44.尾行
よろしくお願いします。
イベント2日目。
学校を終えてログインした俺は、その直後から疲労感を感じていた。
それもそのはず。あの後一人で倒したモンスターの数は百をゆうに超え、レベルも7つ上がった。
レベリングとしては良い結果と見えるが、その疲労感たるや。
「今日はボス級でレベリングだな」
「そんなに軽く言うなよ。昨日のアレで相当疲れてるんだ」
「別に身体が疲れてるわけでもないでしょう?後半は動きも良かったし、今日はそこそこ立ち回れるわよ」
「そうかなあ」
うちのチームはどうしてこんなに戦闘が好きなのだろうか。
それとも、俺をからかっているだけなのか…。
いずれにせよ、今日もボス級モンスターと戦うのは避けられないだろう。
あの後、少し調べると、イベント限定のボス級モンスターは何種類か存在しているらしい。
出現は基本的にランダムで、“ローディア大丘陵地帯”のどこかのプレイヤーの元に、システムメッセージが届く。
「今日の目標は十体以上のボス級モンスター討伐だ。カゲツは一撃加えられたら合格にするか。加えられなかったら、何か罰ゲームだな」
「いやいや、それは酷くない?俺だけ不公平じゃん」
「私はどっちでもいいから、早くローディアに行きたいわ。昨日はほとんど思い切り戦ってないから、消化不良よ」
「恐ろしいな。本当に【仕立屋】か?」
「あら、昨日あれだけ戦闘して、ほとんど損傷のないカゲツのコートは私の作品よ?」
確かに、馬鹿みたいに戦って装備の耐久がほとんど減ってないのは、ユーカの腕がいいからだろう。
このカッコいいコートにピンクの仮面をつけてるとなんだかとても滑稽だけど。
どこかへ行く時、方針を決める時、わちゃわちゃするのはいつものことだ。
俺たちは言い合いもそこそこに“ローディア大丘陵地帯”に移動した。
今日は昨日よりも人数が多い気がする。
ボス級モンスターの素材が美味しいということに、みんなが気づいた証拠だろう。
ほとんど全員がボス級狙いと見ていい。
「これだけ人がいるとボス級に会うのも一苦労だな」
「戦う時も結構なスペースが必要だしね」
それな会話をしていたら、俺たち三人にメッセージが届いた。
差し出し人は、キャップである。
アカウントの復旧が済んだのかと一安心したのもつかの間、そこに書かれていた内容は、少しだけ面倒なことだった。
――――――――――
突然メッセージ送ってすまねぇ。
だが、ちょうどいい機会だと思ったんだ。
俺たちは今、“ローディア大丘陵地帯”に環境調査を兼ねてボス級モンスターを狙いに来てるんだが…。
やっぱり例の三人の挙動はおかしい。
ボス級との戦闘中、三人で集まって何やら話をしていたり、他人のボス級の戦闘に介入しようとする素振りもある。
お前たちもローディアにいるんだろ?
可能ならお前らも観察しといてくれ。
事前調査だと思ってよ。
――――――――――
面倒と言えば面倒な案件だ。
しかし、キャップの言う通り、敵情視察だと思えば必要なことだとも考えられる。
「どうしようか?」
「私は行った方がいいと思うわ。得体の知れないやつと戦うよりは一度見ておきたいから」
「俺もそれは同意だ。不可解な行動を分析出来るチャンスがあるのは大きい」
「じゃあ、行くって事でいいよね?場所はキャップの所かな?」
「フレンドはマップを見れば場所がわかるからな。一緒に行動しているような書き方をしている所を見ると、それで問題ないだろう」
マップを開いて確認すると、そう遠くない位置にいることがわかる。
ワープ機能は、マップ内の任意の場所に移動できるような代物ではないので、急ぎ走って行くことにした。
大きなうねりのように大地が形成されているこのエリアでは、丘をひとつ越えるだけで景色が変わる。
三つ丘を越えた辺りで、目的の地点を視認することができた。
キャップの後ろ姿が木の陰に見え、近くに前にも会った二人組がいる。
例の三人組は…。
「見つけた。少し先だな。別のグループがボス級と戦ってんのか…」
「ねぇ、なんか、あのボス級やばくない?挙動がちょっと、普通じゃないような…」
ユーカがそれを言ったすぐ後に、ボス級モンスターの体が赤く明滅を始めた。
“レイベント”というコウモリ型のボス級モンスターだが、体色は基本暗い紺色で、赤くなるなんて生態は昨日の時点では調べても出てこなかった。
動きが急に素早く、凶暴になる。
地上にいる複数人に対して、己が傷つくのも厭わずに突進していた。
戦っていたプレイヤーたちは、しっかりと全員が対応しており、幸いにもダメージはあまり受けていないようだ。
