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Only Life of Arcadia  作者: kaisen
第2章 タルトレット
31/103

30.解説者コータ

よろしくお願いします。

 俺たちはカゲツとクーレの決闘を見るために、観客席の方へ上がった。

 さっきまであそこに自分が立ってた訳だから、変な気持ちがする。

 カゲツにとってははじめての決闘になるが、いい思い出としては残らないだろうと初めから思っていた。

 <不敗天使(アイドル)>の名は伊達じゃない。


 <DUEL START>のメッセージが、観戦モードの俺たちにも表示される。


 カゲツはいきなりオーブを使うようだ。

 クーレとやるなら最善の判断と言えるだろう。


 白い竜が闘技場に姿を見せるとクーレも気を引き締め直したように見えた。

 カゲツのオーブを知らないパンナ姫などは、大興奮だ。


「すごい!すごいわね!あれは、アリスのお母さんかしら!?」

「そうよ。カゲツのオーブの力で少しだけ姿を現わせるの」


 アリスも昼寝から飛び起き、あちらへ行きたそうにしている。

 しかし、飛ぼうとする彼女の身体は、ユーカがしっかりと抑えていた。


 カゲツのオーブを正確に説明すれば、コストを代償に自分の盗伐したモンスターを呼び出す能力だ。

 モンスターによって、代償にするコストは変わる。

 キャロンは相当に高かった筈だ。確か、カゲツの今の総コストの四分の一くらい。


 そして、“魔術型(スペル)”の特徴なのか、カゲツの呼んだモンスターは維持費がかかる。

 “召喚型(サモン)”は、維持コストのかからないものがほとんどであるため、大きな特徴だろう。

 キャロンで言えば、フルに活動して7分ちょっとだった。


 つまり、カゲツの全力戦闘には時間制限があるのだ。


 それをわかっているのか、キャロンは開幕で全力のブレスを披露した。

 アレに直撃するのは、俺も避けたい。


 姫とアリスはまたまた興奮してキャロンを見ている。

 アリスは口を広げて真似をしようとしているようだ。

 何も出てないけど、これ、出るようになったら困るな…。


 しかし、不動のクーレは余裕を持ってオーブを発動した。

 現れたのは、謎のクッション。

 そして、驚くべきほその性能。

 そのクッションは、ブレスを全て無効化してみせた。


 イベントに彼女が参加しているのを見て、最高に相性が悪いと感じた記憶が蘇ってきた。


 彼女のオーブはシンプルな絶対防御。

 正確には、超耐久性があり、時間制限が一分弱のクッションだ。

 彼女のオーブのチートぶりは、様々な界隈で話題になった。


「あれ、えぐいのよね。私も全力出さないと破れないわ」

「お前の全力なんて、レイドボスの攻撃に匹敵するんじゃないのか」

「そこまでじゃないわよ。バカにしてるならミンチにするわよ?」

「悪かった。しかし、それじゃあキャロンの攻撃は通らないな…」


 カゲツの最大火力は現在、キャロンの最大火力に等しい。

 つまりは、カゲツの攻撃は完封されてしまうということだ。


「詠唱省略ができるのもずるいわよね。あんなにブレスをたくさんもらっても全部防げるとか。長文詠唱系ならできないわ」

「しかもアレは恐らく低コストなんだろうな、投げ捨てるようにコストを使えるということはコスト全損する心配がないってことだからな」


 しばらく戦況は停滞するだろうと思われた。

 現在、カゲツにできることがほぼないからだ。

 ブレスの前に出て行くのはフレンドリーファイアが存在するルール上ではリスクが大きいしな。


 だが、カゲツは大回りでクーレの方へ移動し始めた。

 確かにブレスは当たらないが、接近すれば食らうリスクはある。

 どうするのかと見ていたら、ほとんどクーレの真後ろに陣取った。


 なるほど、クーレは攻撃を完全吸収するタイプのオーブを使っている。

 背後を取れば攻撃はクーレで全て止められ、自分には被害がないわけだ。


 なかなかいい作戦、そして、良いタイミングでの攻撃だ。

 カゲツの放った槍はしかし、クーレには届かない。


「まぁ、そうだろうな。背後がガラ空きなんてことは、このレベルのプレイヤーのやることじゃない」

「いや、あの子は割とポンコツよ?背面に展開してるのは、オートガード。常時ほんの少しだけコストを消費する代わりに、一定量までのダメージを無効化できるらしいわ」

「つまりは、カゲツの火力不足か」


 だいたい、クーレというプレイヤーの特徴がわかってきた。

 俺は相性が悪くて倒せる気がしないが、カゲツはオーブを上手く使えば勝てそうだ。


「ユーカなら、クーレとどう戦う?あいつの癖は知ってるんだろ?」

「そうね、私だったら高速で大技二回ぶっ放すわね。それで仕留められなかったら、ほとんど負けね」


 ユーカはそうやって言う。

 戦ったことがあるからわかる感覚なのだろう。

 気になるのは、二回という数字だ。


