58.攻城戦準決勝その4…カゲツ視点
よろしくお願いします。
近接武器の打ち合いになると、リーチの差が実直に出る気がする。
俺は自分がここまでうまく立ち回れていることで、ある程度の自信を持ち、冷静に戦うことができていた。
やたらと瓶を持っていた相手のプレイヤーはアルクという名前の男だ。
実は、このような戦い方をするプレイヤーがいることはユーカにあらかじめ聞いていた。
“南の密林”での戦いの時に倒したことがあるのだとか。
キャップの仲間が二人いるのは知っていたし、もう一人はあの壁を生成してくるプレイヤーだとわかっていたので、すぐにそれとわかった。
やはり、はじめに大ダメージを与えられたことがよかった。
俺の抉った脇腹の辺りに部位欠損判定が出ているらしいのだ。
部位欠損は一部分に対して一度に大ダメージを食らうことで発生するシステムだから、普段の俺ではまあ出せない。
今回は不意打ちの上、相手が防御していなかったからこそできたことだろう。
部位欠損判定が受けたところには継続ダメージが入る他、たまにプレイヤーの痛覚に訴えて、行動を阻害してくる。
奴は自身を回復し強化しているが、この一点があることで、俺はそれなりに戦えている。
「うっぜえなぁ!!長い武器をちまちま振り回してんじゃねぇよ!!」
「これしか武器がないから仕方ないだろ!」
悪態をついてくるアルクについ反応してしまう。
声はなるべく出さないようにってことだったけど、失敗した。
動揺を隠すように、攻勢に出る。
狙うは急所、四肢など部位欠損で甚大な被害を与えられる場所だ。
上段。下段。薙ぎ払い。
防御されていない頭を。脚を。防御姿勢をとる腕を。
それぞれ淡々と狙っていく。
もちろん防御や回避はされる。
しかし、リーチの差が大きく、アルクは迂闊にこちらの間合いには入って来られないようだ。
コータは、サーベル一つで懐に潜り込んでくるくらいは簡単にやるので、やはり頭がおかしいのだろう。
「ちっ、本当に面倒な…!」
アルクがバックステップで距離を取る。
俺はすぐに詰めにいくが、またもや瓶が投擲される。
仕方なく下がってデバフから逃れた。
「舐めんなよ?俺の力はこんなもんじゃねぇんだよ!<惡帥饗酒:火油加>!!!」
アルクは大量の瓶を地面にたたきつけて割った。
中に入っていた大量の液体が大地に流れ出る。
毒々しい液体が大きなシミを作っていった。
怪しげな色のオーラが地面から立ち上っている。
ヤバそうな雰囲気がガンガンしている。
俺は急いでオーブを使う。
「“拓く航路、反転する潮流…”」
「無駄だ!!俺のオーブが完成するほうが速い!目覚めろ!<惡帥ゾンビ>!!」
立ち上っていたオーラが、段々と人型を作り上げていった。
体は若干流動的で、大きさは普通の人程度。
しかし、目があるはずの場所には虚ろな窪みがあるだけだ。
そんなよくわからない生物が全部で5体。
確実に奴らは俺1人では倒せない。
早く詠唱を終えなければ、飲み込まれてしまう。
とにかく後ろに下がりながら、間合いをとる。
身に着けた移動詠唱を使って、なにがしかの群れ系のモンスターを召喚してしまおう。
「“燃え盛る灯は此方に。迷える魂よ、泡末の現へ”<外ツ國、還リ來タル禍ツ舟>!!」
いつものように昇っていく光。
下りてくるまでの時間がもどかしいほどに奴らはうめき声をあげながら迫ってきた。
アルクの高笑いが聞こえる。
「ハーッハッハー!!見たか!俺の奥の手、最強害悪生物<惡帥ゾンビ>だぜ!!こいつに触れたら深刻なデバフに侵される!触れなければお前はこいつらを倒せない!まさにお前のようなプレイヤーを倒すためにある!」
口惜しいが、その通りだ。
デバフに突っ込むのはこいつらを放置するよりも危ないことである。
一対一で、アルクに勝つための力は残しておかなければならないからだ。
となると当然…。
「ん?お前、“召喚型”だったのか!?何を召喚しやがった!」
