33.リメイクと素材
よろしくお願いします。
大規模依頼イベントの内容は、一言で言えば素材集めだった。
『バーチャルアイドル“クーレ”のライブを最高にしよう!』と題されたこのイベントは、多岐に渡るアイテムとそれぞれをそれなりの量集めるのが目標のようだった。
「なんか、クーレさんのためにって大々的になってるのはともかくとして、システムは面白そうだね」
「アイテムの入手難易度毎にポイントが変わって、納品量分だけそのポイントが入るっていうのは確かに燃えるわね」
「難易度の低いやつを大量に集めるもよし、高難易度のアイテムを狙いに行くもよしか…こういうのは大抵、中間くらいのを大量にやったやつが勝つ気がするけどな」
期間は明日から五日間。
クーレさんのライブがイベント期間の最終日とその前日だから、その前までが大規模依頼イベントの期間ということらしい。
攻城戦イベントは三日後に初戦があり、クーレさんの二日目のライブと同じ日に決勝があるから、二つのイベントは少しずれて行われるようだ。
「攻城戦があるから、最初の二日くらいしか本気で参加できそうにないね」
「その間に出来る限り稼ぐなら、高難易度が狙い目じゃないか?」
「確かに無難かもしれないわね。【蒐集家】もいるんだから」
アイテムを集める系のイベントになると、やはり【蒐集家】は便利だ。
汎用性がそこまでない分、メリットがしっかり用意されているのはありがたい。
「頑張ってみようかな。期間中、アイテムが集まる毎に街やステージの装飾が変わったりします。って書いてあるのも気になるし」
「ま、楽しみましょうってことよね」
登録を完了したところで、俺たちは一息ついた。
これからのことを考えなければいけないからだ。
明日からはイベントに全力を注ぐとして、今日この後どうやって過ごすのかは結構大事なのではないだろうか。
そうやって予定の話をしていると、真っ先にユーカが手を挙げた。
「私は、絶対にカゲツの服を変えた方がいいと思うわ。攻城戦イベントは勝ち残ったらスクリーン中継されたりするのよ?こんな残念な服装の人間と同じスタッフっていうのは流石にひどいわよ」
「ちょっと、それは言い過ぎじゃない?もっとこうなんか言い方あったでしょ」
「まぁ、俺から見てもお前の服が少なくともおしゃれじゃないのはわかるし、少なくとも、レベルに見合った装備をするべきだな」
うっ、コータにそう言われると辛い。
流石にそろそろステータス的には替え時なんだよなあ。
「あなた、やたらと最初の服にこだわるわね。何かあるの?」
「何もないけど、なんか、これを売ってくれたおじさんがいい人だったなあって思うと何となく変えたくなくてさ」
「それなら、それをリメイクしてあげるのに」
「リメイク?」
ユーカの提案に俺は首をかしげる。
様子を見るにコータも知っているみたいだ。
「リメイクっていうのはそのままの意味よ。あなたの服をベースに素材をつけ足したりして、強化するのよ」
「そんなことができるの?」
「“縫製”技能持ちのプレイヤーとか、“鍛錬”技能持ちのプレイヤーならできたはずだ。好きな能力を付加したりして調整できるから、割とみんなこの機能を使ってると思うぞ。専門店でお金を取る場合もあるらしい。需要があるんだな」
へぇ。
俺の【蒐集家】もそうだけど、結構生産系の技能の恩恵ってでかいのかな。
でも、そしたら有料サービスを無料で受けられるってことか?
