40.START
よろしくお願いします。
「さあ!!遂にこの日がやって参りました!!本日より、大規模依頼イベント『バーチャルアイドル“クーレ”のライブを最高にしよう!』と攻城戦イベントがスタートいたします!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉお!!!」
「ありがとうございます!それでは、本日のオープニングセレモニーにおけるメインステージに参りたいと思います!スペシャルサポーター、バーチャルアイドル”クーレ”さん、どうぞ!!」
クーレさんが、バックからステージへ飛び出していく。
会場からは耳をつんざくような歓声が上がった。
「みんな、こんにちはー!!!!クーレです!…みんな、イベントを楽しむ準備は出来てるーーー!?」
「いぇぇぇぇぇぇえぇい!!」
「ありがとうございます!!私もとっても楽しみにしてました!!今回のイベントは大規模依頼イベントと攻城戦イベントの二本立てということで、色んな楽しみ方をする人がいるんじゃないでしょうか!そんな今回のイベントの、テーマタイトルを発表する役目をいただいてここにいられることを、本当に嬉しく思っています!それでは、早速発表しましょう!今回のイベントテーマタイトルは…『The Frontier of Tartlet』です!この国が、OLAの最前線になるように、この国の最前線がみんなであるように、そして、私の最前線がこの国にあるように…。そんな願いを込めて私も一緒にタイトルを考えました!この五日間、フロンティアに立ち続ける覚悟はありますかー!?」
「いぇぇぇぇぇぇえぇい!!!」
大歓声が沸き起こっている。
スポットライトの下で声を上げるクーレさんはいつもと異なって見える。
堂々としているというか、オーラがあるというか…。
やっぱり、アイドルなんだなということを実感する。
「よーし!!それでは、『The Frontier of Tartlet』……開始ですっ!!!!!!」
パァンという音とともに巨大クラッカーが金銀のテープを発射する。
クーレさんの後ろのスクリーンが盛大にイベントのスタートを彩った。
本格的にイベントが始まった。
ギャラリーの反応も最高潮といった感じだ。
司会のお姉さんがクーレさんを袖に下げる。
こちらに戻ってきたクーレさんは清々しい、キラキラした表情で笑っていた。
「お疲れ様、クーレ」
「ありがとー、ユーカ」
ユーカが手渡したタオルをクーレさんが受け取った。
なんか、いいなあこの感じ。
スタッフとして裏側にいさせてもらってるわけだけど、特別な時間を過ごしている感覚はやっぱり普通は味わえないものだから。
「さぁ、ここからが本番よ。私たちは、攻城戦の勝利を何としてもつかみ取らないといけないわ。もちろん、“インセル”のスピニーちゃんともしっかり戦ってね」
先日のメールのことをクーレさんはまだ面白がってネタにしているらしい。
コータが頭を掻いて、苦笑した。
「何度も言うように約束なんで。攻城戦は本気で勝ちを狙いにいきますよ」
「うんうん、さすが我がチームのリーダーは頼もしい」
「本当に俺がリーダーでよかったんすかね?」
「いいのいいの!カメラは基本音声までは拾わないから、誰が指示してるとかまではわからないものなのよ」
クーレさんはこんなステージ裏でも役割を確認するくらい攻城戦に燃えているらしい。
そんな彼女を一人残して、これから大規模依頼イベントのためにアイテム集めに行くのはなんだか忍びない。
けれど彼女は、このイベントの最中、予定がぎっしりなのだ。
俺たちとずっといるわけにもいかない。
クーレさんとはその後軽いやり取りをして別れた。
一応スタッフとしても動くことになっているから、オープニングイベントの片づけを若干手伝う。
解散の流れになったときには、ラトさんが俺たちにあいさつに来てくれた。
「今回はご協力ありがとうございました。攻城戦もよろしくお願いします。運営側のイベントのお手伝いは、おそらくこれが最後になりますから、皆さんもイベントを楽しんでください」
「ありがとうございます!パンナちゃんはどんな様子ですか?」
「姫様もとても楽しみにしております。ぜひ、合間を縫って会いに行ってくださいませ」
「ラトさん、運営の人とは思えないほどにロールプレイが上手ね」
「そういう人間だから、このような形で運営に携わっているのですよ」
ラトさんとこうして話すのも慣れてきた。
大人の人とこんなに距離を縮めて話せることが、現実ではなかなかないからちょっと面白い。
「そうそう、少しだけ心に留めておいてほしいことがあります。キャップさんが報告してくれたのですが、イベント妨害を目論む三人は、どうやら大規模依頼のほうにも手を伸ばしているようですから、何かあれば私に連絡してください。私たちはイベント運営で手が回らないこともありますから、異変は皆さんのほうが先に気づくかもしれませんので」
そうだった。
割と忘れかけていたが、今回は重要な調査もあったんだ。
これはもうほとんど運営任せのものだけど、イベント妨害は許せない。
