34.暴走列車
よろしくお願いします。
赤髪ツンツンさんはプレイヤーネームをガモウさんというらしい。
話題になっていたから誰なのかと思えば、攻城戦イベントランキングでほとんど一位を取っているチームの一人だとか。
「俺たち”インセル”は、ずっと攻城戦をやってきた。もはやプロだな。お前らも攻城戦に出るなら、環境調査のポイントくらいは教えてやんぜ!」
「さすがー、ありがたいですー」
俺は相変わらず外交第一人者として、話を繋げていた。
まあ、この人めっちゃおしゃべりだから、相槌打つだけでいいんだけど。
話してくれる情報は助かるものばっかりなんだけどなあ。
「そういえば、今回の攻城戦は出場人数が最多らしいな!やっぱクーレちゃんの力は大きいのかね!今までマイナーとか言われてたから嬉しいもんだな!出来れば俺もクーレちゃんのチームと戦って間近でその姿をみたいもんだぜ!」
いや、ガモウさんテンション高すぎるんだけど…。
でも、自分の応援してたマイナーなものが広まるのって嬉しいもんだよね。
それはわかるんだけど、このテンションにはついていけないなあ。
「着いたぞ!“フェアリーランプ”はこのあたりに群生してるだろ!さあ!ちょっと採取してくれ!」
確かにガモウさんの案内してくれた場所は、この前茶葉を採りに行った場所よりもたくさんの“フェアリーランプ”が自生していた。
やっぱり、環境調査のおかげなんだろうか?
「ガモウさん、ちょっと聞きたいんだけど、環境調査ってどれくらいのことまで調べるの?」
「ん?そりゃあチームによって違うだろうが、俺たちは超詳細なマップを作るところまでやるぞ。町とかに売ってる地図は確かに詳細だが、俺たちが独自に作ってるもののほうが細かい自信はあるな!余裕で!」
「へえ、すごい。町の地図より細かいなんて…」
町で売ってる地図は基本的に必要な情報が全部載ってるし、細かく攻略のヒントのようなものも載せてくれてる。
多分、プレイヤーの冒険をサポートしつつも、わくわく感を減らさないように考慮してるんだろうけど、俺にはあそこに載ってる情報だけで十分に見えちゃうんだよな。
「なぁ、あんたのチームのその詳しい地図ってのには、どこまでの情報が載ってるんだ?」
ここまでほとんど話さなかったコータが質問した。
それほど興味があったということだろう。
この質問をしたことで、実はコータがこのイベントでしっかり勝ちを狙いにいってるってことが何となくわかってしまって、ちょっと面白い。
ガモウさんが楽しそうに言う。
「なんだ?興味あるのか?いやー、参ったなー!教えたいことには教えたいけど、全部は言っちゃだめだって言われてるんだよなー」
「それなら、無理にとは…」
「いや!でも俺の頼みを聞いてくれてるいい奴らだからな!すこーし!すこーしだけ教えてやろうじゃねぇか!感謝しろよ!」
これは、うん。ちょっとうっとうしい。
この人大丈夫かな…。
つか、コータキレないかな…。
案の定、コータの目からは光が消え、とても不機嫌になっているようだった。
「…ありがとう」
「いやー!ギブアンドテイクってやつだぜ!気にすんな!」
とんでもない心の持ち主だ…。
コータが小声でつぶやいたのが聞こえる。
「こいつ…」
コータよ…。
空気感が死んできたところで、俺の採取が終わった。
いい感じに“フェアリーランプ”が集まったので、そこそこの花束ができるんじゃないだろうか。
「ありがとよ!よし!約束通りに環境調査のポイントを教えてやろうじゃねぇか!だが、さっきも言ったように、全部を教えることはできないからな!違う角度のヒントを教えてやろう!特別にな!」
ほんと、この人にどう対応すればいいんだろう。
こんなに勝ち誇ったようにドヤ顔で言われてもって感じだ。
この人の仲間は皆どうやって接しているんだろうか。
そこから、ふらふらと何分か北に移動した。
“スイーティオの森”を抜けたのは、“タルトレット”に来てから初めてだ。
東の方には、“大アルカディア荒野”があるのは知っていたけど、こっちのほうに何があるのかは確かに知らなかった。
“スイーティオの森”特有の植物の色、敵対モンスターが存在しないという特性が消え、あたりの景色が変わってきた。
少しずつ、植物の背丈が低くなっていく。
森の木々の間隔が広くなり、敵対モンスターと思われる影がちらほらと見受けられるようになってきた。
俺たちは武器を構える準備をし、周囲を警戒しながらそろそろと前に進んでいく。
