59 .攻城戦準決勝その5…カゲツ視点2
よろしくお願いします。
「ハッハー!どうだ!さっきから舐めた真似してくれやがって!!ここまで俺にさせたんだ、しっかり死んでくれや!!」
はじめの斬撃を躱してから、俺はもう防戦一方だった。
ダメージを与えるために必要な力が、俺には圧倒的に足りなかったのだ。
「形成逆転ってのは気分がいいなぁ!!斬られたら大ダメージ!触れれば状態異常!俺を強化してくれる能力付きで、物理を通しにくいこの体!そして、何より流動的な動きが可能!まるでボス級モンスターになったみたいだぜ!お前みたいなプレイヤーは踏み潰して、さっさとあの女をぶっ飛ばさねえと!!」
私怨か?
多分あの女っていうのはユーカのことだと思うけど、ユーカだったらこいつは倒せる気がするなあ。
攻撃力の塊。圧倒的な力を持つ攻撃なんて俺はユーカ以外ほとんど見たことがない。
やはり戦略性が問われる戦闘があるからだろうか。
実際、ユーカも苦しんでる時あるしな。
でも、実際問題、俺の攻撃不足は問題だ。
何か、攻撃力を増幅させる力があればいいんだが。
「ちょろちょろとうぜえなぁ!!なんであたんねぇんだよ!」
そりゃ、当たったらやばいから当たらないようにするさ。
にしても、短気すぎないか?
ペラペラと能力を話してくれるし、ユーカに簡単に倒されたのもそれが理由な気がする…。
俺がユーカから事前に情報を貰えたのはそのおかげだしな。
「クソが!押しつぶす!」
奴はゲル状の体を大きく広げて、跳び上がった。
その跳躍力はなかなかのもので、軽く5メートルは跳んでいるだろうか。
とにかく、あれが俺の頭上に来たら押しつぶされる運命しか見えない。
さすがにそれで倒されるのはどうにか回避したい。
俺は大きく後ろに下がり、余波の攻撃判定すら届かない場所にダッシュした。
相手を見ながら下がるよりも確実な回避を選んだのだ。
反転して前を向く前に、後ろで大きな衝撃音がした。
水っぽい不快な音が耳に残る。
振り返れば、眼前に毒々しい色の触手が迫っていた。
思わず短く声をあげ、俺は体をのけぞらせた。
触手は俺の体に器用に巻き付き、そのまま持ち上げて宙につるした。
「ハッ、見たか!これが俺の力だ!お前のようにモンスターを召喚して踏ん反りかえってるプレイヤーには負けねえよ!」
アルクの顔がこちらを覗き込む。
その顔は狂気にゆがみ、先ほどまで戦っていた男とは別人のようであった。
なにがこいつをそうさせたのかはわからないが、明らかに会話に応じてくれそうな気配はない。
元々、会話するつもりもなかったのだけれど。
「さぁ、無様につられて死ね!!」
後方から刀の形をした触手がこちらに向かってくる。
これは正直食らうと詰んでしまう。
現在ですらこの触手に触れられたことによって、俺のステータスには状態異常が大量に書き込まれている。
待っているだけでも死んでしまうかもしれないのに、こんなものを食らってはひとたまりもない。
「“ここに来たれ!!”キャロン!!!」
ギュオォォォォン!!!
とびきりの咆哮がすぐ近くから聞こえてきた。
キャロンである。
先ほどの詠唱は、既に召喚したモンスターをこちらに引き寄せるものだ。
実体化しているとはいえ、俺のオーブで召喚したモンスターは基本的に魂であるという前提からこんなことが可能らしい。
が、今はそんなことどうでもいい。
「なんだ!!?」
キャロンが燃え盛る炎を吐き出した。
こちらに迫っていた触手が一瞬で燃え尽きる。
さすが竜種。相当の威力だ。
「なんでドラゴンなんて出で来るんだよ!!ふざけんな!ゲームバランスどうなってやがる!!」
そこに関しては俺も疑問であるが、出来るものは使ってもいいだろう。
キャロンを使うのは少しズルをしている気分だが、今回の目的はこいつに勝つことではない。
キャロンに働いてもらおう。
「クソッ!!なんでこんなにツイてないことばっかり起きるんだよ!!俺がなにしたってんだよ!!!」
アルクは激高して大量の触手を一気に繰り出してきた。
俺の体をつかんでいた触手も先ほど外れている。
あいつの体のすべてが触手となってこちらに来ているのだ。
視界いっぱいがあいつの体を作っているゲルで埋まる。
キャロンが思い切りブレスを吐いた。
ごおぉぉぉぉという音とともに、何とも言えない異臭がこちらに漂ってきた。
燃えたあいつのゲルの匂いだろう。