コータも少し険しい表情になった。
あの、兵士NPCのことを思い出したのかもしれない。
彼はまだ目を覚ましていないし、バグはやはり修正できないみたいだ。
勝負は攻城戦になると思うけど、しっかり犯人を捕まえないとね。
「これから楽しむという時にこんな話をしてしまい申し訳ございません。ですが、頼める方も限られていますので、どうかよろしくお願いします」
「もちろん。俺たちは協力するって言いましたし」
「そうね。それに、少しくらい課題があったほうが燃えるもの」
「とりあえずは、何かあればラトさんに知らせますよ」
「よろしくお願いします。それでは、楽しんでください」
ラトさんとはそうして別れた。
色々考えることはあって、ちょっと大変かもしれないけど、頑張ろうというのが今の俺たちの共通意見だった。
そして今、“スイーティオの森”に出て、採集をしようとしているわけだけど…。
「なんだこれ。人多すぎでしょ!」
「これはすごいわね…。正直、予想の上をいってるわ」
俺たちは、森の中にごった返す人の群れを呆然として見ていた。
コータがけだるげに言う。
「ここはモンスターがポップしないからな…。安全だし、レアなアイテムも結構あると考えるとここに集まるのは普通だが…初日だからか?異常な数だな」
「確か、“ローディア大丘陵地帯”でも採集できるアイテムがあったよね?そっちに行かない?」
「確かに現実的ではあるわね」
「そうするか。これはさすがに面倒だ」
俺たちは“スイーティオの森”でのアイテム採集を早々にあきらめることにした。
満員電車を避けるのと同じ感覚だ。
俺たちはマップを使って“ローディア大丘陵地帯”にワープした。
こちらもこの前よりは人が増えていたが、自分たちで好きに探索できそうだった。
「よし、これだけの人数ならできるだろう。アリスのことも出してあげていいんじゃないか?」
「そうね。せっかく私がカゲツとお揃いの衣装にしてあげたんだから」
「そうだね。コートの下だとアリスも窮屈だろうし」
俺は白いコートの袖の下あたりから、アリスを外に出してやった。
めちゃくちゃ眠そうな顔をしているからまた寝ていたんだろう。
よく寝るなあ、ほんとに。
彼女の首には赤いリボンのアクセサリがついており、純白の体によく映えている。
俺のコートは、白を基調としたシンプルなものになっており、所々に赤や金のラインが入っている。
その下の装備は今までの装備をリメイクしてもらったもので、全体的にフォーマルっぽくなって、色が 暗く落ち着いたものになった感じだ。
コータと対になる感じで考えたというデザインは結構気に入っている。
「ようやく、カゲツも少しは見られるようになったって感じよね」
「確かにきっちりしたな。俺とセットのようなデザインは、クーレの周りのスタッフとしては個性が過ぎる感じはあるがな」
「何言ってんの。クーレがポップで明るい分、私たちは統一感を持って、中世のおしゃれ上流階級を目指したのよ」
よく見れば、ユーカの衣装も少し変わっていた。
俺やコータの衣装に寄せたスマートなフリルの使い方をしている。
三人が並んだ時に違和感が薄いように変えたのだとか。
しかし、ここで俺は気づいてしまった。
「でも、そしたら、もしかして痛い集団みたいに見えない?」
確かに。
という空気が流れる。
しかし、デザイナーとしての意地があるのか、ユーカは違うものを着ようとは決して言わなかった。
「そうよ、こういう時の仮面じゃない。もらった仮面と合わないと意味ないし、どうせ攻城戦はこれで出るんだから、今から慣れておくのもありでしょう!」
「えー、そうすると、俺またピンクをつけないと…」
「いいから黙ってつけなさい。コータも、ほら!もうスピニーさんの件を言われたくなかったらね!」
コータの動きは速かった。
クーレさんとユーカに色々言われまくって疲れたって言ってたけど、ほんとにめんどくさかったんだろうな…。
俺も、二人の圧力に負けて、渋々仮面をつける。
その辺を飛んでいたアリスがちょうど俺の頭に乗ってきた。
見なくてもわかる。
俺は今、相当滑稽な格好をしていることだろう。
大きくため息をつきたい気分だったが、俺たちはお互い何も言わず、この姿になれることにした。
こんなことで動揺してたら、この先の攻城戦で戦えない。
「…それじゃ、アイテムの採集を始めるか」
「…そうね、私の記憶では、モンスターの素材が多かったと思ったけど」
そうして、あたりを散策し始めたときだった。
俺たちの画面に同時にシステムメッセージが表示された。
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<CAUTION>
イベント限定のボス級モンスターが出現します。
討伐に参加しないプレイヤーは戦闘エリア外に退避してください。
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それは、俺たちのイベントが本当の意味で始まるメッセージでもあった。