それを正直に教える奴はいないと思うけど…。
内心でそんな風にツッコミを入れながら、俺は黒い魔法陣からあふれ出てくるモンスターのシルエットに謎の感動を覚えた。
こいつらは、最悪の敵。
群れで動くならかなり上位の厄介な敵。
俺は少なくとも経験上そうだと思っている。
そんな奴らが今回は味方だなんて心強い。
「げっ、こいつら、“サスケエイプ”じゃねえか…!なんでこんなところに!キャップのやつは俺たちの行動を知らないはず…ってことはやっぱりお前か!!」
そんなに考えなくても、目の前にいた俺に決まってるでしょ。
そう思ったが、反省を生かしてだんまりを続ける。
それに、こいつらの中でもこのモンスターが害悪扱いされていることがよく分かった。
仮にも自分たちが利用していたモンスターでもこれだけの反応。
そんな凶悪な存在って認識なんだな、個人的にはこれだけでも召喚した甲斐があるだろう。
「こいつら、数が多いな!!どれだけのコストがあってこんなに召喚してるんだよ!」
アルクが吠えるのは当然だ。
俺のコストの上限は、この前オーブを使う練習をしているときに大幅に増えた。
なんでも、進化の条件が揃ったために準備として上限を引き上げてもらえたらしい。
しかし、今回の攻城戦に至るまで、俺は自分のオーブを進化させられていない。
一体どうしたら、オーブが進化するのだろうかと首をひねっているところである。
ただ、確実に戦況にはいい効果を与えられている。
「俺の方を攻撃してくるんじゃねえ!!ゾンビを用意した俺の努力を無駄にする気か!!」
わめいている割には、“サスケエイプ”確実に処理していっている姿に、さすがに焦りを覚える。
“サスケエイプ”投入後、俺が削れたゾンビ兵力は二体。
このまま戦えばスペック的に負けるのは俺と“サスケエイプ”だろう。
だが、このままアルクの体力を削れたなら…。
ゾンビどもが俺を追う余裕をなくしている今、俺は“サスケエイプ”と同じように本体を狙うのが賢い方法だろう。
そう判断した俺は、即座に走り出しアルクの戦場の側面を通る。
やはり、俺ごときが安全にできるのは背後からの不意打ちくらいだ。
この機に乗じて、とどめを刺してしまおう。
そう考えたときだった。
「ああ゛っ!!もう!うるせぇな!こうなりゃ最終奥義だ!!<惡帥ゾンビ>!!<装着>!!」
…装着?
耳に入ってきた言葉は予想もしていなかった言葉で、俺の思考が一度止まった。
まさかとは思うが、纏うのか?
あの、謎生物を?
思わず俺は動きを止めていた。
怪しげなゲル状の物質がアルクのほうに向かっていく。
ズリズリと地面を這いながら進んでいく姿は、この世の生物とは思えない。
少しげんなりしながらも、俺は“サスケエイプ”に帰還の指示を出した。
これはさすがに罠か強化であり、低級の“サスケエイプ”では到底太刀打ちできなくなるだろう。
俺のオーブの特性上、召喚した後自らの意思で送還すればコストが少しだけキャッシュバックされる。
これで若干の余裕ができた。
「さぁ!!見ろ!!俺の最終奥義!!<惡帥饗酒:鬼酒>!!!」
アルクの姿は先ほどまでよりも二回り以上大きくなり、頭の部分には角が生えている。
体色は毒々しく怪しい。
質感もぶよぶよとしてゲルチックである。
不気味、という言葉が一番似合うのがこの姿ではないだろうか。
「おらぁ!!どうした!!こねぇのか!!ならば、俺から行くぞ!!」
突如、腕の形状が変化し大太刀のような鋭さを帯びた。
それがこちらに伸びて向かってくる。
「なんでもありかよ…!」
思わず、小声で本音が漏れてしまった。
あいつの戦い方はこれまでのプレイヤーの中で一番やりづらいかもしれない。
切られれば恐らく、刀剣でやられた時と同じもしくはそれ以上のダメージ。
触れれば状態異常。
おまけに移動速度や、形状変化を積んでいて人間と同じような形。
やりづらさの塊である。
俺は目の前の怪物を観察しながら、活路を見出そうと頭を回転させていた。




