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Only Life of Arcadia  作者: kaisen
第2章 タルトレット
43/103

42.守られるもの

よろしくお願いします。

 吹き飛んだと思われたモンスターは、もう一度見たときにはふわふわのたてがみを失い、全体的にスリムな姿になった。


「強化形態か…」

「結構ヤバいかな?」


 モンスターはこちらを静かに睨みつけている。

 動きがないのが逆に不気味だ。

 うかつに動くこともできず、戦線は膠着状態になった。


「まずは動きを見ないとどうしようもないと思うけど、突っ込むには怖いよね」

「でも、このままじゃ埒が明かないわ。何か、方法を考えないと…」


 コータは静かに考えをめぐらせているようだった。


 しかして、状況は動き始める。


「ギャオォォォォオォォォオ!!!!」


 モンスターが雄叫びを上げた。

 先ほどよりもプレッシャーが強い。


 奴の四肢が躍動する。

 初速から先ほどよりも明らかに動きが速いことがわかる。


 奴の巨体が肉薄してくる。

 俺たちは、全力で横に逸れるように走った。

 ぎりぎりではないけれど、安全に戦うには回避行動を採らざるを得なかった。


 急な方向転換に対応できないのか、奴は俺たちのいたあたりの地面をえぐった。

 攻撃力の高まっていることが見てとれる。


 これを倒すには結構なダメージを覚悟しなければならないなと思った時だった。

 不意にコータが言う。


「よし、ユーカだけオーブ解放だな」

「え?」


 ユーカはさっきの回避行動で俺たちとは離れたところにいる。

 コータは俺の声が聞こえていなかったような滑らかさで、ユーカのほうに呼びかけた。


「ユーカ!お前だけオーブを使っていいことにする!サポートはするから全力で倒しに行け!」

「わかったわ!」


 ユーカは大きくうなずくと、少し楽しそうな笑みを浮かべて答えた。


 モンスターがこちらに方向を変えてまた突進してくるのが見える。

 この疑問は晴れないが、今は躱すことに全力だ。


 明らかに動きが速くなっている。

 この距離だと絶対に躱すのがぎりぎりになってしまう。


 巨大な腕がすぐそこまで来た。

 思い切り地面を蹴って、斜め前、奴の爪の届かない場所へと転がる。

 後ろで風を切る凄まじい音が聞こえた。


「あっぶな…!」


 体勢を立て直すためにもう少し遠くへ行こうとさらに前へと飛び込んだ。

 その瞬間、後方からユーカの声が聞こえた。


「<女王の乱獅子(ストレングス)>!!!」


 ユーカのオーブが使われたらしい。

 ガキィンと大きな金属音のような音が聞こえた。

 きっとモンスターの攻撃を正面から受け止めたのだろう。

 さすがの馬鹿力である。


「さすがだな。あいつは」


 気づけばコータが近くにいた。

 俺は立ち上がり、槍を構えなおす。


「俺たちも手伝わないと。ユーカひとりじゃ大変だろうから」

「確かに、大変だろうな。だが、今回はあまり手伝う暇がなさそうだ」

「え?」


 驚いてコータの方を見ると、コータは苦笑してユーカの方を指さした。

 俺はそれに従って、ユーカの方へ目を向ける。


「あんた!散々!私に!攻撃ぶつけてきて!オーブを!使ってないと!衝撃が!ものすごいのよ!っら!」


 あの巨大な腕の攻撃に対して、素で渡りあっている。

 戦闘斧の大きさ的にもまだまだ全力ではなさそうだ。

 やっぱり、ユーカは強い。


 俺は、なんとなく、ここで見ていたら強くなれない気がした。


 少し離れたところにいたアリスが戻ってきて、俺の頭に収まる。

 キューイと甘えた声を出してくる。

 すごくかわいい。

 かわいいんだけど、ごめん。


「コータ、ちょっとアリスを預かってここにいてくれないかな?」

「…どうしたんだ、急に?」

「ちょっと、俺も戦ってこようかと思って」

「お前じゃあんまり助けにはならないぞ?」

「はっきり言うなあ。わかってるけどさ。でも、やらないと、俺はずっと強い二人に守られたままだから。…攻城戦で、そんな姿見せたくないじゃん?」


 最近、薄々感じていたことだ。

 周りの話が大きくなって、オーブでキャロンを呼べるようになって、いろんな人の戦いを目の前で見ることも増えて、それで初めて、俺の一番近くにいる二人の強さが見えてきた。

