64.VS荒野竜
投稿が大変遅れ、申し訳ございません。
今週も忙しく、OLAの投稿頻度は遅くなると思いますが、今後ともどうぞよろしくお願いします。
“荒野竜ヴルム”はその大きな体躯を生かして、重い広範囲攻撃を得意とするモンスターのようだ。
俺たちの方に気づいているのかいないのか。まだそこそこの距離がありながら放ってくる攻撃が俺たちの眼前まで迫っていた。
「どうする?こいつが飛んできても躱せるような状況を作らなきゃ近づけもしないぞ」
「俺が“怪鳥ギール”でも出して囮にしようか?“荒野竜”は飛べないみたいだし、空なら頑張れば逃げられると思うけど」
「それはアリね。私はもう戦闘斧の投擲でもしようかしら。オーブだから回収しなくてもまた出せるし」
余波のように迫ってくるいくつかの攻撃を躱すも、俺たちの中でいいアイデアは出ない。
サイズが大きいというのがこれほどまでに凶悪で、盾役がこれほどまでに大事だったのだと俺は全く知らなかった。
攻撃を防ぐ必要があるとなると、俺たちの戦闘スタイルでは、相性が良くないのかもしれない。
「おい、カゲツ。どうしようもないから、とりあえずギールを使う作戦でいこう」
「大丈夫?思い付きでしかないけど」
「しょうがないじゃない。これくらいしか、今は思いつかないわ。当たって砕けろ、よ」
「砕けちゃダメでしょ…」
「いいから、早くやるぞ」
強引に言いくるめられて、俺はギールを召喚した。
大きめの翼をもつモンスターだから、“荒野竜”の視界には絶対に入るはずだ。
とにかく、攻撃のチャンスを作らなければ…。
ギールが飛んでいくのと逆方向から、俺たちは回り込んでいく。
ギールには適度に上空から“荒野竜”に攻撃を仕掛けるように指示した。
まだ距離がある。
近づきながら、ギールと“荒野竜”との距離を測る。
頑健そうな鱗が全身を覆っている。
鋭い岩が沢山刺さったような後頭部が、段々とギールの方を向いていくのがわかる。
俺たちは奴が動くたびに発生する衝撃波をやり過ごしつつ、行動を観察した。
「こういうレイドボスには行動パターンがある。よく見ろ。ギールはまだ持ちそうだ」
コータの言う通り、徐々にギールとの距離は詰まるが、撃墜される心配はあまりなさそうだ。
今のうちに行動を把握しなければ、せっかくのチャンスが無駄になる。
「今のところ、攻撃は二種類ね。前足の薙ぎ払いと尻尾の範囲攻撃。前足は可動域が広い分、範囲は狭いから私たちには当たりにくいわね」
「逆にギールには当たりやすいからな。俺たちはギールにあれがいかないように攻撃をしかけつつ、尻尾に注意するか」
「え、それなら後ろに回ったのは失敗じゃ…」
「過ぎたものはしょうがねえだろ」
「そうよ、行くしかないの。もう来ちゃったんだから」
「ええ…」
「突っ込むぞ!」
コータが走り出す。
後を追うようにして、俺とユーカも地面を蹴った。
今の奴の攻撃は、前足での前方攻撃が主体となっている。
ギールが上手く気を引けているためだ。
後方の俺たちには見向きもしていない。
これなら、尻尾の攻撃も来る可能性が低い。
どうにかして、このまま、尻尾攻撃を防止していきたい。
「不用意な攻撃はダメだ!やるなら全力で一点攻撃!それも、側面か前方からだ!」
「また勝手なこと言って!」
「尻尾で吹っ飛ばされたくないなら少しの無茶くらいしろ!近接火力出せるお前がそんなでいいのかよ!」
「っさいわね!」
ユーカが“荒野竜”の左手側に回っていく。
今ギールに攻撃していない方の手だ。
「〈女王の乱獅子〉!!」
戦闘斧が巨大化し、ユーカがそれを大きく振りかぶる。
「〈剛毅万衝〉!!」
戦闘斧が“荒野竜”の後ろ足に激しい一撃を加えた。
ガキィンという音と共に、衝撃が地面を捲る。
ユーカは振り切った姿勢で小さく舌打ちをした。
後ろ足の関節に思い切り入った攻撃で、ほとんど傷が付いてないのだ。
GYAGOOO!
