46.攻城戦
よろしくお願いします。
イベント三日目。
俺たちは“タルトレット”の城にある闘技場に集まっていた。
今日から攻城戦が始まるのでその打ち合わせと、昨日持って帰ってきた謎の黒い物体の解析結果を聞くためだ。
いつも通り、報告は全てラトさんから。
「昨日は大変だったそうで、お疲れ様でした。今日から攻城戦が始まるのでその打ち合わせをしたいのですが、先に例の黒い物体についてわかったことをお話しします」
ラトさんがそう言って取り出したのは、昨日採取した暴走ボス級モンスターの素材と、三人組が消えた後に、変質していた近くの樹木から採った素材だ。
いずれも俺の技能でしかアイテムとして採取できなかった。
そんな謎の物体を昨日はラトさんに預けて終わったのだ。
「結論から言えば、この黒い物体はバグの発生したデータの塊のようなものです。外部から強力な攻撃を受けて、様々な部分が壊れてしまっています。そして、驚くべきことに、これは故意にある一定のプログラムだけを破壊したり、書き換えたりするウイルスのような性質があったのです」
「そしたら、あの三人は意図的に様々なモンスターを暴走させていたってことになるんすか?」
「十中八九そうでしょう」
「木の方は暴走してる風には感じなかったけど…」
「この黒い物体を解析した限りでは、動物系のデータにのみ作用する暴走事項があるようです。主にステータスの調整について」
確かにステータスはおかしくなっていた要因の一つだ。
最初に見た方の“レイベント”は明らかに種々のステータスが強化されていた。
次に毒で死んだモンスターは、あまり目に見えて変化はなかったようだが、ステータスは恐らく調整されていたのだろう。
そう考えてみると、確かに木はフィールドのオブジェクトだからステータスは耐久値くらいしか存在しない。
「ステータスの上昇については、恐らくランダムで何かしらのステータスを上げるという仕組みだと思います。皆さんの報告にある一体目と二体目の違いはそこかと。しかし、面倒なのは自爆の機能ですね。発動の条件が、非常にわかりづらいのです。解析結果から考えると、状態異常によるダメージでは発動しないと考えるのが妥当でしょう。現時点での推論としては、体力が一定量を過ぎた後のカウンターとして発動するというのがこちらの見解です。いずれにせよ、こんな兵器的なものが出てきたこと自体、とても由々しきことなのですが」
ラトさんの考察は俺たちの見てきたものとしっかり合致したものだった。
しかし、こんなにも攻撃的なアイテムを作るなんて、あいつらはどんな技術を持ってるんだろう。
雰囲気が暗くなりかけたところで、ラトさんがまた微笑みを浮かべて言った。
「まぁ、こちらは運営側で対処しますから。頭に入れて注意しておいていただければ良いのです。大切なのは、これからの攻城戦ですよ」
「そうよ!三人とも、私を勝たせる準備はできた?」
クーレさんが、突如現れた。
闘技場の入り口から、大声を張り上げる姿はとてもアイドルには見えない。
ユーカが呆れたように言う。
「クーレ、もう少し言い方ないのかしら?アイドルがしていい発言じゃないわよ?」
「いいのよ。私は今はアイドルじゃないもん」
「それで、攻城戦の方はどうしますか?俺は指示に従いますけど…」
ラトさんにそう提案した。
大体面倒な人たちの扱い方がわかってきたのだ。
ラトさんはにこやかに言う。
「今回の司令塔はコータ様ですので、私もその指示に従うだけです」
「えっ、ほんとなの!?」
「まぁ、そうだな」
俺は思わず視線をコータにやったが、コータは少し視線を逸らした。
「照れるなんて珍しいじゃない。何かいいことでもあったの?」
ユーカがしたり顔でコータのことを見た。
最近隙あらばスピニーさんのことでからかっているユーカにとってはなかなかいいネタだったのだろう。
コータはしかし、取り合わない。
「とりあえず、俺の方でラトさんと考えたポジショニングがあるから聞いてくれ。パンナ姫は今いない分、あとでラトさんから伝えてもらう」
全員が声を拾おうと耳を傾けた。
「いいか?今回の攻城戦、大事なのは守備だ。幸いにも物理的には最強クラスの防壁がいる。俺たちはじっくりゆっくり攻めていく。具体的な攻撃戦力は基本三人。カゲツ、ユーカ、ラトさんだ。とりあえず、一戦目はこれでやる。細かいことは随時指示していく感じになると思う。何か質問あるか?」
