63.SET
やはり今週は本日とどこか一日になってしまいそうです。すみません。
よろしくお願いします。
大規模依頼イベントは、最終日である今日まで続く。
本当は、攻城戦の決勝も今日だったけど、それはまあ、置いといて。
俺たちは、“ローディア大丘陵地帯”で馬鹿みたいにモンスターを狩っていた。
ドロップ品は自動回収できるものだけ、俺の技能も使わない。
ただただ、ストレス発散にモンスターを狩っていた。
特に、コータが酷い。
俺は地力の低さから少し頑張って二、三体を相手にすることしかできないが、コータはさっきから休憩なしで、十体二十体とモンスターを狩っていた。
普段、俺は合わせてもらっていたのだと、改めて感じて、強くならなければいけないと思う反面、コータの姿を見て、心が冷静さを取り戻しつつあった。
確かに、パンナちゃんを失ったことは相当ショックだった。
でも、そのストレスをここでモンスターを狩ることで発散しても、何も進展しない。
解決を目指すなら、もっと踏み込んだアクションを何か起こす必要がある。
俺はそんなことを考え始めて、動くよりも考える時間が増えたんだけど、コータはログインしてからずっとアレ状態だ。
最初から何か考えているようだったユーカには、とても滑稽に見えているのかもしれない。
横目でちらとユーカを見るが、特段変わったところはない。
ユーカはユーカで、ずっとシステムウィンドウを表示して、弄りながら何かを考えているようだった。
どっちつかずになった俺は、どちらに話しかける勇気も失ってしまった。
最早、ただ指にじゃれついてくるアリスと遊んでいる。
いいんだ。攻城戦中連れて行けなかったから、存分に甘やかすんだ。
正に現実逃避。
三者三様。
なぜ同じ空間にいるのかわからないくらいの微妙な空気が流れていた。
不意に、ユーカが声を上げる。
「ねえ、虚しいだけじゃない?さすがにそろそろやめたら?私たちにできることは、前に進むことだと思うけど」
「…わかってる。ただ、全く思い浮かばないから少し運動してるだけだ」
「そう?システムメッセージのハザード表示にも気づかないのに、本当に考えてるのかしら?」
ユーカの言葉に俺たちは即座に反応した。
ウィンドウを開いて、マップ画面を表示させる。
すると、確かにハザードのポップアップ表示がある。
ハザード表示は強力なモンスターが現れた場合に、マップ上のプレイヤーにその存在を伝えるものだ。
弱いボス級程度では表示されず、突発的なレイドボスモンスターなどの人数が必要なモンスターに反応する。
つまり、それだけ強いモンスターが現れたということなのだが…。
「この表示、今の俺にはあいつらの仕業にしか見えないんだが?」
「奇遇ね。私もよ。逆に、ここに行けば何かわかるんじゃないかと思ったんだけど、どう思う?」
「確かに…俺としては賛成だな」
「俺もだ。ついでにこのモンスターも狩ってやろう」
「そ。ならいきましょう」
ユーカは軽く息を吐いて、俺たちのことを促した。
多分、彼女も抱えているストレスを発散したかったんだろう。
顔を上げ、戦闘斧を持った彼女の目は驚くほど座っていた。
ハザード表示のあった地域は、今いるところから若干“大アルカディア荒野”に近づいたところである。
マップを見る限り、“大アルカディア荒野”から徐々にこちらに近づいて来ているらしい。
「ハザード表示は、大まかな地域しか教えてくれない。もしかしたら、対象のモンスターはまだ“大アルカディア荒野”にいるかもしれん。他のプレイヤーがいるなら、“大アルカディア荒野”から裏どりするのもアリだぞ!」
コータが走りながら伝えて来た。
恐らく、マップが広いため、“大アルカディア荒野”にワープしてから追いかけた方が効率がいいんじゃないかという意味も含んでいるだろう。
“ローディア大丘陵地帯”はマップ上ワープできるポイントが一つしかないから、走って移動しているが、“大アルカディア荒野”は広大すぎるマップの特性として、行ったことがあれば東西南北四つのエリアからワープポイントを選ぶことができる。
コータが言っているのはそちらにワープしてから、背後に着く形を取れば時間も短縮できるし、有利だろうという話だ。
「ちょっと賭けだと思うけど、全然ありだと思うわ。ローディアは地形のアップダウンが酷くて、移動時間が思ったよりもかかりそう」
「確かに、直線距離よりも多めに走ってるよね。俺はワープ作戦でいいと思う!」
「よし。なら、“大アルカディア荒野”の西エリアにワープだ」
「了解」
俺たちはすぐに足を止め、マップを操作した。
言われた通りの場所を選択し、ワープしますか?の問いにYesで答える。
三人の姿が光に包まれた。
マップ間のワープというのは本当に一瞬だ。
それ故に、状況が変わると全く理解できないことがたまに起きる。
今回は正にそのパターンだった。
ワープした瞬間、マップが真っ赤に染まっている。
ハザード表示がブザー付きでポップアップする。
ウィンドウ越しに見える大地は、地面がガタガタになった“大アルカディア荒野”と遠くに見える大きな影。
頭も回らないままに、表示されたメッセージに目を向ける。
――――――――――
〈CAUTION!!〉
レイドボスモンスター“荒野竜ヴルム”が出現中です!
