2.ズルなんて言わせない!
よろしくお願いします。
フルダイブ用のヘッドセットを取り、俺はベッドに体を投げ出した。
「あー。なんでこうなるのかなあー」
体育座りでベッドの隅に丸まった。失敗したときによくやってしまう癖だ。でも、今回はしょうがなくない?あれはやばいでしょ。勝てないでしょ。
ひとりでそうやって考えていると、俺の部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「はーい」
「華月?入っても大丈夫?」
「いいよー」
そうやって入ってきたのは俺の姉、水上唯愛だ。何でもできるし頼れる姉なんだけど、最近ブラコンが加速している気がする。俺がかわいいもの好きであること。この原因の3割は、この人ではないだろうか。まあ、かわいいは正義だと思いますけどね?
「わざわざ部屋まで来て何の用?」
「実はね、私もOLAやってるの。で、華月と一緒にできたらいいなと思ってたんだけど、さっきフレンドコード見たらアカウント制限になってるんだもん。心配になっちゃって…」
「え、フレンドコードってゲーム変わっても適応されるの!?」
「当然じゃない。私はヘッドセットの番号を直接登録してるもの。ベストフレンド登録ってやつ」
「えぇ…、勝手に…」
「だって、ワタル君も登録してるんだから、いいでしょう?」
「は?」
ワタルが俺の番号登録してるなんて初耳だぞ。我が姉と我が親友よ、それはよくないのではないだろうか。
「そんなことより、何があったのか聞いてるの!私、割と強いから手伝えることいっぱいあると思うんだけどなあ」
「残念、その情報はもっと早く知りたかったなあ」
俺は先ほどあった出来事をかいつまんで説明した。思い出したらなんかあのペンギンムカついてきたなあ。
一通り話し終えると、姉さんが急に悶え始めた。
「はあぁぁっ…!さすが華月!それでこそ私の弟!そのポンコツ具合!やっぱり華月はかわいいなぁー!」
「うわ出た!気持ち悪いこと言うなよっ!俺はかわいいものは好きだけど、かわいくなんてなりたくない!」
姉さんの発作は今に始まったことじゃない。昔の俺はこれで喜んでたらしいが、今は騙されない。この人は変態だ…。
俺は適当にあしらいつつ、オーブ不発の件と、序盤の立ち回りについて姉さんにアドバイスをもらうことにした。なんだかんだで、先達なのだから、知恵は借りないとね。
「うーん、オーブについては、特殊条件下でしか発動しないものがあるから何とも言えないなぁ。使い方がわからない場合は、基礎レベルを15まで上げて、オーブ研究所にお金を払うと聞けたはず。それから、序盤は基礎レベルを上げるか、【職業】に就いて職業レベルを上げるかのどちらかって感じ」
ふむふむ。基礎レベルは、俺のキャラクター自体のレベルか。確か、基本ステータスはこの基礎レベルによって変化するはず。職業レベルは【職業】毎に存在するボーナスステータスみたいなものらしい。これは基礎ステータスには影響せず、その【職業】に就いている時だけ付与されるとか。
そして、どちらも経験値を貯めてレベルアップするので、【職業】に就いていると基礎レベルは上がりにくい。【無職】は職業レベルが存在しないから基礎レベルだけを上げられる。基礎レベルより職業レベルの方がステータスの上がり幅は大きい。
と、整理するとこんなところかな。決めている【職業】があったり、早く強くなりたい時は適当な【職業】に就いて、職業レベルを上げるのが妥当ではあるけど。俺はどっちも考えてないから、基礎レベルを上げていくのでいいかな。
姉さんには、それからもいくつかアドバイスをもらった。姉さんはかなりやり込んでいるようで、ほぼ全ての質問に的確に答えてくれた。ちゃんと働いているのか、ちょっと心配になる。
アカウント制限は今日中には解除されないので、次にログインできるとしたら、学校から帰った後だ。一緒に遊べないことを悔しがる姉さんを他所に、もう俺は、明日誘う相手を決めていた。
――――翌日。放課後。
俺はいつものように、前の席の男子に声をかける。
「ワタル!今日さ、この後予定ある?」
「ないけど、どうした?」
「ちょっと手伝ってほしいことがあって…」
「あー、OLA?」
「なんでわかった!?」
こいつ、読心術でも持ってるのか!?
