43.下積み
最近、周りの環境がざわついてきました。
予告なく二日に一回更新になったりするかもしれません。
ですが、基本一日一話更新します。
よろしくお願いします。
果たして、それは本当のことだろうか?
俺は耳を疑った。
アリスがあの火球を放ったなんて。
キュイ!と声を上げる彼女はまだまだ小さく、少しとはいえ、あのモンスターの腕を外らせる程の火力が出るとは思えない。
しかし、コータが言うなら間違いないのだろう。
第一、アリス以外に火球を放つ術がありそうな仲間はいない。
「アリスも、成長してるってことか」
「お前のために、だけどな」
「どういうこと?」
俺は驚いてコータの方を見た。
コータは呆れたように言う。
「お前が大切だったんだろうよ。それくらいわかるだろ」
「AIにそんなのあるのか…」
「何言ってんのよ。パンナちゃんだってAIなのよ?これくらい普通なんでしょう、今の時代は」
アリスに視線を戻す。
彼女は疲れたのか、またうとうとし始めている。
しかし、しがみつく手の力は全く緩まない。
どうしたらこんなに精巧な動きをするプログラムが作れるんだろうと思いつつも、アリスの頭を撫でる。
ますます、頑張りたいと思ってしまうのは、おかしいだろうか。
反省したばかりだというのに、また、上を目指そうとしてしまう。
「ねえ、二人とも。俺は、もう少し強くなりたいんだよね」
「それで?」
「イベントの効率は落ちるかもしれないけど、ちょっとレベル上げ、付き合ってくれない?」
俺の言葉にユーカは呆れたように返す。
「当たり前でしょう?何を言ってるの。コータの言った変なこと間に受けて。どうせ、私はあなたのレベリングをするつもりだったわよ」
「そうなの?」
「当たり前だろう。お前のオーブは敵を倒すほどに強くなるからな。なるべく多くの敵を倒してレベルアップとオーブ強化だ。攻城戦には、キャロンみたいな巨大戦力以外に、大軍で攻撃する方が効果的な可能性もあるからな」
「なるほど…」
そこまで考えられていたなんて、ちょっと俺の悩みが馬鹿らしくなって来た。
出来ることをどうやって活かすのか、みんなも考えてくれてるって結構嬉しい。
「わかった。じゃあ、出来ることを頑張るよ!まずは、どうすればいいかな?」
コータがニヤリとする。
ユーカも安心したように笑った。
「そうだな、まずはその辺の素材を全部採取だ。とりあえず途中で剥がれたたてがみみたいのも全部お前のなら回収出来る。頑張れ」
「えっ、結構な量なんだけど…」
「何?出来ることやるんじゃなかったの?大丈夫よ。体力は回復してあげるわ」
「そういう問題じゃ…はあ、まあ、頑張るか」
自分から言い出した手前、反論することも出来ずよろよろと立ち上がった。
体力は回復したけれど、疲労感はまだ残る。
けれど、危機の去った安堵感からか、採取に向かう足取りは軽かった。
始めてみれば、作業は案外大したことないもので、二十分もしないうちに全てを終えることができた。
採れたアイテムの名前から、あのモンスターの名前が“クーフェ”なのもわかった。
“クーフェ”の素材は、身体が大きかったこともあり、結構な量を得ることが出来る。
それも、ひとつひとつがそこそこイベントポイントを稼げるものだ。
こいつを狩り続けるのが、効率としては最高なんだろうけど、俺たちはそれを選ばない。
というか、俺が選ばないようにお願いしたんだけど。
「まあ、レベリングには、ボス級を倒しまくるのは有効だと思うけどな」
「ハイリスクじゃん!せめて、あと5レベル。それくらいは上げた状態で挑みたい」
「今レベルいくつなのよ?」
「総合35だよ」
我ながら、結構上がって来たと思う。
でも、この二人は総合レベル100を超えてるんだよなあ。
正直俺とは比べ物にならない力を持ってる。
まあ、プレイ時間的に見たら当たり前なのかもしれないけど。
「35まで一か月足らずで上げたのはかなりすごいと思うぞ?」
「まあ、こんな感じでパワーレベリング的なことを毎回してるからね」
「今回は普通のレベリングで良いわけ?効率は確実に落ちるわよ?」
「いや、だってさ、戦い方がわからないんだよ。俺はほとんど戦わなくても、キャロンが戦ったり、さっきみたいに俺が一撃加えても、ほとんどの戦闘は二人がしてたりさ」
「その割には、クーレとよく戦えてたじゃない」
ユーカはよくわからないという顔をしている。
俺は今まで感じたコレジャナイ感を話していくことにした。
武器の特性、間合いの取り方、リーチを生かした攻撃、そのどれもを考えながら動くのはとても難しいのだ。
別に、槍はゲーム内で使ったことがあるだけで有段者とかじゃないし、リーチの取り方は怖くなくて好きだけど、攻撃がどうしても刺突系になってしまうのが個人的には気になってしまう。
