65.先
OLAの更新、大変遅くなってしまい申し訳ございません。
今後少しはマシになると思います。
よろしくお願いします。
俺の打ち出した渾身の攻撃はキャロンの傷つけていた右脚に見事的中。
外殻を溶かし、本体にまでダメージを与えることができた。
その上、炎上状態を付与できたため、継続的なダメージも見込める。
「よし!」
思わず声が漏れる。
だが、レイドボスというのはやはり格が違った。
GRAAAAA!!!
咆哮をひとつすると、奴は身体中から砂塵を吹き出し始めた。
「まずい!!範囲攻撃だ!!」
コータの声に、俺たち全員が全力の退避行動をとる。
範囲がどれだけ広いかわからない。
敵に背中を向け、全速力で走る。
後ろからのプレッシャーはものすごい。
空気が震えている。
まだそう遠くまで回避してない状態で、一際大きな咆哮が聞こえた。
「伏せろっ!!!」
コータの声で態勢を低くしようとした瞬間、後ろから衝撃に襲われた。
その後、宙に浮く感覚。
吹き飛んだと認識した時には、前のめりに地面に突っ込んでいた。
「…っく、これだけ離れて普通に食らうとか、範囲広すぎじゃない?」
俺はボロボロながら立ち上がろうとして、腕で上半身を持ち上げた。
結構先の方に、ユーカとコータが倒れているのが見える。
あの二人の移動速度はやはり速い。
俺も起き上がって体勢を整えようとした時だった。
「カゲツ!!避けろ!」
コータがこちらを見て叫んでいた。
俺は反射的に右側に大きく転がる。
途端、俺の元いた場所にズガガと鋭い岩が突き刺さった。
奴の方を見れば、尻尾に生えている岩を飛ばしたらしいことがわかる。
「危な…新しい攻撃か…」
「大丈夫か?」
「なんとかね」
コータとユーカがこちらに駆け寄ってきた。
俺たちは“荒野竜”を見つめる。
「これからどうしようかしらね」
「近くの怖すぎるでしょ、これは」
「やはりヘイト分散でなんとかするしかないだろう」
俺たちの目に映っていたのは、右の後ろ脚を引きずった“荒野竜”が今まで以上に暴れ、周囲に尖った岩のオブジェが大量に作られている光景だった。
近距離が強いのは相変わらず。
加えて中距離攻撃をも行なってくるようになってはおいそれと近くこともできない。
こうして3人で話す今でさえ、時たま飛んでくる攻撃を躱している。
「攻撃手段は一応ある。ただ、あるだけだ。まともに運用できるかわからない。俺たちの攻撃が基本的に近距離向きなのは変わらない」
「遠距離性能が高いのはやっぱりカゲツのあの攻撃だけど、次で使えなくなるわね」
「槍、投げちゃったからね。武器か拳に乗せて攻撃するから、折れた柄のほうが残ってなかったらもう無理だった」
苦笑しながら手慰みに無残な姿の棒切れを弄る。
その間も尖った岩がガンガン飛来していた。
それを躱しながら、コータは言う。
「見ろ。でも、俺たちの攻撃は確かに効果があったらしい。両後ろ足を若干引きずってやがる。もう一撃くらい決められる」
「そうね。作戦は?」
「突っ込む」
コータはきっぱりと言い放った。
俺は心底驚いて、叫び声をあげる。
「ちょ、ちょっと待って!近距離範囲に行くのはさすがに…」
「それくらいわかってる。だから、お前がこの辺りから、遠距離攻撃を放つ。俺たちはその隙に突っ込む。今度は前足のどこかを損傷させて、バランスを取れなくする。それが出来れば、俺たちの勝ちだ」
「できなかったら?」
「突っ込む私たちは体力がほぼ全損するでしょうね」
「そうだな、勝ちの反対は負けだ」
「それはさすがにリスキーじゃ…」
「ここでグダグダやってる方がリスキーだ。少しずつでも奴は近づいてきてる」
「そうね、一番合理的じゃないかしら」
「決まりだ」
会話の終わりを見計らうように大岩がすぐ近くに着弾した。
全員が大きくその場を飛び退く。
コータが叫ぶのが聞こえる。
「俺たちは前に出る!合図したら放て!」
「ちょっと!」
二人の影は一気に前に出た。
“荒野竜”の尻尾から大岩が繰り出され、しなる尻尾がユーカヘ向かう。
しかし二人は岩を容易く躱し、ユーカが瞬間的に戦闘斧を最大状態にして尻尾を退けた。
「今だ!やれ!」
「どうなっても知らないよ!」
半分やけくそで詠唱する。
「“天の光臨、地の喝采、全てを照らし、全てを救え”<魂装:救済の灯>!!」
言い切ると同時に槍投げよろしく柄を“荒野竜”めがけて投擲した。
光の筋を描き、炎を拡散しながら進んだそれは、頭部を防御した“荒野竜”の右腕に確かなダメージを与える。
しかし、そのまま打ち払った右腕によって、俺の攻撃と最後の武器はあらぬ方向へ飛んでいった。
失敗した。
そう思いかけた瞬間、一気に膨れ上がる戦闘斧と黒い光。
二人の攻撃が、振り切って隙だらけな奴の右腕に直撃した。
GRAAAAAooooo!!!
