4.図らずも3人
よろしくお願いします。
オーブ研究所は、アルカディアの“中央時計塔”周辺にある。計画都市然としたアルカディアは、街の中心部に主要な施設が集まっているのだ。オーブ研究所は、運営サイドが用意したその最たる施設だろう。俺のオーブもそうだが、“魔術型”と“召喚型”は初期でも使い方がわからないことが多い。“兵器型”でも、進化して特殊能力を持った場合は、オーブ研究所に調べてもらうのだという。
「んで、これがその研究所な訳ね」
オーブ研究所は俺の予想よりアンティークな外観で、大規模な建物だった。歯車やネジのデザインされたどことなくかわいい見た目は、中世と近世が混ざったようなこの街の世界観に合っている。
「早く行くぞ、オーブの鑑定は割と時間がかかるんだから」
「はーい。姉さんも4日かかったとか言ってたし。そういう仕様なのかな?」
「知らん。一応それぞれ理由はあるらしいぞ、NPCがちゃんと説明してくれる」
「細かいことまでこだわるんだなあ」
研究所の中に入り、カウンターで受付を済ませる。受付といっても、聞かれたのはプレイヤーネームとメッセージのアドレスくらいだ。
オーブを引き渡したら、病院の待合室のような場所で、2人で座って待つことになった。番号札をもらい、呼び出される形は、現代的な雰囲気を感じる。この微妙な生活感が、俺はとても好きなのだけど。
チリンチリンと呼び鈴が鳴る。
「523番でお待ちの方、鑑定目安が確定しましたので、4番窓口までお越しください」
呼び出しも女性の声で、益々それっぽいなあ。
「はい。というわけでね、今回あなたの担当になりましたエインです。よろしく。持ち主は初心者のほうでいいのよね」
「えっ、うん、そうですけど」
「はいはいはい」
丸メガネのネズミっぽい研究員が対応してくれた。けど、初心者のほうって分類は傷つくぞ!事実だけど…。
「あなたのオーブね、割と珍しいタイプなのよね。初期だから単純な効果しかないけど、なかなか歯ごたえがありそう。“魔術型”だから効果と詠唱の解読に3日ほどかかるけどよろしい?」
“魔術型”は詠唱の必要があるから遅めだとは聞いていた。恥ずかしながら、詠唱しないと効果が半減してしまったり、しっかり発動しなかったりすることはコータから聞いて初めて知った。この前の自分の行動を思い出すと恥ずかしくて言葉にならない叫びをあげたくなる。
でも、鑑定が3日ならたいしたことないな。迷わず承諾する。
「はいはいはい。じゃあ、手数料として2000イェンもらうけどよろしい?」
何度か聞いたけど、『イェン』っていう通貨単位は面白くて笑いそうになる。日本人がわざと中国語っぽく発音してるみたいだ。
「はいはいはい。確かに頂きましたよ。じゃあ、オーブを返して手続きはおしまいね。解読結果は受付で書いてもらった宛先にメッセージで送るからね。ご利用ありがとう」
一度現物を持っていけば、受け取りに来る必要がないのはゲームならではだなあ。前にプレイヤーの要望があったかららしいけど、ちょっと味気ないかもね。
俺は指輪型のオーブをつけなおし、コータと研究所を後にした。
「今日はこれからどうすればいい?」
「お前の目的も果たしたんだから、とりあえずログアウトしたらいいんじゃないか?」
確かにそうだ。今日の目的は達成。でも、次に何をしたらいいのかわからない。
「なんか3日を待つのにちょうどいいことってないのかなあ。今のところ、ケモミミウォッチングをするくらいしかやりたいことがないんだよ」
「それをすればいいだろうよ」
「3日もできないよ。俺はそこまでの変態じゃない!」
「ウォッチングは変態的だけどな」
コータはかわいいものの良さがわからないからそういうけど、好きなものっていくらでも愛でられると思うんだけど?それに…。
「リアルでかわいいものウォッチングしたらつかまるんだから、ある程度なら許されるゲームでやるしかないでしょう!」
