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Only Life of Arcadia  作者: kaisen
第2章 タルトレット
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29.できること

よろしくお願いします。

 今わかっていることを整理して活路になるかと思ったのは、二種類の防御の違い。

 ここをうまく突きたい。

 だが、残り時間も限られている以上、実験や観察をそう悠長にしている暇はない。

 俺はもうガンガン突っ込んで行くことにした。


「ヤケになったのかな?」


 クーレさんが煽って来るが、俺は構わず突進する。

 先程は胴の部分を狙ったが、今回は頭一択。

 部位によって守りが違うなんて、ボス戦でありがちなことだ。

 この人はもはやボスレベルと思った方がいいからな。


 丁度キャロンのブレスが届く瞬間だった。

 俺の槍がクーレさんの頭をめがけ、伸びていく。


 入った、と確信する前に、すごい弾力のものにまた弾かれる。

 やはり、クッションが存在しているらしい。


 すぐさま跳びのき、俺は体勢を維持する。


 場所によって守りが違う説はなかったらしい。

 いや、まぁ、ボスじゃないから当然だけど…。


「おっしいねー。あと少し強かったら、カゲツ君は私を簡単に倒せるかもしれないのに」


 なんだこの人。めっちゃ挑発してくるな。


「もう少しレベルを上げて出直してこいってことですか?」

「そゆこと」


 あー、一々かわいい動作付きで話すのやめてほしい。

 美少女だとはいえ、中身がかわいくないと本当のかわいい存在とは言えない!

 と、かわいいものを愛でる俺は思うのだがどうだろうか。

 だめだ、熱くなってきた。


 もう一度、冷静に対応しよう。

 二種類の防御の違いから攻めていくならば、まずは攻撃の隙を作らなければいけない。

 今、単発ブレスを何度もやってもらっているが、最早ブレスを継続して吐き続けてもらう方がいいかもしれないな。


「キャロン!ブレスをロングに変更だ!出来る限り長いこと吐き続けてくれ!」

「わかりました」


 キャロンのブレスが、単発で火球のように発射されるものから、正しく息吹のようなブレスに変わった。

 一番はじめに打ったブレスの時間が長いバージョンだ。


 俺はこの隙に様々な面から攻撃を仕掛ける。

 前面の炎をクッションが守ってくれてるから、俺には何のダメージもないのが面白い。

 本当にクーレさんは防御特化なのだとわかる。


「ちょっと面倒になったな」


 小声でそう呟いたクーレさんは、クッションを消して横に跳び退いた。

 キャロンのブレスが、当たる場所を失って、俺の方まで飛んでくる。

 なんとか緊急回避をするも、マジでやばかった。

 余波の熱が結構来てたからな。


 それにしても、なんでいきなり回避行動なんだ?

 俺はクーレさんの様子をまた見直す。


 キャロンの照準は既に修正されて、移動したクーレさんの方へ行っている。

 先程と同じようにブレスを思い切り吹き付けているが、別段クッションがなくなったというわけでもない。

 ただ、今まで通りにクッションは存在し、クーレさんは一定時間ごとに回避行動を挟んでいるように見える。


 これは、もしや弱点というか、制限か?

 考え得るパターンは二つ。

 一つは、あのクッションは時間経過で消滅するものだというパターン。

 広範囲に及ぶ長時間の攻撃には弱いということだ。

 もう一つは、クッションの吸収出来るダメージに制限があるというパターン。

 こっちは単純に火力と蓄積ダメージの問題だ。

 キャロンの全力ブレスを吸収出来ることには驚きだが、ダメージが蓄積される点を考慮すれば打ち破る方法はあるかもしれない。


 思わぬところから、活路が見えた。

 ただ、どちらにも共通して言えるのが、キャロンの力無しでは解決出来ず、尚且つ俺に出来ることがほとんどなさそうということだ。

 広範囲の長時間攻撃なんて俺には出来ないし、火力なんて全然足りない。


 くっ、こうなると俺の弱さがもどかしい。

 俺に出来ることは工夫か、キャロンに指示することくらいだ。


 工夫…工夫…。


 要は隙を見せたところで急所に一撃。

 いや、待てよ、キャロンの攻撃が通る隙を俺が作れたら、全部解決するんじゃないか?