思わず顔を顰め、よろよろと俺は立ち上がった。
キャロンの火炎のおかげでほぼすべてのゲルが焼き払われたようだった。
状態異常に侵されて参ってしまいそうだったが、俺は現場確認のために、キャロンの巨大な身体の後ろから、前側を覗き込んだ。
キャロンの正面には、一通り燃え落ちた謎の物体と飛び散ったゲルが散見できる。
森の下草の焦げ具合で、どれだけの力を持った攻撃がここに放たれたのかを知ることができた。
やはり竜種の力は計り知れない。
そう思った矢先だった。
キャロンの体の影が揺らぎ始めた。
何事かと後ろを振り返ると、キャロンの体がゲルまみれになっている。
燃え尽きなかった部分を自らの体にかぶって俺を守ってくれたらしい。
ふらふらとしつつも立ち続けている姿に、俺は強い罪悪感を覚えた。
そして、静かにキャロンを送還する。
もし、俺自身に、キャロンほどの力があれば…。
強い自分に変われる何かがあれば…。
罪悪感が呼ぶ後悔はとどまるところを知らない。
そこに聞こえてきた声は、最悪を告げる声であった。
「おらぁ!!お前の竜は俺が殺した!!俺の力がお前の力より上だってことが証明されたなあ!!」
その声は燃え跡の残る草むらの近くの木陰から聞こえた。
俺がそちらに視線をやると、ぼろぼろと左半身のゲルを滴らせながらこちらに歩いてくるアルクがいた。
さすがに俺も動揺を隠しきれなかった。
あれだけの攻撃を食らって、まだ、本人は元気なのである。
「いやあ、すげえ高温にさらされたときはどうしようかと思ったんだがなあ…。この鎧は、そんじょそこらの安物とは違うんだよ。俺のオーブの力が生み出した最強の鎧だ。竜の息吹に耐え抜き、俺の体を守った!」
狂気の笑みを浮かべながらこちらに語り掛けてくる奴は、その姿も相まって、もはやプレイヤーと異なるモンスターのような雰囲気を醸し出していた。
右半身に残ったゲルが、見ているうちに欠けていた左側へ動いていった。
先ほどよりもボリュームのなくなった怪物がやはりそこにいた。
前と全く同じ仕組みと性質をしているのであれば、今の俺に倒すことはほぼ不可能だ。
俺にはやはり攻撃力が足りない。
キャロンをもう一度召喚しようにもコストが不足して存分に力をふるえない状態になってしまう。
この状況で召喚していいのか?
それとも、最早逃げを打ったほうがいいのだろうか。
俺の中で葛藤が渦巻いていても、アルクの侵攻は止まらない。
「今度こそ終わりにしようぜ。俺の力が最強だってことを証明するためにもな」
前よりも小ぶりな触手がやはり刀の形をしてこちらに迫ってくる。
既に状態異常になっているとしても、こいつの攻撃を食らうのは厳しい。
触れるだけならまだしも、斬撃を食らってしまうと、今ある状態異常のせいでほとんど一撃で倒されてしまう。
ここで、何とか倒さなければ…。
せめて、俺の力がもっとあれば…。
もっと、圧倒的な攻撃力を、俺自身を強化する力を…。
<オーブの第一進化能力が解放されました>
システムメッセージが不意に表示された。
驚きに目を見開きながら、俺はまず相手の攻撃を躱す。
そして、メッセージの詳細に目を通した。
俺の答えはその瞬間に決まった。
「<魂装:キャロン>!!!」
非常に短い詠唱句。
途端、俺の周囲に黒く輝く魔法陣が大量に現れた。
俺には読めない不思議な模様がくるくると回転する。
それは俺の体に吸い込まれていき、一瞬、眩い光を放った。
「なっ!!なんだ!?」
驚くアルクの声。
俺は全くそれを省みることなく、槍を構えた。
「お前…全身白く…!?というか、肌に、鱗…?」
「“天の光臨、地の喝采、全てを照らし、全てを救え”<魂装:救済の灯>!!」
白みを帯びた火炎が、槍の先端から噴出する。
それはまるで一筋の光のようにまっすぐに、アルクの胸を貫いた。
貫通した傷口から、白みがかった炎がアルクの体を焼いていく。
ぎゃんぎゃんと叫び声をあげながら、奴の姿はだんだんと粒子に変わっていった。
そして、天に昇って見えなくなるより先に、俺の姿ももとに戻る。
状態異常は弱めに残っているが、全く動けないほどではない。
パァンという乾いた音が聞こえた。
俺は新しい能力を手に入れられたことの喜びを噛みしめつつ、空を見上げる。
そこに出ていたサインは二つ。
捕獲成功。
フラッグ回収完了。
俺たちの攻城戦が終わったことの合図だった。




