5.邂逅
よろしくお願いします。
“南の密林”エリアはアルカディアの南門を出てから、街道をそこそこ歩いたところにあった。熱帯雨林というわけではなさそうだが、“西の森”に比べて確かに木の密度が高い。それに、見た感じ木の高さも太さもこちらの方がスケールがでかい。密輸組織にとってはありがたいことこの上ないだろう。
「どこにその組織が潜んでるかわかるの?」
ユーカの問いにコータがさらりと答えた。
「さぁ?そこからがこの依頼の内容だからな」
「うぇえ、このヤバそうなところを探す訳?」
俺は【職業】にも就いてないし、オーブもまだ使えないんだけど…。
そんな心配を他所に、ユーカはあっさりと言う。
「なるほどね。面白そうじゃない」
ツッコもうとした時にはユーカはオーブを起動していた。
何もない空間から、戦闘斧が現れたのだ。ユーカの身長の半分はあろうかという大きさ。刃渡りも相当だ。刃のあたりには白いレースと金の留め金でゴシックなデザインが成されている。完全に服装にマッチするようにできているらしい。恐らく、オーブに合わせて服をデザインしたのだろうけど。
「で?どこの木から切り倒す?」
「えぇ!?そんな、切り倒すなんて!」
「そうだな、とりあえず間隔の狭いところをやっていくか、邪魔だからな」
「ちょっ!えっ!ゲームの中で木なんて倒せる訳ないじゃん!」
「ほんと、なんっにも知らないのね」
「いいから見てろ」
「“兵器型”!<女王の乱獅子>!」
これは、オーブの特殊攻撃!?
ユーカの持つ戦闘斧が煌めいたかと思うと、刃を3倍ほどに巨大化させた。
ユーカは軽々とそれをふるい、大樹のオブジェクトにたたきつけた。戦闘斧の刃はすさまじい音を立てて、オブジェクトをほとんど両断した。
ミシミシとうなりを上げながら大樹は倒れていき、やがて地鳴りのような音を立てて地面に転がった。
「す、すごすぎる…」
「当たり前よ。私のオーブはコストの消費によって、大きさと質量を変えるの。動かない的なら余裕で叩き潰せるわ」
ユーカの戦闘斧はもう普段の大きさに戻っており、ギャップから少し小さくなったように見えた。これは、早くオーブを使いたくなってきたぞ…。
興奮している俺をしり目に、コータは倒れた木をサーベルで一定の大きさに切っていた。
「なにしてるの?」
「こうして一定の大きさに切ったら、木材ってアイテムになんだよ。そうしたら、ストレージにも入るし、残っているオブジェクトも消えるようになるから探索もしやすい。さらには木材加工をする【職業】のところに持っていけば、換金もできるってアイテムなんだ」
「なるほどねえ」
こうして俺たちは木々を切り開きながら“南の密林”エリアの探索を続けた。
ユーカのオーブは特殊攻撃を繰り出している時間と、出力の大きさによりコストを消費する。そのため、木を切る時に発動しては通常状態に戻すということを繰り返していた。
作業が単調になってきて、俺が飽きはじめてきた時だった。
「いつまでこの作業続くのよ?さすがに疲れたんですけど」
ユーカはさすがに疲れた様子だ。主に働いているのはユーカだから当たり前ではあるが。対して、コータは全くそんな様子は見せずに言った。
「そろそろ、何かのイベントが発生しそうだ。がんばれ」
「なんでそんなことわかるのよ?」
「コータのオーブの力とか?」
「そんなわけあるかよ。さすがにそんな万能じゃない」
「じゃあなんでなのよ」
ユーカが聞くと、コータはマップを広げて説明を始めた。
「いいか?俺のマップにはこの密林の全体マップが表示される。これは初期マップから追加でマップを購入したからだ。それで、現在地を見てほしい」
「密林の真ん中あたりにいるわね」
「そうだ。そしてこのあたりから先の地形を見てくれ」
「なんか、でこぼこしてる…?」
「そう、この鬱蒼とした森の中で高低差のある地形があるということは、かなり視野が制限されるということだ。しかも、密林は迷いやすい。隠れるにはうってつけだ」