「唯愛さんが昨日メッセくれた。弟が面白くてかわいいそうで」
「姉さんか…!ってか、え?何、俺がどんな目にあったか聞いちゃった感じ?」
「聞いちゃった感じ」
「んなぁぁあ!!」
姉さん…。どうしよう、親友が生温かい目で見てくる。先週、新学期からかっこよく生きる!なんて啖呵切ったからかっこよくいたかったのに…。台無しじゃん!
「安心しろ。蓑田にはもう報告済みだ」
「ぎゃあぁぁあ!!」
えっ、蓑田に言ったの?あの、噂好きの蓑田悠花に?やばくない?
「ちょっ!ワタル!早く帰るぞ!出会わなければ脅されないし、コスプレもさせられない!俺はOLAでレベル上げがしたいだけなの!」
「えー、俺は華月のコスプレ見たいんだけどなぁー」
「くっ、他人事だと思って楽しそうな顔しやがって!いいから行くの!」
「へいへい」
ワタルを引っ張りだして、極力急いで学校を出る。蓑田には会わなかったことが何よりの救いだ。光田渉はこういうことをするから恐ろしい…。
帰宅してすぐ、俺はOLAを起動した。昨日アカウント制限になったのが、夜の10時だから、もう余裕でログインできる。ワタルとの待ち合わせは、西の時計塔。俺の初期スポーン地点だ。
「えっと、プレイヤーネームは『コータ』だったっけ。うーんと…?」
あたりを見渡して、コータというタグを探す。普段はオフにできるタグ機能だけど、こういう時には使うしかない。キャラクターの頭の上に文字が表示されてるっていうのは、これだけリアルに造られた世界だと違和感だし、情報量が多いから早くオフにしたい…。
「おっ、いたいた!」
ワタル、もといコータの装備を一言で言えば、軍人だった。黒を基調とした軍服に所々赤と金で模様が入っている。腰に下げた獲物はサーベルで、黒髪の彼によく似合っていた。
「来たな、とりあえず移動しながら話すか。ここは人が多いから」
「たしかに…なんか注目されてるような?」
「気にすんな、とりあえず森の方に移動しよう」
歩きながら、コータのプレイヤーとしての話を聞いた。戦闘スタイルやオーブの話は初対面ではしないのはマナーだとたしなめられながら、コータは色々教えてくれた。
曰く、装備はネームドモンスターという強力なモンスターを倒した時に一式ドロップしたものである。
曰く、オーブは”召喚型”であり、戦い方や特性はレベリングの時に見せてくれるらしい。
そして、コータはイベントランキングの上位に何度か入ったことがあるのだとか。そのせいで変に名が知れているって言ってるけど…。
「それってすごくない?かっこよくない!?」
「まぁ、割と頑張ったけどさ、注目されるのは慣れてないし、手の内がバレるのも嫌だし、決闘とか申し込まれたら嫌だからなぁ」
決闘とは、プレイヤー同士のバトルである。お互いに持ち物なりなんなりを賭けて行われるために、好き嫌いが分かれる。ちなみに俺はやりたくない。怖いから。
「ほら、門に着いたから、もう外には出られるけど、どうするんだ?俺はサポートをすればいいのか?」
ぶっきらぼうにいうコータに、俺はニヤリと笑いかけた。
「決まってるじゃん、パワーレベリングだよ!」
「は?おまえそれは…」
伝家の宝刀、パワーレベリング。強い人が半殺しにした強い獲物を処理して行くだけで簡単に経験値が稼げるという素晴らしいレベル上げ方法だ。ただ、RPGの良さを殺しているとも言えるために賛否両論あるところである。
「普通にレベル上げって方法はないの?」
「ない!だって、オーブの使い方も分からないし、なりたい【職業】もないし、“陸ペンギン”にはもう会いたくない!」
「うっわ、親友ながらなんてワガママな…」
「いいじゃん!ズルなんて言わせないよ!姉さんもこうすればいいって言ってたし、普通の育成ゲームでもみんなやってるでしょ!」
「はぁ、そんな胸張って言うなよ…。まぁ、付き合ってやるけど」
「やった!さすが親友!」
釈然としない表情でため息を吐くコータを連れ、俺は強めのモンスターが出現するエリアに移動を始めた。




