70.サイアク
久々のOLA連日投稿です。(もっとちゃんとやれ)
よろしくお願いします。
「よし! それでは、インセルとスタッフ君たちの合同チーム、『ジーカー』の初依頼、開始だ!」
高らかに宣言しているのはイェルカさん。
それに合わせるように、出航の合図がなされ、マストの帆が広げられた。
俺たちは今、“キョウゴク”に向かう帆船の甲板にいる。
もちろん、護衛依頼を受注している状態だ。
あの会議から三十分が経過した後のことである。
「うちのリーダーがごめんなさいね。すぐに変なこと始めたがるんだから」
「いえ、にぎやかでいいんじゃないですか? うちのリーダーはちょっと疲れてるみたいですけど」
出航して間もなく、俺に話しかけてきたのはゆるふわ系のタテハさんだった。
確かに彼女は、会議の時もこちらをちらちら見ていたような気がするが、いったい何が気になっているのだろう。
「タイプが違いそうだものね。まぁ、そこまで相性が悪いわけではなさそうだから心配はいらないと思うのだけど……」
こうやって世間話をしている時も、何かを探るように俺の方をちらちらと見てくる。
正確には、頭の上か……?
「ところで、その、頭に乗っている、かわいい生き物はなんなのかしら?」
そういうことか。
アリスが気になっていたからこっちを見ていたんだな。
確かにこのかわいさは尋常ではない。
アリスがいるだけで、このゲームに出会えてよかったと思えるもんな。
「この子はアリスっていうんです。俺のテイムモンスターで、アルカディアドラゴンの幼体ですよ。よかったら抱っこしてみます?」
「い、いいの!?」
「はい。……よいしょっと。アリス、起きなよ」
俺はそういいながら頭の上のアリスを胸元までおろした。
基本的に頭の上で寝てばっかりのアリスだけど、おそらくこれは、他のテイムモンスターでいう待機場所のようなものなのだろう。
普通のテイマープレイヤーはそのほとんどが“召喚型”のプレイヤーだ。
だから、そういった場所が用意できる。
俺にはないから、代わりに頭の上だったりするんじゃないだろうか。
キュァとあくびをするアリスを、若干戸惑い気味のタテハさんに手渡す。
おそるおそる抱きかかえるタテハさんは、安定する位置を見つけると、顔を緩めながらアリスの頭をなでた。
「えへへ、ふわふわでかわいいねぇ、アリスちゃんは。いつまでも触っていられるよ……」
表情筋が解けているんじゃないかと思うほど、デレデレのタテハさんに俺は少し誇らしい気分になる。
やはりうちの子が世界一だ。
時間がたつごとに、だんだんとタテハさんの様子も落ち着いてきて、顔も元に戻り始めた。
しかし、まだ手はアリスから離れていないし、目線はほとんどアリスの寝顔である。
この状況でも寝られるアリスは豪胆すぎるのではないだろうか。
ふと、タテハさんが口を開いた。
「そういえば、イェルカがチーム名決め始めたとき、ボルトガと抜け出してたわよね? 何をしに行ったの? 今日初対面のはずでしょう?」
「あ、それはですね……」
俺はステータス画面を開いて、武器を選択した。
手元に、ハルバードが現れる。
「これをいただいてたんです。もともと、俺が装備を壊してしまって、次を買わないといけないって話をしてたんですよね。それで、コータの知り合いであるボルトガさんに頼んだんです」
「なるほど。確かにボルトガは鍛冶屋もやってるわね。コータ君とはそういうつながりだったの」
「みたいですね、おかげでいいものが手に入りました」
「よかったわね。長物を使うってことは、カゲツ君は結構前線に出てるタイプなのね」
タテハさんの視線が少し変わる。
多分、品定めをしているんだと思うけど、俺は別に強くもないし、オープもなんとなく伝えてあるから、素直に答えておく。
「そうですよ。変な“魔術型”なので、戦えないと意味ないんですよね」
すると、タテハさんは一転、うれしそうな雰囲気になる。
「わかるわ! とってもわかる! 私も、“魔術型”なのにサポート特化だから一人でいるときは思いっきり戦い続けないといけなかったし、このチームにいても、近接戦闘バリバリするもの。“魔術型”で魔法使いロールをしている人とか見かけるとちょっとうらやましくなっちゃうもの!」
タテハの戦闘スタイルは一言でいうと、暗殺者だよ。
と言っていたイェルカさんの顔が脳裏に浮かんだ。
俺も結構同意できるところはある。
だって、そもそも、俺のオーブは“召喚型”だと間違えられることがほとんどだもん。
“魔術型”というからには、少しは魔術師っぽい動きをしてみたい気持ちはある。
ただ……。
「気持ちはめっちゃわかるんですけど、うちのチーム、脳筋なんですよね……。三人しかいないのに、遠距離攻撃の真似事ができるのは俺だけだし」
「それはまた個性的ね……。あれ? でも、大会中はあと何人かいたでしょう?」
「あぁ、それなら……。あ!! ああああああああ!!!!!!!」
「なっ、何っ!? どうしたの!?」
「ちょ、ちょっと、急用を思い出しました!!!」
俺は急いでコータとユーカのもとへ向かって走り出した。
「やばいやばいやばい!!! 今日はクーレさんの、ライブ当日だ!!!」
そう。
俺たちは大事なことを失念していたのだ。
今日はイベント最終日、クーレさんのライブ当日だ。
本来なら、俺とコータとユーカの三人で、イベントの結果発表を見たのち、ライブ会場に行く予定だった。
しかし、今は依頼を受けて船の中。
マップからのワープはリタイアと同じ扱いになってしまうし、“キョウゴク”につくのが遅れてしまう。
その上、今から行ったところで、本会場には間に合わない。
どうしたらいいのか考えながら勢いよく船内の談話室のような場所に駆け込む。
そこには、クーレさんのライブを大画面のスクリーンの前で待機している何人かのプレイヤーと、俺と同じく顔を青くしたコータとユーカがいた。
コータの方から声がかかる。
「おい、メッセ見たか?」
「メッセージ?」
首を傾げつつも、自分のメッセージボックスを開く。
そこには、差出人がクーレさんになっているメッセージが二つ。
「え、いや、これ、中身見た?」
「俺とユーカは見たぞ」
「な、内容は……」
「自分で確かめなさいよ。久しぶりにこんなミスしたから、私にはもう聞かないで」
二人の反応が怖くて、俺はそっとメッセージを見た。
―――――――――
三人へ。
今日は私の初ライブだよ!!