「…なるほど。どうでもいいな」
「結構真面目に考えたんだけど?」
「それより、依頼を受けてみるっていうのはどうだ?」
「依頼かあ…」
依頼とは、クエストとも呼ばれるNPCの手助けである。この世界のプレイヤーは色々な【職業】になれるという特性上、何でも屋のような仕事もしている。NPCから寄せられた仕事は、依頼という形で、各都市スポーン地点にある掲示板に張り出される。この中には、たまに自分の【職業】の特別依頼があったり、大規模イベントの布石があったりもする。そのため、こまごまとした攻略要素として人気のコンテンツだ。
「うん。暇になったからってせっかく始めたゲームから遠ざかるのも嫌だし、やってみようかな」
「よし、じゃあ明日は依頼を受けるところからだな」
「えっ、明日も一緒にやってくれるの?」
コータから次の約束をしてくれるなんて珍しい。ちょっとびっくりした。
コータは顔色1つ変えずに淡々と答えた。
「一緒にできるゲームがあるならやるだろ。普通に」
「コータ…!親友が素直で俺は嬉しい…」
「キモい。やめろ」
軽口を叩き、学校の帰り道のように流れ解散になる。ログアウトだからちょっと感覚が違うのが、こそばゆい感じだ。
―――翌日。
俺は帰宅して早々、OLAにログインした。学校でワタルと話してやりたさが増したのもあるが、何より気になることがあったのだ。ワタルが何か含みのある言い方をしていたから。
そして、この不安は的中した。
「遅かったじゃない。初依頼なんでしょう?早くいくわよ」
「なんでコイツがここにいるのかなあ?コータ」
「言ったろ?一緒にできるゲームがあるならするって。ユーカもやりたいって言うから」
俺の目の前にいた、プレイヤーネーム『ユーカ』の正体は間違いなく蓑田悠花だ。デフォルメされてるとはいえ、肩までかかるくらいの髪に本気のゴスロリ衣装を着ているやつなんてまぁいない。少なくとも、俺やコータの知り合いには。
「小さいこと気にしないでよ。だから女々しいって言われるのよ?あっ、なんなら、コスプレさせてあげてもいいけど?」
「欲望がダダ漏れだから。コスプレなんてしないから。…もー、調子狂うなあ」
「なあ、2人とも早く行こう。今日は割と面白い依頼を見つけたんだよ。それに人数の規定があったからわざわざユーカを連れてきたんだ」
なんだか楽しそうなコータに首をかしげながら、俺たち3人は掲示板のほうへと足を向けた。
「これだよ、『密輸組織の壊滅』。難易度は不明。人数は3人。面白そうだろ?」
コータの指定した依頼は“南の密林”エリアに潜むという密輸組織を壊滅させるというものだった。気になるのは難易度が不明ということ。
「難易度不明って、イベントのトリガーだったりするんじゃなかった?初心者の俺がいて大丈夫なの?」
「まあ、なんとかなるだろ。ユーカは割と強いぞ?」
俺は驚いてユーカのほうを見た。ユーカは胸を張るように答える。
「私の“兵器型”はかなり強力よ。重量こそ最大の攻撃力ってコンセプトなの。武器の形態は戦闘斧。抜刀時はコストを消費しないから普通に振り回して使えるし、軽い敵ならボーナスかかって瞬殺なんだから」
なるほど。物騒なことを言っているが、確かに重い攻撃ができるのは強みだ。図らずも3人になってしまったが、一番弱いのは俺なので文句は言うまい。
俺たちはこの依頼を受けて、“南の密林”エリアに移動することにした。
「それにしても…カゲツのその装備ダサくない?早く変えなさいよ」
「うるさいな!初心者なんだからいいだろ!」
「私、【職業】が【仕立屋】だから作れるわよ?タダでもいいし」
恐ろしい提案だ。絶対に裏がある。
「…条件は?」
「私がデザインするから、着てる姿を撮らせて?」
「コスプレじゃないか!」
ユーカはやっぱり恐ろしいが、3人というのも悪くないな。




