69.合流
めちゃくちゃ遅れて申し訳ありません。
次はもっと早く上げます。
よろしくお願いします。
ゲームの世界では船の出航は朝だろうが夜だろうが関係なく行われる。
それは現実と時の流れが違うからでもあるし、出航が滞ると面倒な対応が必要になるからでもある。
だから、この世界の大体の店や機関は年中無休で二十四時間営業である。
そんな背景の上に成り立つ夜の港は、やはり賑わいでいた。
灯りの配置も多いため、人を見分けるのには苦労しないが、それでも簡単には探し出せないように思われた。
“キョウゴク”行きの船舶は、船着き場の一番奥の方に停泊していた。
暗がりでよく見えないが、そのあたりに何人かの見知った集団が見える。
コータとユーカの姿もそこに確認できた。
「コータ!遅れてごめん」
「いや、問題ない。とりあえず、俺たちの追跡していたあいつは“キョウゴク”に行くつもりらしいことがわかったからな」
「そんな不確定な言い方して……何かあったの?」
俺が質問すると、答えてくれたのは隣にいた大柄な男の人だった。
「あいつ、この船に乗ったところまでは良かったんだが、途中で甲板から飛び降りたんだよ。俺はすぐさま海を確認したが、どうもあいつの仲間が小さな漁船を使って回収したみたいなんだよな」
「そんなことが……。そういえば、スピニーさんが漁船の停泊地付近に怪しい奴を見たから追うって……!」
「なっ! それは本当か!?」
コータが少し焦ったように俺に聞き、メッセージを確認する。
そして、スピニーさんのメッセージを見たのだろう。
なんとも言えないような表情を浮かべると、俺たちに言った。
「スピニーは俺たちの追っている奴らの漁船を一つ鹵獲して一人で追跡をしているらしい。位置情報も常にこちらに送ってくれることになった」
「それって上出来じゃない。どうしてそんなに複雑そうな顔をしているの?」
「いや、単身で乗り込むのはあまりに危険だと思っただけだ。相手はこれだけの人員をそろえられる一つの組織だからな。こちらが追跡しているという情報を得られるのも困る。それに……」
「それに?」
思い悩むような顔をしていたコータは一転、取り繕うように笑顔を見せた。
「何でもない。まだ不確定な部分が多いなと思っているだけだ」
その姿を見かねてか、先ほどの大柄な男の後ろから、すらりとしたイケメンが出てきた。
そして、周辺の関係者と思わしき全員に聞こえるように言う。
「まあまあ、ここでの話はこの辺にしよう。ひとまずは追跡が続けられているんだから、ここはお互いのチームで情報交換をして、次の作戦を立てるのがいいんじゃないかな?」
爽やかな笑みを浮かべる彼はおそらく、ここにいる俺の知らないグループを率いているんだろう。
彼の言葉に残りの四人が頷いた。
俺はこの人物を、どこかで見たことがあるなあと既視感に駆られながら、理解できていない現状を把握するように努める。
彼はイケメンスマイルを如何なく発揮して、コータに言う。
「とりあえず、場所を変えないか?」
「それはそうだな。特性依頼を受けないといけないから、時計塔の休憩スペースにでもいくか」
このイケメンに対して、いつもの調子で、俺たちの意見も聞かずに予定を決めていくコータは、きっと大物になるんじゃないかと思う。
俺は手慰みに懐に入っているアリスをふわふわとなでた。
この都市の時計塔はメインの施設である港のすぐ近くに存在している。
それこそ、港から歩けば一分もかからないくらいの場所だ。
俺たちはその時計塔の休息スペースに9人が顔を突き合わせていた。
「とりあえず、現状を俺に説明してくれないか? コータ。正直、俺には何が何だかさっぱりだ」
「私も、それは確認しておきたいところね。半分くらいわかってはいるんだけど」
「それはもちろんそうする。ただ、その前に……スピニー、なんでお前当然のようにここにいるんだ? 船を奪ったんじゃないのか?」
コータのジト目の先には、とてもご機嫌な顔でコータの腕に自分の腕を絡ませるスピニーさんの姿があった。
彼女はいいのいいのといいながら、全くコータの言葉に耳を傾ける様子がない。
このメンバーの中で誰もその光景にツッコミを入れないことから、全員が関係者であることはわかる。
ちょっと普通じゃない判別方法だが、今回ばかりはそこには触れないことにしよう。
「……わかった。とりあえずは現状の整理から始めよう。まず、『インセル』のメンバーがここにいることについてだ」
コータの言うように俺たち以外の六人は全員が攻城戦チーム『インセル』のメンバーである。
インセルのメンバーは攻城戦の決勝戦で不完全燃焼のうちに優勝した。
彼らはそれが納得いかず、運営に迫ったらしい。
その時の担当がラトさんだったらしく、なんと今までの経緯を話して俺たちと同じ協力者になったのだという。
「え? ラトさん、また協力者増やしたの? 何考えてるわけ?」
「まあまあ、僕たちが割と強硬に迫っちゃったところもあるからね。それに、僕にはちょっとしたコネがあるんだよね」
さらりと答えるイェルカさん。
インセルのリーダーでスピニーさんの実の兄らしい。
アバターは茶髪のイケメン。
リアルを反映してアバターが作成されるこのゲームにおいて、このルックスはリアルでもかなりイケメンだと思われる。
うらやましい。
イェルカさんはその後、リーダーらしく、インセルのメンバーの紹介もしてくれた。
連携のために、能力まで公開である。
いい人過ぎてびっくりだ。
まあ、詳細は聞けてないから、切り札は取っておいてあるんだろうけど。
「……って感じかな。あぁ、そうそう、僕はインセルのリーダーをやっているイェルカといいます。オーブは“召喚型”。得意なことは、超小型の虫を大量に飛ばして、周囲の偵察、状況の把握をすることだよ。この能力があるから、僕はリーダーとして指示を出せるといっても過言ではないね」
なるほど。
いや、待て。
ええと、一度に六人分の情報を言われたからこんがらがりそうだ。
まずは落ち着いて整理をすることにしよう。
一人目。
俺から見て、右斜め前。
めちゃくちゃガタイのいいこの人は、確かボルトガ。
オーブは“兵器型”で、超強力な防御力を誇る鎧を装備するという。
俺が思い出したのは、コータと観戦したあの試合だ。
インセルで最後にフラッグをとったプレイヤー……。
彼は確かに、真っ黒な鎧と鋏のような形状の武器を持って、酸の雨も銃弾も意に介さず、フラッグを奪取していた。
そう考えると、やはり恐ろしいな、トップチーム……。
しかも、この人がコータの知り合いでこの都市で鍛冶屋を営んでいるとか。
多才かよ。
二人目。
ボルトガさんの隣の女性。
この人はシャウラという名前で、“兵器型”のオーブの持ち主。
この人も、ボルトガさんと同じ試合で見た。
というか、ボルトガさんとペアで行動してて、最後にあたり一面を酸の地獄に変えたのはシャウラさんだ。
オーブで呼び出す武器の能力が、毒か酸に特化しているというから、しょうがないのかもしれないが過激じゃないか?
