62.前を向く少女/縁を結ぶ執事
西日本の皆様、大丈夫でしょうか…。
大雨等で被害にあわれた方の無事をお祈りしております。
今週とても忙しく、二回ほどしか更新できない可能性があります。申し訳ございません。
とりあえず、火曜、日曜は死守するのでよろしくお願いします。
知っている曲。知っているフリ。
何度も何度も練習して染み付いている。
考える前に、身体が動く。
歌い、踊り、ステップを踏む。
全力の大舞台が待ってる。
身体の動きはすこぶるいい。
だけど、心だけが素直にならない。
パンナちゃんを攫われたあの日。
私たちは、色々なものを得て、失った。
攻城戦イベントにおけるチームの順位は2位。
名声的には悪くない順位である。
私のライブの宣伝も大いにはかどったと言っても良いのではないだろうか。
捕まえた敵のプレイヤーを分析することによって、多くの情報を得ることができた。
私は試合中、全く知らなかった情報であるが、コータくんはかなり色々なことをカイムに教えてもらったらしい。
そのほとんどが、私をはじめとした仲間たちには驚きの情報だった。
ラトさんですら、驚愕して難しい表情をしていたから。
例えば、得た情報の中には捕獲したプレイヤー含め、獣人的なスキンをしていたプレイヤーたちは全員、元々がNPCのデータであるということがあった。
これには衝撃を受けたが、システム上は可能らしい。
ただ相当難しい作業工程を要し、しかも、AIもしくは遠隔操作システムを組み込まなければちゃんと稼働しないのだ。
ラトさん曰く、あの三人組を差し向けた連中はとんでもなく高い技術力を持っているということだった。
そんな難しい情報を得られたところで私的にはそんなに嬉しくもない。
私が一番目標にしていたのは、兵士NPCが元に戻ることだったし、その次の目標は攻城戦で一番になることだった。
でも、結果はどうだったろう。
兵士NPCさんに関しては、これから分析しなければわからないらしい。
最悪、データ抹消もまだあり得るんだとか。
そのうえ、攻城戦については不戦敗で二位になってしまった。
何一つ、達成できてない。
それが私の心に影を落とす。
さらには、もっと大きな失ったものも私に重圧をかけてくる。
パンちゃんはさらわれてしまった。
理由は詳しくわからない。
ラトさんはこの件に関しては相当頭を抱えていたから、詳しく聞こうなんて考えは浮かびもしなかった。
だけど、簡単に連れ戻すことはできないという話は聞いた。
なんでも、パンナちゃんをはじめこの世界で高性能AIを搭載している存在は、この世界に生きているのと同義であり、移動や生活に私たちの現実と同じくらいの制限がかかるという。
つまり、取り戻すには直接奴らに接触するしかない。
こいつらがプレイヤーではない以上、苦戦を強いられるのは確定している。
それがもうどうしようもなくもどかしい。
私の体はアイドル活動をしているために簡単に動けない。
そもそも、どこにいるのかもわからない。
NPCを確定してサーチするシステムなんてこのゲームには存在しないんだそうだ。
正に八方ふさがり。
だから、私は今、ここでライブのリハーサルをしているのだけど…。
歌ってても、踊ってても、あの時の、あの瞬間の映像が頭にフラッシュバックしてしまう。
なんで、あの時守れなかったんだろう。
なんで、気づけなかったんだろう。
っていう後悔が、何度頭をよぎったかわからない。
ただ一度だけ、あの瞬間に立ち戻れたら、という願いを何度心に思ったかわからない。
私は、OLAの世界で確かに生きていたんだろうなって悲しい実感の仕方をしてる。
正直、どうしたらいいのかわからない。
今できることはライブを成功させること。
そのために今まで頑張ってきたし、楽しみにしてくれてる人が沢山いる。
虚勢でも、前を向かなくちゃいけない。
わからないことだらけで埋もれてしまいそうだけど、楽しいことを、最高のステージをイメージして、前に進んでいく力を作らなくちゃいけない。
私が落ち込んでる場合じゃない。
私の落ち込みを誰かに伝えちゃいけない。
アイドルって虚構の偶像だって、始める前からわかってた。
そう考えてた。
だから、現実じゃなくて、ここでアイドルやってるわけだし。
だからこそ、虚構の偶像は強くなきゃいけない。
私があこがれたアイドルは、いつでも元気で強い存在だった。
私が完璧にそうなれるわけはないんだけど、そんな自信もないんだけど。