「はいはい!私は目立つところに置かなくていいの?」
「オーブの特質上守備が一番ちょうどいいだろう。うちはあまり敵の攻撃を迎撃しようと思ってないから沢山敵が来て、沢山カメラがくることだろう。それでも不満か?」
「ふーん…いいわ。私のオーブの力、思い知らせてやるんだから」
クーレはコータのその答えを聞いて、満足したようだった。
俺も、少しだけ質問がある。
「パンナちゃんは、プレイヤー枠でいいの?どんなオーブを使うとかわかる?じゃないと何してるのかわからなくない?」
「あぁ、それなら心配ない。パンナ姫はプレイヤーの中でもひときわ珍しい、回復系の能力が使える存在だ。通常のプレイヤーよりもある意味すごいだろうな。クーレに守ってもらって、守備チームに回復をかけてもらうことにしている」
「それはすごいな」
「パンナちゃん、さすがね。私たちはそれに応えるために頑張って早く決着をつけないとね」
ユーカが俺に言った。
俺も頷いて同意する。
コータがその姿を見て話しを進める。
「じゃあ、よさそうだな。初戦は、“スイーティオの森”の東門口に、集合だ。あと一時間半あるから、ちょっと今の編成で考えてみてくれ」
いよいよ、攻城戦なんだという気持ちが高まってきた。
三人組のことは正直気になるけど、今は目の前のイベントを楽しみたい。
というか、結局勝ち進むことであいつらに当たれるわけだし。
そうやって自分の気持ちを整理しながら、俺はユーカやラトさんと攻撃の役割分担などを確認した。
一時間半という時間は、楽しい気持ちでいるとあっという間に過ぎ、ついに競技の開会宣言がなされる時間になった。
「さぁ!!始まりました!!攻城戦イベントin“タルトレット”!!今回の攻城戦にはバーチャルアイドルのクーレさんが登場!!さらには、“タルトレット”の姫君、『パンナ・タルトレット』も同じチームとして参戦するという運営からのプレゼント付きだー!!全員、スクリーンショットの準備はできていますかー?今回も攻城戦の広大なステージを小型ビデオドローンが飛び回り、皆様のために放送し続けます!!」
“スイーティオの森”に簡易的に造られた特設ステージで、司会者が観戦しているプレイヤーをあおっている。
ライブ中継は、各時計塔に一つはシアターのようなものが作られ、そこで行われるらしい。
VR環境にない人も、動画配信サイトなどで攻城戦に関しては閲覧できるようになっているというのが驚きだ。
「そうしましたら!本大会実行委員会委員長のプレイヤーネーム『カイチョー』様より開会の御言葉を頂きます!」
このゲームの運営の人は、おかしな名前が多すぎるし、みんなプレイヤーとして中に入ってるのがすごいところだ。
そんなことを考えていると、後ろから肩をたたかれた。
「何をそんなに考えてるのよ?」
ユーカである。
腕にはアリスを抱えている。
恐らく、クーレとパンナちゃんとじゃれてきたところなのだろう。
またリボンの色が変わっている。今度は青か。
俺はユーカからアリスを受け取りながら言った。
「ちょっと、緊張しそうだったから他の事考えようと思ってたんだけど、聞こえてくるのが司会者さんの声ばっかりで、やっぱり攻城戦のことしか浮かんでこなかったところ」
「なによそれ。意味ないじゃない。緊張して無様なことになったら怒るわよ?」
「それはしないように気を付けるよ。ユーカも怖いし、クーレさんにも悪いから」
「あなたは自分がないのかしらねー」
「そんなことはないと思うよ?」
「そ。ま、もたついてたら、私がフラッグを単独でへし折ってくるから」
ひらひらと手を振りながら、ユーカは自分の決めたスタンバイ位置に移動していった。
俺は、腕に抱えたアリスの頭を撫でながら一人、心を強く持とうと決めた。
「ありがとうございましたー!!それではお待ちかね!!第一試合、『姫とクーレとスタッフ』VS『韋駄天』!!いきなりの注目カードです!皆さん、開幕試合のカウントダウンはご一緒に!!」
システムメッセージがポップアップする。
よし、いよいよだ。
「「「「10…9…8…7…6…5…4…3…2…1…!!!!」」」」
<BATTLE START!!>
俺は思い切り地面を蹴りだした。