討伐に参加しないプレイヤーは安全の為、退避を推奨します!
レイド参加限界人数 100人
現在のレイド参加人数 3人
推奨レベル 60
戦闘に参加しますか?
Yes/No
※なお、Noを選んだ場合は近くの都市へ強制転移となります。
――――――――――
状況を理解するのに数秒かかった。
なるほど。
まだレイドボスは“大アルカディア荒野”にいて、ハザード表示のエリアがローディアでも出てたのはそれだけ相手がでかかったからか。
そして、ワープした瞬間にこんなメッセージが表示されるのだと、そういうことだな?
意味はわかった。
だけど、わかったからこそ恐ろしい。
地形を変えられるほどのバケモノと戦わなければならないってことだな。
横を見ると、速攻でYesを押している二人の姿があった。
当たり前だ。推奨レベルも超えているし、なんならこいつを倒しに来たわけだもんな。
こういうとこで、一歩を迷ってしまうのが俺の悪い癖だ。
怖がり過ぎてる。
深呼吸をして、落ち着いてからYesを押そう。
指先をYesの前に持っていく。
そこで、大きく深呼吸をしようとした瞬間だった。
「キュイ!」
今までずっと大人しくしていたアリスが、懐から飛び出して鳴いた。
びっくりした俺は、はずみでYesを押してしまった。
「あー!やっちゃった!」
俺の声に驚いた二人がこちらを振り返る。
「いや、お前、レイドモンスターと戦うつもりでここに来たんだろうが。腹くくれよ」
「そうよ。なんで慌ててるのよ。寧ろアリスちゃんのほうが正しいわ」
「二人ともひどいなあ」
誰からともなく静かに笑いだす。
久しぶりに二人の顔をちゃんと見た気がする。
何となく、気持ちがすっきりした。
ひとしきり笑ったあと、俺は槍を取り出し構えた。
「これもなんかいい武器に変えたいな…」
「しょうがないな。今回はそれで頑張るしかない。こいつに倒されても倒しても、次の街でいいのがないか一緒に探してやるよ」
「あんた、そんな少しのことで死亡フラグを回避したつもりなの?」
「悪いか?なんかそういうこと言うテンションだっただろうが」
ユーカは苦笑交じりに言う。
「私、思うんだけど、死亡フラグって、戦闘に集中してないって意味なんだと思うのよ。コータ、後ろ見なさい」
三人の顔が引き締まった。
ユーカは打って変わって静かな声で言った。
「あれが、私たちが相手にしようとしているレイドボスモンスターよ。“大アルカディア荒野”最強生物、“荒野竜ヴルム”」
遠くに見えていると思っていた影は、いつの間にか少しこちらに寄ってきていた。
おかげで、その全貌が見える。
茶色や褐色で完全に岩や地面と一体化できるような体色。
ごつごつとして、岩を丸ごと纏ったような鱗が激しい主張をしている。
背中には剣山のようにとがった岩が刺さっているように生えていた。
鬼面のような恐ろしさを持った頭に、知らず畏怖を覚えた。
なんと堂々とした姿か。
レイドボスというだけあって、細かいところまで作りこまれている。
そのサイズ感も桁違いだ。
キャロンが全力で大きく見せても、三分の二程度にしかならないだろう。
これを、俺たちはレイドで倒さなければならない。
俺は緊張で生唾を飲み込んだ。
しかし、ユーカとコータは薄く笑っていた。
「これくらい大きい奴とやるのは久しぶりだな…」
「ほんと。推奨レベル60ってことは、そこそこ頑張らないと倒せそうにないわね」
「まあな。だが、あくまで操縦者がいるかを確認することが大事だろう。最悪、戻ってくるさ」
二人とも、根っからのゲーマーなんだなと思うと同時に、少しでも後悔から解放されてるならいいことだなあなんて考える。
GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!
荒野竜の咆哮が聞こえる。
俺も二人の隣に並んだ。
また、俺たちは戦いを始めるのだ。