 特にコータはおかしい。

 オーブを使わないで、プレイヤーと普通に渡り合うだけの力があるんだから。


「…そうか。俺にアリスを頼むってことは、俺の手助けはいらないってことでいいのか?」

「もちろん。そうじゃないと練習にならないから」

「わかった。行ってくればいい。ただ、早くしないと、ユーカが倒しちまうぞ?」


 ギョッとしてユーカの方を見る。

 かなり押せ押せな感じだ。

 ほんとに倒し切りそうだな。


 急いで頭の上のアリスをコータに渡す。

 離れるときにアリスが悲しそうな声で鳴いたのが、耳に痛い。

 でも、今はやるしかない。


「ごめん!頼んだ!行ってくる!」

「おー。ユーカの邪魔すんなよー」


 コータの応援とは呼べないような声掛けが遠ざかる。

 俺は槍を構えて、一心にモンスターの喉のあたりを狙いに行った。

 ユーカは顔の前、真正面で戦っているから、ここならあまり影響がないだろうと考えたのだ。


 そうして、頭が戦闘でいっぱいになっていたために、後ろでコータが呟いていたことが聞こえなかった。


「アリス、お前のご主人は強くなりたいんだってよ。危ないことにならないように見てないとな」


 キューイという声が聞こえた気がしたが、俺は、目の前でものすごい音を立てて戦っているユーカとモンスターに注目していた。


 俺の目標はただ一つ、急所への一撃だ。

 目標を見据えて、前に、突き出す。


「ギャオォッ!!!!」


 モンスターが苦悶の声を上げる。

 俺の手にも確かな手ごたえがあった。


 ボス級モンスターでも、急所へのダメージの通りがいいのは変わらないらしい。

 少しやってやった感覚がある。

 だが、横から大声が飛んできた。


「バカっ!!カゲツ!!早く離れなさい!!」


 ユーカだ。

 確かに、早く抜いて離れないと…。

 なんて、悠長に考えていたのがよくなかった。


 槍の先端が、モンスターの分厚い筋肉に阻まれてうまく抜けない。

 パニくった俺はどうにか抜こうと奮闘することを選んだ。

 とんでもなく間違った判断である。


「いいから!!早く!!…カゲツ!!」


 ユーカの声で我に返ったときには、俺の体が宙に浮いていた。


 モンスターが首を振って俺を振り払ったのだろう。


 空中では無防備だ。

 武器である槍すら、今の衝撃で手放してしまった。

 首筋にしっかり刺さったままだと思うが、今の俺に道具がない事実は変えられない。


 そして、追い打ちをかけるように、俺のことをモンスターが狙っているらしいことを俺は空中から認識した。

 このままでは、もろに攻撃を食らい、さらに吹き飛ばされて、相当なダメージを負ってしまうことになるだろう。


 最悪は一撃でノックアウトだ。

 そうなるとアカウント制限がかけられてしまう。

 今日のイベントにはこれ以上参加できない。

 これは、チームとしても痛手だ。

 技能的には俺が一番この大規模依頼に適しているのだから。


 反省と、後悔と、申し訳なさが俺の中を一気に占めた。

 今までのいつよりも、様々なことを頭で考えたかもしれない。


 そうして見えた最後の景色は、迫りくるモンスターの腕。


 とは、ならなかった。


 ゴウっという音とともに、火球が俺の目の前に迫っていた腕にぶつかった。

 そこまでの威力はなかったようだが、おかげで少し軌道がずれ、モンスターの腕は俺の横をかすめていった。


 そのすぐ後に、ユーカの声が聞こえる。


「<女王の乱獅子(ストレングス)剛力(ブレイク)>!!!」


 これは多分、結構な大技を放ったんだな。

 ということは、おそらくモンスターは倒せるだろう。

 いや、かっこ悪いな…。

 あの火球がなかったら、もうゲームオーバーだった。

 結局、身の丈に合うプレイしかできないのかな。

 戦闘は、ちょっと向いてないのかも…。


 そんなことを考えながら、俺は地面に落下した。

 全身に激しい衝撃を感じ、そこそこのダメージを受ける。


「カゲツ!!」


 コータの足音が聞こえる。

 また、コータに助けられるのか。

 なんて考えていたら、顔面に白い物体が飛来した。


 視界が閉ざされた中、モンスターの断末魔の声と、キュイキュイという鳴き声が聞こえる。

 モンスターは多分、ユーカが倒したんだろう。

 俺の顔面でキュイキュイと鳴きまくっているこいつは、アリスか…。

 軋む体を起こしながら、アリスを顔からはがす。


「どうした、そんなにかまってくれるなんて珍しいじゃないか」


 俺がそう話しかけても、腕にしがみついて鳴くのをやめない。

 おかしいと思っていたら、コータが近くに来て言った。


「お前のことが心配なんだろう。闘技場の時も、こんな感じの時があった。あれはキャロンに向けた感情だと思ってたんだけどな」

「俺が心配…。そうか…。ちょっと、無理しすぎたかな」

「当たり前よ!」


 この言葉と一緒にビンタが飛んできた。

 走ってきたらしいユーカがすぐそこにいた。


「私たちだって心配なのよ!あなたまだ初めてそんなに時間が経ってないのに、私たちと同じように戦おうなんてなに考えてるのよ!」


 かなり必死な表情をしているところを見ると、相当心配をかけてしまったらしい。


 俺は何も言えなかった。

 確かに、何か焦って突っ込んでしまった。

 周りと比べまくって…。


 不意に、アリスが俺の頬に頭をこすりつけていた。

 思わず、苦笑が漏れる。


「ごめんな、みんな。どうしたらいいのか全く分からないけど、とりあえず、ごめん」


 俺の曖昧な言葉に、コータが溜息を吐く。


「お前な、もう少し素直になっとけよ。強くなっておきたいんだろ?俺たちは、チームとして付き合うからさ。早く言え。おいていくわけないだろうが」


 その言い方は実にコータらしくて、でもどことなく優しさがあって、とりあえずは悩むよりは、みんなと楽しみたいなと、少しだけ思った。


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