そもそも、俺のお手本というか、戦い方の基本はコータの教えてくれた動きなので、斬撃系が一番イメージしやすいのだ。
そんな話をしていたら、コータが残念な人を見るような目をしてきた。
「お前…武器を変えようとか、思わなかったわけ?」
「いや、慣れてないだけかなあと思って」
「人それぞれ、向き不向きがあるんだよ。やりにくいやり方でずっとやってても意味ないだろうが」
「でも、槍くらいの長さで、斬撃ができる武器なんてあるの?」
「そんなもの山ほどあるわよ。例えば、持ち手の長い斧とか、ハルバード的なやつとか。それこそ槍の先端に小刀みたいな刃がついてるのもあるわ。自分に合った武器探しは基本中の基本でしょう」
「マジでか…」
自分の無知さに恥ずかしくなってくる。
コータはもう呆れて苦笑いをしている。
「まぁ、この際いいじゃないか。とりあえずは今の得物で頑張るしかないだろう。そんなに急に新しいものに慣れられるわけないんだ。まずはレベリングをするんだろ?早くしないと日が暮れるぞ」
「マジかー…」
若干の落胆は隠せないものの、俺はいつの間にか前向きになれている自分に気づいた。
案外、俺は色々勝手に自分自身に背負わせてたのかもしれないな。
何にも知らない奴だってことがわかって、かえって楽になったのだろう。
少し皮肉な話だけど。
「さて、それじゃ、レベリングを本格的に始めるわけだが、このローディアには面倒な敵ばかりいるわけだ。簡単に大量のモンスターを狩れる訳がない。となれば、どうにかいい狩場を探さなきゃいけないんだが、どこか思いつくか?」
「いや、“陸ペンギン”の巣に突っ込むとか?」
「そんな低レベルはもう意味がない。ボス級モンスター並みに稼げる見込みのあるモンスターじゃないと時間がかかってしょうがない」
「なら、どこにするのよ?」
「俺たちは、何回か群れと戦っただろう?この時に入った経験値は俺のレベルですら上げてくれたわけだ」
俺の頭に嫌な予感が駆け巡る。
「それって…」
「“南の密林”エリアだ。あそこの群れモンスターどもとまた戦争しに行くぞ」
「本気?」
「さすがにおいしくないんじゃないかな?この辺と違って、イベント限定アイテムもないし…」
「そうか?あの猿はかなり人間の動きに近いから、攻城戦の練習にはもってこいだと思うけどな」
「それにしたってあそこは…」
「卒業試験は“森の王者”との戦闘にしましょうか。あそこは、ソロ推奨レベルがちょうど今のカゲツくらいじゃない?」
「ええっ!?」
話がどんどん進んでいく。
俺はもう逃れられない檻に閉じ込められていっているのだと、いまさらながらに自覚する。
二対一になったら、勝ち目はないのだ。
「それじゃあ、そういうことで、まずはワープだな」
「カゲツがレベリングしてる間は、私にアリスちゃんを預けなさい。アリスちゃんも戦えるようになったなら、レベリングできるはずだから、やってみたいのよ」
「え?え?移動して、預けて、一人で戦って…ってこれ決定?」
「ああ。まぁ、アリスについては知らないが、大体それでいいだろ。早くワープだ」
「マジか…」
強硬に、急かされるようにして、俺たちは“南の密林”にワープした。
前と同じ、鬱蒼とした木々に包まれた森は、先ほどまでの凸凹の大地とは開放感が違う。
戦った記憶があるからか、何となくこの森は不気味で怖いイメージだ。
「よし、猿を呼ぼうじゃないか。アリスはユーカに預けろ。早く武器を構えて。遅いと先に呼んじまうぞ」
「ちょ、ちょっと待って…!」
俺は慌てて頭の上のアリスをユーカに預ける。
また眠そうな顔をしている。
先ほどまでの深刻そうな表情や甘えた声はどこへ行ったのだろうか。
「さ、準備は整ったわよ」
「ちょっと心の準備を…」
「無視よ。カゲツに心の準備なんてさせてたら、一生始まらないわ」
「知ってる。さぁ、市場の売れ筋最下位をさまよう代物、『無駄にモンスター集まってくるお香』を食らえ!!」
俺の戸惑いが収まりきらない時に、コータはストレージからアイテムを取り出して近くに放り投げた。
途端、ピンク色の怪しげな煙が周囲に満ちる。
においは全く感じないけれど、とんでもない量の気配が近づいてくるのがわかった。
不安になってコータに質問する。
「なあ、これ、どれくらい効果が続くわけ?」
「三十分くらいだな」
「結構あるな…」
「私、アリスちゃんだけは守るけど、二人は知らないから」
なんて奴だ…。
しかし、そんなツッコミを入れる間もなく、コータが言った。
「来たぞ!頑張れよ?俺も自分の身だけを守る。一体多の大変さを知っておくんだな。
コータの残酷なセリフのすぐあと、上から猿の攻撃が降ってきた。
俺の修行のような戦いはここに始まったのである。




