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Only Life of Arcadia  作者: kaisen
第2章 タルトレット
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37.コータお茶会なう

よろしくお願いします。


 俺はカゲツやユーカと別れ、ひとりで噴水広場に向かっていた。

 時計塔を降りてすぐのところにあるためあまり億劫ではないが、いかんせん女の人に会いに行くというこの状況が理解しがたい。

 だいたい、普通にフレンド登録を求めただけで何故こんなことになるかわからない。

 俺がフレンドになって得たかったのは、トッププレイヤーならではの情報と、あのうざったいガモウとかいうプレイヤーの撃退法だ。

 決して会ってお茶をするためではない。


「何がいけなかったんだ。これじゃ、面倒を増やしただけだ」


 内省を繰り返してもしょうがない。

 この先を考えよう。


 少しでも心労を軽くするために、あちらが会わなければならない理由を、戦略的なものだと仮定してみるか。


 もし、戦略として俺と話さなければいけないことがあるとしたら、俺たちがクーレのスタッフだとバレている可能性が高い。

 運営が絡んでいるチームが参加するというのは、通常のプレイヤーからしたら脅威でしかないからな。

 チートやら何やらをしていると疑われてもしょうがない。

 その事前調査として接触を図るのは理にかなってるだろう。


 よし、この感覚で行こう。

 後から騙されるなんて展開は一番ムカつくからな。


 そう決心した頃、丁度噴水広場に着いた。

 水飴の噴水はいつも多くの人で賑わっている。

 指定されたカフェもその喧騒の中にあるかと思うと少しだるい。


「聞いたか?あのバーチャルアイドルが攻城戦に出るらしいぞ」

「聞いた聞いた!クーレちゃんって強いのかね?」

「バッカお前、闘技場イベントの上位入賞者だぞ?強いに決まってるじゃないか」

「でも、あれは確か途中で辞退したんじゃなかったか?」


 情報が広まってるらしい。

 闘技場イベントを覚えている者もいるようだ。

 ほとんどのイベントは中継されているが、見てるやつは一部だからな。

 こっちにはムラがあって当然だろう。


「<不敗>ってついてるのはそのおかげなんだよ。棄権したから負けじゃないとさ。クーレは負けず嫌いって噂だぞ」

「へー、クーレちゃんはアイドルとしてしか見てなかったからなぁ。ライブは行くよ」


 なるほど。

 他のプレイヤーがイベントをどう捉えているか、この調子で知ることも出来そうだ。

 人が多い分、色々な会話が聞こえる。

 スピニーさんが来るまでの間、こうして過ごすのもいいかもしれない。


 今まで、VRMMOの世界で、他人の話を聞き耳立てて聞いたことはなかった。

 “アルカディア”で起きた一件で俺の周りは騒がしくなったし、聞いてたら参ってしまいそうだったからだ。

 しかし、今はもうその心配もないのだろうかと思い直した。

 カゲツのように、新規プレイヤーも増えており、俺の周りで知っていたのはラトさんとクーレだけ。

 この二人は進んで他人に話さないだろうし、ラトさんなんて、決闘で勝ったのに話してない。

 そろそろ、俺自身のことを考え直さなければいけないのかもしれない。


 柄にもなくそんなことを考えていたら、声をかけられた。


「すみません!おまたセしましタ!」

「いえ、全然大丈夫ですよ」


 驚いたが、今の状況で声をかけて来るのはスピニーさんしかいないだろう。

 勝負の時だ。

 身構えてた分、動揺は少ない。


「とりあえず、カフェに入りまショウか」

「そうですね」


 さて、ここからが本番だ。


 スピニーさんとともに割と落ち着いた感じのカフェに入った。

 席は窓際。

 出入り口が近かったので、俺は入り口側に座った。

 有事の際の逃走経路だ。


「何飲みマス?好き嫌いはありマスか?」

「特には。ウーロン茶をお願いします」

「そうなんですネ。私はラッシーにしマス」


 ラッシーまであるのか。

 この店の品ぞろえはすごいな。


 そう感じたときだ。

 店員にスピニーさんが注文を伝えると、店員さんが何やらコマンドをいじった。

 意味深な笑みとウインクを俺に向けると、彼女は厨房と思わしき場所に戻っていった。


 何なのだろうかと考える暇もなく、衝撃的な出来事が起きた。

 俺の周りの空間に、透明な壁が形成されていくのが見えたのだ。

 展開時にだけ見える仕様の結界だろうか。


 スピニーさんはそれを終始にこにこ見ていて、完全に展開が終わったあたりで口を開いた。


「驚いたでしょう?ごめんね。本当はこんなことをしたくはないのだけど、必要に駆られてね」