この前あげたチケットで、関係者席に座れるからね!
今日は三人が見てることも意識して、みんなまとめて楽しませちゃうよ!!
じゃあ、また本番で会おう!!
―――――――――
これは、先に送信されていたメッセージだ。
ライブを楽しみにしている感じが伝わってくる。
それだけに、二つ目が怖い……。
―――――――――
三人へ。
コータ君がラトさんに入れた連絡で知りました。
“キョウゴク”に行くんだってね。
いいなあ、うらやましいなあ。
私も仲間なんだから、誘ってくれればよかったのに……。
あ、そっか!
今日ライブだもんね!
そりゃ、誘えないよね!
……うん、三人がいないのは少し寂しいけど、私はライブでみんなを楽しませるのを頑張るよ!!
みんなで、どこかで見てくれてるのかなあ。
そうだといいなあ。
お互い忙しいけど、頑張ろうね!
――――――――――
なんというか……やばいな。
「これ、やばいよね?」
「何言ってるのよ。やばいに決まってるでしょ? あんなに楽しみにしてくれていたのに、私たちは、裏切ったようなものなのよ?」
「さすがに弁解の余地がないな……」
とにかく、俺たちはこれからどうすればいいのかを話し合った。
謝罪のメッセージはその場で書いて全員が送り、問題はこの後の動きをどうするのかだ。
「メッセージだけで許してもらえるなんてことは絶対にない。許すような口ぶりをしていても絶対に気にしているはずだ」
「でも、もう引き返せないところまで来てるのは変わらないわ。どうするのよ?」
すべてを解決する名案なんてものは当然浮かんでくるはずもなく、時間だけが過ぎていった。
件のライブの生放送が映されたスクリーンには、もうカウントダウンが表示されている。
画面上のクーレさんが元気な声で注意事項を話していた。
きっとこの画面は録画なんだろうけど、ファンのために全力で取り組もうという強い意志のようなものが感じられる。
誰からともなく、俺たち三人は画面を注視し始めた。
カウントダウンがゼロになり、ステージの遠景が映し出される。
クーレさんのパーソナルカラーであるパステルブルーのペンライトが観客席を埋め尽くしていた。
カメラはステージの中央に寄っていき、会場の照明がもう一段階トーンダウンした。
会場がにわかに静まる。
スクリーンの前で見ている俺たちも同様だ。
「みんなーっ!! ようこそ!! 私の初めてのステージへ!! 今日は、思いっきり楽しんでいってね!!!」
クーレさんの声が聞こえ、会場がにわかに沸き立つ。
それを飲み込むようにバンドのアップテンポなサウンドが流れ出す。
イントロで会場は大きな盛り上がりをみせる。
奈落から、飛び出すようにクーレさんが姿を見せた。
大歓声の中、一曲目が進行していく。
満面の笑みを浮かべて歌うクーレさんは、やっぱりキラキラしていて、俺たちとは少し違う世界の人間なのかなとも感じる。
それでも、見とれてしまう。
そして、思い出してしまう。
俺たちと一緒に笑っている姿を。
「結構、夢みたいな時間だったのかな」
ふいに口から出た言葉になんとも言えない苦さを感じた。
ライブの時間は二時間だった。
後半に入ってくると、俺たちは難しいことを考えず、ただ、目の前の光景に夢中になっていた。
会場で見られたらどれだけ素晴らしいことだっただろうかと、そんな馬鹿なことを思いながら。
時間的にラストのMCだ。
クーレさんが静かな会場で言葉を紡ぎだす。
「私は、この活動を始めた当初、ここまでのことができるなんて思ってもいませんでした。でも、今、こうして、目の前に夢みたいな光景が広がってる……。本当に幸せなことだと思います。全部全部、応援してくれて、支えてくれる皆さんのおかげです。この会場だけじゃない。ここにいなくても、私に関わってくれたみんな。この世界で一緒に冒険してくれたみんな。その一人一人が、私にとって大切な人です」
その姿は、多くのファンを抱えるアイドルそのもので、強くて、だから、この後の言葉が信じられなかった。
「そんな、大切な人たちのために。多くのファンと友人のために歌います。最後の曲です。聞いてください。Dreaming with You!!!」
軽快なイントロが流れ始めたところで、俺たちのライブに水を差すように船の警報が鳴った。
「海竜の群れだ!!!」
それはこの依頼のメインイベントである遭遇戦において、想定しうる中で最悪の相手だった。




