6.ユーカ戦線
遅くなりました。
よろしくお願いします。
「<女王の乱獅子>!」
私は2人を見送ってから、目の前の木々を一気に切り倒した。
若干の動揺が木々の後ろから伝わってくる。数が結構多いみたいね。
「かかって来なさい!」
私は<女王の乱獅子>を解除して挑発する。
今までにコストを使っちゃったから、残りコストが結構ピンチなのよね。ただ、潜んでいる数からして、あまりヤバくはなさそう。乱闘イベント上位入賞者の実力を見せてやるわ。
意気込んでいると、動揺が収まったのか、多方面から迷彩柄の装備に身を包んだ獣人が飛び出してきた。武器は片手剣やナイフが多く、誰もがなかなかいい動きをしている。しかし、私には関係ない。
飛びかかって来た1人目を吹っ飛ばす。軽い軽い。
2人目、3人目も同じく潰す。
当たり前だ。
攻撃力とは力。速さではない。動きがどんなに良くても、攻撃を当てるには近寄らなければならない。私は、そこを叩く。
私の1対多の戦闘スタイルはこれが1番。武器のリーチも、重さも、私のオーブは大抵のものを凌駕できる。だから、敵の武器を正面から受け止め、重さで勝って吹き飛ばす。
これで4人目。
私を倒したいなら、私が対応できなくなるレベルの飽和攻撃とか、物理の効かない攻撃とか、そういうのを持ってきなさい。純粋な物理なら、私はほとんど負けない。そういうオーブだもの。コストという制限はあるけれど。
敵は遠距離攻撃に切り替えてきた。投げナイフ、石、弓矢。色々飛んでくるけど、戦闘自動サポートがあれば、目で捉えられる限り防げる。ただ、視力や動体視力だって、ゲーム的な事情でレベルアップしてる。そうそう当たらない。
「遠距離攻撃って、数を揃えないとそこまで威力ないわよね」
ゲームの仕様による弱体化を嘆きつつ、近接戦闘で倒せる敵をガンガン葬っていく。
私の戦闘スタイルは、近接処理が第1段階。これは、私が近接戦闘が得意ということもあるし、遠距離攻撃がそこまで脅威でないということもある。遠距離攻撃は味方が前にいると数が増えないからだ。
その第1段階が、もう少しで終わる。
最後の敵を葬る時は、自分から動く。遠距離攻撃をしてくる敵に近づくようなステップを踏んで、前へ進む。
第2段階は、敵の司令塔探しだ。1対多のシーンで、司令塔がいないことの方が少ない。近接は司令塔が居ても居なくても、倒し方が決まっているから良い。問題は遠距離だ。流石に躱す場所も無いように配置されて、斉射されてはどうしようもない。
そして、近接戦闘員の居なくなった司令塔は、全く仲間を気にせずに指示を出せるようになる。つまり、プレイヤーであればオーブが使えるようになる。大規模な攻撃でも躊躇することなく放てるようになるのだ。
「果たして、この依頼にはプレイヤーが噛んでいるのかしら?」
私がプレイヤーの存在を気にするのは、この依頼が『密輸組織の壊滅』というタイトル以外で出されている場合があるからだ。例えば、相手組織側の依頼として、『組織の荷を守れ』と出されているとか。
OLAでは、基本的にPKは許されていない。ただし、2つの特殊な状況下では許可されるのだ。その1つが、私の参加していた“闘技場”系のイベントや大会。
“闘技場”の中では、基本的にプレイヤーの命のやり取りが行われる。そうしなければいけないイベントや大会が開かれているのだ。人気なのは乱闘、決闘、チーム抗争戦、攻城戦などである。PVPを楽しみたいプレイヤーは大抵ここに集まる。死んでもアカウント制限を食らわないのが、大きな要因だ。
しかし、PK禁止のこのゲーム内で、PVPの結果、相手をアカウント制限に追い込める方法がある。
それが、対抗依頼の受注だ。
依頼とは、プレイヤーへの頼みごとの総称である。
何も、善人ばかりが依頼を用意するわけではない。悪人も依頼を出すことができるのがこのゲームである。
今回のように難易度不明の依頼は、特にイベントが発生しやすく、対抗依頼まで用意されている可能性が高い。PVPを好むプレイヤーの中には、対抗依頼を受けまくる犯罪集団のようなやつもいる。そうすると、依頼の難易度は跳ね上がるのだけど…。
そういった面倒な輩がいなければいいなと思ったのが間違いだったのかもしれない。
暗がりから、男の声が聞こえた。
「<惡帥饗酒>」
やっぱりいた。
そして確実に敵はオーブを起動した。さて、何が起こるかしら。
「死体を作ってくれてありがとうよ」
「…別にあんたのためじゃないし」
受け答えをしながら、敵の気配が近づいてくるのを悟る。
同時に、敵の遠距離攻撃が完全に止んだことに気づく。
敵は、何をしてくる…?