咆哮する竜がこちらへ首を向けようと首を動かし始めた時だった。
「“戦火の剣”!“戦場横火!!」
ユーカの攻撃した場所と同じ位置に斬撃が飛ぶ。
俺だってほとんど見たことのない、コータの本気モードだ。
攻撃を食らって、“荒野竜”は首を上に向けながら咆哮する。
ダメージがしっかり入っていたのだろう。
二人の攻撃した部分は、岩石のような鱗が砕け散り、血の出ているような裂傷エフェクトが発生していた。
「よし!外装破壊!」
「左の後ろ足を切断まで持っていくには、もう少し攻撃が必要だな…。なるだけ打ち込んでおきたいが…」
「さすがにこっちにヘイト向けられちゃ厳しいわね」
“荒野竜”の首は今度こそコータたちの方を向き、先程よりも強く、威圧するような咆哮を放った。
ビリビリと震える空気に、恐怖を感じる。
右腕を振り上げて、奴はこの二人をいよいよ潰す気である。
まあ、ギールが相手にされなくなるのは予想済みだったが、コータやユーカが狙われたままなのは辛い。
俺はヘイトをまた別のところへ向けるために、キャロンを召喚した。
今回は、話せるような状態でだ。
「いつもアリスをありがとうね」
「こちらこそ、なんだけど…今はとりあえず奴の気を引いてもらえないか?」
「わかったわ。ちょっと避けていて」
キャロンは大きく息を吸い込むと、輝くブレスを吐き出した。
“荒野竜”の装甲に高温のブレスが吹き付ける。
岩のような硬度を誇った装甲をも、溶かしていく。
「さすがは、竜種だな」
「いえ、私だけではここまでの力はなかったわ。あなたのオーブで呼び出されてるからね。でも、ほら、彼はもっと格上よ」
GRAAAAA!!
“荒野竜”は上半身を捻り、吼えながらこちらに顔を向けた。
はじめて、奴の顔を直視した。
血走った眼光は俺たちを鋭く射抜く。
「カゲツ!左だ!尻尾が来る!!」
「なっ…!!」
左を向くと、急接近する奴の尾が見えた。
即座に槍の柄を構える。
バキと乾いた音がした。
衝撃が腹部を襲う。
「っが…!」
一気に視界が後ろへ飛んで行く。
背中にも大きな衝撃を食らって、俺の身体はやっと止まった。
ものすごく体力を減らされた。
一撃でこれだけの威力とかわけわからん。
痛みもあるが、別段戦えないほどの損傷はなさそうだ。
身体の欠損ダメージも存在しない。
「カゲツ!大丈夫か!?」
コータが近くにやってきた。
荒野だから結構飛ばされたのに速いなお前は。
「大丈夫だ。なんとかなる。それよりも、お前が抜けて大丈夫か?」
「心配ない。距離をとって牽制することに終始してる。回復アイテムはあるか?」
「あるよ。戻るからちょっと待ってろ」
「わかった。無茶はするなよ?」
コータが戦線に復帰する。
俺はコマンドを開いて、回復アイテムを使用した。
さて、どうやって攻めるべきか。
今のところ、戦線は膠着しているようだけど、毎度のことながらキャロンの働きが大きい。
それはキャロンが存在していられる時間までしか戦えないということでもある。
その上、俺は単体では全く意味がない。
やはり、進化したオーブの能力を使うべきなのだろう。
<魂装>。
召喚できるモンスターの力を、俺自身の力としてふるえるようになる能力。
こいつの利点はモンスターの力を凝縮して人間のサイズにするため、俺みたいなレベルが足りないプレイヤーでも、最高ランクのプレイヤー並みに力が出せることだ。
その上、普通にモンスターを召喚するよりも能力値が上がる。破格の力である。
ただ、今の俺には大きなデメリットが存在する。コスト全消費及び戦闘後一定時間の行動不能である。
しかも、コストを全消費して、俺が<魂装>できるのは四肢まで。
恐らく、最終的に全身できるようになるのだろうが、レベルからしてコストの最大値が全然足りていない。
完全な<魂装>にはかなり時間がかかるだろう。
そんな状態の能力だ。
あまり賭けのような戦い方はしたくなかった。
けど、長引いても負けるだけだ。
もう決めた。
俺は先の攻撃で真っ二つになった槍を持つ。
石突の方は捨て、投擲槍並みの長さになった穂先を右手に握った。
短く息を吐いて、前を見据える。
俺は全力で大地を蹴った。
キャロンの後方から飛び出せるように、大きく弧を描いて回り込む。
「コータ!ユーカ!<魂装>を使う!一瞬ヘイト頼んだ!!」
走りながら二人に声をかける。
若干戸惑いの声が聞こえた気がするが、気にしない。
短期決戦にはこれが一番だ。
「キャロン!やるぞ!」
「わかりました」
キャロンが頷いたのを確認して、走りながら詠唱する。
「〈魂装:キャロン〉!!」
キャロンの姿が光と変わり、俺の周りに集まる。
大量の魔法陣が蠢きながら俺の身体に収束していく。
全てが終わり、眩い光が放たれた時には、俺はもう攻撃態勢に入っていた。
ヘイトはコータとユーカにある。
俺は、全身全霊をかけて奴の損傷部位を狙った。
「“天の光臨、地の喝采、全てを照らし、全てを救え”<魂装:救済の灯>!!」
光の奔流が俺の打ち出した槍から放たれる。
白みを帯びた光炎は先程キャロンのつけた傷痕に一直線に向かっていった。