「ユーカはそういうのでお金を取ったりしないの?」
「しないわ。私は物好きな何人かから、依頼を受けて、好きな服を作っているだけだもの」
「俺の服も作ってくれるってことでいいの?」
「当たり前でしょう?リメイクは一から作るよりも簡単だし」
ありがたい。
ユーカが優しいのはちょっと違和感があるけど、やっぱ嬉しいな。
「ありがとう。じゃあ、お願いしてもいい?」
「任せなさい。それなりに見られるようにしてあげるわ」
「すごいな。…コータのはやらないの?」
「俺のはユニークアイテムだから、強化するにはかなりいい素材を使わないと意味ないんだよな」
コータの装備がユニークアイテムだなんて知らなかった。
かっこいい軍服だとは思っていたけど…。
ユニークアイテムは、レイドボス以外の強力なユニークボスモンスターを討伐したときにドロップするというアイテムだ。
能力は通常のプレイで手に入る装備よりも強いことが多く、本人のオーブに影響を与えることもある。
そんなとんでもないアイテムを、身近にいるコータが持っていたことに驚いた。
「そうよね。レアアイテムはあんまりない上に取得難易度が高いから、リメイクの限界ってそのあたりにあるわよね」
「じゃあ、コータのリメイクのために必要なアイテムがありそうだったら、俺が採ってくるよ。ちょうど【蒐集家】の技能を生かせそうだし」
「確かに。お前の技能は便利だな。無理やり就職させられたのは気の毒だけど」
そういえば、【蒐集家】になった理由は、“タルトレット”周辺のアイテムを採取するためだった。
けど、やってるうちに、これはこれで楽しいなと思えるようになってたみたいだ。
やっぱり、二人の役に立てるようになった感覚があるからだな。
「全然気にしてなかったなあ。もう今は【蒐集家】でやれることが増えたのが楽しいし。それに調べたんだよな。【蒐集家】はいろんな条件を満たせば、いくつか上級職があるっていうことを」
「まあ、それはどんな【職業】にもあるだろうけど」
「【蒐集家】がいいんだよね。パンナちゃんの部屋みたいに、自分の好きなものを集めて飾れるっていいなと」
「あなたらしいわね」
OLAの世界の特徴である【職業】がここまで俺の中で大きな楽しみになるなんて思わなかったな。
いろんな感情を抱えて、三人で素材ショップに行く。
ここもプレイヤーの経営している店らしい。
ちょっと古ぼけた作りにしてるのが、こだわりなのだろうか。
メルヘンチックな街並みともマッチしていて、写真とか撮りたくなる。
「こんにちはー」
扉を開けて中へ入ると、想像通りの店内でとてもテンションが上がってくる。
と、奥の方から、どこかで聞いた声が聞こえてきた。
「おー!この辺の花系のアイテムすげーいいな!これとこれと、これと…いや、全部くれ!スタンドにして、クーレちゃんに送らなければ!!」
んー。
このテンション感とクーレさんファンであること。
あの、イベント登録場にいた人ではないだろうか。
俺たち三人は顔を見合わせた。
さすがに俺たちがスタッフだとは知らないだろうけど、あんまり関わりたくない。
「面倒なことになるんじゃないか?」
「これ以上変なことに巻き込まれるのは嫌よ」
「同感。違う店に行くか、外で採取でもしようか?」
小声で打ち合わせをしていると、奥の方にいたはずの声が近くから聞こえた。
「なぁ、あんた達、ちょっといいか?」
う、えーと…。
「…ど、どちら様ですか?」
振り返りながら聞き返すと、そこには赤髪のツンツンヘアをしたチャラそうな男が立っていた。
不覚にも第一声を発してしまった俺が、対応することになりそうだ。
こういう人、苦手なんだよな。
「いや、別に怪しいもんじゃないんだけどな?花のスタンドを作りたくてな、いろんな花を集めたんだが、やっぱり、“フェアリーランプ”が必要だと思うわけよ」
「は、はぁ…」
これは、めんどくさい奴では…?
「あんたら、さっきアイテム取りに行くとか言ってたな?もしかして、【蒐集家】のメンバーいないか?」
「あ…」
俺がどうにか誤魔化そうとした直前、二人がそろって俺のことを指さした。
完全な裏切りである。
「おぉ!そうなのか!ちょっと協力してくれよ!お礼はちゃんとするから!」
「いや、えーと…」
「行ってくればいい。俺たちは環境調査してくる」
「リメイクはまかせなさい」
この二人!また人のこと売りやがって!
そうやって言い返そうとしたら、赤いツンツンさんが、驚いたように言う。
「おぉ!お前らも、攻城戦に出るのか?環境調査なんてやるあたり、同業者じゃねえか!それならぜひ一緒にいこうぜ!」
二人の動きが固まった。
俺は対照的に、生き生きと同意の答えを返した。
二人が絶望の目でこちらを見てくる。
俺は渾身のドヤ顔を二人に向けてやった。
悪はいつか滅びるのだ。
問題は、この上機嫌な赤いツンツンさんと、この後行動しなければならないということだけど…。




