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Only Life of Arcadia  作者: kaisen
第2章 タルトレット
42/103

41.3対1

よろしくお願いします。

 システムメッセージを受けて俺たちは、少し相談した。

 ボス級と言われると、かなり身構えざるを得ない。

 しかし、俺の仲間はあまり動揺していなかった。


「とりあえず、やりましょう。大丈夫よ。ボスモンスターも、コータのオーブが効くなら全く心配ないわ」

「おいおい、そんな期待するな。だが、ほぼ勝てるだろう。キャロンをなら大抵勝てるしな」

「確かに…」


 そうこうしているうちに、視界に表示されていたカウントがゼロになった。

 にわかに空が暗くなる。

 上を見上げると、何かが降ってくる影が地面に写っているのだ。


 俺たちは少しだけ、距離を取る。

 大地を揺らして、何かが地上に降り立った。


「ギャオォォォォオォォォオ!!!!」


 ライオンのようなたてがみを持った、ふわふわの毛並みのモンスターだった。

 しかし、その顔は凶悪。

 伸びた太い爪は大地に食い込み、はみ出るほどの牙が強さを示しているかのようだ。


「それっぽいのが出てきたな…」

「割と強そうだけどどうする?」

「まずはオーブなしで行きましょうか。あなたたちだけ」

「なんで!?」

「私はオーブが武器だもの。しょうがないじゃない」

「いいからやるぞ。ほら、こっちに来る」


 俺は気を引き締めなおした。

 あちらを見ると、モンスターが俺たちの方に一歩を踏み出した瞬間だ。

 まずは、攻撃を回避する。

 話はそこからだ。


 奴の初撃がくる。

 前足を大きく振りかぶった、爪での単純な攻撃だ。

 身体のでかさも相まって、範囲の広い攻撃のようだ。


 俺たちは、後ろと左右に分かれて大きく距離を取った。

 後ろが俺。右がコータ。左がユーカだ。


 ダァアンという大きな音とともに、奴の前足が目の前に降りてきた。

 風圧がすごくて耐えるのが精いっぱいだ。


「ユーカ、挟撃だ!カゲツは体勢を整えて攻撃準備!」

「了解!」

「わかってるわよ!」


 ユーカが掛け声と同時にモンスターの後ろ脚の関節を狙いにいった。

 四足歩行とはいえ、足をやられるのは痛手なはずである。

 コータとユーカはそのことをよくわかっていた。


 これに慌てたのか、モンスターは巨大な胴体からは考えられないような素早い動きで、後ろに飛びのいた。

 結構な砂埃が起きる。


 俺はちょうど目の前を砂で覆われたけど、槍を握って突っ込むような形をとった。

 砂埃が収まる前に、コータから指示が飛んでくる。


「カゲツ!直進して顔を狙え!首でもいい!とにかく急所だ!終わったら下がれ!目標は討伐でも何でもない、ただダメージを与えることだ!欲張るなよ!」

「わかってるって!」


 俺は自分から特攻するような血気盛んな人間に見られていたのだろうか。

 だとしたら行動を改めないといけない。


 槍を構え、砂埃の向こうに見えた影に向かって思い切り突き出す。

 確かな手ごたえとともにモンスターの、苦悶の声が聞こえてきた。

 どうやら成功のようだ。


「よくやった!ユーカ、ぶん殴れ!」

「言われなくとも!」


 俺にモンスターの反撃の矛先が集中している瞬間だ。

 横の二人はこの隙に思い切り攻撃を打ち込んでいた。

 どちらの攻撃もなかなかに威力があるはずだからこれは結構いったでしょうと思っていたら、コータからまた指示が飛んだ。


「まずは後方に退避だ!二段階目の攻撃パターンが来る!見慣れないうちは下がれ!巻き込まれて死ぬなよ?」

「ちょっと!どういうこと!?」

「黙って。まずは下がりなさい」


 言われた通り大きく距離をとると、晴れ始めた土煙の中から先ほどよりも威圧感のある咆哮が聞こえてきた。

 よく見れば、周りの空気が吹き飛ばされており、視界は一気に良好になった。

 すべてはあの一瞬の咆哮が引き起こしたことだ。


 俺はどうやらボス級モンスターというものを知らなかったらしい。


「初見のボスモンスターと戦う時の鉄則だ。ある程度のダメージを与えた後、戦いは第二段階に移行する。敵の強さや動きという意味でも変わるし、俺たちの心もリセットしなければならない」

