39.透明なアイドルによる観察記録
よろしくお願いします。
遂にイベント期間が明日から始まる。
私は自分で想像していた以上にこのイベントの成功を祈ってるみたいだ。
最終日にライブがあるということもある。
バーチャルライブなんて、生まれて初めてするから、とっても緊張している。
ユーカと会えたということもある。
彼女と会うのは、いつもなぜか楽しみだ。
何より、今回は一緒にイベントに臨める。
何気に、他の人と一緒にゲームをするっていうのは初めてかもしれない。
私がこの活動を始めてから、関わっていい他人は活動関係の人だけだった。
ユーカだって、デザイナーっていう関係性がなかったら、友達になれてない。
それが今回は、新しい人と沢山関われてる。
ファンでいてくれる人がいっぱいできるのはすごく嬉しいけど、それなりに普通の友達も欲しい。
そんな私の願いが通じたのかな。
昨日から私のわくわくは最高潮だ。
友達と参加するイベントで精一杯頑張って勝つってなんか青春な感じがして、いいな。
透明になった私はこんなことを考えながら、“タルトレット”の街を散歩していた。
レッスンとステージ練習と諸々のことを終わらせて、やっとできた休憩の時間だ。
私はいつも、この時間を噴水広場で過ごすと決めている。
休憩時間にちょうど、私のホログラムで宣伝が入るのだ。
この宣伝を見るために集まってくれる人もいる。
そんな、“生”の姿みたいなものを見られる機会ってそんなにないから、私はここに来るのが好きだ。
だが、今日はいつもと少し様子が違った。
若干人が集まっているところから、何やら言い争うような声が聞こえる。
「おい!!さっきからふざけてんじゃねぇぞ!!なめてんのか!!」
知らない男の大きな声だ。
結構威圧的な話し方だな。
ケンカの原因はこの人だろうと思って顔を見てみようと考えた。
今の私は運営の最強透明モード。
誰にも気づかれないし。
「なめてんのかって?それはこっちのセリフだ。俺の彼女のことを恋人だとか抜かして暴力で解決しようとしやがる。相当に頭の悪い人間のやることだ。そうだろう?力でしか勝るものがないからそれだけで勝負してるわけだもんなぁ?」
え?
聞き覚えのある声。
人ごみをうまいことすり抜けて現場を目にした私は、とても驚いた。
今回のイベントを私の仲間として戦ってくれるコータ君だ。
え、でもなんでこんなことに?
目線をスッと後ろにやる。
黒髪の綺麗な女の子が不安そうな顔で立っている。
“彼女”っていうのはおそらくこの子のことだろう。
だけど、変だ。
あの、黒髪の子。
彼女は、記憶が正しければ攻城戦トップチームの副リーダー、<女郎蜘蛛>スピニー。
戦闘スキルもかなり高かったし、オーブだってコータ君よりも対人向きなのに、どうして戦わないんだろう。
そして、コータ君はなんで戦ってるんだろう。
これは、面白くなってきたかもしれない。
知り合いがいると、この透明モードも楽しめるようになるんだ。
いいこと発見したなぁ。
「上等だ!!!やってやろうじゃねぇか!!!!吠え面かきやがれ!!!!!」
色々考えていたら相手がコータ君の挑発に乗って、決闘をすることになったみたいね。
十中八九コータ君が勝つと思うけど、私はむしろ勝敗よりもこのゴシップが気になるな。
「決まりだ。ほら、今からメッセを送る。ルールは当然、『アンリミテッド』でいいな?」
「お前…!!!俺を殺せるとか思ってやがるのか!!!」
おぉ、コータ君、アンリミテッドでやるのか…。
これにも何か意図がありそう。
これだけ色々考えてる彼が、安直に美人の恋人になるなんてことは起こらないと思うんだけど…二人の間で何かがあったのかな?