「なんで二回なんだ?」

「二回の全力に耐えられるほど、クーレのクッションは強くないの。詠唱省略とはいえ、口より先に攻撃が当たれば勝ちなのよ」

「オートガードは?」

「本体のクッションに比べたら雑魚もいいとこよ。アレは、カゲツのレベルがあと20高ければ普通に壊せたわ」


 20は結構な数字だが、その分現実的ではある。

 カゲツが残念なのはキャロンという火力を思い切り使えるのに、自身がその機に乗じられないところだ。

 それが如実に現れた。

 しかし、意外と<不敗>の名を冠しているのに、攻略法は見つかるものだな。


 アリスがキャロンの応援なのか、口をカパカパさせている。

 身体が少し発光したり、口内に炎っぽいのが見えたりしてるのが、俺的には気になる。

 もしかすると、今は少し浮かぶくらいしかできない彼女が、戦えるようになるのだろうか。


「あっ!カゲツお兄ちゃんが何かするみたい!」

「何か叫んでるみたいね。キャロンに指示してるみたい。観戦モードじゃ、ちゃんとした音が聞こえないからわからないわね」


 パンナ姫の言うようにカゲツは何かを叫んで、事を起こそうとしているようだった。

 カゲツの動きに変化はないが、キャロンのブレスの質が変わった。


 単純に、ブレスの範囲が広くなる。

 これは、ひょっとすると効果的な攻撃かもしれない。

 あいつは弱点に気づいたのだろうか。


「このくらいの範囲のブレスだと、まだ弱いな。躱せる範囲だ」

「確かにね。クーレがあまり動かないのは謎のこだわりがあるだけだし」


 案の定、クーレはクッションを一度解除して攻撃を避けた。

 まぁ、事前に能力を知ってる俺から見れば当たり前だが、カゲツには一つのヒントに見えたのだろうか。

 少し考えるそぶりをしている。


「クーレの攻撃手段は一体何なんだ?ないわけがないのに、全く武器がないのは何なんだ?」


 俺はつい疑問を口に出した。

 ユーカがにやにやとして、俺を見た。


「情報持ってたり分析ができても、あれは体感しないといまいちわからないわ。というか、私はわかりやすい状態で食らったけど、人によっては体感してもわからないかも」

「どんな能力なんだ?」

「簡単に言えばカウンターよ」


 この言葉を聞いた瞬間、戦況が動いた。

 カゲツが何か叫んだかと思うと、クーレに突進していったのだ。

 タイミングは、ブレスをかわした直後。

 オートガードがあるから入らない攻撃だろう。

 しかし、クーレはそれを回避した。


 人間の癖か。

 俺が対戦系のVRゲームに誘ったときに散々言ってた奴だ。

 まさか、ここに使ってくるとは。


 そして、カゲツの二回目の詠唱が始まる。

 クーレが慌てているのは、竜種を召喚するとしか聞いてないからだろうか。

 ただ、その心配は杞憂に終わるだろう。

 竜種よりも強いモンスターとカゲツはまだ出会ってもいないからな。


 そうして、“森の王者”をカゲツは呼び出した。

 高い火力で挟撃し、クーレのオートガードをぶち抜こうという考えなのだろう。


「発想は、悪くないわね」


 ユーカは席を立って闘技場の下、彼らのいる場所へ向かい始めた。


「勝負は決したってことか…」

「もちろんでございます」

「うわぁ!」

  

 背後からスッと現れたのは、ラトさんだった。

 彼はさらに続ける。


「クーレ様が使うのは特殊なカウンター技。威力を決めるのは消費したクッションの数です。彼女のカウンター専用クッションに当たった相手の攻撃に、先ほどのクッションの数をかけた分が攻撃として跳ね返ってきます」

「…なるほど。ユーカはこれも踏まえて二回と言ったわけだ。ちなみに、現在のクッションの数はわかりますかね?」

「正確にはわかりませんが、50は超えているかと」


 いやぁ、それは勝てないな。

 俺も初手で仕留めないと無理だわ。


 カゲツは、案の定、眩い光に包まれて蒸発していた。

 キャロンのブレスと、“森の王者”の拳がクッションに直撃したのに、それを50倍にして返されて、平気な奴はいないだろう。


 光が収まったころには、カゲツの負けが視界に表示されていた。


 皆が下に降りていく中、俺は別室に控えさせていたキャップを拾いに行った。

 一応、攻城戦で戦う敵チームの機密事項だからと、席を外してもらったのだ。


 闘技場からそう離れていない控室に向かいながら、カゲツの様子を案じた。

 すると、控室の扉が不自然に開いていることがわかる。


 何事かと思い、そっと近づいていくと、

 そこにいたはずのキャップがおらず、昏睡状態になった兵士NPCが倒れていた。


 俺は急いで周りを見渡し、何者かの影がないか確認する。

 しかし、別段怪しいものはなく、この兵士だけが苦しそうに横たわっている。


 俺はとにかく、この緊急事態を知らせるために闘技場へと引き返した。



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