通るかはわからないけれど、やってみるしかない。


 ハルバードはいったんしまおう。

 この攻撃を使うとなると、投擲銛の方が適している。

 俺が今持っている投擲銛は、ハルバードと一緒にボルトガさんから買ったものだ。


 この二つで俺の所持金はほぼゼロになったけど、まず長いこと変える必要がない装備を手に入れられたのは僥倖だった。

 投擲銛は使い捨てじゃないかって?

 こいつはその点を十分に考慮してある。


 銛の持ち手側には、強力なワイヤーがつないであり、自分の腕にはそのストッパーがつけられている。

 下手をすると体ごと持っていかれそうな装備だが、ここはゲーム世界。

 多少の物理法則は無視できるらしい。


 相当がっちりはまらない限り、この銛は手元に返ってくるシステムだ。

 返しがついてない先端を使っているのも、主な使用法がキャロンの力を使うときの投擲用だから。


 さあ、実戦での初運用。

 頑張ってくれよ?


「“天の光臨、地の喝采、全てを照らし、全てを救え”〈魂装:救済の灯(ヒリングヴォルムス)〉!!」


 白く、鱗の生えたような俺の右腕から放たれた銛は光をまとって、一直線に海竜に向かっていった。

 海竜は水の魔法のようなものでこれを弾き返そうとする。


 しかし、そう簡単に破られては困る。

 ここまでだけでコストの四分の一は持ってかれてんだ。

 本当はこんなに序盤からぶっ放していい技じゃないんだから、それなりの効果は得られないとな!


 俺の放った銛は、水の魔法を突き抜け、海竜の頭部にもろに当たった。

 頭蓋をつきぬけ、頭部を燃やし、一撃で奴を沈めることに成功したのだ。


 ここからが問題だ。


 キャロンとの“魂装”を一度解除する。

 そして、海中でも戦える新しい力を呼び出す。


「“拓く航路、反転する潮流、燃え盛る灯は此方に。迷える魂よ、泡末の現へ” 〈外ツ國、(トォート・)還リ來タル禍ツ舟(ヴィシュワート)〉!!」


 天へ昇る光の奔流は、眩い閃光へと変わり、空に散らばる。

 やがて、魔法陣となって降りてきたそれは、海面に触れるなり、海竜の姿をかたどった。


「よし、戦力的には敵と同じはずだが、海上でも戦える奴がいるのはありがたい。いっそ、こいつに乗るのもありだな」


 そんなことを考えていると、またイェルカさんの連絡が入った。


「追加の敵が来る! 正面十! 右三! 左三!」


 なんて面倒な……。


 というか、一体で三体に勝てとか無理な話だろ。

 こういう時こそ、サポートが必要だ。

 案の定、俺が海竜に飛び乗ろうとすると、後方からタテハさんの声が聞こえた。


「カゲツ君!! 手前から順番にやるわよ! 私も乗せて!!」


 海竜は蛇のように長い体をしている。

 確かに二人くらいなら乗れそうな背中だ。

 きっと、幻覚をかけたりするために、近づく必要があるのだろう。


「了解です! 後ろについてきてください!」


 俺はそのまま呼び出した海竜に飛び乗り、タテハさんも乗ったのを確認してから、前進するように指示をだした。


「やっぱり、すごいオーブよね。“魔術型(スペル)”でも異質な感じだもの」

「まあ、変身要素まで含んでますからね。“召喚型(サモン)”っぽいことも、“兵器型(アームズ)”っぽいことも両方やれるって意味では、まぎれもなく魔法ですかね」


 嵐の海でも、海竜は難なく進む。

 船上よりも安定しているんじゃないだろうか。


 移動しているときの海竜は、まさに蛇のように進む。

 だから、海上はとても見渡しやすい。

 そんな中で、近くの海面がにわかに盛り上がった。


「カゲツ君!」

「はい!」


 俺はハルバードを構えて、海竜を止める。


 しぶきをあげて現れたのは、俺の呼び出した個体より少し小さめの海竜だ。

 ここなら、十分に攻撃が届く!


 俺は思い切りハルバードを横なぎにふるった。

 ちょうど、首をもたげて噛みつこうとしていた相手の歯とぶつかりあう。

 ガキンという鈍い金属音を立てて、両者の攻撃がはじかれた。


 重いが振り回されない。

 いける。


 二度目の噛みつきが来る。 

 俺はあごの下から、かちあげるように奴の攻撃を阻んだ。


 ここで、ハルバードになった利点が発揮される。

 まず、槍では真下に入り込まないとできない上への攻撃を横からの軌道でできること。

 そして、刃がついているために、斬撃ダメージを入れることができることだ。


 GYAOOON!


 叫び声をあげながら、海竜が後方に下がった。

 エフェクトを見る限り確実に裂傷の状態異常を入れることができたのだろう。

 こいつはこのまま戦えば倒せそうだ。

 そう思った瞬間、目の前のこいつとは違う海竜が飛び出してきた。


「任せて! 〈揺蕩う波間の(ファレノプシス)夢蝶々(オーキッド)〉!」


 紫の蝶が、二体目の海竜の前でひらひらと舞い踊った。

 すると、そいつは一気に体の力をなくし、海の中へ倒れこむ。


「あいつには眠ってもらったの。今のうちに一体目をやっちゃって!」


 今のがタテハさんのオーブ……。

 正直、能力は知っていたが、こんなに即効性のある強力なものだとは思っていなかった。

 しかも、これで詠唱は省略。

 一対一で戦ったらほとんど勝ち目がないだろう。


 俺は、ハルバードをあと何撃か叩き込み、一匹目を完全に戦闘不能にした。

 残る二体も、タテハさんが状態異常にしてくれたおかげで、どうにかなった。


 船の右側はもうほとんど制圧したといってもいいのではないだろうか。


 と、そこへイェルカさんの連絡が入る。


「カゲツ君、次は正面を手伝ってあげてくれ! 敵の親玉がそろそろ出てくる! 海竜帝だ!! 想定の最悪中の最悪だ!!」


 とっさに正面の方向を見る。


 嵐の中に、ひと際分厚く荒れ狂う雲が接近していた。


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