それとも、アバターがドクロのピアスをしてダウナーな服装をしているからそう思うのかな?
正直、第一印象は怖いで確定である。
三人目は白いパーカーでニコニコ顔のお兄さんだ。
彼はワーカーと呼ばれていて、“召喚型”のオーブの持ち主だそう。
呼び出すのは、数種類の巨大なアリを数百匹。
それだけでも絵面的には恐怖でしかない。
そういえば、モニタに映っているシーンはあまりなかったけど、ワーカーさんもあの試合に出ていた。
当然、アリの大軍を引き連れて。
この話を聞いた時に一番怖かったのは、ニコニコの顔で目が笑っていなかったことだ。
第一印象怖い人ナンバーツーである。
四人目はタテハさん。
鮮やかな青や紫が基調となったローブを着ているゆるふわ系のお姉さんだ。
うちの姉には到達できないであろうかわいさを持っている。
しかし、前の三人と違って、この人を攻城戦で見た記憶がほとんどない。
なぜだろうかと首をひねっていたら、答えは彼女のオーブにあった。
彼女のオーブは“魔術型”で、幻惑、混乱効果のある補助魔法を使えるのだとか。
オーブで攻撃できないからという理由で、身体能力のステータスもなかなか高いらしい。
この二つの個性を生かして、あの試合で遊撃を担当していたのが彼女。
出番のない試合もあるので楽でいいのよとは彼女の弁だ。
こうしてみると、インセルメンバーのバランスの良さは半端じゃないな。
トップチームなのも頷ける。
あの謎すぎるスピニーさんでさえ、“召喚型”の珍しい能力を保持していることが明らかになった。
「私のオーブは“召喚型”だけど、ちょっと変わってるところがあって、自分で作ったモンスターに命を与えることができるのよ。<女帝鉄甲蜘蛛>もその一つ。強力なモンスターを作り出せたりする分、複数のモンスターを一気に存在させることができないのが残念よね。さっきはあいつらに発信機的な何かをつけなきゃいけなかったから、急遽<女帝鉄甲蜘蛛>ちゃんを壊して、新しい追跡用のモンスター作ったんだもの」
なるほど。
作って、それをつけることで、自身はこちらに残れるようにしてきたわけか。
これでやっとスピニーさんがなんでいるのかの理由がわかった。
一通り言い切ったところで、コータが言う。
「よし、これで2チームがここに存在していることの意味は分かったと思う。ここからが本題だ。実は、この港から“キョウゴク”に行くためにはいくつかの方法がある」
コータの言うように、この“ラジニア”から“キョウゴク”に向かう方法は一つではない。
まずは客船で行くルート。
安全かつ確実なのはこのルートだろう。
しかし、これにはチケットを購入する必要があり、正直あまり使いたくない。
そこで、今回コータが提案したのは、二つ目に有名な方法だ。
「……それが、警護の特別依頼を受けて、そのまま“キョウゴク”に上陸するルートだ。報酬ももらえるし、俺としてはいつも使ってるからこっちで行きたいんだが……。ちょっと、大変なことがあってな」
曰く、その依頼は毎回内容が違うらしく、護衛をただするだけで終わった時もあれば、近海を生息地にしているサーペントと戦うこともあったという。
俺としてはこれだけの人間がいて成し遂げられないなんてことないだろうと思うが、コータはそれでも注意を伝えてくれた。
インセルのメンバーのほとんどは“キョウゴク”に行ったことがあるらしく、コータに賛成の様子である。
俺ももちろん賛成だ。
こうして、これから“キョウゴク”に向かうまでの動きは決まった。
「よし、これで僕たちの方向性は固まったわけだ。それじゃあ早速、新しいチーム名を決めないとね!」
話がまとまりかけていたところで、イェルカさんが何か言いだした。
コータが軌道修正を試みるも暴走した彼は止まらない。
何人かが乗り始めて、結局よくわからないアイデア出し大会のようなものが始まってしまった。
コータが深くため息をついている。
そんなコータを見ているとトントンと肩をたたかれた。
俺が振り返って聞くと、そこには、大柄のボルトガさんがいた。
「ちょっといいか?」
彼の体に合わず小さなささやきを拾い、俺は頷く。
別段険しい顔をしているわけでもなく、はっきりとした目的がありそうだったのだ。
ワイワイと騒いでいるメンバーをしり目に、俺とボルトガさんはそっとその空間を抜けだした。




