45.エンプレスアーミラ
よろしくお願いします。
「ギュルグルルルルァァァァ!!!!」
前方から聞こえるモンスターの声に、俺は身体を反転させ、回避を選んだ。
元々戦っているチームがあったこともあり、俺は取り敢えず戦闘の範囲から外れられたが、彼らの戦闘は阿鼻叫喚の様相を呈していた。
ある程度俺が距離を取った段階で、何人かのプレイヤーが死亡し、チームが半壊状態に陥っていた。
「おい!カゲツ!俺たちも移動しなきゃ巻き込まれる!それともここで戦うのか!?」
コータの声が聞こえた。
確かに俺たちの目的は、怪しげな三人組について詳しく知ることだ。
しかも、さっき見た”レイベント”のような結末になるのであれば、なおの事ここは放っておき、三人組の足取りを追うことに全力を尽くすべきではある。
だが、個人的にそれは、あまりにも勝手なことのように思えてしまうのだ。
だから俺は、自己満足でも手伝いをしていきたい。
「俺は戦うよ!コータたちは三人組をよろしく!」
「馬鹿ね!あなたの力じゃ、出来ることの多寡が知れてるわ!」
「知ってるよ!なんとなく放っておけないだけ!」
「チッ、強くなってから言いやがれ!俺が一緒に残る!ユーカ、すまんが三人組を」
「友情とかいうわけね…。全く、変な意地張っちゃって」
コータがこちらに駆けてきた。
俺は、コータが来てくれたことを嬉しく思いながらも、オーブを使って火力で押し切る戦法を使おうと思っていた。
もしダメでも、キャロンに引きつけてる間に生き残っているプレイヤーは逃げられるんじゃないかという考えだ。
その後のことは何も考えてなかったけど、コータがいるならそこも解決な気がする。
よし、と意を決して、詠唱をしようとした瞬間だった。
「<女王蜘蛛の鉄糸>!!!」
どこからか、凛とした声が聞こえてきた。
次の瞬間には、一筋の線がきらめき、目の前のモンスターに突き刺さった。
モンスターは苦悶の声を上げて、こちらに注意を向ける。
まだ詠唱をしておらず、準備もしていなかった俺は思わずギョッとした。
間髪いれず、同じ声が再度聞こえる。
「<女王蜘蛛の鉄糸:荊網>!!!!」
先程と異なり、幾つもの光の筋がモンスターへ飛んで行く。
よく見れば、光って見えたのは糸の光沢であることがわかる。
そうして目を凝らして見えてきたのは、巨大な蜘蛛の巣が作られているということだった。
暴走しているモンスターの動きが鈍る。
最初の糸を起点に、身体が巣に捕らわれているのだ。
余程丈夫な糸なのか、中で激しく暴れているにもかかわらず、巣はびくともしない。
「やっタネ!コー君!助けに来たヨ!」
不意に近くであの声が聞こえる。
コータは若干怪訝そうな顔つきだ。
突然、俺の体が衝撃に襲われたかと思うと、軽く地面に投げ出されていた。
「近くニいたから、つい、来ちゃっタよ!」
「いやいや、来なくていいから。チームで狩りでも調査でもしてろよ…」
「ひどいなぁ。間違えた。ひどいじゃナイ!」
「キャラ守れてないから…」
振り返って見てみると、美しい黒髪の女の子がコータの隣、俺のいた場所に立って、コータに寄りかかるように腕を絡めていた。
この子が噂の、コータの彼女(仮)か…。
コータがちょっと嫌そうにしているのが何かちぐはぐな感じを醸し出している。
コータ、ちゃんと演じる気あるんだろうか。
クーレさんを通して知っているからか、どうしても演じてるかどうかが気になってしまう。
それにしても…。
「俺を吹き飛ばすことなかったんじゃないですか?」
「ごめんネ!コー君しか見えてなかったノ!」
「いや、謝れよ…」
コータが呆れる程のテンション感と言い分だ。
俺としては組んでる腕を外して、モンスターに少しは注意を向けてほしい。
モンスターはまだまだ暴れている。
ただ、少しずつ動きが鈍っているような感じもある。
コータとの絡み具合には目を瞑って、まずはその辺を聞いてみることにしよう。
「ねえ、スピニーさん、でしたよね?あの、ボス級はあの状態で放っておいて良いんですか?」
「あー、大丈夫よ。あれくらいの力じゃ、私のエンプレスちゃんの糸は切れないわ」
「素に戻ってるぞ。そのキャラ無理あるんじゃないか?」
「…いや!頑張る!だってここまでこれでやって来ちゃったもの」
この二人の会話、危機感を感じられないな。