結構人も集まってきたし、何かの見世物みたいになってるなぁ。
もうカウント入ってるし。
とりあえず、私も観戦する準備しておこう。
<DUEL START!!>
始まった。
相手は“兵器型”のナックル系武器か。
“召喚型”とは基本的に相性が悪い。
“召喚型”はみんな、召喚するものに合わせた戦法を組み立てているから、単身で突っ込んでくる“兵器型”は実力を出し切る前にやられてしまうことも多いのだ。
けど、コータ君はちょっと違う。
ラトさんとの決闘を見ていたからわかる。
「うぉらあ!!!」
相手が速攻でまっすぐに突っ込んできた。
確かに、“兵器型”としてはとても正しい判断。
寧ろ、テンプレートと言ってもいい。
だけど、今回は相手がよくなかった。
“兵器型”同士の戦いのように、武器と武器が交錯する。
「防ぐなんて、いい反応してるな。だが、いつまで持つかな?」
「お前…!“兵器型”だったか。クソ、油断して負けるのだけはご免なんだよ!」
コータ君の剣戟はどんどん苛烈になっていく。
完全な近接戦では、やはりリーチに差があるのは大きい。
ナックルではサーベルに対して、速さと手数で優位に立つしかないが、今のところ、その特徴はいかせていない。
「クソが!!このままじゃやべぇ…」
巨漢のほうが何かを言ったかと思うと、コータ君が後ろに飛びのいた。
バーンと派手な音がする。
コータ君がそれまでいた場所に、爆破痕が刻まれている。
これは、もしかしなくても、オーブを使った攻撃だろう。
何もなかったところにいきなり爆発を生み出すのはかなり難しい。
決闘は、二人しかいない空間での勝負だ。
つまり、超常的なことが起きれば、すべてそれをオーブのせいにしてしまえるのだ。
「なるほど。爆発を好きな場所に設置できる“兵器型”か。確かに、それがあれば俺に傷をつけることくらいできるかもしれない」
「あぁ?やけにおとなしいじゃねえか!俺のオーブに恐れをなしたか!そうだよなぁ!接近戦がメインなら、爆発する俺のほうが強いしな!」
先ほどから一転して饒舌になった巨漢の男は、何にもわかっていないみたいだ。
コータ君の闘気がこんなにも変わっているのに。
私は後一撃でコータ君の勝ちが決まるとみていた。
なので、目線をしばらくスピニーに向けてみる。
というか、そばに行ってみる。
彼女はかなり本気で泣いているように見えた。
何かが彼女の中で巨漢に対する恐れを抱かせたんだろう。
それの正体を知ることはできないだろうが、コータ君は今、彼女の目に救世主のように映っているはずだ。
これは、本気の恋を目覚めさせちゃったかもしれないね。
目線を戻すと決闘は幕引きの直前だった。
雄たけびを上げ、爆発を起こしながら迫ってくる巨漢の拳を、コータ君は高速で前に転がることで避けた。
そして、立ち上がり様に一撃。
巨漢の背中に傷をつける。
さらには、苦しみつつも、振り返ろうとする巨漢の首をはねた。
相手の体力が凄まじい速度でゼロになる。
<コータ WIN!>
システムメッセージが視界に現れた。
あまりにもあっけない最後に、野次馬集団は絶句している。
いや、首をはねたのが衝撃だったのかな?
私はあまり気にならなかったけど、普通のプレイヤーは急所なんてわざわざ狙わないわよね。
カゲツ君に対人戦を教えてたっていうゲームは、どれくらい殺伐としたものだったのか、想像もつかない。
何となく見届けた感のある人々は、その場を順に後にしていった。
アンリミテッドだから、巨漢の姿も消えてしまったし、コータたちはどうするのかしら。
興味本位で、そばに行って聞き耳を立てる。
スピニーがコータ君の方に近づいてきた。
「あの、助けてくれて、ありがとうね。ちょっとしたトラウマで、あの手の人が苦手で…」
「それはまあいい。大事なのは約束の内容だ。敬語もやめる。これからは両者平等な条件の上に立っているはずだからな」
「そ、そうだね。対等な関係だもんね。恋人は。敬語はおかしいよね」
「…?そうだな。恋人を演じるという意味でも敬語はなくしたほうがいいのかもしれないな。とにかく、俺の条件は<大悪魔シリーズ>の捜索だ。お前の独自の情報網があるみたいだからな、それを使ってくれ。俺は俺で探す」
「なるべく、コータ君の力になれるように頑張るわ!それで、つ、次はいつ会おうか?」
「…??いや、情報が入ったらでいいぞ。入っても、メッセで済むならそれでも…」
「ダメ!私の条件にそぐわない!恋人なんだから、デートするのも必要でしょう?会ってる姿を周りに見せる機会は必要よ」
「そ、そうか?なら、もう好きにしてくれ…」
ふむふむ。ふむふむふむふむ。
これはあれですな!あれですね!
みんなに言うしかない!
友達と色々やるって、こういうこともあるわけだ!
とっても楽しい!
カーンカーンカーン。
噴水広場に時報の鐘が鳴り響く。
「みんなー!元気にしてるー!?いよいよ、イベントは明日から!!準備は出来てるかなー!?」
「うぉぉ!!」
「ありがとー!!!!私も、楽しむ準備万端です!!!!イベント期間中はステージや公式チームとしての攻城戦への参加もしちゃったりします!!!私といろんな場面で一緒に盛り上がろう!!!ライブのチケットは完売しました!!!ありがとうございます!!!明日から現実時間で五日間!こちらの時間で十五日間!サイコーに楽しい日々にしていきましょう!!!!!」
広場は熱狂の渦に包まれた。
私は自分の言葉を聞きながら、いよいよ始まるイベントに胸が高鳴ってしょうがない。
とりあえず、この気持ちと一緒に、今あったことをユーカにメールしておこう。
一緒に頑張ろうねって、言葉を添えてね。