やっぱり、自分でやりたいと思ったことには、全力で向かいたい。
どれだけ演じてるって言われても、演じてる罪悪感があっても。
私のなりたい私は、こうなんだから。
だから、私はステージに立つんだ。
今日が新しい始まりになるんだ。
初ライブ、絶対、成功させる。
「休憩終わりまーす!次は、舞台でチェックお願いしまーす!」
「はーいっ!!」
明るく返事をしてベンチから立ち上がる。
うん、やれるぞ。
頑張れ、自分。
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私がいなかったことが原因だったのでしょうか。
いえ、あの状況はどうしようもありませんでした。
開発スタッフに聞いてみても、セキュリティの網をかいくぐってここまでのことができる人間は想定できなかったといっていました。
まるで、最初からシステムをわかっていたようだったと。
思うに、私たちはこのプロジェクトに情熱をかけすぎたのでしょう。
何人ものクリエイターが参加し、ゲームシステムの構築よりも多くの時間をささげ、作り上げた5体の高度AI搭載NPC。
実装までに話がこじれていなければ、もっと大々的にリリース当初から宣伝するつもりでしたが…。
過ぎたことを悔やんでもしょうがないですね。
今は対策を考えていかなければなりません。
黒い物体によって現れるバグは、チートツールのようなプログラムだということがわかりました。
しかも、はじめにコータ様たちが採取してくれたプログラムから進化しているのです。
これは、インターネットウイルス等の原理と同じで、段々と高度になり、削除されにくくなるものなのでしょう。
早急に対処しなければ、OLAの運営が危ぶまれる事態に発展してしまうかもしれません。
最初に倒れた兵士NPCは運がよかったとも言えますね。
初期のウイルスなら完全に排除することも可能かもしれません。
私たちは、この厄介なウイルスを『黒硝』と呼び、情報を厳重に管理することに決めました。
このウイルスはプレイヤーには全く害を与えない造りになっているため、通常のプレイヤーにはその正体を教えない方針を固めました。
トラブルが発生した場合はゲームにうまく組み込めるように、世界を動かすマザープログラムを設定したのです。
これにより、事件の起きた場所もよりわかりやすくなり、ゲーム性も維持できるというシステムです。
さて、大雑把にこうして対応を振り返ってみましたが、解決方法は未だ浮かんでいません。
ゲームのアイテムとして存在するものが作れるということは、この世界のどこかに『黒硝』を産生するシステムがあるはずなのです。
それを突き止めて破壊しなければ根本解決にはならないのですが、いかんせん私は動けません。
私は“タルトレット”の管理をしなければならないですから。
かといって、多くのプレイヤーを巻き込んでしまえば、せっかくゲーム要素を使って情報の拡大を防いだ意味がなくなってしまいますね。
最終的に多くのプレイヤーの力を借りることになったとしても、その時は大々的にイベントを作って、 こちらでコントロールできるように計らわなければならないでしょう。
そう考えると、やはりあの三人組に頼んでおくのがよさそうですね。
とりあえずは、契約書を作って、アルバイトという形で雇ってしまいましょう。
善は急げという言葉があるように、私はさっとログアウトの操作をしてVR空間から戻ってきた。
通勤して会社に来てまでゲームの世界に入らなければできない仕事なんて、正直、部外者の人々が見たら驚くだろう。
私だって最初は驚いた。
しかし、人間は適応する生きものだ。
昇格し、事業も軌道に乗ってきて、気づいたら慣れてしまっている自分がいた。
私はオフィスのある部屋へと歩を進め、扉をノックした。
「失礼いたします。先のイベントにて協力していただいたプレイヤー三人の情報を持ってまいりました」
「いいよ。そんなにかたくならなくて。まだロールプレイが抜けてないんじゃない?」
苦笑しながらこちらに目を向けた青年は、さらりとした金髪をかきあげた。
そして、楽しそうに笑って言う。
「へぇ、面白い三人じゃないか。実力もありそうだし、『黒硝』への理解もあるなら、これで進めちゃおうよ」
「かしこまりました」
「もう、僕はどこの王族なのかな?」
青い目にはきっとまだ見ぬ三人のことが映っているのだろう。
私は未来ある若者たちとこのゲームに対して、心の中で最大級のエールを送った。