それにしてもどんどん弱ってるような感じがするのは何故だろう。
俺は、この糸の秘密が知りたくて、手を伸ばそうとした。
「触っちゃダメよ。結構強い毒を伴った糸だから。自己回復できない相手は、大抵これで平気なのよ」
「マジか、危ないな…」
「カゲツ、これでもトッププレイヤーの一人だ。それくらいの事は出来る。じゃなきゃこんなに楽にしてないだろうよ」
それもそうかと納得したが、コータに褒められたことでドヤ顔を浮かべるスピニーさんがうざい。
なんで綺麗なのにこんなに残念なんだろうか…。
「コータ!カゲツ!三人組が動いたわ!黒い箱をまた用意してる!」
ユーカがこちらに大きな声で呼びかけて来た。
俺とコータは急いでユーカの方へ走る。
なしくずし的に、スピニーさんもついてきた。
「ほら、あれ」
ユーカの下に着き指のさす方を見ると、今度は生えている樹木に箱を使おうとしているようだ。
なにかの実験だろうか。
というか、あいつらの黒い箱は何かの実験として様々な生物に使っているのだろうか。
アイツらの行動を見るたびに謎が募る。
「ふーん、なんだか面白そうなことをしてるじゃない。私も手伝ってあげようか?」
「いや、スピニーさんの手を煩わせても…」
「いいじゃない。別に色々部外秘にしてくれたら問題ないはずよ?」
「それはさすがに…」
「ラトさんに話してた時点では、契約書があれば協力者を募ってもいいはずだ」
「ほんとに?企業としてそれはいいのかな…」
肩をすくめるコータ。
俺の中に、このゲームの運営は大丈夫なんだろうかという疑問がよぎる。
いや、多分、運営側のラトさんと俺たちが接触できている時点で普通ではないんだけど。
「つまり、私は協力してもいいんでしょ?」
「契約書を書いてからな。情報はそれまで教えん」
「えー、いじわる」
「そうよ、一応、彼女なんでしょ。優しくしてあげなさいよ」
「やめろ。演じてるだけだし、こいつは自分のキャラも演じきれないんだぞ」
「それは違うわ。今ここにいる人がみんな正体を知ってそうだからよ」
開き直ったスピニーさんはむしろ胸を張っていた。
とりあえず、このままでは話が進まない…。
三人組は動いてないけれど、放っておいていい通りもない。
「とりあえず、俺は先にあいつらを捕まえる。早くしないとまた逃げられる!コータたちはさっきのモンスターを!」
「あぁ、あれなら死んだわよ。毒にやられてね」
驚きの声を上げる俺たちの前に、大きな死体がドスンと落とされた。
「ほら、私の相棒、<女帝鉄甲蜘蛛>よ」
落とされたモンスターの死体には糸がつながっており、その先がその相棒とやらのお尻につながっていた。
紫がかった金属光沢のある体は、一目で人工物とわかるような形状をしていた。
シャープですっきりとした印象の<女帝鉄甲蜘蛛>は、俺的には好みのかっこよさであるが、いかんせん大きさがすごい。
「こいつ、蜘蛛の癖にでかすぎじゃないですか?」
「そりゃ、私が乗っかって移動できるようにデザインしたからね」
「デザイン?」
「この蜘蛛よりも、まずは三人組よ。捕まえるなら今だと思うけど?」
「そうだった!追いかけないと!」
「いや、それはなしにしよう。ラトさんから連絡がきた。不用意に近づかずに、証拠になりそうなものを資料として採ってくるようにだってさ」
コータ、ラトさんと連絡とってたのか…。
ラトさんに言われちゃったらどうしようもないな。
不用意に近づくなってことは何か気になることがあったんだろうか。
俺は正直、回りくどいことしないで早く捕まえたいとか思っちゃうんだけど。
「おい、こいつから素材採取ができないぞ」
「え?」
コータが声を上げた。
素材採取ができないなんてそんなはずは…。
「え、ちゃんとできるよ?なんか、アイテム名が文字化けしてる感じだけど…」
「カゲツ、あなた採れるの?私にはできないわよ?」
「私にもできない。コー君を騙そうと嘘ついてるわけじゃないよね?」
「違いますって、ほら」
俺は、入手したアイテムを手に取りだしてみた。
そこにあったのは、黒い何かのかけらのような、得体のしれない物質だった。
「なんだこれは…」
そのアイテムの放つ空気は黒いオーブと同じように禍々しく、俺たちは何か恐ろしい気持ちにさせられた。