「なるほど。そう言われたら確かに」
「…納得はできるけど私が疲れるのは変わらなさそうね…」
それはしょうがないのではないだろうか。俺とコータはそこに触れないことにして、足を先へ進めた。
先ほど確認した通り、徐々に地形の高低差が激しくなってきた。相変わらず木を切ってある程度の視界を確保しつつ前進する。
すると、小高い丘のような地形にぶつかった。迂回するかどうか確認しようとしたとき、コータが急にトーンを落として呟いた。
「気をつけろ。何かいるぞ」
俺には何もわからなかったが、とりあえず槍を持って周囲を確認する。ユーカはすでに戦闘斧を構え、臨戦態勢を整えていた。
暫く、緊張の時間が流れた。
やがて、キュォーンというか細い鳴き声が丘の上から聞こえた。
刹那、コータがその方向にダッシュした。訳も分からず俺も続く。
同時に、複数人の足音が周りの木々から聞こえた。ユーカは俺たちに続いては来ない。代わりに言葉を投げかけてきた。
「2分で行くわ」
コータは、楽しそうに言った。
「上は終わっちまうな」
俺だけ状況を理解できていなかったが、コータについていくのが正解とみて、とにかく丘を駆け上がった。
丘は上に行くにつれ、木々が少なくなっていった。すると、周りの足音の正体がわかった。NPCだ。獣人のかわいくない顔つきをした男が10人程度。こちらを警戒しながら、丘の上を目指しているようだ。
「依頼が始まったみたいだ!」
「えっ!?」
走りながらコータが俺に説明をしてくれた。理解力なくてごめんな…。
「いいか!今回の依頼の目標は『密輸組織の壊滅』だ。密輸っていうから何を運ぶのかと思ったら、こいつら、動物を密輸してやがるんだ!」
「えっ!密輸ってか、それは密猟なのでは…」
「動物以外にも何か扱ってるのかもしれない。ただ、今言えるのは、目の前の“アルカディアドラゴン”がピンチだってことだよ!」
コータの指さす先にいたのは、小さな子どもを守る親ドラゴンだった。
よく見ると、NPCがもう20人くらい近くにおり、親ドラゴンに対して一方的な攻撃を仕掛けていた。親ドラゴンは背中に子どもを隠してかばっているようで、ほとんど動いていなかった。
「ドラゴン種は貴重だ。ただ、生命力が高いものが多く、特殊な攻撃を使うものもいる。そんな中で、“アルカディアドラゴン”は温厚で攻撃手段もろくに持たない保護指定種なんだ。前も密猟者を取り締まる依頼でターゲットにされてた!」
「そ、それじゃあ助けなきゃ!」
やばい。またテンパり始めたぞ。
慌てている俺を意に介さず、コータはサーベルを片手に走り出す。
「当たり前だろうが!ちょうど、射程範囲だ」
そういうとコータは、サーベルの柄に埋まっている宝珠型のオーブを撫でた。
「“召喚型”<囁き拾いの大悪魔>!」
黒い炎に包まれ、人型の影が姿を現す。そう、イケオジ様。カイムである。
「ご主人、いかがなされましたか?」
「あのクソどもに地獄をみせてやれ」
「御意に」
コータの指示を受けたカイムは、指を3度鳴らした。そして呟く。
「悪魔のささやきを聞きなさい」
途端にドラゴンへの攻撃が止む。そして、一瞬の静止のあと、NPCが全員仲間割れを始めた。とにかく、近くにいる者を攻撃し、狂ったように暴れだす。
そう。これがパワーレベリングで使われた手法。自らが手を掛けなくとも、大抵のものは暴れ疲れるか、同士討ちかで満身創痍になる。悪魔の業である。最も、プレイヤー相手では効果に制限がかかるらしいが。
コータは今回、見ているだけではなく、手近な者をあの美しい剣技で葬り去っていった。
しばらく硬直していた俺も、数秒の後に復活し、槍をふるった。
混乱状態の敵を倒すのは難しくなかったが、すべて倒し終えた後に、残された“アルカディアドラゴン”の親子を見て、この依頼が終わっていないことを悟った。
「首輪…」
「隷属テイムだな」
コータの表情は珍しく怒りをあらわにしていた。




