3.パワーレベリング
よろしくお願いします。
コータはめちゃくちゃ強かった。
とんでもない速さで、中級クラスのモンスターが瀕死になっていく。よくわからないけど、コータのオーブの能力らしい。“召喚型”だって聞いたからモンスターが出てくるのかと思ったら、召喚されたのはコータと似たような軍服のイケオジ様だった。帽子が鳥っぽいのがチャームポイントなのかな?
「ご主人、そろそろコストが足りなくなります。帰還してもよろしいですかな?」
「ああ、ありがとうカイム。また頼むよ」
「承知。では」
イケオジ様は出てきた時と同じように黒い炎に包まれて消えた。
ボイスも渋くていいなぁ。かわいくはないけど、あれが目指すべき男の姿では!?
「コータのオーブはすごいなぁ。こんなに強力な力があるなんて」
「そりゃ、割と長くやってるし、ネームドを倒して進化したオーブだからなぁ。弱かったら困る。しかも中級は俺のステータスじゃ余裕だし」
そう言いながら、コータは”三角サイ”を瀕死状態にした。俺は即座にとどめを刺す。この一匹が目に見える範囲ではラストだった。
「この周辺は狩り尽くしたみたいだな。カゲツ、レベルどれくらい?」
「基礎レベル14になったよ。ありがとう!」
「おし、あと1つだな。オーブの能力が知りたいんだろ?」
「うん、あと少しよろしくー」
このままコータに着いていけば余裕だな。そう思った矢先、コータは俺にこう告げた。
「いや、ちょうどいい。パワーレベリングはこの辺までにしよう」
「えっ!?ちょっと!なんでさ!」
「お前の戦闘経験が少なすぎるからだよ。ステータスあげても、動くのはお前なんだからちゃんと鍛えないと、普通にやられるぞ」
「そんなぁ…。いや、薄々そんな気はしてたんだけど…」
やっぱり、コータの動きは凄まじかった。自動戦闘サポートAIって噂によると、自分のやりたいことを更に戦闘用に強化してくれるようなシステムらしい。だから、どうやって動きたいかを明確にイメージできていれば、より早く、力強く動けるのだ。コータはさっき、サポートされていると知っていても見惚れてしまうくらいしなやかな動きだった。
俺も、あれくらいかっこよく動きたい。
「よし、頑張ってみるか!」
「お、やる気になったな。一緒にやった対戦ゲームでもそこそこできたんだから大丈夫だろうけどなあ」
「あれだって結構苦労したんだからね。んで、何を倒せばいいの?」
「基礎レベル14で簡単に倒せるのは、“陸ペンギン”だけど…」
「やだやだやだやだ、あいつあと1年は見たくない!」
「だよなあ」
当然じゃないか。集団暴行してきたんだぞ、あいつら!
「となると、“兵士ゴブリン”あたりが妥当かな。弱くはないけど、俺が助けられる状況で人型モンスターと戦っておくのは後々のためにいいだろうから」
「うぇ、人型?しかも、兵士ってことは武器持ちだよね…。できるかなあ?」
「やらなきゃわからないだろ。いいから行くぞ」
決めたこととは言え、やっぱ人型は慣れるまで大変だって聞くから、怖い気持ちが強い。移動中、いろんなことをコータに聞いて安心しようとしたけど、全然できなかった。
“西の森”のはずれ、“大アルカディア荒野”の近くにゴブリン種の出現ポイントがある。ゴブリン種で最弱なのは“色ゴブリン”という装備なしのゴブリンである。ただしこいつらは仲間を呼ぶので、初心者にはオススメではない。初心者用は、単独で行動する軽装ゴブリン。“兵士ゴブリン”である。
「つー訳で、“兵士ゴブリン”は1対1でやれるから、頑張ってこい」
「色とかがエンカウントしそうになったら?」
「安心しろ。色は仲間呼ばなきゃ雑魚だ。呼ばれるよりも早く俺が片付けてやる」
なんて頼もしい友人だろうか。