「さあ、準備はできたぜ?簡単に死ぬなよ?」
ズン、と私の体が重くなったように感じた。
気づくと、地面を液体が浸していた。
「どうだ?死体を材料に作った、飛び切りのデバフ酒は?」
急いで、私は状態を確認する。
ステータスに、『移動速度低下』、『攻撃力低下』、『防御力低下』が表示されている。
「なるほど、そういう戦法ね」
相手のオーブはおそらく、死体を使って特殊なアイテムを作り出す力を持っているのだろう。だから、近接兵の突撃を全くやめなかったし、自身の能力的に前線に出てくることもなかった…。
「さらに、俺は自分の強化も忘れない。『速度上昇』、『攻撃力上昇』、『防御力上昇』、『裂傷付与確率上昇』を付けたこの状態で負けたことはない」
敵のほうから状態を報告してくれるなんてこんなにありがたいことはない。しかし、こういった場合、絶対に裏があるに違いない。
「…何が目的なの?」
「PKってのは、別に殺した敵のアイテムが入手できるわけじゃないんだよな。だから割としょっぱいわけよ」
「何が言いたいわけ?」
「アイテム全部おいてけってことよ。そしたら、見逃してあげるから」
なるほど。この男は仲間がほかにもいるけど、自分はそこまでPKに興味がないって感じなのね。しかもこんなにぺらぺらしゃべるってことは、このゲームにも慣れてないってことかしら。
そして、残念ながら、私はそんな脅しに乗らなければ生きられないほど弱くない。
「お断りね。あなたじゃ、どうあがいても私に勝てないから」
「んなっ!?…言うじゃねぇか。そんなに死にたいなら殺してやるぜ」
馬鹿にされて頭にきたのか、敵の気配が一気にこちらに向かってきた。
「死ねやぁぁぁ!!」
この人は、本当に不慣れなのだろう。
私の戦い方を見てなかったわけではないでしょうに。
「<女王の乱獅子>!」
刀を振りかざしながらこちらに向かってきた男を見据え、私はオーブを起動した。
「あまり、中二病くさいのは好きじゃないのだけど、私の大技で引導を渡してあげるわ」
敵の姿がわずかに捉えられ、攻撃範囲に入った瞬間、私は宙に跳んだ。
「なっ!」
「<女王の乱獅子:砕衝>!!」
空中。大上段から振り下ろされた戦闘斧が敵もろとも地面をえぐり取り、小さなクレーターを作り上げた。
これは、オーブのコストを全消費し、最大火力で地面ごと敵を吹き飛ばす技。
飽和攻撃が嫌いすぎて考えた技だけれど、私の信条にもあっている。
「力はすべてをねじ伏せるの。覚えておきなさい」
敵のアカウント制限がログに出るまで見届けてから、私は2人の方へ向かった。
丘の上にたどり着き、2人に合流することができた。こちらでは、対NPCの大規模な戦闘がおこっていたらしい。
「これが、狙われていた“アルカディアドラゴン”ね」
「ああ、ユーカの話を聞く限り、敵側にテイマー系の【職業】がいるとみて間違いないだろうな」
私はコータの険しい顔と、カゲツの不安そうな表情を見て、この依頼のゆく末に何が待ち受けているのかが少し心配になってきた。