「…流暢な日本語ですね」

「ありがと」


 先ほどまでのイントネーションがどこかおかしいスピニーさんはそこにはいなかった。

 黒く長い髪を妖艶にいじる大人っぽい女性がそこにいた。


 俺は身構えていたことをこれほどまでに感謝したことはなかった。

 半分照れ隠しの遊びみたいな発想だったものが、現実になりかけているのだ。

 正直、平静を保っているのでやっとだった。


「さて、聞きたいことは山ほどあるでしょうけど、今はちょっと目をつぶってほしいの。私が状況説明するのを聞いていてもらえる?質問は後で受け付けるから」

「…わかりました。続けてください」

「ありがと。まずは私の個人的な問題に付き合わせてしまってごめんなさい。このカフェは知っている人だけが使える合言葉があって、それを告げると、完全防音の結界を張ってくれるの。外からは自然な談笑をしているようにカモフラージュしてくれる機能もばっちりだから、私はこの街にきたときにはよく使っているのだけど」


 なるほど。このカフェを指定した理由はそれか。

 そんなものがあるなんて知らなかったぞ。

 とりあえず、この人が俺よりも何枚も上手だという前提で話を聞かなければならないだろうことはよくわかった。


「今回はあんまり人に聞かれたくない話をしようと思ってたからここなの。それで、結論から言うと、コータ君、あなたに私の恋人役を演じてほしいの!」

「はい?」


 聞き間違いかと思った。

 もっとこう重い系の話がきて、俺たちに攻城戦に関する要求とかされるのかと覚悟してた割には拍子抜けだった。

 彼女の抱えている何か大きな要因があるのかと思い、先を促す。


「ええと。戸惑うのはわかるんだけど、ちょっと今厄介な男にストーカー的なことされててね。そいつをどうにかする方法ないかなーと思ってたんだけど、なかなかいい案が思いつかなくて…」

「いやいや、それはいくら何でも色々考えることすっ飛ばしてますよ」

「わかってるの。変な考えしてるってことは。でもこれが一番いいかなと思ったのにはちゃんとした理由があるの」


 まず、第一にスピニーさんはキャラづくりのために、ゲーム内での特殊なしゃべり方を、ガチの中国人だからこそできる形で強烈に行った。

 結果として、日本語をぺらぺらで話せるということは、同じチームの人間も知らないという現状が出来上がってしまった。

 これから打ち明けるのは何となく気が引けるという。


 第二に、スピニーさんはチーム内外を問わず人気なプレイヤーであり、知っている人なら横恋慕している人が多い。しかもそれだけではなく、チーム内でもそんな雰囲気ができつつあるのだという。

 一緒に競技に向かっていく仲間にそんな争いを生んだり、余計なことに気を遣わせるのがスピニーさんとしては嫌だったのだとか。


 第三に、これが一番問題なのだが、底辺プレイヤーにストーカーが出て来たことである。どうしても色んな形で接触を図ろうとしてくる勘違い野郎をどうにかしないといけないのだ。


「運営には相談したんですか?」

「うん。でも、IDとかの個人を特定する情報がないと補足できないんだって。国からの規制事項らしくて、私にはどうにもできないの」

「…それは残念ですが、わざわざ偽の恋人を作る意味はどこかにあるんでしょうか?」

「それはやっぱり、矛先をそらすためよ。直近でできる対策としてはこの上なく相手に効くでしょうし。第一、彼氏持ちの女の子に男の子は近づかなくない?」

「…どうなんですかね。俺にはわからないですけど。それでもやばい奴は絶対いると思いますよ」

「それはどうしようもないけど、女の子一人で立ち向かうよりいいじゃない」

「俺は初対面なので、多分信用にかけると思います」

「初めて会ったからいいの。しがらみも何もなく、普通の口調で話せる男の子なんか、初対面の私に興味なさそうな子しかいないもの」


 フレンド誘ったことの裏側を読まれていたらしい。

 益々恐ろしい。

 こんな人のお願いを聞くとか、自殺行為じゃないだろうか。


 話を聞いてるうちに逃げ腰になっていた俺は、どうにか断る方法を模索していた。

 やっぱり、俺が演技をしたりして解決するような問題じゃないと思うのだ。

 それでも、いくら言っても、彼女は食い下がってきた。


 ついに、俺はこう言ってしまった。


「そんなに言うなら、俺がなびくようなメリットを提示してくださいよ。メリットがあれば、俺は動きます」


 その瞬間、スピニーさんがニヤリと笑った。

 時すでに遅しとはこのこと、機嫌よさげにスピニーさんが提示してきたのは破格の情報だった。


「私、<大悪魔シリーズ>の在りかを二つくらい知っているわよ?」


 それは俺がずっと求めていた情報の一つだった。

 俺の心は大いに揺れた。



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