俺はこくりと頷いて、コータの見つけた“兵士ゴブリン”に接近していった。
“兵士ゴブリン”は刀剣を装備していることが多い。目の前のそいつも、ぼろぼろの鎧に同じくぼろぼろの両手剣を装備していた。肌の色は青。ゴブリン種の色は個体によって違うけど、色によるステータス変化はないはず…。
まだ敵には気づかれていない。
コータのアドバイスを思い出す。
リーチは槍の方が長いのだ。それをうまく生かして戦えば大丈夫。
「ただ、お前は考えすぎてテンパる。だから…」
ここと決めたら、一気に突っ込め。
だよね。
「うぉぉぉおおっっっ!!」
俺は視界の中央にとらえた“兵士ゴブリン”に向けて、槍を突き出し突進した。
俺の声と足音に、向こうも気づく。
槍の先端が“兵士ゴブリン”の体に触れるよりも先に、相手の両手剣が俺の槍をはじく。
これくらい、俺だって予想できてた。前傾になりすぎた姿勢を、はじかれた反動で元に戻す。戦闘サポートがうまく効いてるみたいだ。
“兵士ゴブリン”は防御姿勢から薙ぎ払いの姿勢に変わった。
何となく見たことがある動きだ。即座に判断して、バックステップを踏む。
リーチは俺のほうがある。焦らずにいい距離を保つ。この間合いの取り方は、コータと前にやったゲームでの経験が大いに生きている。というか、人型のモンスターなら、基本はあのゲームで動いていた感覚でいいんじゃないか?
俺はその直感を信じ、足払いをかけてみる。
ぎりぎりで両手剣に阻まれ、金属音が鳴り響く。敵は両手剣を力いっぱいふるっているようで、結構な反動が来る。それを利用して先ほどと同様に距離を離す。
“兵士ゴブリン”の顔に苛立ちが浮かんだように見えた。
俺は今の攻防で確信した。あのゲームの感覚で行ける。あの時は結構やりこんだし、何度も戦場に立った。
次で決める。
俺はもう一度下段の足払いを入れにいく。当然のように防御に動く敵の両手剣。
互いの武器が触れる瞬間、俺は力を抜いて、槍をわざとはじかせた。
敵の頭くらいの高さに来たら、もう一度力を込め、前に一歩踏み出す。
“兵士ゴブリン”は驚きの表情を浮かべながら、頭部を槍に貫かれた。
俺のOLAでの初めての本気戦闘は、こうして終わった。
レベルアップ音が頭に響く。よし、これで目標達成。
ただ、全年齢対象ゲームだったから血とか出なかったけど、やっぱりこの倒し方は後味悪いよなあ。前にコータとやったゲームで、コータに習ったことを繰り返してるだけなんだけど。
「いやあ、お見事。やっぱり集中してたらちゃんとできるじゃないか」
「前一緒にやったゲームで対人戦をやってたからだよ。こっちのほうが楽。というか、それを見越してこいつを獲物にしたんじゃないの?」
「さあ?何のことかな?」
薄く人のよさそうな笑みを浮かべるコータに、俺は苦笑した。
「さ、目標は達成したんだろ?早くアルカディアに戻ってオーブ研究所に行くぞ。お前のオーブ、知りたいんだろ」
「そうだね。コータには何かおごってあげないとなあ」
「じゃあ、明日は昼飯よろしく」
「えぇー、せめてドリンク1本だよ」
学校帰りのように軽口をたたきながら、帰り道を歩く。
…つもりだったのは俺だけのようで、コータはマップを取り出していた。
「何してんの?」
「いや、帰ろうと思って」
「マップで?」
「ワープ機能があるからな」
「…そんなのあるの?」
「…知らなかったのか?」
謎の沈黙が2人の間に流れた。
俺は何となく恥ずかしくなって、静かにワープ機能の使い方を聞き、アルカディアにワープした。
うん。こんな時もあるよね。うん!
…コータがそのあと笑っていたことを、俺は絶対に忘れない。
ただ、久しぶりにVRMMOをプレイしているなと感じた。