 しかし、ここでキャロンから声がかかる。


「カゲツさん、そろそろ時間が厳しいと思います。早めの決着をお勧めします」

「マジか、もうそんなか」


 俺は視界の端に映るコスト表示を見直す。

 最大でもあと2分か。

 それなら、賭けに出るしかないかもしれないな。


 キャロンの攻撃はいい感じに役割を果たしている。

 あとは、クーレさんが回避行動を取る瞬間に、強力な攻撃を当てるだけ。

 ならもう、一か八かだ。


「キャロン!一分だ!一分ジャストで決める!合わせてブレスを!」

「わかりました。最大でいきます」

「お、カゲツ君、やる気だね?」


 クーレさんの煽りに対応する余裕はない。

 苦し紛れに言い返す。


「全力じゃないと傷一つつかないでしょうが」

「全力でも守り切ってあげる」


 クーレさんの方が、やっぱ上手だ。

 ご丁寧にウインクまでつけて来て。

 ほんとなんなんだろうか、この人。


 俺はもう何も考えずに、自分の直感を信じることにした。

 マジでやれるか厳しいけど。


「行くぞ!カウントスタート!」


 俺の掛け声に合わせて、キャロンのブレスがもう一度放たれる。

 ということは、一分くらいブレスを吐き続けてくれるということだろう。


 ならば、俺もキャロンに答えるしかない。

 まずはクーレさんの場所の誘導だ。


 長いブレスに対応してる彼女はだんだんと闘技場の端の方に近づいている。

 槍での攻撃は意味がないかもしれないけど、回避するタイミングで槍を突けば…。


「あっぶないなあ」


 案の定、クーレさんは俺の槍を避けた。

 人間だからな。

 さすがに反応するとは思ってた。

 後ろからとか奇襲すると見えないけど、見えてて回避モーション中ならさすがにね。


 これで、もうほとんど闘技場の端に寄ってきたといえるだろう。

 俺の作戦はここまではまっている。

 これなら、多分…。

 

 意を決して詠唱を始める。


「“拓く航路、反転する潮流、燃え盛る灯は此方に…”」

「何?今からもう一体?」


 クーレさんの声は心なしか焦ってるように聞こえる。

 俺は自分の仮説に確信を持つ。


 いける。

 こいつの火力なら。


「“迷える魂よ、泡末の現へ” <外ツ國(トォート)()還リ來タル禍ツ舟(ヴィシュワート)>!!」

 

 俺の指輪から、光がほとばしる。

 今回はキャロンを呼ぶ時とは違う。

 通常の詠唱だ。

 ぶっちゃけ、特別な詠唱なんて簡単には作れないから。


 ただ、今の俺の呼び出せるモンスターの選択肢は二つ。

 どちらでも、この作戦は成功するはずだ。


 空に浮かび光った魔法陣は例のごとく地上に降りてきた。

 魔法陣が黒く発光すると、中からゆらりと影が浮かび上がってきた。

 形作られたシルエットは、持てる中で最高の手札。

 “森の王者”だ。


「グルァァァァァァァァッ!!」


 あの時と全く変わらぬ咆哮。

 びっくりするくらい鮮明に記憶がよみがえる。

 最高に思い出したくない記憶だけど、大丈夫。

 今回は味方である。


 俺のオーブの特性上、意思疎通ができないとほとんど指示ができない。

 けれど、問題ない。

 今は、破壊的な暴力こそが正解だ。


「うっそ!これはちょっと!」


 クーレさんの慌てた声が聞こえる。


 ちょうど、キャロンのブレスがクーレさんの方へ向かう。

 “森の王者”が腕を振りかぶる。

 二つの攻撃がクーレさんにぶつかる瞬間だった。


「惜しかったなあ」


 クーレさんのつぶやきが聞こえた。


「“お返し!仕返し!いっちゃえ!”<りふれくっしょん>!!」

「なっ!」


 俺の目には、青い光が煌めき、クッションのシルエットが形作られたところまでは見えた。

 しかし、そのあとは、視界のすべてが真っ白に染まった。

 そして、何をされたかもわからず、体の感覚が消えた。


―――――――――

<YOU LOSE>

―――――――――


 視界にメッセージが表示されている。

 気づいたら、最初の立ち位置だった。


 視線の先には、クーレさん。


 やっぱり勝てなかったかあ。

 わかってはいたけど、やっぱり強いんだなあ。


 少しでも勝機を見出したと思い、調子に乗ったのが少し恥ずかしい。

 再確認したのは自分自身の力のなさ。


 クーレさんが俺に声をかけてきた。


「いやー、強いね。カゲツ君」

「俺はあんまり何もしてないですよ」


 お世辞だろうと適当に謙遜しておく。

 自分なりには健闘した方じゃないかなと、思っていたいから。


 ただ、クーレさんはかなり変わっていた。

 というか、素直だった。


「そうだね。カゲツ君自身はあんまり活躍してないかもね。この後鍛えたらいいプレイヤーになるんじゃないかな」


 素直すぎて、反応に困る。

 苦笑いするしかない。

 一応、適当にお礼を言っておく。


「ありがとうございます」

「もう、ちゃんとわかってるのかな?これのことも…」


 クーレさんが近づいてくるけど、俺はなにか思考停止していた気がする。

 この決闘が何のためのものだったか忘れていたのだ。

 

 彼女の次の一言は、そんな俺には衝撃的だった。


「じゃあ、コスプレ。よろしくね」


 俺が手渡されたのは、リアルなネコミミと尻尾だった。

 ハッとして周りを見渡すと、背後ににこにこ顔のユーカが立っていた。


「約束、でしょう?」


 苦笑いが一気にひきつって、全身から冷や汗が噴出した。

 抗議の言葉は、残念ながら浮かんでこなかった。



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