「なんだあれ?こんな追加要素あるのか?」
「まあ、俺たちが戦った“クーフェ”も強化形態あったし、普通じゃないの?」
ドゴォンと大きな音がする。
見れば、丘陵の一部がえぐれており結構な人数が吹っ飛ばされていた。
「これはちょっと強化されすぎかもしれないわね。地面をえぐる攻撃は私の最大火力と同レベルだけど、丘をもえぐるってなると訳の分からない火力が必要になるはず。そんな強化が昨日の“クーフェ”にはされてなかったわ」
「それに、あいつの動き…。とても早いが、プレイヤーの攻撃が上手く、しっかりと食らっている。普通、OLAのモンスターはもっと慎重に、考えて倒そうとするような動きを見せるはずだ」
「つまりは、どういうこと?」
「暴走。みたいなものかしらね。ほら、キャップの使ってた“森の王者”みたいな」
「あれよりも強い感じだな。もし、キャップが犯人なら首輪があるはずだが、見当たらない。つまり、キャップは犯人ではないと考えた方が良さそうだ。しかし、あまりにも状態が似ているな…」
不穏な感じが俺たちの間に流れる。
不意にあの怪しい三人組のあたりに、うごめくものを認める。
おかしいなと思い、目を凝らそうとした時だった。
明滅していた“レイベント”の様子がおかしくなった。
暴走状態がさらに悪化したように、真っ赤になり始めたのだ。
奴の鳴き声もだんだんと、ノイズのかかった電子音のようになっていく。
「Gagugyaruouoiuooproriiiiiyyyyy!!!!!」
一際耳障りな音があたりに響き渡った時だった。
急に、“レイベント”の変化態は真っ白な光を伴って爆発した。
まぶしすぎる光と、遠くの俺たちにも届く爆風に、思わず目をそらす。
すると偶然、キャップたちから離れて移動をしている三人組が目に入った。
「ねえ!あいつら!あんなところに!」
「おかしいな。移動が速すぎないか?」
「もしかして、“レイベント”の様子に目もくれなかったってこと?」
「となると、奴ら…」
俺たちは一気に走り出した。
目標は、そそくさと移動をする三人組だ。
どう考えてもタイミング的に怪しすぎる。
それに、敵情視察に来たのに、何一つ情報をつかんでない。
もう少し、あの得体のしれないプレイヤーについて知らなければならないという思いが全員の中にあった。
三人組は、しばらくさまよいローディアの広大なエリアの中を徘徊していた。
俺たちは何のためになるのかわからない尾行まがいの行動に少し疲れ始めている。
そろそろ何も起きないだろうから止めようかと思った時だった。
三人組は、ボス級モンスターと戦っている他のプレイヤーたちを見つけたようだ。
歩調が少し早まる。
俺たちもそれに着いて素早く尾行する。
「やっぱり、あいつらが何かしてるのかな?」
「一応とは言え、尾行中よ。私語を慎みなさい」
「怖いな、相変わらず。だが、奴ら、何をするつもりだ?」
よく彼らを注視していると、三人のうちの一人が、胸元から黒い手乗りサイズの箱を取り出した。
見るからにヤバそうな空気を放つ真っ黒な箱である。
俺たちはその禍々しい雰囲気に思わず言葉が漏れてしまいそうだった。
そして彼らは、その箱を目の前で戦っているボス級モンスターのほうへ狙いを定めようとしている。
それは、今日見たあの暴走モンスターを誰が暴走させていたのかを裏付ける証拠にも捉えられた。
「もしかすると…」
「あれって…!」
「クソッ!」
コータが短く叫んだ時には、三人組の手から黒い箱はもう離れていた。
黒い箱は、放物線を描きながら戦場へと落ちていく。
俺たちとしては、あれをどうにか回収したい。
そして、ボス級モンスターに作用させたくない。
この際、怪しげな三人組についてはどうでもいいから、黒い箱を取りに行く。
俺はそんな感情に動かされて、走り出た。
コータとユーカは何か言っていると思うが、どうしてもさっきと同じ結末を見たくないと思ったのだ。
怪しい三人組は、またも、早々に距離のある位置に移動していた。
もはや、そういうオーブの人物がいるのかと思うレベルだ。
だが今は箱が最優先。
しっかり視認できる位置までは来られた。
ただ、予想外なことが起きる。
黒い箱が煙のようなものを吐き始めたのだ。
俺は慌てて後ずさる。
さすがに、この煙にどんな効果があるのかもわからずに突っ込むような、考えなしではない。
自分の身は自分で守るのだ。
ただ、自分の身を守って得られたのは、十中八九、モンスターの暴走には三人組が関わっているということと、今の俺は、暴走ボス級モンスターの前にさらされた弱小プレイヤーであるという事実だけだった。