「ダメージを受けるごとに強くなるってこと?」

「大体そんなものよ。それよりも、第二波が来るわ」


 ユーカが示してくれたように、モンスターは後ろ脚に力を溜め、次の攻撃に入ろうとしている状態だった。

 俺はとにかく距離を取ろうとした。

 しかし、次の瞬間には、モンスターは跳躍していた。

 そこまで高さがないから跳びかかってきたと表現したほうが正しいかもしれない。


 二撃目の前足は先ほどよりもはるか遠くへ攻撃してくるようなものだった。

 俺は見事に直線上にいてしまったので、やられることも覚悟した。

 しかし、右側から腕を引っ張られ、俺の体は近くの地面に無事に転がった。


「悪い。助かった」

「油断するな。ボス級モンスターは正直、“森の王者”じゃ効かないくらいに強い。一回一回の攻撃で、安全マージンをしっかりとっておけ」

「わかった」


 コータに注意されてしまった。

 反省だ。

 次こそはしっかり役目をはたして見せる。


「ユーカ!ターゲットはお前だ!うまいことひきつけろ!」

「今やってる!」


 俺のいなくなったあたりでは、ユーカが自分の何倍も大きな相手に戦闘斧(バトルアックス)一つで立ち向かっている。

 時にモンスターの攻撃と打ち合って無事でいるパワーはやはり強者のそれだ。

 俺もこの間に攻撃をしなければならないと思い、槍を握りなおす。


「行くぞ。まずは足だ。機動力の排除は安全な作戦成功のための最適手だ」

「何かのゲームでも同じこと言ってた気がするけど…。まあ、納得ではあるよね」

「お前は左の足首を狙え。俺は反対の後ろ脚をやる」

「了解」


 コータの指示で俺は走り出す。


 奴の後ろは後ろで、先ほどと異なり、長めの尻尾が近くの敵を追い払うように邪魔をしている。

 だが、確実に前よりも安全だ。

 俺は細心の注意を払いながら、奴の左足に到達した。


 槍を構え、筋肉と筋肉の間っぽいところを狙って思い切り突いた。

 結構すんなりと攻撃が通ることに驚いたが、うめきもなかったということは、装甲が柔らかく、体力と 攻撃力のほうが優れているということだろうか。


 とにかく今は反省を生かして後ろに大きく退避する。


 距離をとると、ユーカと打ち合いながらも、俺のほうに体が向き始めていることがわかる。

 特に攻撃したほうの足は、俺の下がった直後に大きく強い蹴りを放ってきた。

 さっきのアドバイスに従っていなかったら、一発で致命傷だっただろう。

 コータに感謝しなければ。


「カゲツ、少しひきつけろ!ユーカはそのまま攻撃続行だ!打ち合えるなら真正面から戦い続けろ!」

「無茶言わ…ないで!早く代わりなさい!」


 ユーカは少しきつそうだ。

 それもそのはず、ほとんど一人でここまでの戦い、ボスモンスターと打ち合っている。

 疲れが見え始めてもおかしくはない。


 俺と同じタイミングで奴の右後ろに回ったコータは、サーベルを使って、色々なところに傷をつけている。

 しかし、うまいこと怒りを買わないようにしているのか、全く相手の動きに動揺することもないし、相手もそこまで気にした様子はない。

 俺には到底不可能な立ち回りだ。


「カゲツ!あんたも正面に来なさい!二人なら割と楽になるのよ!」


 コータが頑張れしか言わないのでしびれを切らしたらしい。

 ユーカから声がかかった。

 俺は退避後何もしていなかったことを思い出し、慌ててユーカのもとへ急いだ。


「悪い!何したらいい?」

「攻撃を受け止めなさい!」

「無理だ!うおっ…!」


 ユーカの近くに行くと、案の定モンスターの腕が降ってきた。

 攻撃はしっかり躱せたが、受け止めるなんていう技はどう考えても無理だろう。


 ユーカは舌打ちを一つして、少し怒ったように言う。


「わかったわよ!近くで戦って、逃げる、っていうことを繰り返しなさい!少しはあなたにターゲットがいくでしょう!」

「わかった!死なないように頑張る!」


 俺の返答が気にいらなかったのか、一瞥を俺にくれてからユーカはもう一度戦闘斧(バトルアックス)を振り被った。

 戦闘斧(バトルアックス)を持つゴスロリプレイヤー…いつ見ても不思議な光景である。


 俺も負けじと、前へ踏み出す。

 攻撃直後はあまり精細な攻撃はしてこないし、ターゲットも八割ユーカだということが分かったので、先ほどよりは緊張せずに動けている。


 槍はどうしても刺突がメインの武器になる。

 急所狙いを突き詰めれば、いつかうまいこと当たるだろうが、それ以外では効果の薄いダメージしか与えられてないのではないかと不安になる。

 こういう時は斬撃がうらやましくなる。


「カゲツ!ユーカ!そろそろ次の段階だ!もう一度距離をとるぞ!」


 コータの声が不意に聞こえた。

 正面での戦闘に慣れてきて、コンビネーションも良くなってきたところだ。

 本当はもう少し攻めれば押し勝てるんじゃないかと思っていたが、モンスターの体が熱を帯び始めたのを見て、すぐさま退避行動を取り出した。


 モンスターの動きがほとんど止まり、すごい勢いで熱が放出されていく。


 これにはさすがに全員が共通で嫌な予感を持った。


 そして、それは現実となる。


 バァーンという轟音とともに、モンスターの体がはじけ飛んだように見えた。

 少し後ろを気にしながら走っていた俺たちには、すごい勢いの熱風が襲い掛かってきた。


 その熱風に吹かれながら、終わりを思い、コータの方を見た。

 しかし、彼の目には、まだ、倒すべき敵が映っていた。


 自爆ではない。

 これは、進化なのだと。

 その、コータの目の先にいるモンスターは訴えていた。



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