その状態でさらに数分歩くと、急に視界が開けていった。
ガモウさんがこちらを振り返りながら言う。
「さぁ!よく見ろ!これが攻城戦の舞台になるであろうエリアの一つ!“ローディア大丘陵地帯”だ!」
視線の先に広がっていたのは、生きているようにうねる大地。
下草の高さは膝丈程度で、生育している木は、高さのあまりない常緑樹のような樹木だ。
大丘陵地帯というように、うねる大地は高低差が激しい。
とても奇妙で美しい景観だ。
攻城戦的な目線から見ると、姿を隠すことが多くあるという感じだろうか。
敵対モンスターは今のところ見えない。
「いいか?このエリアの特徴は見ての通り、この高低差がある地形だ!面白いだろう!面白いよな!これをどうやって使うのかが勝負の最中には大事な要素になるだろうよ!わkるか!?」
「それは、さすがに初心者の俺でもわかるけど、もっと他にポイントはないんですか?」
俺の質問に、ガモウさんは気持ちよさそうに答えた。
「ふん!いいだろう!市販のマップで確認すればわかると思うが、このゲームのマップには等高線という概念がほとんどない!これだけ地面がうねっているのにそんなマップじゃ生き残れないのは少し考えればわかるわけだ!本番慌ててきょどっちまうなんてミスをしたくなければ!自分たちでこの辺の情報は抑えておかなければならないっちゅうことだ!」
確かに、それはそうだ。
ゲームのマップって等高線を引かないものが多いからなあ。
多分見えにくさとかを気にしないといけないからだろうけど、こういうマップに関しては不都合があるよな。
ガモウさんはさらに続ける。
「さらにだ!お前らには見えてないだろうが、このエリアはバカみたいに広く、モンスターも結構多い!マップの総面積は“大アルカディア荒野”の一・三倍!南北で若干モンスターの出現傾向が変わるという仕様付きだ!わかるか!」
なるほど、このエリアは結構複雑なつくりをしてるんだな。
これなら、攻城戦には環境調査が必須ってことに納得できる。
最初はキャップのことを疑ってかかってたところがあったからなあ。
こうして来てみると実感する。
ここで、ユーカが質問した。
「ごめんなさい。ちょっと聞きたいんだけど、ここは“タルトレット”に隣接してるエリアじゃないわよね?なのに、ここが攻城戦で使われるの?てっきり“スイーティオの森”でやるんだと思ってたのだけど…」
「なるほど!ほんとに初心者なんだな!しょうがねぇな!いいか、攻城戦で指定されるエリアは、開催会場となる国から二つ隣のエリアまでだ!“タルトレット”の場合だと、“スイーティオの森”が直接隣接するエリアになる!ここは二つ隣のエリアだからしっかり指定範囲だ!」
へえ、知らなかった。
でもそれだと、環境調査ってとんでもない量を調査しないといけないんじゃ…。
「“タルトレット”の二つ隣のエリアというと、“ローディア大丘陵地帯”以外にもいくつかあるな…」
「その通り!だが!今回は西側の二つ隣のエリアが海洋エリアになってる。これにより、北の“ローディア大丘陵地帯”と東と南の“大アルカディア荒野”だけが対象になるわけだ!」
「西側はそうか、陸がないのか。海では攻城戦ができないんだな」
コータがつぶやく。
やっぱりコータは勝負が絡むと真剣になるんだな。
それにしても、これだけ情報を教えてくれるのはありがたい。
攻城戦はシステム的に直前で調べてもできることが少ないからここで聞けたのは本当に良かった。
「環境調査はさっき言ったみたいに、地形とかモンスターに気を配ることだな!頑張って励むことだ!俺が教えたんだからな!そして、本番は俺たちと戦おうぜ!俺の教えがどんなふうに役立ったのか見せてくれよ!」
どこの漫画の主人公だろう。
やっぱガモウさん面白いな。めんどくさいけど。
「ちょっと!何やっテルの!」
突然、抜けてきた森の方から声が聞こえた。
少し特徴のある女の人の声だ。
「げっ…!バレたか…」
ガモウさんのテンションが若干下がる。
声のした方を振り返ると、森の中からつかつかと歩み寄ってくる人影があった。
彼女は、紫の和風の衣装に身を包んでいた。
綺麗な人ではあったけれど、結構きつめの釣り目だ。
「ガモウ!意味不明なこと言ってナイで!訓練がまだでショウが!早く戻ルよ!」
言い方も厳しいから、多分ほんとに怖い人なんだろう。
ガモウさんがちょっと縮こまってるのがわかる。
そして、コータがそれを見て黒い笑みを浮かべていた。