激昂し、暴れまわる巨体に、二人が大きく吹き飛ばされたのが見えた。
「コータ!ユーカ!」
小石のように遠くに飛んでいった二人は、砂埃をあげながら地面にたたきつけられた。
俺の声が届いているかも怪しい。
しかし、二人の心配をする余裕は俺にはもうなかった。
暴れまわる奴の攻撃はこちらまで飛来している。
衝撃波も今までより強い。
少しでも近づこうものなら俺まで巻き込まれそうだ。
すでに体力を削られている身としては歯がゆくも迂闊には近寄れない。
だが、初手で攻撃した俺へのヘイトは消えていないようで、顔がこちらをギロリと向いた。
恐ろしい唸り声をあげたかと思うと、“荒野竜”は大きく息を吸い込んだ。
ブレスの前兆…!
そう思えども、時間の猶予はほんの少し。
きっと奴のブレスは広範囲だろう。
俺は死を覚悟しながらも、地面に飛び込むようにして身体を動かした。
そして、伏せながら奴の様子を伺った。
そこにいたのは、今まさに口元から砂色のブレスを吐き出さんとする“荒野竜”の姿であった。
そして、そのブレスはそのまま真っ直ぐに放たれ、俺の体力は全損する。
…そんな光景を幻視した。
「よくやった!この場は私が引き取ろう!!」
声が聞こえたかと思うと、“荒野竜”の顎が下から大きく突き上げられた。
ブレスの軌道は上向きになり、俺を掠めることもなく、遠方へと消えていった。
何事かと奴の方を見ると、丁度顔があった辺りに、刀身が驚くほど長い刀剣が鞘に納まったまま、天へと伸びていた。
形状からして日本刀であろうか。
人間では確実に抜き放てない長さだ。
その刀剣がやにわに降ろされた。
よく見れば、かの刀剣の真下にはこれを両の腕で掴み、構えている男がいる。
赤い袴らしき装束に身を包んだ彼は、その見るからに強靭な腕に力を込めた。
「“我、天道に至り、神具を抱きて、現に轟雷をもたらす者なり。集え!”<天限武装!!>」
それまで刀身を覆っていた漆黒の鞘は、詠唱とともに徐々に姿を消した。
現れ出たのは光を浴びて赤黒く輝く、美しい日本刀。
一瞬、その妖艶な魅力に目を奪われていたが、頭をもたげた“荒野竜”の眼光に気づき、息が止まる。
俺を助けてくれたこの人がやられてしまう…。
ただ、その心配はすぐに無用のものとなる。
至近距離で攻撃をあびた怒りに任せて、威圧するように奴が吠えた。
だが、彼はその豪快な髭面で、にやりと笑った。
GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!
「来るがいい!!それでこそ竜よ!!」
先ほどよりも強力なブレスの気配。
しかし、それよりも強烈な圧力が世界を支配した。
「“神気一刀…”<天限武装:天之破魔斬>!!!!!!」
赤黒い雷が天上へと駆け上った。
一瞬、それとは別の光の筋のようなものが見えた気がした。
ふと、大きな爆発が、彼らの争っていたあたりで起きた。
かなりの規模の爆発に少し離れていた俺のところまで風がやってくる。
思わず目を細める。
そんな狭くぼけた視界に、大きなシルエットが墜ちていくのが見えた。
ズゥゥンと重い音があたりに響き渡った。
衝撃や荒野の風が納まり、俺がはっきりと現状をこの目で見たときには、戦場に立っていたのは彼の男一人だった。
今まで両の手でふるっていた刀剣が光の粒子となって消えていく。
残された髭の男は俺のほうに、屈託のない笑顔で話しかけてきた。
「おーい!よくやったな!けがはないか?」
俺はとっさに返答できず、あいまいに頷いた。
良かったと笑う彼は、先ほどの戦闘中、あの獰猛な笑みを浮かべていた人物と同じとは思えない。
いつの間にか、コータが横に来ていた。
「カゲツ、よく覚えておけ。あれが、世界トッププレイヤーの一人、【須佐之男】トロンだ。数人しかいない、神話級オーブの持ち主でもある」
本人に聞こえないようにするためか、コータの声はやけに小さかった。
恐らく、その後の経歴の情報はほとんど耳に入っていない。
ただ、最後の言葉だけはよく聞こえた。
「彼は、“竜殺し”を趣味にしている」
それは、決定的な何かが動き出した瞬間だった。




